第1話『プロローグと目覚め』
赤い薔薇に囲まれた街の中、その中でも風が吹けばバタンバタン音を立てそうなトタン屋根の上に金髪でサングラス、上半身にアロハシャツを羽織っている男は座っていた。
屋根は年季が入っており赤錆(あかさび)だらけだが男は気にすることなく屋根から見える海を見て笑っていた。
「『脈』が変わったようだぜよ〜」
※ ※ ※
海は空の色を反射し真っ青に染まり、小さな波が白い砂浜の上を往復している。
そんな波打ち際で1人の少女が体育座りをして丸くなっていた。
「はぁ〜……」
少女は溜息をつくと顔を膝の中へ埋(うず)めてしまう。
すると、波に乗って1人の男性が少女の前へと漂着した。
その男は夜空のように黒い髪から犬の耳を生やしていた。
砂浜に打ち上げられた青年はうつ伏せのまま起き上がることもなく、まるで死んでいるかのようだった。
「はぁ〜……」
少女は顔を上げながらもう一度大きな溜息をつくと、緑のツインテールを揺らしながら立ち上がった。
そして、近くにあった棒切れを海に投げた。
「お姉ちゃんのばっきゃろォオオオオオオ!!!!」
「おい、ヒトが倒れてんのに無視すんな」
緑のツインテールをした少女は涙をぬぐった後声がした方向を見ると倒れていた青年が相変わらずうつ伏せのまま顔だけこちらに向けていた。
「あ、生きてたの?死んでんのかと思った」
「どうやら生きてるらしい。つうか、確認もしねぇで死人扱いってのもどうなんだ……?」
「もしかしたら死んでるのかもよ?もっかい寝てみたら?」
「それは遠まわしに俺に死ねって言ってるのか?」
「いや〜……」
少女は後頭部をかきながら視線を逸らす。
「幽霊と話したことがある、なんて気味悪いじゃん?」
「だから俺は死んでねぇ!!」
青年は怒りに任せて腕の力で上体を起こそうとするがすぐに力が抜けてしまい砂浜に顔が埋まってしまう。
「大丈夫?」
少女が心配そうに見えなくもない顔で青年の顔の側に腰を下ろす。
「……悪いんだが、誰かお前の家族とか呼んできてくれねぇか?」
「嫌だ」
青年は再び顔を横に向けるが即答され目が点になる。
そして青年の脳裏に先程少女が海に向かって叫んでいた言葉が蘇る。
「お前まさか……姉さんと喧嘩中か?」
「は?何であんたのお姉さんとあたしが喧嘩すんの?」
「ちげぇよ!俺のじゃなくてお前の姉さんだよ!」
「うおっ!?何で分かったの!?あんた……いや、兄ちゃん能力者!?」
「ま、まぁ能力者ではあるかもな……」
青年は苦笑いをこぼしながら嫌な予感に襲われていた。
今のこの状況が少し前に聞いた友人のエピソードと酷似し過ぎている。
(これは早めに説得しないと飢え死にするパターンか……)
「それでそれで!?兄ちゃんはどんな能力を使えんの!?」
「その前に、だ」
瞳を星のように輝かせる少女に向かって青年は震える腕を伸ばす。
「飯を食べさせてくれ。そうしたらお前が姉さんと仲直りするのを手伝ってやるよ」
「……え?本当に?」
先程までの態度が嘘のようにしおらしくなった。
「兄妹喧嘩なら俺も何回もしたことがある。だから任せろ」
「ぜ、絶対!絶対だかんな!」
「あぁ!」
その返事は冗談抜きに命のかかった重みのある返事だった。
「じゃあ家まで案内するけど、兄ちゃん立てんの?」
「……肩を貸してくれると助かる」
こうして青年は少女に引き摺られるようにして浜辺から脱出する。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はジーク・フリィース」
「あたしはミリー!ミリー・カレンデュラ!」
ミリーは楽しそうに言うがジークは顔の近くで大ボリュームの声を聞かされたため片手で耳をおさえていた。
(にしてもこいつ……)
ジークは耳から手を離しながらミリーの顔のとある一点を見つめる。
(額広いな〜)
「何?あたしの顔に何か付いてる?」
「いや、何でもない」
ジークは咄嗟に視線を逸らすとミリーは何かを悟ったように笑みを浮かべる。
「ははぁん、さてはあたしに惚れたな?そうだよねぇ、命の恩人だもんねぇ。でも困るんだよね、あたしには先約が2人もいるからさ〜」
「まだ恩人じゃねぇだろ。それに、ガキがそんな話をするなんて10年早ぇよ」
「こっ、子供扱いすんな!先約がいるってのは本当なんだぞ!」
「はいはい」
ジークは溜息をついてもう一度ミリーの体格を見直す。
「お前今いくつ?」
「……12だけど」
ジークは更に大きな溜息をついた。
(ルルと1歳しか違わないのに、ここまで違うもんなのか……)
「今失礼なこと考えたでしょ?」
「考えてねぇよ」
と、その時だった。
ジークの鼻を花の香りが通り抜けていった。
(こんな所に花畑なんてあんのか?)
ジークは周囲を見渡そうと顔を上げてみると正面に薔薇がまるで壁のように並んで咲いていた。
「薔薇……」
「へへ〜すごいでしょ?あたし達の街はあの中にあるんだよ?」
ミリーは自慢そうに言うがジークはそれどころではなかった。
「薔薇の中に街……。もしかしてベルサスか!?」
「そだよ。なんだ知ってたのか〜、つまんないの」
唇を尖らせるミリーに対してジークは視線を落とした。
(ようやく来れた……。いや、今更か。こんな時に俺が来て何ができるんだろうな)
時間ができたら来てと言っていたヤコはもういない。
居る時に来れたとして何ができたかは不明だが。
(何でもっと早くこれなかったんだ!?)
ジークは歯痒さのあまり奥歯を噛み締める。
そんな間にもミリーは薔薇の壁を避け左へ、南へ向かい始める。
「ちょっと待て。街に入るんじゃねぇのか?何で入り口から遠ざかるんだ?」
さすがに考え事を中断せざるを得なかったジークだったがミリーは平然としていた。
「あぁ、あっちはフェイクだから。本当の入り口はこっち」
「フェイク?」
疑問が残ったがとりあえずミリーに引き摺られるがまま進んでいくと薔薇は四角形で街を囲んでおり、側面が見えてきた。
そこからミリーは指を折りながら進んでいく。
「……3、4、5……ここらへんだったかな?」
ミリーは恐る恐る薔薇に手を伸ばす。
近くで見ると薔薇に付随する棘が規格外の成長を成し遂げており、一つ一つの棘がカラーコーンのようなサイズで四方八方から隙間無く伸びていた。
少しでも触れれば流血必至であろうその壁にミリーは自ら手を突っ込もうとしていた。
「ちょっと待て。よく分かんねぇけど俺がやる」
ミリーが手を伸ばそうとしたということはこの薔薇の中に何かがあるということだ。
しかし未来の命の恩人をこんな所で傷つけるわけにはいいかない。
ジークは唾を飲み込み、手を一気に伸ばす。
「あっ」
ミリーの言葉と共に、ゴンという鈍い音がした。
ジークの手は血まみれになることはなく、しかし薔薇に触った感触さえなかった。
「そんなに急に伸ばしたら突き指するよって注意しようと思ったけど、大丈夫みたいだね」
そう言ってミリーは薔薇の『壁』をペタペタと触り始めた。
そう、ここだけが他の薔薇群と違い精巧な薔薇の絵が描かれた壁だった。
「ここもフェイクってわけか」
「そういうこと」
ミリーは何か取っ手のようなものを見つけるとそれをつまんで押した。
すると壁は扉のように開き奥にはこれまた薔薇でできた通路が広がっていた。
「また薔薇かよ……」
「こっからは迷路みたいになっててさぁ、迷ったら一生出られないんだって」
「そ、そうか、それはすげぇな」
ジークは苦笑いしながら遠のきそうになる意識を必至に繋ぎ止める。
ゴールだと思って全力疾走したところがまだ中間地点だった気分だった。
(今度漂流者を見つけたら早目に介抱してやろう)
新たな決意とルーベルトへ心の中で謝罪するジークであった。
「で?姉さんとの喧嘩の原因は何なんだ?」
意識を繋ぎ止めておくためにもと思い話を振ってみたがミリーは頬を膨らませた。
そこでジークは切り口を変えてみる。
「姉さんが何か悪いことしたのか?」
「……約束破った」
小さな声ではあったが、ミリーは唇を尖らせながら話し始めた。
「1週間で帰ってくるって言ってたのに……待ってたのに……5日も帰って来なかった……お姉ちゃんはあたしよりも仕事のほうが大事なんだ……」
「仕事の方が大事なんてことはねぇよ」
「え?」
「ミリーの姉さんがどんなヒトなのかは分からねぇけど、その姉さんも離れてる間寂しかったり不安だったりしたんじゃねぇかな」
「そんなのあたしに分かる訳ないじゃん……」
「家族ってそういうもんなんだよきっと。離れれば離れるほど気になっちまう」
「そうなの?」
「あぁ……」
ジークは空を見上げる。
そろそろ空腹が限界を突破しそうだった。
だがそんな時、ようやく薔薇の迷路を抜け街の入り口へと辿り着いた。
「ここがベルサスか……」
ジークの目の前には大きな石畳のメインストリートが広がっており、その左右に並ぶ家屋はサニィタウンやミナールと同じようにコンクリートでできていた。
そのままメインストリートを進むと路地へと分かれる道があったがそれを無視して直進し、ミール広場と呼ばれる広場に出た。
(こんなにでかい広場なのに誰もいない……)
ここまで来る道中においても人っ子一人出会わなかった。
そのことに不審感を抱いているとミリーは広場を左へと曲がった。
正面には大きな屋敷が見える。
大層な金持ちが住んでいるのだろう。
しかし今はそんなことはどうでもよくミリーが進む先には橋があった。
そしてその先には砂埃にまみれたヒビだらけの家屋が見える。
「おい、本当にこの先なのか?」
「うん、ヒューマはこっちなんだ。今通って来た街はガジュマ専用。1年前までは逆だったんだけどね」
「そう……なのか……」
何があったのかまでは聞くことができなかった。
それをミリーに訊くのは酷な気がしたから。
橋を渡り終わると石畳は無く、アニカマルのよう剥き出しの大地が広がっていた。
その上に家屋が建っており、造りはコンクリートだがヒビだらけだった。
更に屋根はトタンで補強されている所がほとんどで赤錆が付いていない家を探すほうが難しかった。
そう、まさにスラム街だった。
そんなベルサススラムを進んでいくと煙突のある一軒の家の前に辿り着く。
ジークはミリーの顔を見ると表情が強張っていた。
どうやらここがミリーの家らしい。
ジークは最後の力を振り絞って扉を勝手に開ける。
「ぁあっ!!何で!?」
「入らなきゃ何も始まらねぇだろ」
「あたしの寿命終わった〜……」
ミリーは肩を落としながら家に入る。
一緒にツインテールがしおれて見えたのは幻覚だろう。
「た、ただいま〜」
ミリーは恐る恐る足を踏み入れる。
すると、
「ミリィイイイイイ!!!!」
女性の怒号と共に拳が飛来する。
「ひぃ!!」
それをミリーは咄嗟にジークでガードでする。
「おい待ぶふぇ!!」
飛来した拳がジークの顔面にめりこむと、ジークは竹とんぼのように回転しながら吹き飛んだ。
「ミリー!今までどこ行ってやがった!?まさか街の外に出たんじゃないだろうな!?」
怒鳴る姉に対してミリーは拳を握り締めキッと睨み付ける。
「何だよぉ!!街から出るくらい良いじゃんか!!」
「街の外はいろいろと危険だっていつも言ってるだろうが!それに薔薇トラップに引っかかって戻って来れなくなったらどうすんだ!?」
「戻ってこれたもん!!お姉ちゃんと違ってちゃんと戻ってきたもん!!このおっぱいお化け!!」
「お前まだそんなこと言って……ていうか胸は関係ないだろ!!」
姉は恥ずかしがるように胸を両腕で隠すように抱きしめる。
すると、部屋の隅でピクピクしている黒い物体が視界に入る。
「そういやミリー、さっきお前が身代わりに使ったコレ何?」
ミリーの姉はジークの後ろ襟を摘み上げるとジークは完全に伸びていた。
「さっき海で拾った〜」
「ふぅ〜ん……ってこいつ!!」
ミリーの姉はジークの顔を見るなり血の気が一瞬で引いた。
「ミリー!急いで水持ってこい!そのあと釜の準備だ!」
「わ、分かった!」
ミリーは急いで水を持ってくると姉はジークの顔にその水をかける。
するとジークは何とか意識を取り戻した。
「あれ……お前……」
まだ朦朧とする意識の中、顔の前で両手を合わせる緑髪で巨乳のミリーの姉を見る。
それは間違いなくレムナントを造ってくれた緑のモブ子だった。
〜続く〜
【※ミリーがキャラクター名鑑・肆ノ巻に登録されました】
屋根は年季が入っており赤錆(あかさび)だらけだが男は気にすることなく屋根から見える海を見て笑っていた。
「『脈』が変わったようだぜよ〜」
※ ※ ※
海は空の色を反射し真っ青に染まり、小さな波が白い砂浜の上を往復している。
そんな波打ち際で1人の少女が体育座りをして丸くなっていた。
「はぁ〜……」
少女は溜息をつくと顔を膝の中へ埋(うず)めてしまう。
すると、波に乗って1人の男性が少女の前へと漂着した。
その男は夜空のように黒い髪から犬の耳を生やしていた。
砂浜に打ち上げられた青年はうつ伏せのまま起き上がることもなく、まるで死んでいるかのようだった。
「はぁ〜……」
少女は顔を上げながらもう一度大きな溜息をつくと、緑のツインテールを揺らしながら立ち上がった。
そして、近くにあった棒切れを海に投げた。
「お姉ちゃんのばっきゃろォオオオオオオ!!!!」
「おい、ヒトが倒れてんのに無視すんな」
緑のツインテールをした少女は涙をぬぐった後声がした方向を見ると倒れていた青年が相変わらずうつ伏せのまま顔だけこちらに向けていた。
「あ、生きてたの?死んでんのかと思った」
「どうやら生きてるらしい。つうか、確認もしねぇで死人扱いってのもどうなんだ……?」
「もしかしたら死んでるのかもよ?もっかい寝てみたら?」
「それは遠まわしに俺に死ねって言ってるのか?」
「いや〜……」
少女は後頭部をかきながら視線を逸らす。
「幽霊と話したことがある、なんて気味悪いじゃん?」
「だから俺は死んでねぇ!!」
青年は怒りに任せて腕の力で上体を起こそうとするがすぐに力が抜けてしまい砂浜に顔が埋まってしまう。
「大丈夫?」
少女が心配そうに見えなくもない顔で青年の顔の側に腰を下ろす。
「……悪いんだが、誰かお前の家族とか呼んできてくれねぇか?」
「嫌だ」
青年は再び顔を横に向けるが即答され目が点になる。
そして青年の脳裏に先程少女が海に向かって叫んでいた言葉が蘇る。
「お前まさか……姉さんと喧嘩中か?」
「は?何であんたのお姉さんとあたしが喧嘩すんの?」
「ちげぇよ!俺のじゃなくてお前の姉さんだよ!」
「うおっ!?何で分かったの!?あんた……いや、兄ちゃん能力者!?」
「ま、まぁ能力者ではあるかもな……」
青年は苦笑いをこぼしながら嫌な予感に襲われていた。
今のこの状況が少し前に聞いた友人のエピソードと酷似し過ぎている。
(これは早めに説得しないと飢え死にするパターンか……)
「それでそれで!?兄ちゃんはどんな能力を使えんの!?」
「その前に、だ」
瞳を星のように輝かせる少女に向かって青年は震える腕を伸ばす。
「飯を食べさせてくれ。そうしたらお前が姉さんと仲直りするのを手伝ってやるよ」
「……え?本当に?」
先程までの態度が嘘のようにしおらしくなった。
「兄妹喧嘩なら俺も何回もしたことがある。だから任せろ」
「ぜ、絶対!絶対だかんな!」
「あぁ!」
その返事は冗談抜きに命のかかった重みのある返事だった。
「じゃあ家まで案内するけど、兄ちゃん立てんの?」
「……肩を貸してくれると助かる」
こうして青年は少女に引き摺られるようにして浜辺から脱出する。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はジーク・フリィース」
「あたしはミリー!ミリー・カレンデュラ!」
ミリーは楽しそうに言うがジークは顔の近くで大ボリュームの声を聞かされたため片手で耳をおさえていた。
(にしてもこいつ……)
ジークは耳から手を離しながらミリーの顔のとある一点を見つめる。
(額広いな〜)
「何?あたしの顔に何か付いてる?」
「いや、何でもない」
ジークは咄嗟に視線を逸らすとミリーは何かを悟ったように笑みを浮かべる。
「ははぁん、さてはあたしに惚れたな?そうだよねぇ、命の恩人だもんねぇ。でも困るんだよね、あたしには先約が2人もいるからさ〜」
「まだ恩人じゃねぇだろ。それに、ガキがそんな話をするなんて10年早ぇよ」
「こっ、子供扱いすんな!先約がいるってのは本当なんだぞ!」
「はいはい」
ジークは溜息をついてもう一度ミリーの体格を見直す。
「お前今いくつ?」
「……12だけど」
ジークは更に大きな溜息をついた。
(ルルと1歳しか違わないのに、ここまで違うもんなのか……)
「今失礼なこと考えたでしょ?」
「考えてねぇよ」
と、その時だった。
ジークの鼻を花の香りが通り抜けていった。
(こんな所に花畑なんてあんのか?)
ジークは周囲を見渡そうと顔を上げてみると正面に薔薇がまるで壁のように並んで咲いていた。
「薔薇……」
「へへ〜すごいでしょ?あたし達の街はあの中にあるんだよ?」
ミリーは自慢そうに言うがジークはそれどころではなかった。
「薔薇の中に街……。もしかしてベルサスか!?」
「そだよ。なんだ知ってたのか〜、つまんないの」
唇を尖らせるミリーに対してジークは視線を落とした。
(ようやく来れた……。いや、今更か。こんな時に俺が来て何ができるんだろうな)
時間ができたら来てと言っていたヤコはもういない。
居る時に来れたとして何ができたかは不明だが。
(何でもっと早くこれなかったんだ!?)
ジークは歯痒さのあまり奥歯を噛み締める。
そんな間にもミリーは薔薇の壁を避け左へ、南へ向かい始める。
「ちょっと待て。街に入るんじゃねぇのか?何で入り口から遠ざかるんだ?」
さすがに考え事を中断せざるを得なかったジークだったがミリーは平然としていた。
「あぁ、あっちはフェイクだから。本当の入り口はこっち」
「フェイク?」
疑問が残ったがとりあえずミリーに引き摺られるがまま進んでいくと薔薇は四角形で街を囲んでおり、側面が見えてきた。
そこからミリーは指を折りながら進んでいく。
「……3、4、5……ここらへんだったかな?」
ミリーは恐る恐る薔薇に手を伸ばす。
近くで見ると薔薇に付随する棘が規格外の成長を成し遂げており、一つ一つの棘がカラーコーンのようなサイズで四方八方から隙間無く伸びていた。
少しでも触れれば流血必至であろうその壁にミリーは自ら手を突っ込もうとしていた。
「ちょっと待て。よく分かんねぇけど俺がやる」
ミリーが手を伸ばそうとしたということはこの薔薇の中に何かがあるということだ。
しかし未来の命の恩人をこんな所で傷つけるわけにはいいかない。
ジークは唾を飲み込み、手を一気に伸ばす。
「あっ」
ミリーの言葉と共に、ゴンという鈍い音がした。
ジークの手は血まみれになることはなく、しかし薔薇に触った感触さえなかった。
「そんなに急に伸ばしたら突き指するよって注意しようと思ったけど、大丈夫みたいだね」
そう言ってミリーは薔薇の『壁』をペタペタと触り始めた。
そう、ここだけが他の薔薇群と違い精巧な薔薇の絵が描かれた壁だった。
「ここもフェイクってわけか」
「そういうこと」
ミリーは何か取っ手のようなものを見つけるとそれをつまんで押した。
すると壁は扉のように開き奥にはこれまた薔薇でできた通路が広がっていた。
「また薔薇かよ……」
「こっからは迷路みたいになっててさぁ、迷ったら一生出られないんだって」
「そ、そうか、それはすげぇな」
ジークは苦笑いしながら遠のきそうになる意識を必至に繋ぎ止める。
ゴールだと思って全力疾走したところがまだ中間地点だった気分だった。
(今度漂流者を見つけたら早目に介抱してやろう)
新たな決意とルーベルトへ心の中で謝罪するジークであった。
「で?姉さんとの喧嘩の原因は何なんだ?」
意識を繋ぎ止めておくためにもと思い話を振ってみたがミリーは頬を膨らませた。
そこでジークは切り口を変えてみる。
「姉さんが何か悪いことしたのか?」
「……約束破った」
小さな声ではあったが、ミリーは唇を尖らせながら話し始めた。
「1週間で帰ってくるって言ってたのに……待ってたのに……5日も帰って来なかった……お姉ちゃんはあたしよりも仕事のほうが大事なんだ……」
「仕事の方が大事なんてことはねぇよ」
「え?」
「ミリーの姉さんがどんなヒトなのかは分からねぇけど、その姉さんも離れてる間寂しかったり不安だったりしたんじゃねぇかな」
「そんなのあたしに分かる訳ないじゃん……」
「家族ってそういうもんなんだよきっと。離れれば離れるほど気になっちまう」
「そうなの?」
「あぁ……」
ジークは空を見上げる。
そろそろ空腹が限界を突破しそうだった。
だがそんな時、ようやく薔薇の迷路を抜け街の入り口へと辿り着いた。
「ここがベルサスか……」
ジークの目の前には大きな石畳のメインストリートが広がっており、その左右に並ぶ家屋はサニィタウンやミナールと同じようにコンクリートでできていた。
そのままメインストリートを進むと路地へと分かれる道があったがそれを無視して直進し、ミール広場と呼ばれる広場に出た。
(こんなにでかい広場なのに誰もいない……)
ここまで来る道中においても人っ子一人出会わなかった。
そのことに不審感を抱いているとミリーは広場を左へと曲がった。
正面には大きな屋敷が見える。
大層な金持ちが住んでいるのだろう。
しかし今はそんなことはどうでもよくミリーが進む先には橋があった。
そしてその先には砂埃にまみれたヒビだらけの家屋が見える。
「おい、本当にこの先なのか?」
「うん、ヒューマはこっちなんだ。今通って来た街はガジュマ専用。1年前までは逆だったんだけどね」
「そう……なのか……」
何があったのかまでは聞くことができなかった。
それをミリーに訊くのは酷な気がしたから。
橋を渡り終わると石畳は無く、アニカマルのよう剥き出しの大地が広がっていた。
その上に家屋が建っており、造りはコンクリートだがヒビだらけだった。
更に屋根はトタンで補強されている所がほとんどで赤錆が付いていない家を探すほうが難しかった。
そう、まさにスラム街だった。
そんなベルサススラムを進んでいくと煙突のある一軒の家の前に辿り着く。
ジークはミリーの顔を見ると表情が強張っていた。
どうやらここがミリーの家らしい。
ジークは最後の力を振り絞って扉を勝手に開ける。
「ぁあっ!!何で!?」
「入らなきゃ何も始まらねぇだろ」
「あたしの寿命終わった〜……」
ミリーは肩を落としながら家に入る。
一緒にツインテールがしおれて見えたのは幻覚だろう。
「た、ただいま〜」
ミリーは恐る恐る足を踏み入れる。
すると、
「ミリィイイイイイ!!!!」
女性の怒号と共に拳が飛来する。
「ひぃ!!」
それをミリーは咄嗟にジークでガードでする。
「おい待ぶふぇ!!」
飛来した拳がジークの顔面にめりこむと、ジークは竹とんぼのように回転しながら吹き飛んだ。
「ミリー!今までどこ行ってやがった!?まさか街の外に出たんじゃないだろうな!?」
怒鳴る姉に対してミリーは拳を握り締めキッと睨み付ける。
「何だよぉ!!街から出るくらい良いじゃんか!!」
「街の外はいろいろと危険だっていつも言ってるだろうが!それに薔薇トラップに引っかかって戻って来れなくなったらどうすんだ!?」
「戻ってこれたもん!!お姉ちゃんと違ってちゃんと戻ってきたもん!!このおっぱいお化け!!」
「お前まだそんなこと言って……ていうか胸は関係ないだろ!!」
姉は恥ずかしがるように胸を両腕で隠すように抱きしめる。
すると、部屋の隅でピクピクしている黒い物体が視界に入る。
「そういやミリー、さっきお前が身代わりに使ったコレ何?」
ミリーの姉はジークの後ろ襟を摘み上げるとジークは完全に伸びていた。
「さっき海で拾った〜」
「ふぅ〜ん……ってこいつ!!」
ミリーの姉はジークの顔を見るなり血の気が一瞬で引いた。
「ミリー!急いで水持ってこい!そのあと釜の準備だ!」
「わ、分かった!」
ミリーは急いで水を持ってくると姉はジークの顔にその水をかける。
するとジークは何とか意識を取り戻した。
「あれ……お前……」
まだ朦朧とする意識の中、顔の前で両手を合わせる緑髪で巨乳のミリーの姉を見る。
それは間違いなくレムナントを造ってくれた緑のモブ子だった。
〜続く〜
【※ミリーがキャラクター名鑑・肆ノ巻に登録されました】
■作者メッセージ
【楽談パート11】
takeshi「ども〜!またもや一時帰宅のtakeshiです。た、多分移植前最後の外泊になるはず!」
チャリティ「そんなことより普通に生きてたわねジーク」
ヤコ「あっさり出てきたね」
マティアス「というか、何で私がいまだにここにいるのかしら?外伝は?」
takeshi「今回は時間がないので無しの方向で……」
チャリティ「じゃあいつやるの?」
ヤコ「今でしょ」
takeshi「それもう古いですからね?外伝は私が退院したらゆっくりやらせてください」
マティアス「入院を理由にするなんて卑怯よ!でもまぁ、ここも案外悪くないし、もう少しだけ居てあげるわ」
チャリティ「随分上から目線ね」
ヤコ「そういうキャラ設定だから仕方ないよ」
マティアス「そこ!設定とか言わないでくれるかしら?まるで私がキャラ作りしてるみたいじゃない」
takeshi「さて!今回外伝がない言い訳も済んだところで本編の話しに戻りますが……始まりましたね!!」
ヤコ「始まったね!」
takeshi「ここからしばらくジークはベルサスに居るのでいうなればベルサス編突入なのですが、ここずっとやりたかったんです!!もう第2部なんてここを書くために我慢して書いてたと言っても過言ではありません!!」
チャリティ「それは過言でしょ」
マティアス「過言ね」
takeshi「キャラクターもベルサスで一気に増えます!本当は今回サングラスにアロハというバカンス野郎の登場まで書きたかったのですが、ベルサスはじっくりやりたいと思っていたら予想以上に文字数を使ってしまいました。なので今回はミリーだけ覚えてください。おでこのミリーです」
チャリティ「ていうかまた緑のモブ子ちゃん出てきたじゃない」
マティアス「最早モブ子ではなくレギュラ子ね」
takeshi「多分次か次の次の話でちゃんとした名前出せると思います。それまで彼女はモブ子でいさせてください」
チャリティ「ぶっちゃけモブ子でもレギュラ子でもどっちでも良いんだけど、ヤコは何でさっきから口閉じてるの?」
ヤコ「私が喋るとネタバレになっちゃうから……」
マティアス「貴方この先の展開を知ってるの?」
ヤコ「モブ子ちゃんの名前とかアロハバカンスの名前とか……」
マティアス「あぁ……そっち……」
ヤコ「ちなみにこの先の展開は私とジークが結ばれてハッピーエンドになるんだよね?」
takeshi「ちなみにですね?本編の『※』マーク以降6、7行くらいは過去編でルーベルトが流れてきた時と描写を似せてあるというかほぼ同一ですので暇な方は読み比べてみてくださいね!」
マティアス「話数で言うと9話ね」
チャリティ「懐かしいわね〜」
ヤコ「あれ?何でみんな無視するの?」
チャリティ「だってその展開はさすがにありえないし」
ヤコ「だったらチャリティとジークが結ばれる展開ならありえるの?」
チャリティ「それは断じてありえない!!」
マティアス「もしそうなったら教育上問題有りね……」
takeshi「絶対にその展開だけはしないのでそんな冷めた目で見ないでください……。そうそう、それとここからは雑談なのですがイノセンスRを多分半分くらいやったんですよ」
マティアス「何故多分なのかしら?」
チャリティ「DS版に比べてキャラ増えてるしシナリオも変更されてるからじゃない?」
takeshi「で、敵っぽいキャラにマティウスっていう女性キャラが出てくるんですよ」
マティアス「……ほう?」
ヤコ「キャラ被りスレスレだね」
takeshi「すっごい個人的な意見なんですけど、強そうだからあまり戦いたくないです……」
マティアス「大丈夫よ、私のパチモンならそんなに強くないわ。さっさと倒してしまいなさい」
チャリティ「同じ名前だったら絶対怒ってたわよね……」
ヤコ「激オコ確定だったと思う……」
takeshi「でも魔神剣はあるしワールドマップを歩けるし、テイルズをプレイしてる感はあります」
チャリティ「ヴェイスペリアが最後のテイルズだったかもしれないわね」
ヤコ「魔神剣無いけどね」
マティアス「あら、魔神犬ならあるじゃない」
takeshi「さてさて、外伝も無いくせに無駄に喋るのもアレなので今回はこの辺で。ではまた〜」
takeshi「ども〜!またもや一時帰宅のtakeshiです。た、多分移植前最後の外泊になるはず!」
チャリティ「そんなことより普通に生きてたわねジーク」
ヤコ「あっさり出てきたね」
マティアス「というか、何で私がいまだにここにいるのかしら?外伝は?」
takeshi「今回は時間がないので無しの方向で……」
チャリティ「じゃあいつやるの?」
ヤコ「今でしょ」
takeshi「それもう古いですからね?外伝は私が退院したらゆっくりやらせてください」
マティアス「入院を理由にするなんて卑怯よ!でもまぁ、ここも案外悪くないし、もう少しだけ居てあげるわ」
チャリティ「随分上から目線ね」
ヤコ「そういうキャラ設定だから仕方ないよ」
マティアス「そこ!設定とか言わないでくれるかしら?まるで私がキャラ作りしてるみたいじゃない」
takeshi「さて!今回外伝がない言い訳も済んだところで本編の話しに戻りますが……始まりましたね!!」
ヤコ「始まったね!」
takeshi「ここからしばらくジークはベルサスに居るのでいうなればベルサス編突入なのですが、ここずっとやりたかったんです!!もう第2部なんてここを書くために我慢して書いてたと言っても過言ではありません!!」
チャリティ「それは過言でしょ」
マティアス「過言ね」
takeshi「キャラクターもベルサスで一気に増えます!本当は今回サングラスにアロハというバカンス野郎の登場まで書きたかったのですが、ベルサスはじっくりやりたいと思っていたら予想以上に文字数を使ってしまいました。なので今回はミリーだけ覚えてください。おでこのミリーです」
チャリティ「ていうかまた緑のモブ子ちゃん出てきたじゃない」
マティアス「最早モブ子ではなくレギュラ子ね」
takeshi「多分次か次の次の話でちゃんとした名前出せると思います。それまで彼女はモブ子でいさせてください」
チャリティ「ぶっちゃけモブ子でもレギュラ子でもどっちでも良いんだけど、ヤコは何でさっきから口閉じてるの?」
ヤコ「私が喋るとネタバレになっちゃうから……」
マティアス「貴方この先の展開を知ってるの?」
ヤコ「モブ子ちゃんの名前とかアロハバカンスの名前とか……」
マティアス「あぁ……そっち……」
ヤコ「ちなみにこの先の展開は私とジークが結ばれてハッピーエンドになるんだよね?」
takeshi「ちなみにですね?本編の『※』マーク以降6、7行くらいは過去編でルーベルトが流れてきた時と描写を似せてあるというかほぼ同一ですので暇な方は読み比べてみてくださいね!」
マティアス「話数で言うと9話ね」
チャリティ「懐かしいわね〜」
ヤコ「あれ?何でみんな無視するの?」
チャリティ「だってその展開はさすがにありえないし」
ヤコ「だったらチャリティとジークが結ばれる展開ならありえるの?」
チャリティ「それは断じてありえない!!」
マティアス「もしそうなったら教育上問題有りね……」
takeshi「絶対にその展開だけはしないのでそんな冷めた目で見ないでください……。そうそう、それとここからは雑談なのですがイノセンスRを多分半分くらいやったんですよ」
マティアス「何故多分なのかしら?」
チャリティ「DS版に比べてキャラ増えてるしシナリオも変更されてるからじゃない?」
takeshi「で、敵っぽいキャラにマティウスっていう女性キャラが出てくるんですよ」
マティアス「……ほう?」
ヤコ「キャラ被りスレスレだね」
takeshi「すっごい個人的な意見なんですけど、強そうだからあまり戦いたくないです……」
マティアス「大丈夫よ、私のパチモンならそんなに強くないわ。さっさと倒してしまいなさい」
チャリティ「同じ名前だったら絶対怒ってたわよね……」
ヤコ「激オコ確定だったと思う……」
takeshi「でも魔神剣はあるしワールドマップを歩けるし、テイルズをプレイしてる感はあります」
チャリティ「ヴェイスペリアが最後のテイルズだったかもしれないわね」
ヤコ「魔神剣無いけどね」
マティアス「あら、魔神犬ならあるじゃない」
takeshi「さてさて、外伝も無いくせに無駄に喋るのもアレなので今回はこの辺で。ではまた〜」