恋心の絆
「あー…とりあえず、話を戻すとツバサはルキルの子供って事でいいのか?」
状況が一段落した所で、クウが改めて話を戻す。ツバサはすぐにクウへと向き直って、頭を下げて謝った。
「うん…黙っててごめん」
「いいえ。あなたの判断は正しいわ。別の世界だとしても、そんな事実は未来に影響を齎しかねないもの。私達を気遣ってくれてありがとう」
アクアが微笑みながら頭を撫でると、ツバサも少しだけ頬が緩んで嬉しそうにする。
すると、ここでカイリが人差し指を頬に当ててリクへと疑問を向ける。
「ところで、ツバサがルキルの子供で、ルキルってリクのレプリカ…なんだよね?」
「…ああ」
「じゃあツバサって、リクの姪っ子になるのかな!?」
「め、姪!? あのな、血が繋がっているならともかく、流石にそれは…!」
面白そうに言うカイリに、流石に困って慌てるリク。そんな彼の様子に、クウはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ始める。
「ふーん? ツバサ、ちょっと」
クイクイと手招きしてツバサを呼び寄せる。すぐにツバサが近づくと、クウはしゃがみこんで彼女の耳元で何かを囁いた。
「い、いいの?」
「いい、いい。やれやれ、笑顔で言ってやれ」
「お前、何を…!?」
明らかに悪い事を吹き込んだのが目に見えて、リクがクウに問い詰める為に近付く。
それを見たツバサは戸惑い気味に前に立ち、それでもクウに言われた通りに笑顔を作って口を開いた。
「パ…パパっ!」
「ぐふぉ!!」
思いのほか効いたようで、ダメージを受けたように変な声を出して思いっきり仰け反ってしまった。
「凄い、効いてる!」
「リク、耳まで真っ赤になってる〜!」
珍しい物を見たとばかりに、ヴェンとソラが目を輝かせて囃し立てる。
一方、元凶はと言うと。
「ぶっ、くくく…ッ!!」
背中を向けて、思いっきり笑いをこらえていた。
「っ…!! こっ、この…何を吹き込ませたエロガラスがああああああ!!!」
「待て待て待て俺右腕動かねーし翼も使えねーから落ち着けぇぇぇ!!?」
顔を真っ赤にさせたままキーブレードで攻撃するリク。クウも対抗するが、腕一本しか使えない状態ではいなしながら逃げるのが精いっぱいだ。
再び喧嘩が始める光景だが、もう慣れてしまったのか他の人は無視を始める。カイリも同じで、ツバサとの話を戻した。
「で、結局ツバサってリクとはどう言う立場?」
「ボクは普通に伯父さんって呼んでるよ。甥っ子…今は姪っ子だった。立場はそんな感じだし」
「まあ、それが妥当よね…」
生まれに関した関係性からして既にややこしいのだ、それならシンプルな形で落ち着いた方がいい。だからオパールも納得をする。
「ふふっ。何だか一気に家族が増えた気分ね」
「ですね、姉さん。ツバサが私達の姪なら、リクとも義理の関係で繋がりが出来るのでしょうかね?」
「はあぁ!?」
「良かったな、家族が増えて!」
「何でそうなる!?」
思わず攻撃の手を止めてソラにツッコミを入れるリク。
何だかおかしくなり、一人二人と笑い合う声が段々と重なって辺りに満ちていく。ツバサも同じように笑っていたが、すぐにある事に気づく。
レイアだけ、笑っているようで複雑そうな表情でスピカを見ている事に。
「………」
「レイアさん、どうしたの?」
「え、あ、あの…大丈夫ですよ?」
突然話しかけられて動揺するが、笑みを作って場を取り繕う。
どう見ても何かがある。それが分かり、ツバサは少しだけ思考するとレイアに笑顔を見せつけた。
「ねえ、レイアさん。レイアさん、どうして師匠の事好きになったの?」
「ふぇ!? な、なんでそんな話を…?」
「だって、これからはレイアさんとスピカさんとはライバルになるだろうからさっ!」
「「ライバル?」」
この発言に、レイアだけでなくスピカも不思議そうにオウム返しする。
すると、ツバサは大胆な告白――いや、宣戦布告を言い放った。
「うん! 二人と同じで――ボクも師匠の事、本気で大好きだからっ!!」
笑顔で、大声で言い放ったそれに、笑っていた誰もがフリーズの魔法をかけられたかの如く、一瞬で凍り付いてしまった。
「ツ、ツバサ…?」
「師匠、だめ…?」
辛うじてクウが名前を呼んだ途端、ツバサは上目遣いで目をうるうるとさせてくる。
完全に甘えているその仕草を向けられて、クウは冷汗を浮かべるしか出来ない。思えば、ツバサはアウルムと対峙していた時にも似たような発言をしていた。恐らく、いや間違いなく…恋をしてしまったのだろう。
ツバサの心情を理解すると同時に、クウのすぐ傍で爆発を起こすように闇の気配が放たれた。
「ソラ、またアンセムになるが別に構わないよなぁ…!!!」
「リクがまた闇に堕ちるー!?」
「フフフフフ…!! 私の姉さんだけでなく姪まで誑かしおってぇぇ…認めるか、認めてたまるかぁぁ…!!!」
「ヤバイ!! 先生の目が恐ろしい程に血走ってる!?」
(((もう親バカ…いや、伯父バカが発症してる…)))
抹殺と言わんばかりに闇のオーラを昂らせるリクとウィドに、もはや止める気力が失せてしまったのか残りの人達は呆れを浮かべてしまう。
無情にも更に混乱は広がり、我に返ったレイアが慌ててクウを抱きしめる。
「だ、駄目です!! クウさんは私のモノですー!!」
「何言ってるのさ、ボクの方が大事にされてるもん!! それにこっちの師匠は独身でしょ!! 今からでも間に合うはずー!!」
レイアに対抗するように、ツバサも反対側からギュッとクウを力強く抱きしめる。
両手に花状態だが、このままでは確実に闇に呑まれた伯父バカ共の餌食に遭ってしまう。そこでクウは、頼みの綱とばかりにスピカに振り返った。
「ス、スピカ!! ここは大人として説得を――!!」
「ねえ、誰か私に魔法を教えてくれないかしら? 出来ればこの世界を跡形も無く破壊出来る程の魔法を」
「目が笑ってない!? 誰か助けて!!」
世界を滅ぼすほどの八つ当たりを行おうとするスピカに、すかさず救いの声を上げるクウ。
伯父として姪の恋を阻止…基、抹殺を仕掛ける二人を止めるソラとルキル。少女二人が口喧嘩しながらクウを両側から抱きしめている。それを恐ろしい笑顔を浮かべて少ない筈の魔力を高めるスピカ。下手すれば世界が破壊されかねないこの混沌とした光景に、テラもアクアも目を逸らすしかなかった。
「…彼らが一番世界を破滅に陥れそうなんだが…?」
「…言っちゃ駄目よ…!」
その後、暴れる姪バカをカイリとオパールとスピカの説得と実力行使(物理)によってどうにか場を納める事に成功した。
とは言え、クウへの告白から起こった二人の決着はつかず、レイアもツバサも互いに不服なまま一時休戦と言う形に持ち越しとなる。
情報共有は終わったし、何よりこのまま全員一緒だとまた喧嘩の種が作れられる。そう判断し、ここから先はそれぞれ自由行動をとる事にした。
「あの、スピカさん」
一人、また一人と立ち去っていく中、レイアはスピカを呼び止める。
「どうしたの?」
「…あなたに返したいものがあります」
そう言って、レイアはローブのポケットからある物を取り出す。
それは、一枚の黒い羽根――クウの力が込められた物だ。
「この羽根…!」
「ずっと、あなたに返したかったです、謝りたかったです…勝手に、羽根を盗ったりして…ごめんなさいっ!!」
謝罪する気持ちを一杯にして、レイアは勢いよく頭を下げる。
それを見たスピカは、静かに首を横に振った。
「いいのよ。だって、こうして返してくれたんだから。それに、私もあなたと出会って早々に酷い事を言ったし…謝るのは私の方よ」
「そんな、私は…!」
「私はあなたの抱くクウの想いをこれでもかって否定させたし、怖い思いだってさせた。私への触れ方が分からない程に…違う?」
「でも…! それは、今まで返せなかったのは私の意志が弱いから…!」
「そんな暇、あなたも私も無かっただけよ。あれからクウは半日以上昏睡し続けたし、私も反剣とカルマの所為で体力も精神も弱って、次の日の朝までベットで治療するしかなかった。その上ビフロンスは戦闘の跡も残ってたし、怪我人の手当てまで…私達は、今やっと落ち着いた時間を過ごせる。だから『返せる』って思って話しかけたんでしょ?」
「…はい」
どんなにレイアが否定しても、スピカは理屈で肯定していく。その一つ一つは正しくて、やがて責める言葉が思い付かなくなってしまう。
スピカは満足して、レイアから羽根を受け取る。そうして摘まんだ状態で羽根を鑑賞するスピカの顔は、昔を思い出しているのか懐かしさを帯びている。
「あ、あの…その羽根なんですが…」
思い切ってレイアが質問すると、スピカは微笑みを浮かべる。そして羽根に対するエピソードを語り出した。
「――この羽根はね、クウが組織を去る前日に渡してくれたの。これから掟を破って、私達から去ろうとする。彼の中で感謝と申し訳ない気持ちがあったから、せめて私を含めた心を許した人達全員に手渡したんだと思ってる。何時までも残るように、自分の力を込めた羽根を…例え傍にいなくても、裏切ったとしても私達との心の繋がりはあるんだって」
「はい。クウさんらしいです」
「最初はね…凄く悲しかった。恋人だったのに、守ってくれるって誓ったのに、どうしていなくなるのって。毎日泣いたし、毎日叫んだ。でも、恨む事はしなかった…出来なかった。本当に私の事を、皆の事を思っていないならこんな羽根、渡す意味なんてない。心のどこかでそれを気づいてたから」
「…優しいんですね」
「優しくなんてない、クウがそう言う人だって知ってるからよ。でも、周りはそうじゃなかった。組織の最高位…『老師様』って人がいるんだけど、彼は光側の世界を守護する魔法使いとコンタクトを取る方法を持っているの。光側の世界で何かあれば老師様が教えてくれるし、逆に闇の世界で異変があれば光の世界にコンタクトを取る事も可能。それを使って、裏切り者となったクウを始末させようって計画が持ち上がったのよ」
「そんな…!」
「それで決意したの。これからは私なりにクウを守る、クウの帰る居場所を作ろうって。そして私は全ての敵となり、頭領の地位をもぎ取った。それは世界のバランスを保つ為でも、組織の停滞した方策を変える為じゃない…何時の日か、帰ってくるであろう愛した人を迎え入れる為に」
「スピカさん…」
初めて語られた、スピカの本音。知られざる戦い。それは、彼女がどれだけクウを愛しているかを物語るのに十分な内容だ。
自分だってクウの事が好きだ。けれど、相手は数年間の恋人だったし、クウの事だって沢山知っていて、揺ぎ無い信頼すら抱いている。たった半年間いて、クウの優しさを貰ってばかりだった自分が敵う相手かどうか…。
「お互い好きだった感情を捨てきれなかったと言えど、元カノは元カノ。しかも11年会ってないって事で、あなたとのブランクが大きいわ。おまけに新しいライバルまで登場しちゃったものね…話ではシルビアも、クウの事を特別な風に見ているようだし」
追い込まれていくレイアだったが、さっきまでとは打って変わりスピカが弱気な事を言ってくる。この変わりように、思わずレイアは面食らってしまう。
「あ、あの…」
「不安なのは私も一緒。一番大事なのは、クウの意志そのもの。あなたに勝ってるなんて、これっぽっちも思っていないわ…ねえ、レイア。これからは仲間として、ライバルとして――何より、同じ恋心を持つ女友達として仲良く出来ないかしら?」
そう言うと、スピカはレイアに手を差し伸べる。
形や立場や過ごす時間がどうあれ、レイアがクウに抱く愛は本物だと認めている。いや、レイアだけでなくツバサとシルビアの事も認めている。だから、スピカは同じ立場としてレイアに手を差し出しているのだろう。絶対に負けないと言う思いを込めて。
目の前でスピカが差し出す手を、レイアは迷う事無く、力強く握った。
「…もちろんです! 私、負けませんから!」
「私も同じよ、もう一回惚れ直させてあげるんだから」
互いに決意を口にして、笑い合う。
彼(クウ)に惚れた者同士、きっと仲良く出来る。そんな確信が二人に芽生えていた。
状況が一段落した所で、クウが改めて話を戻す。ツバサはすぐにクウへと向き直って、頭を下げて謝った。
「うん…黙っててごめん」
「いいえ。あなたの判断は正しいわ。別の世界だとしても、そんな事実は未来に影響を齎しかねないもの。私達を気遣ってくれてありがとう」
アクアが微笑みながら頭を撫でると、ツバサも少しだけ頬が緩んで嬉しそうにする。
すると、ここでカイリが人差し指を頬に当ててリクへと疑問を向ける。
「ところで、ツバサがルキルの子供で、ルキルってリクのレプリカ…なんだよね?」
「…ああ」
「じゃあツバサって、リクの姪っ子になるのかな!?」
「め、姪!? あのな、血が繋がっているならともかく、流石にそれは…!」
面白そうに言うカイリに、流石に困って慌てるリク。そんな彼の様子に、クウはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ始める。
「ふーん? ツバサ、ちょっと」
クイクイと手招きしてツバサを呼び寄せる。すぐにツバサが近づくと、クウはしゃがみこんで彼女の耳元で何かを囁いた。
「い、いいの?」
「いい、いい。やれやれ、笑顔で言ってやれ」
「お前、何を…!?」
明らかに悪い事を吹き込んだのが目に見えて、リクがクウに問い詰める為に近付く。
それを見たツバサは戸惑い気味に前に立ち、それでもクウに言われた通りに笑顔を作って口を開いた。
「パ…パパっ!」
「ぐふぉ!!」
思いのほか効いたようで、ダメージを受けたように変な声を出して思いっきり仰け反ってしまった。
「凄い、効いてる!」
「リク、耳まで真っ赤になってる〜!」
珍しい物を見たとばかりに、ヴェンとソラが目を輝かせて囃し立てる。
一方、元凶はと言うと。
「ぶっ、くくく…ッ!!」
背中を向けて、思いっきり笑いをこらえていた。
「っ…!! こっ、この…何を吹き込ませたエロガラスがああああああ!!!」
「待て待て待て俺右腕動かねーし翼も使えねーから落ち着けぇぇぇ!!?」
顔を真っ赤にさせたままキーブレードで攻撃するリク。クウも対抗するが、腕一本しか使えない状態ではいなしながら逃げるのが精いっぱいだ。
再び喧嘩が始める光景だが、もう慣れてしまったのか他の人は無視を始める。カイリも同じで、ツバサとの話を戻した。
「で、結局ツバサってリクとはどう言う立場?」
「ボクは普通に伯父さんって呼んでるよ。甥っ子…今は姪っ子だった。立場はそんな感じだし」
「まあ、それが妥当よね…」
生まれに関した関係性からして既にややこしいのだ、それならシンプルな形で落ち着いた方がいい。だからオパールも納得をする。
「ふふっ。何だか一気に家族が増えた気分ね」
「ですね、姉さん。ツバサが私達の姪なら、リクとも義理の関係で繋がりが出来るのでしょうかね?」
「はあぁ!?」
「良かったな、家族が増えて!」
「何でそうなる!?」
思わず攻撃の手を止めてソラにツッコミを入れるリク。
何だかおかしくなり、一人二人と笑い合う声が段々と重なって辺りに満ちていく。ツバサも同じように笑っていたが、すぐにある事に気づく。
レイアだけ、笑っているようで複雑そうな表情でスピカを見ている事に。
「………」
「レイアさん、どうしたの?」
「え、あ、あの…大丈夫ですよ?」
突然話しかけられて動揺するが、笑みを作って場を取り繕う。
どう見ても何かがある。それが分かり、ツバサは少しだけ思考するとレイアに笑顔を見せつけた。
「ねえ、レイアさん。レイアさん、どうして師匠の事好きになったの?」
「ふぇ!? な、なんでそんな話を…?」
「だって、これからはレイアさんとスピカさんとはライバルになるだろうからさっ!」
「「ライバル?」」
この発言に、レイアだけでなくスピカも不思議そうにオウム返しする。
すると、ツバサは大胆な告白――いや、宣戦布告を言い放った。
「うん! 二人と同じで――ボクも師匠の事、本気で大好きだからっ!!」
笑顔で、大声で言い放ったそれに、笑っていた誰もがフリーズの魔法をかけられたかの如く、一瞬で凍り付いてしまった。
「ツ、ツバサ…?」
「師匠、だめ…?」
辛うじてクウが名前を呼んだ途端、ツバサは上目遣いで目をうるうるとさせてくる。
完全に甘えているその仕草を向けられて、クウは冷汗を浮かべるしか出来ない。思えば、ツバサはアウルムと対峙していた時にも似たような発言をしていた。恐らく、いや間違いなく…恋をしてしまったのだろう。
ツバサの心情を理解すると同時に、クウのすぐ傍で爆発を起こすように闇の気配が放たれた。
「ソラ、またアンセムになるが別に構わないよなぁ…!!!」
「リクがまた闇に堕ちるー!?」
「フフフフフ…!! 私の姉さんだけでなく姪まで誑かしおってぇぇ…認めるか、認めてたまるかぁぁ…!!!」
「ヤバイ!! 先生の目が恐ろしい程に血走ってる!?」
(((もう親バカ…いや、伯父バカが発症してる…)))
抹殺と言わんばかりに闇のオーラを昂らせるリクとウィドに、もはや止める気力が失せてしまったのか残りの人達は呆れを浮かべてしまう。
無情にも更に混乱は広がり、我に返ったレイアが慌ててクウを抱きしめる。
「だ、駄目です!! クウさんは私のモノですー!!」
「何言ってるのさ、ボクの方が大事にされてるもん!! それにこっちの師匠は独身でしょ!! 今からでも間に合うはずー!!」
レイアに対抗するように、ツバサも反対側からギュッとクウを力強く抱きしめる。
両手に花状態だが、このままでは確実に闇に呑まれた伯父バカ共の餌食に遭ってしまう。そこでクウは、頼みの綱とばかりにスピカに振り返った。
「ス、スピカ!! ここは大人として説得を――!!」
「ねえ、誰か私に魔法を教えてくれないかしら? 出来ればこの世界を跡形も無く破壊出来る程の魔法を」
「目が笑ってない!? 誰か助けて!!」
世界を滅ぼすほどの八つ当たりを行おうとするスピカに、すかさず救いの声を上げるクウ。
伯父として姪の恋を阻止…基、抹殺を仕掛ける二人を止めるソラとルキル。少女二人が口喧嘩しながらクウを両側から抱きしめている。それを恐ろしい笑顔を浮かべて少ない筈の魔力を高めるスピカ。下手すれば世界が破壊されかねないこの混沌とした光景に、テラもアクアも目を逸らすしかなかった。
「…彼らが一番世界を破滅に陥れそうなんだが…?」
「…言っちゃ駄目よ…!」
その後、暴れる姪バカをカイリとオパールとスピカの説得と実力行使(物理)によってどうにか場を納める事に成功した。
とは言え、クウへの告白から起こった二人の決着はつかず、レイアもツバサも互いに不服なまま一時休戦と言う形に持ち越しとなる。
情報共有は終わったし、何よりこのまま全員一緒だとまた喧嘩の種が作れられる。そう判断し、ここから先はそれぞれ自由行動をとる事にした。
「あの、スピカさん」
一人、また一人と立ち去っていく中、レイアはスピカを呼び止める。
「どうしたの?」
「…あなたに返したいものがあります」
そう言って、レイアはローブのポケットからある物を取り出す。
それは、一枚の黒い羽根――クウの力が込められた物だ。
「この羽根…!」
「ずっと、あなたに返したかったです、謝りたかったです…勝手に、羽根を盗ったりして…ごめんなさいっ!!」
謝罪する気持ちを一杯にして、レイアは勢いよく頭を下げる。
それを見たスピカは、静かに首を横に振った。
「いいのよ。だって、こうして返してくれたんだから。それに、私もあなたと出会って早々に酷い事を言ったし…謝るのは私の方よ」
「そんな、私は…!」
「私はあなたの抱くクウの想いをこれでもかって否定させたし、怖い思いだってさせた。私への触れ方が分からない程に…違う?」
「でも…! それは、今まで返せなかったのは私の意志が弱いから…!」
「そんな暇、あなたも私も無かっただけよ。あれからクウは半日以上昏睡し続けたし、私も反剣とカルマの所為で体力も精神も弱って、次の日の朝までベットで治療するしかなかった。その上ビフロンスは戦闘の跡も残ってたし、怪我人の手当てまで…私達は、今やっと落ち着いた時間を過ごせる。だから『返せる』って思って話しかけたんでしょ?」
「…はい」
どんなにレイアが否定しても、スピカは理屈で肯定していく。その一つ一つは正しくて、やがて責める言葉が思い付かなくなってしまう。
スピカは満足して、レイアから羽根を受け取る。そうして摘まんだ状態で羽根を鑑賞するスピカの顔は、昔を思い出しているのか懐かしさを帯びている。
「あ、あの…その羽根なんですが…」
思い切ってレイアが質問すると、スピカは微笑みを浮かべる。そして羽根に対するエピソードを語り出した。
「――この羽根はね、クウが組織を去る前日に渡してくれたの。これから掟を破って、私達から去ろうとする。彼の中で感謝と申し訳ない気持ちがあったから、せめて私を含めた心を許した人達全員に手渡したんだと思ってる。何時までも残るように、自分の力を込めた羽根を…例え傍にいなくても、裏切ったとしても私達との心の繋がりはあるんだって」
「はい。クウさんらしいです」
「最初はね…凄く悲しかった。恋人だったのに、守ってくれるって誓ったのに、どうしていなくなるのって。毎日泣いたし、毎日叫んだ。でも、恨む事はしなかった…出来なかった。本当に私の事を、皆の事を思っていないならこんな羽根、渡す意味なんてない。心のどこかでそれを気づいてたから」
「…優しいんですね」
「優しくなんてない、クウがそう言う人だって知ってるからよ。でも、周りはそうじゃなかった。組織の最高位…『老師様』って人がいるんだけど、彼は光側の世界を守護する魔法使いとコンタクトを取る方法を持っているの。光側の世界で何かあれば老師様が教えてくれるし、逆に闇の世界で異変があれば光の世界にコンタクトを取る事も可能。それを使って、裏切り者となったクウを始末させようって計画が持ち上がったのよ」
「そんな…!」
「それで決意したの。これからは私なりにクウを守る、クウの帰る居場所を作ろうって。そして私は全ての敵となり、頭領の地位をもぎ取った。それは世界のバランスを保つ為でも、組織の停滞した方策を変える為じゃない…何時の日か、帰ってくるであろう愛した人を迎え入れる為に」
「スピカさん…」
初めて語られた、スピカの本音。知られざる戦い。それは、彼女がどれだけクウを愛しているかを物語るのに十分な内容だ。
自分だってクウの事が好きだ。けれど、相手は数年間の恋人だったし、クウの事だって沢山知っていて、揺ぎ無い信頼すら抱いている。たった半年間いて、クウの優しさを貰ってばかりだった自分が敵う相手かどうか…。
「お互い好きだった感情を捨てきれなかったと言えど、元カノは元カノ。しかも11年会ってないって事で、あなたとのブランクが大きいわ。おまけに新しいライバルまで登場しちゃったものね…話ではシルビアも、クウの事を特別な風に見ているようだし」
追い込まれていくレイアだったが、さっきまでとは打って変わりスピカが弱気な事を言ってくる。この変わりように、思わずレイアは面食らってしまう。
「あ、あの…」
「不安なのは私も一緒。一番大事なのは、クウの意志そのもの。あなたに勝ってるなんて、これっぽっちも思っていないわ…ねえ、レイア。これからは仲間として、ライバルとして――何より、同じ恋心を持つ女友達として仲良く出来ないかしら?」
そう言うと、スピカはレイアに手を差し伸べる。
形や立場や過ごす時間がどうあれ、レイアがクウに抱く愛は本物だと認めている。いや、レイアだけでなくツバサとシルビアの事も認めている。だから、スピカは同じ立場としてレイアに手を差し出しているのだろう。絶対に負けないと言う思いを込めて。
目の前でスピカが差し出す手を、レイアは迷う事無く、力強く握った。
「…もちろんです! 私、負けませんから!」
「私も同じよ、もう一回惚れ直させてあげるんだから」
互いに決意を口にして、笑い合う。
彼(クウ)に惚れた者同士、きっと仲良く出来る。そんな確信が二人に芽生えていた。