マスター承認記念パーティー・3
楽しいパーティー会場が、水を打ったように静まり返る。
凍りつく彼ら脳裏に浮かぶのは、怪しい笑みで得体のしれない物体を差し出すウィドの姿が。
「ウ、ウィドが料理を作るぅ!!?」
「何で止めなかったんだニセモノォ!!?」
我に返ったのか、ソラとリクは顔を真っ青にしてルキルに詰め寄る。
本編では作る工程から変な材料を使っており、誕生日企画でもマスター・ゼアノートを昇天させ、あとがきでも散々な目にあっているのだ。それが、今ここで登場すれば誰だって焦る。
汗を滝のように掻く二人に掴まれながら、ルキルは視線を逸らして口を開いた。
「一応…数日前に、アクアと一緒に料理を教えていたんだが…」
「何故か、教えても変な物しか出来上がらなくて…」
同じく料理を教えていたアクアも、諦めの目で全員から顔を逸らしている。
「キュー…!!」「ピギー…!!」
この二人の説明に、料理の被害者であるドリームイーター二匹も震え上がる始末だ。
「マズイ…折角のリクの承認パーティーなのに…!!!」
「このままじゃ葬式パーティーになりかねない…!!!」
ある意味『3D』何かとは比べ物にならない危機に、ソラとオパールが顔を見合わせて呟く。
彼が作るのは『料理』と言う名の“殺戮兵器”だ。そんなのが出てきたら最後、闇に落ちるよりも恐ろしい惨状になってしまう。
「ほおぉ…? お前達は私の料理を何だと思っているぅぅぅ…?」
「「ひやぁああああああああああっ!!?」」
突然真横から怒りの篭った低い声が聞こえ、ソラとオパールが飛び退る。
全員が注目すると、そこには最後の一人であるウィドが何時も違う服装で不機嫌そうに腕を組んで立っていた。
「って、先生!? その服と眼鏡はどうしたんだ!?」
よく見れば今のウィドの格好は、肘の部分に緑のボタン止めが付いた白いワイシャツに上から緑のネクタイと赤いブレザーを着ている。更に、普段は着ない青いジーンズの長ズボンと肩止め用の青いマントを着用している。その上で伊達眼鏡もかけているので、まさに学園教師風の衣装だ。
尚、この衣装について知りたいのであれば、夢旅人さんのピクシブの作品を―――
「さりげに他人の宣伝してんじゃねぇ!!!」
ぎゃあああああああああっ!!?
勝手に宣伝を始める地の文にクウが飛び蹴りをかます中、ルキルの問いかけにウィドが怒りを解いて説明していた。
「折角、生徒の一人が試験合格したんですよ? なので、私もそれ相当の服装をと思いまして……それよりも、遅くなってしまい申し訳ありませんね。少々準備に手間取ってしまって」
そう言って皆に笑顔を見せるが、その場にいる全員が笑みの代わりに冷や汗を掻いて震えて出した。
「そ…その、準備って…!!?」
「あの、地獄の料理「『空衝煉獄斬』」ぎゃあああああああっ!!?」
リクに続く様にヴェンが言った直後、7章で習得した技で制裁されてしまう。
ズタボロになって倒れるヴェンにテラ達まで黙祷を送っていると、ウィドが剣を収めながら鼻を鳴らした。
「地獄とは失礼な…とにかく、さっさと入ってきてください」
そう言いながらパーティー会場のドアに目を向ける。
思わず全員も視線を向けると、ドアが開いた。
「失礼するぞ」
「久しぶりだな」
『『『えええぇぇーーーーーーーーーーっ!!!??』』』
そう言って入ってきた人物に、ウィドを除いた全員が悲鳴が入り混じった叫び声を上げる。
理由は至極簡単。会場に入ってきたのは若き頃のゼアノートとアンセムと名乗ったゼアノートの二人なのだから。(ちなみに、今回は区別を付ける為に少年の方をゼアノート。ハートレスの方をアンセムと表記させて貰います)
「ウィド、何でこんな奴らを!?」
ソラが最もな疑問をぶつけると、ウィドが眼鏡を光らせるように笑い出した。
「おやおや? ゲーム本編でも言ってじゃないですか、リクの親友だと」
「俺の親友はソラだけだっ!!! こんな肌黒で髪の毛が後退し始めている奴が親友なんて認めないぞっ!!!」
「そうよ!! 将来禿ジジイ決定の未来を持ってる奴とリクを一緒にしないでっ!!!」
「「うぐぉ…!?」」
リクとオパールの怒りの言葉に、ゼアノートとアンセムの心に棘が突き刺さった。
「二人とも…結構、エグい事言うのね…」
あまりの酷さに、さすがのアクアもゼアノート達に同情してしまう程だ。
そんな中、二人に文句を言われたウィドは怯む事なく笑っていた。
「いやー、すみませんね。でも、これはこれで面白い展開になりそうですねー」
「おい…お前、ワザとこいつら呼んだだろ?」
「何の事です?」
半目で言うクウに、ウィドは笑ってそう言いのけた。
「――で、結局料理は出てくるのか…」
リクは神妙な面付きで、テーブルに乗せられたウィドが作ったラーメンを見た。
「見る限りは安全そうだけど……どうして、ラーメンなの?」
一見すると何の変哲もないラーメンをオパールも凝視しつつ、疑問をぶつける。
すると、ウィドは待ってましたと言わんばかりに得意げに腕を組んで胸を張った。
「当たり前です。この日の為にラーメン屋で修行してきたんですから」
「ラーメン屋?」
ウィドの言葉にテラが反応して首を傾げる。
他の人達も顔を向けると、ウィドは笑いながら説明した。
「ええ。皆があまりにも料理が下手だとうるさいから、『シブヤ』と言う世界に行ってそこのラーメン屋で数日間弟子入りしてきたんです。結構大変だったんですから…」
「ネク達の世界に行ったのか!? なあ、どんな所だったんだ!?」
「ソラ、注目する所が全然違うから」
目を輝かせながら聞くソラに、カイリが冷静にツッコミを入れる。
そんな中、他の人達は黙ってラーメンを見ていた。
「まあ…努力したのは百歩譲って認めてもいい。だが…」
「それでも、問題は味だな…」
クウとテラがそう言うと、全員がゴクリと唾を鳴らす。
見た目は何処にでもあるラーメンそのものだ。ちゃんとネギ・木耳・ナルト・煮卵・チャーシューの素材の下には麺があり、スープも醤油をベースにしているのか透明な茶色だ。
匂いも食欲をそそらせる香りが湯気と共に立っている。今までで一番まともだが…――これまでの事を思い返せば、箸を取って食べようと言う人は誰もいない。
「――仕方ない、俺が食べてみる…」
と、ここで何とルキルが毒見に名乗り出てゆっくりと箸を握り出す。
本当に食べる気のルキルに、全員が驚いた。
「ルキルさん!?」
「いいのか、ルキル!?」
レイアとヴェンが叫んでいると、ルキルは何処か暗い表情で振り向いた。
「先生とは一緒に住んでるから、ある程度は耐性を持ってる。それに、ホンモノに関してはムカついているが……さすがに、こんなパーティーで死者を出すと後味が悪いからな…」
「失礼な。いいから、食べてみてください」
ルキルの言葉に、ウィドが不機嫌そうに料理を進める。
仕方なくルキルは椅子に座ると、恐る恐るラーメンと向かい合った。
「じゃ、じゃあ…いただきます…!!」
声を震わせながら、箸を動かしてスープに浸っている麺を掴んで持ち上げる。
まるで覚悟を決めたように目を瞑り、香りに誘われる様にゆっくりと麺を口の中に入れて啜った。
「―――ッ…!!?」
直後、ルキルは大きく目を見開く。
そして、そのまま固まって動かなくなってしまった。
「…ど、どうだ?」
「おいしい…?」
「キ、キュー?」
「ピギー…?」
うんともすんとも言わなくなったルキルに、思わずリクとソラが声をかける。
ドリームイーターも心配そうに鳴き声を上げていると、ゼアノートが訝しげに箸を握った。
「黙ったまま動かないとは…一体どんな味なんだ?」
そうして、固まったルキルの前からラーメンを取り上げる。
それでも動かないルキルを無視し、ゼアノートは麺を啜った。
すると、先程のルキルと同じように大きく目を見開いてラーメンを凝視した。
「こ、これは…!?」
「ど、どうした? 若き頃の私よ?」
「この麺のシャキシャキともグニグニと言った何とも表現しがたいコシが舌に絡みついたまま締め付ける様に離さず、魚・鳥・茸・麺類の組み合わせに改良された金属のような出汁が滲み出たスープが喉を激しく刺激しつつ胃の中でグルグルと踊りのた打ち回って細胞を痛めつけられゴアアアアアアアッ!!!??」
「若き頃の私よぉーーーーーーっ!!!??」
長ったらしい感想を述べていた途中で、ゼアノートは胸を押さえながら悲鳴を上げてそのまま倒れてしまう。
これを見てアンセムが駆け寄って揺さぶるが、ゼアノートは白目になって泡を吹いて痙攣している。
『3D』では絶対にお目にかかれない哀れなラスボスの姿に、全員黙り込んでしまった。
「オ、オイ…どうすんだ、コレ…?」
どうにかクウが声を絞り出すと、オパールが何処か冷めた目で呆れの溜息を吐いた。
「もういいんじゃない? 《これにて、世界は平和になりました》って事で」
「「「「「駄目に決まってるだろ(でしょ)ぉ!!!??」」」」」
この提案にソラやリク、更にはテラ、ヴェン、アクアがツッコミを入れる。
こんな事で終わってしまっては、今までの自分達の苦労は何だったのか考えてしまうから当たり前だろう。
そんな中、元凶であるウィドは暗い表情で自分の作ったラーメンを見ていた。
「はぁ…私には料理の才能なんて無いんですかね…? 今回の為に、あれだけ土井ケンの元で修行したと言うのに…」
「そ、そんな事ない!! 先生が今まで作った料理の中で、一番食べれた物だったぞ!?」
「そうですよ、ウィドさん!? 諦めずに頑張れば、何時かは努力が実りますから!!」
「今度は私もアクアと一緒に教えるから!! だから、また頑張ろうよ!! ねっ!?」
失敗作である料理を見て落ち込むウィドに、ルキル、レイア、カイリが必死になって励ましの言葉を送る。
そんな三人の言葉を聞き、暗かったウィドの瞳が光を取り戻した。
「そう、ですよね…! すみません。まさか、あなた達に励まされるとは…」
ウィドが嬉しそうに笑顔を浮かべると、ソラも頷いてクウを見た。
「よーし!! 折角だし、残りのラーメンはクウが食べろよ!!」
「はぁ!? 何で俺が!?」
「いいじゃないか。何だかんだで、お前とウィドには因縁があるだろ?」
思わずクウが叫んでいると、リクまで食べるように促す。
理由は最もだし、この空気では断りにくい。だが、ラスボスを務めたゼアノートであれだ。食べてしまえば、無事で済む訳がない。
「そ、そうだ!? どうせなら、同じゼアノート同士で食べた方が――っ!!!」
どうにか自分なりの打開策を生みだし、アンセムに目を向けると。
「さらばだっ!!!」
大きな影にゼアノートを抱えて、一目散にドアに向かってダッシュしていた。
「あの野郎、逃げる気かぁ!!?」
逃げるアンセムにクウが怒鳴っていると、オパールの目が光りポーチから一つの石を取り出した。
「そうはさせないわ…――第8章から登場する新強化技、いち早くここで使わせて貰うわよ!! リクっ!!」
「ああっ!!」
オパールの掛け声に、リクもキーブレードを取り出す。
そうしてアンセムの元に駆け込むと同時に、オパールがリクに向かって投げる。
直後、リクの身体が光って何と背中に悪魔の翼を生やしていた。
「そ、それは「はあぁ!!」ぐあぁ!?」
アンセムが驚いている間に、リクは目にも止まらぬ速さでアンセムを斬りつけていく。
「終わりだぁ!!」
そうしてアンセムは、リクによって影に抱えられたゼアノートと共に一気に斬り刻まれる。
やがてボロボロになって二人が倒れる近くで、華麗に着地するリク。それを見て、オパールは何処か得意げに鼻を鳴らした。
「どうよ、リクの為に作った新強化技の『ライジングウィング』はぁ!! ここまで来ると、自分の才能が恐ろしいわ…」
「いや…これ、どう見ても《リンクスタイル》じゃ「手榴弾沢山喰らいたーい?」何でもないですっ!!?」
ルキルが思った事を呟くと、オパールは何処からか両手一杯の手榴弾を見せつけて脅しにかかったのは言うまでもない。