心残り
アクアとテラは、初めて降り立った住宅地にある広場へとやってきた。
10年前と比べると、廃墟だった事もありすっかり変わっているが、それでもその場所を懐かしく感じる。
「久々ね。こうしてテラと一緒に過ごすの」
「ああ。本当に久々だな」
「…この世界で、ううん。旅立ちの地で別れてから、色んな事があったわね」
本来の世界での旅の事、今の旅を思い返しながらアクアは空を見上げる。
シルビアによって連れてこられた未来と、同じようで違う別世界。今はこうして戻ってきたが、クウの腕…シルビアが与えてくれた切り札を取り戻し次第、戻らなければならないだろう。
例え、彼らとの決戦が待ち受けていようとも。
「ねえ、テラ。もし、この戦いが終わったら…私達、どうなるのかしら?」
「何言ってるんだ? マスターにゼアノートの事を報告して、それからヴェンも連れて戻ればいいだろ」
今となっては、ゼアノートが危険な人物である事を理解している。だからこそ、テラは自分なりに考えている事を伝える。
マスターであるエラクゥスは自分達よりも強いし聡明なお方だし、ヴェンを守るには必要な事だ。それは正しい判断なのに、逆にアクアの表情は暗くなる。
「本当に、それで全部解決するのかな?」
「アクア…?」
いつになく弱気なアクアに、テラも不安を覚える。
自分の所為でテラも不安がっているのに気づいて、すぐに誤魔化しの笑みを作った。
「――ごめんなさい。今回の一件で弱気になっていたわね。今はクウの腕をどうにかして、シルビアとエンを何とかしないといけないのに…私ってば駄目ね」
「大丈夫だ、アクア。お前は俺達よりも強い。何たって、キーブレードマスターにいち早くなれたんだからな」
そう言って元気づけると、テラは真剣な眼差しでアクアの肩を掴んだ。
「それでも不安だと言うのなら…俺が、アクアを守る」
「テ、ラ…!」
真っ直ぐに見つめて伝えたその思いに、アクアは頬が赤くなるのを実感する。
同時に、心臓もドキドキと激しく鳴り出す。何か言おうとしても、一度昂ってしまった気持ちはどうしようもなくアクアを狂わせる。
そして、肝心のテラはと言うと、顔を赤くしたアクアに疑問を浮かべていた。
「な、何で顔が赤くなってるんだ? もしかして、熱か? まさか無理してたのか!?」
「ッ…バ、バカっ!! もうテラなんて知らない!」
「本当にどうしたんだ、アクア!?」
急に背を向けて怒ったように立ち去るアクアに、テラは慌てて追いかける。
こうなったら走って逃げようとアクアは覚悟を決めていると、先の方である人物を見つけて足を止めた。
「えーと、アクア?」
「シッ!」
「うお!?」
追ってきたテラを前から押して、物陰に隠れる。
出来るだけ身を隠すために図体がでかいテラを壁に押し付ける。何か文句を吐こうと口を開くが、その前にアクアは人差し指を口に付けた。
(静かにして)
ジェスチャーで伝えると、テラも開きかけた口を閉ざす。
「今、何か聞こえなかったか?」
「気の所為じゃないのか?」
すると、同じ声の会話が聞こえてくる。
こっそりとテラと一緒に伺うと、そこにいたのは大きな買い物袋を両手に抱えているリクとルキルが辺りを見回している。少しだけ警戒していたが二人は何もないと判断したのか、その場から立ち去っていく。
足音が遠ざかり、アクアは安心したようにテラに寄りかかる。テラはそんなアクアの肩を支えると前の方を見ながら疑問をぶつけた。
「…隠れる必要あったのか?」
「もう、テラったら。あったからこうしたんでしょ? あの子達が仲良く買い物袋持っていたんだもの、邪魔しちゃ悪いわ」
「その割に、バレバレだったようだぞ?」
「え?」
アクアが顔を上げると、テラは尚も前を――背後へと視線を向けている。
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには呆れ顔のリクとルキルが買い物袋を持ったままこちらを見ていた。
「「何してるんだ、二人とも?」」
「え、えーと…」
とっさの言い訳の言葉が思い付かず、アクアは顔を背けるしかなかった。
「…はぁ。日を追うごとに、怪我が悪化していってる気がするなぁ…」
アンセムの研究所へと続く城の通路で、クウは疲れたように壁に寄りかかった。
自分の黒く変色した右腕を見て、次に左手に持つキーブレードに移す。やがて諦めたような溜息を吐き捨て、武器を虚空へと消した。
「戦うのもやっと、か…右腕使えないだけでもきついのに、その上ハンデを背負わされちゃあなぁ」
「なにしてんの?」
弱音を零していると、別の声が返ってくる。顔だけ向けると、若干不機嫌な表情を浮かべたオパールが腰に両手を当てて立っていた。
「オパール」
「防衛装置があるとはいえ、単独で戦うのは感心しないわね」
「…次は気を付ける」
それだけ言って、クウは会話を終わらせようとする。その態度に、オパールはこれ以上言っても無駄と悟ったのか無言で横に来て、同じように壁に凭れ掛かった。
「あんた…何か悩みでもあるの?」
「別にそんなんじゃねーよ。そっちそこ、リクに関して恋の悩みでも持ってるんだろ? 恋愛のエキスパートの俺に相談でもぐほぉ!?」
茶化したら思いっきり右ストレートで顔をぶん殴られた。
「誰があんな奴に悩みなんて持つかああぁぁ!!!」
「待て、俺怪我人!! 怪我人に近いから!! グーは止めろグーは!?」
本場格闘家にも負けず劣らずの威力の拳に恐れをなしたのか、クウは必死で右腕を指差してアピールする。
少しは落ち着いたのか、オパールは苛立ち交じりに再び壁に寄りかかって腕を組む。
「大体、あたしの悩みなんて…!」
そこまで言って、オパールの脳裏にリリィの姿が過ぎる。先程とは違う感情に苛まれ、クウから隠すように顔を背ける。
ここから先は触れたくない事に触れようとしている。オパールの態度でクウも瞬時に理解し、踏み込む事はせず話題を変える事にした。
「あ〜…オパール。お前、故郷には最近戻ってきたんだよな? その、何だ…怖かったりとか、嫌だとか、感じたりしなかったか?」
「何よ、いきなり…そう言うのは、特に思わなかった。ただ…心残りはあったけど」
「心残り?」
オパールは一つ頷くと、天井を見上げる。クウはさっきのように隣で壁に背を付けて聞く体制に入る。
「あたし、故郷に帰る前は別の世界にいたんだ。こっちに戻る前の事なんだけど――あたしは育ててくれた恩人の空賊に認められたくて、ある国の所有する研究所に忍び込んでお宝を盗もうとした。あの人は…バルフレアは前からその研究所の事を気にして情報まで探っていたけど、何時まで経っても行動に移さなかった。理由を聞いても『お前には関係ない』って…だから、あたしが代わりに盗もうって思ったの。半人前じゃないんだって証明する為に」
そこまで話すと、ポーチから機械と融合した不気味な光を放つ石を取り出してクウに見せる。
「で、盗んだのがこの魔石。『破魔石』って言って、魔力を無造作に吸収して蓄える特性を持っているんだ。研究所に忍び込んで、場所を調べて機会を伺ってたの。その時に運がいいのか悪いのか、この破魔石が暴走してね…どさくさに紛れてぶんどったのはいいんだけど、暴走に引き寄せられたのかハートレスまで現れたのよ」
何でもない口調で話を続けるが、クウの顔は僅かだが強張る。他人から聞いても実際は危ない話なのだとオパールは気づきつつも、過去の出来事を語る。
「もう必死で逃げた。そしたら、あたしを追いかけて研究所に忍び込んだ恩人の二人が助けてくれたの。助かったって、そう思ったんだけど…出口に繋がる通路は大型ハートレスの所為で塞がれた。そしたら、恩人に…バルフレアに手を引かれた。連れていかれたのはどこかの研究室。そこでフランと一緒に何かの機械を作動したって思ったら…闇の回廊が開いたの」
そうして、オパールは持っていた破魔石を両手で包む様に強く握る。
「バルフレアは、あたしを元の世界に戻す方法をずっと探してくれてた。あたしが忍び込んだ研究所では、国家一番の研究者が別の世界との疑似的な繋がりを作る方法――闇の回廊を作り上げようとしている最中だったらしいの。研究所に狙いを付けてたのはお宝を盗む為じゃない…あたしの為だったの…!!」
とうとう耐え切れなくなったのか、オパールの顔が罪悪感で歪む。それでもオパールは、泣くのを必死で堪える。クウから同情を引きたい訳じゃないのだから。
「そうして、あたしは回廊に押し込められて故郷に送られようとした。でも、建物は崩壊してて、一緒に逃げようって手を伸ばしたんだよ、なのに…!」
背中を押され、闇の中に足を踏み入れるがバランスを崩して倒れてしまう。
すぐに振り返るが、二人は背を向けたまま大量のハートレス達に武器を構えている。戻ろうにも、回廊は閉じようとしている。
だから、手を伸ばしたんだ。立ち上がって戻るより、あちらが回廊に踏み込んだ方が間に合うから。
『いや! 一人だけ逃げるなんて絶対にいやぁ! バルフレア、フラン! 一緒に来て!!』
『――それは出来ないな。俺はこの馬鹿げた研究所を全部破壊しないと気が済まないのさ』
『こんな時まで軽口言わないで!! 早く、このままじゃ死んじゃう!!』
『死なないさ…俺はこの物語の主人公だぞ? 主人公は絶対に助かるのさ』
いつもの台詞を言いながら振り返ったバルフレアの顔は、自信溢れる笑顔。
そこで完全に闇に呑まれてしまい、最後の邂逅となってしまった。
「…次に意識を取り戻した時には、レオン達に保護されてた。だからあれから二人がどうなったか、あたしには分からない…」
「それで、心残り…か」
オパールの過去を聞き、クウもまた天井を見上げる。
お互い無言のまま時が過ぎるが、唐突にオパールはクウに謝った。
「参考にならなくてごめん」
「は?」
「あんた、戸惑ってるんでしょ? 闇の世界に戻る事…ううん、裏切った人達と再会する事」
「まあ、な」
内心を見透かされるが、クウは目を背けるだけで終わる。
本当は不安でいっぱいだ。スピカが間に入るとはいえ、裏切って傷つけた。少しでも気持ちの整理をつけようと、誰も誘わず1人で戦っていた。
忘れていたモヤモヤとした感情を思い出し、クウは頭を掻き毟る。それが終わると、隣にいるオパールに質問した。
「オパール。お前は、今でも戻りたいって思うか?」
「うん。その為に世界を巡る方法を探して、実行にまで出来た。だからもう一度戻って、バルフレア達に会って、謝りたいんだ。馬鹿な事したのは自覚してるけど…あの二人なら、叱る事をするけど許してくれると思うから」
「…そっか」
「少しは気が晴れた?」
「ああ。ありがとな、オパール」
心の整理がついて、クウはお礼を言いながら背中越しに左手を振ってその場を後にする。
自分勝手な理由で裏切ったのだ。負い目はある。罪悪感もある。恐怖だってある。
それでも、会いたい気持ちだってあるのだ。
「スピカの事を引き摺ってたんだ。ちゃんと向き合って、心残り解消しないとな」
素直な気持ちを口にして、クウは静かに微笑んだ。
10年前と比べると、廃墟だった事もありすっかり変わっているが、それでもその場所を懐かしく感じる。
「久々ね。こうしてテラと一緒に過ごすの」
「ああ。本当に久々だな」
「…この世界で、ううん。旅立ちの地で別れてから、色んな事があったわね」
本来の世界での旅の事、今の旅を思い返しながらアクアは空を見上げる。
シルビアによって連れてこられた未来と、同じようで違う別世界。今はこうして戻ってきたが、クウの腕…シルビアが与えてくれた切り札を取り戻し次第、戻らなければならないだろう。
例え、彼らとの決戦が待ち受けていようとも。
「ねえ、テラ。もし、この戦いが終わったら…私達、どうなるのかしら?」
「何言ってるんだ? マスターにゼアノートの事を報告して、それからヴェンも連れて戻ればいいだろ」
今となっては、ゼアノートが危険な人物である事を理解している。だからこそ、テラは自分なりに考えている事を伝える。
マスターであるエラクゥスは自分達よりも強いし聡明なお方だし、ヴェンを守るには必要な事だ。それは正しい判断なのに、逆にアクアの表情は暗くなる。
「本当に、それで全部解決するのかな?」
「アクア…?」
いつになく弱気なアクアに、テラも不安を覚える。
自分の所為でテラも不安がっているのに気づいて、すぐに誤魔化しの笑みを作った。
「――ごめんなさい。今回の一件で弱気になっていたわね。今はクウの腕をどうにかして、シルビアとエンを何とかしないといけないのに…私ってば駄目ね」
「大丈夫だ、アクア。お前は俺達よりも強い。何たって、キーブレードマスターにいち早くなれたんだからな」
そう言って元気づけると、テラは真剣な眼差しでアクアの肩を掴んだ。
「それでも不安だと言うのなら…俺が、アクアを守る」
「テ、ラ…!」
真っ直ぐに見つめて伝えたその思いに、アクアは頬が赤くなるのを実感する。
同時に、心臓もドキドキと激しく鳴り出す。何か言おうとしても、一度昂ってしまった気持ちはどうしようもなくアクアを狂わせる。
そして、肝心のテラはと言うと、顔を赤くしたアクアに疑問を浮かべていた。
「な、何で顔が赤くなってるんだ? もしかして、熱か? まさか無理してたのか!?」
「ッ…バ、バカっ!! もうテラなんて知らない!」
「本当にどうしたんだ、アクア!?」
急に背を向けて怒ったように立ち去るアクアに、テラは慌てて追いかける。
こうなったら走って逃げようとアクアは覚悟を決めていると、先の方である人物を見つけて足を止めた。
「えーと、アクア?」
「シッ!」
「うお!?」
追ってきたテラを前から押して、物陰に隠れる。
出来るだけ身を隠すために図体がでかいテラを壁に押し付ける。何か文句を吐こうと口を開くが、その前にアクアは人差し指を口に付けた。
(静かにして)
ジェスチャーで伝えると、テラも開きかけた口を閉ざす。
「今、何か聞こえなかったか?」
「気の所為じゃないのか?」
すると、同じ声の会話が聞こえてくる。
こっそりとテラと一緒に伺うと、そこにいたのは大きな買い物袋を両手に抱えているリクとルキルが辺りを見回している。少しだけ警戒していたが二人は何もないと判断したのか、その場から立ち去っていく。
足音が遠ざかり、アクアは安心したようにテラに寄りかかる。テラはそんなアクアの肩を支えると前の方を見ながら疑問をぶつけた。
「…隠れる必要あったのか?」
「もう、テラったら。あったからこうしたんでしょ? あの子達が仲良く買い物袋持っていたんだもの、邪魔しちゃ悪いわ」
「その割に、バレバレだったようだぞ?」
「え?」
アクアが顔を上げると、テラは尚も前を――背後へと視線を向けている。
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには呆れ顔のリクとルキルが買い物袋を持ったままこちらを見ていた。
「「何してるんだ、二人とも?」」
「え、えーと…」
とっさの言い訳の言葉が思い付かず、アクアは顔を背けるしかなかった。
「…はぁ。日を追うごとに、怪我が悪化していってる気がするなぁ…」
アンセムの研究所へと続く城の通路で、クウは疲れたように壁に寄りかかった。
自分の黒く変色した右腕を見て、次に左手に持つキーブレードに移す。やがて諦めたような溜息を吐き捨て、武器を虚空へと消した。
「戦うのもやっと、か…右腕使えないだけでもきついのに、その上ハンデを背負わされちゃあなぁ」
「なにしてんの?」
弱音を零していると、別の声が返ってくる。顔だけ向けると、若干不機嫌な表情を浮かべたオパールが腰に両手を当てて立っていた。
「オパール」
「防衛装置があるとはいえ、単独で戦うのは感心しないわね」
「…次は気を付ける」
それだけ言って、クウは会話を終わらせようとする。その態度に、オパールはこれ以上言っても無駄と悟ったのか無言で横に来て、同じように壁に凭れ掛かった。
「あんた…何か悩みでもあるの?」
「別にそんなんじゃねーよ。そっちそこ、リクに関して恋の悩みでも持ってるんだろ? 恋愛のエキスパートの俺に相談でもぐほぉ!?」
茶化したら思いっきり右ストレートで顔をぶん殴られた。
「誰があんな奴に悩みなんて持つかああぁぁ!!!」
「待て、俺怪我人!! 怪我人に近いから!! グーは止めろグーは!?」
本場格闘家にも負けず劣らずの威力の拳に恐れをなしたのか、クウは必死で右腕を指差してアピールする。
少しは落ち着いたのか、オパールは苛立ち交じりに再び壁に寄りかかって腕を組む。
「大体、あたしの悩みなんて…!」
そこまで言って、オパールの脳裏にリリィの姿が過ぎる。先程とは違う感情に苛まれ、クウから隠すように顔を背ける。
ここから先は触れたくない事に触れようとしている。オパールの態度でクウも瞬時に理解し、踏み込む事はせず話題を変える事にした。
「あ〜…オパール。お前、故郷には最近戻ってきたんだよな? その、何だ…怖かったりとか、嫌だとか、感じたりしなかったか?」
「何よ、いきなり…そう言うのは、特に思わなかった。ただ…心残りはあったけど」
「心残り?」
オパールは一つ頷くと、天井を見上げる。クウはさっきのように隣で壁に背を付けて聞く体制に入る。
「あたし、故郷に帰る前は別の世界にいたんだ。こっちに戻る前の事なんだけど――あたしは育ててくれた恩人の空賊に認められたくて、ある国の所有する研究所に忍び込んでお宝を盗もうとした。あの人は…バルフレアは前からその研究所の事を気にして情報まで探っていたけど、何時まで経っても行動に移さなかった。理由を聞いても『お前には関係ない』って…だから、あたしが代わりに盗もうって思ったの。半人前じゃないんだって証明する為に」
そこまで話すと、ポーチから機械と融合した不気味な光を放つ石を取り出してクウに見せる。
「で、盗んだのがこの魔石。『破魔石』って言って、魔力を無造作に吸収して蓄える特性を持っているんだ。研究所に忍び込んで、場所を調べて機会を伺ってたの。その時に運がいいのか悪いのか、この破魔石が暴走してね…どさくさに紛れてぶんどったのはいいんだけど、暴走に引き寄せられたのかハートレスまで現れたのよ」
何でもない口調で話を続けるが、クウの顔は僅かだが強張る。他人から聞いても実際は危ない話なのだとオパールは気づきつつも、過去の出来事を語る。
「もう必死で逃げた。そしたら、あたしを追いかけて研究所に忍び込んだ恩人の二人が助けてくれたの。助かったって、そう思ったんだけど…出口に繋がる通路は大型ハートレスの所為で塞がれた。そしたら、恩人に…バルフレアに手を引かれた。連れていかれたのはどこかの研究室。そこでフランと一緒に何かの機械を作動したって思ったら…闇の回廊が開いたの」
そうして、オパールは持っていた破魔石を両手で包む様に強く握る。
「バルフレアは、あたしを元の世界に戻す方法をずっと探してくれてた。あたしが忍び込んだ研究所では、国家一番の研究者が別の世界との疑似的な繋がりを作る方法――闇の回廊を作り上げようとしている最中だったらしいの。研究所に狙いを付けてたのはお宝を盗む為じゃない…あたしの為だったの…!!」
とうとう耐え切れなくなったのか、オパールの顔が罪悪感で歪む。それでもオパールは、泣くのを必死で堪える。クウから同情を引きたい訳じゃないのだから。
「そうして、あたしは回廊に押し込められて故郷に送られようとした。でも、建物は崩壊してて、一緒に逃げようって手を伸ばしたんだよ、なのに…!」
背中を押され、闇の中に足を踏み入れるがバランスを崩して倒れてしまう。
すぐに振り返るが、二人は背を向けたまま大量のハートレス達に武器を構えている。戻ろうにも、回廊は閉じようとしている。
だから、手を伸ばしたんだ。立ち上がって戻るより、あちらが回廊に踏み込んだ方が間に合うから。
『いや! 一人だけ逃げるなんて絶対にいやぁ! バルフレア、フラン! 一緒に来て!!』
『――それは出来ないな。俺はこの馬鹿げた研究所を全部破壊しないと気が済まないのさ』
『こんな時まで軽口言わないで!! 早く、このままじゃ死んじゃう!!』
『死なないさ…俺はこの物語の主人公だぞ? 主人公は絶対に助かるのさ』
いつもの台詞を言いながら振り返ったバルフレアの顔は、自信溢れる笑顔。
そこで完全に闇に呑まれてしまい、最後の邂逅となってしまった。
「…次に意識を取り戻した時には、レオン達に保護されてた。だからあれから二人がどうなったか、あたしには分からない…」
「それで、心残り…か」
オパールの過去を聞き、クウもまた天井を見上げる。
お互い無言のまま時が過ぎるが、唐突にオパールはクウに謝った。
「参考にならなくてごめん」
「は?」
「あんた、戸惑ってるんでしょ? 闇の世界に戻る事…ううん、裏切った人達と再会する事」
「まあ、な」
内心を見透かされるが、クウは目を背けるだけで終わる。
本当は不安でいっぱいだ。スピカが間に入るとはいえ、裏切って傷つけた。少しでも気持ちの整理をつけようと、誰も誘わず1人で戦っていた。
忘れていたモヤモヤとした感情を思い出し、クウは頭を掻き毟る。それが終わると、隣にいるオパールに質問した。
「オパール。お前は、今でも戻りたいって思うか?」
「うん。その為に世界を巡る方法を探して、実行にまで出来た。だからもう一度戻って、バルフレア達に会って、謝りたいんだ。馬鹿な事したのは自覚してるけど…あの二人なら、叱る事をするけど許してくれると思うから」
「…そっか」
「少しは気が晴れた?」
「ああ。ありがとな、オパール」
心の整理がついて、クウはお礼を言いながら背中越しに左手を振ってその場を後にする。
自分勝手な理由で裏切ったのだ。負い目はある。罪悪感もある。恐怖だってある。
それでも、会いたい気持ちだってあるのだ。
「スピカの事を引き摺ってたんだ。ちゃんと向き合って、心残り解消しないとな」
素直な気持ちを口にして、クウは静かに微笑んだ。
■作者メッセージ
オマケコーナー(F〇暗〇物語・その後)
レ〇ン(CV宮〇)『好きだよ……こんな気持ち…隠さなきゃいけないって、ずっと思ってた』
オパール「うぐうううう…!!」(3DSを握る手がプルプル震えてる)
レ〇ン(CV宮〇)『でも、伝えて良かったよ姉さん。僕を受け入れてくれて、ありがとう』
オパール「〜〜〜!!」(ベッドの上でゴロゴロ悶絶中)
レ〇ン(CV宮〇)『もし…君が遠くに行ったら、僕は何をするか分からない。君のいない世界なんて、僕にとっては何の意味もないから…』
レ〇ン(CV宮〇)『それだけ、覚えておいて(囁き)』
オパール「―――」
1分後…。
カイリ「オパール、ご飯出来たって…」(部屋のドアを開ける)
オパール「………(チーン)」(3DS持ちながら昇天)
カイリ「だ、誰か来てー!? オパールが息してないー!? 口から魂抜けてるーーーー!!?」(真っ青)
のちにこの時の事を彼女はこう語る。
(あれはヤバかった…イヤホンしてなかったら即死だった…! ああダメ、今思い出しても顔がにやける…エヘヘ…!)
レ〇ン(CV宮〇)『好きだよ……こんな気持ち…隠さなきゃいけないって、ずっと思ってた』
オパール「うぐうううう…!!」(3DSを握る手がプルプル震えてる)
レ〇ン(CV宮〇)『でも、伝えて良かったよ姉さん。僕を受け入れてくれて、ありがとう』
オパール「〜〜〜!!」(ベッドの上でゴロゴロ悶絶中)
レ〇ン(CV宮〇)『もし…君が遠くに行ったら、僕は何をするか分からない。君のいない世界なんて、僕にとっては何の意味もないから…』
レ〇ン(CV宮〇)『それだけ、覚えておいて(囁き)』
オパール「―――」
1分後…。
カイリ「オパール、ご飯出来たって…」(部屋のドアを開ける)
オパール「………(チーン)」(3DS持ちながら昇天)
カイリ「だ、誰か来てー!? オパールが息してないー!? 口から魂抜けてるーーーー!!?」(真っ青)
のちにこの時の事を彼女はこう語る。
(あれはヤバかった…イヤホンしてなかったら即死だった…! ああダメ、今思い出しても顔がにやける…エヘヘ…!)