クリスマスの戦い (前編)
どこぞの雪山にある、丸太で作られたログハウス。
その中の広いリビングでは、暖かな光で包まれていた。
「ジングルベール、ジングルベール、鈴が〜なる〜♪」
「今日は楽しいクリスマス〜♪」
ソラとレイアが上機嫌でクリスマスソング歌う近くでは、シャオがテーブルにあるチキンを頬張っていた。
「おいし〜♪ クリスマスにはやっぱりケン○ッキーだよね〜♪」
「そうか? モ○チキンも捨てがたいぞ?」
「それよりは家計にも優しいファ○チキだろ?」
そう言いながら 別のチキンを頬張るヴェンとルキル。それなりに危ない会話だが、本人達はまったく気づいていない。
この三人に、テーブルの向かい側にいたカイリとオパールが声をかけた。
「はいはい、チキンもいいけど他の料理も食べてね?」
「そうよ。この日の為に、あたし達が腕によりをかけたんだから」
二人が他の料理を指してアピールすると、座って料理を食べていたリクが笑顔を見せて振り向く。
隣にいる、青い髪の少女に向かって。
「そうだな、いつもよりも美味しい。いいお嫁にいけるな」
「もう、リクったら…!」
「これはリリィが作ったんだろ? 味付けがしっかりしていて俺好みだよ」
「そ、そんな! 私なんて、オパールやみんなと比べたらまだまだで…!」
「そう自分を謙遜するな。お前の頑張りは、俺がちゃんと知っているんだからさ」
「リク…!」
何やら甘い雰囲気が二人から漂う中、オパールから不穏が空気が漂った。
「…あたし、急用出来た。今から『存在しなかった世界』行ってラクシーヌからストレス解消法教えて貰う…!!」
「オパール、ここは抑えて…!!」
「二人とは友達だろ!? なっ!?」
「キーキー!!」
殺気を宿しながら出て行こうとするオパールに、慌ててカイリとソラ、そしてペット(?)として連れてきたコウモリバットが引き留める。
こうして一角が騒がしくなる中、ルキルの隣でシオンが料理を摘まんでいた。
「それにしても…あたしがここにいていいのかな?」
「いいだろ。あいつの彼女だって出ているんだ、お前も出演しているんだから今日ぐらいは楽しめよ」
「そうだね。ロクサスやアクセルには悪いけど、これも出演者の特権って事で!」
ルキルの言葉に、シオンは笑顔で頷く。本編では意識を乗っ取ろうとする残忍な敵役でも、出演には変わりな「何か言ったぁ?」すみません、だから『ゼロギア』でのキーブレードをチラつかせないで!?
「にしても、テラとアクアも来れば良かったのに…急にマスターから呼び出しされたのはしょうがないけど…」
「そう言えば、クウさんも来れないって言ってました…どうせクウさんの事ですから、他の女の人とデートでしょうけど…」
「先生も急用が出来て参加出来ないんだよな…一緒に楽しみたかったんだが」
ヴェンに続く様に、レイアとルキルもそれぞれの欠席者の事を思う。
「しょうがないよ。大人は皆忙しいんだし…――ねー、リヴァルくん?」
「たぃ!」
カイリの言葉に、ワンダニャンの背中に乗った赤いサンタ帽を被ったリヴァルが元気よく小さな手を上げて返事した。
「ってワンダニャンはともかく、どうしてここにリヴァルが!?」
「エンと奥さんに頼まれて、一日だけ子守りする事になったの。知らなかった?」
リクが驚いていると、カイリが腕を腰に当てて平然と答える。
そうしていると、ワンダニャンはリヴァルを背中に乗せたままトテトテとクリスマスツリーに近づいてサンタの飾りを鼻で揺らした。
「キュー」
「ばぶ?」
揺れるサンタの飾りにリヴァルが首を傾げる仕草に、カイリは近づくとしゃがんで目線を合わせた。
「リヴァルくん、サンタクロースは初めて?」
「今日はサンタさんが、良い子にプレゼントを持ってくる日なんだ! 楽しみだろー!?」
「きゃきゃ!」
ソラも便乗するようにサンタの事を教えるなり、リヴァルは笑顔を見せる。
無邪気にはしゃぐ光景に、ルキルは呆れた目で見ていた。
「まだ赤ん坊なのに、よく話が通じるな…」
「まあ、いいんじゃないの?」
シャオはチキンを食べながら、呑気に結論付けた。
そして子供達が寝静まり、星が瞬く時間帯。
雪も止んだ家の外で一つの足音が鳴り響いた。
「――そろそろですかね…」
そう呟きながら大きな白い袋を背負うのは、サンタクロース…――の服を着たウィドである。
これから彼はサンタと称した不法侵入をおこなぐはぁ!?
「人聞きの悪い事を書くなぁ!!! 私は純粋にサンタとして来たんですっ!!!」
地の分を黙らせるなり、拳を握り締めて目の前にある彼らが泊まっている家を見つめた。
「子供達の笑顔を、夢を消さない為にも…これも教師としての仕事です!!」
胸に秘めた心意気を口にすると、一歩足を踏み出した。
「「いざっ!! 子供部屋へ!!」」
燃える闘志を宿し、ザッと雪を踏みしめる二人。
……二人?
「……クウ?」
違和感を感じてウィドが横を見ると、そこには黒いサンタ服のクウがいた。ご丁寧に、白い袋も背負っている。
「ウィド…てめえ、何でここに!?」
「それはこっちのセリフ…その恰好、まさかあなたも…?」
「か、勘違いするな!? 俺がプレゼントを渡すのはあくまで女性だけ――…野郎に渡す物なんざ一つもねえからなぁ!!!」
「あなた、自分の言ってる事理解してますか? いい大人が女の子だけにプレゼントするって、それもうロリコンですよ? 分かってます?」
「う、うっせえ!? とにかく、俺は女性だけにプレゼント渡すから野郎はてめえが勝手に渡して――」
「『空衝撃』!!」
「どわぁ!? 何すんだよ急に!?」
隠し持っていたのか、ウィドは袋を下ろすと剣を出して衝撃波をぶつける。
それを間一髪でクウは避けて怒鳴るが、ウィドは睨みながら再び鞘に納めた。
「当たり前だ!! そんな下心を持つサンタなど、サンタではない!! 子供達の笑顔の為に、ここで抹消してくれるぅ!!!」
「ちぃ…!! こんな日にバトルってのも気が引けるが、もう四の五の言ってらんねえよなぁ!!!」
始末する気満々のウィドに、さすがのクウも背負ってた袋を投げて拳を鳴らした。
「来い、お前のような奴は返り討ちにしてくれるっ!!!」
「上等だ!! 格の違いっての見せてやるぜっ!!!」
完全に目的を忘れ、二人が互いに間合いを取って構える。
静寂が流れ、バッと雪に染まった地面を蹴り上げた。
同時に、二人の間に二本のキーブレードが勢いよく叩きつけられた。
「「――っ!?」」
突然の乱入に、二人は思わず足を止める。
すると、乱入した人物達はキーブレードを持ったまま立ち上がった。
「ちょっと、そこ。静かにして貰えないかしら?」
「ああ、ヴェンが起きてしまう」
「アクア!?」
「テラ!? 何でお前も!?」
ウィドとクウが叫ぶと、アクアは何処からか白い袋を取り出した。
「決まってるわ。私達はサンタとしてここに来たの」
「全員分のプレゼントを調達するのに時間がかかったが…どうやら、まだ大丈夫のようだな」
「予想はしたが、お前らもかよ…」
自分達と同じ考えに、さすがのクウも呆れてしまう。
そうしていると、アクアが声をかける。
「ところで、あなた達もサンタとしてここに?」
「ええ、まあ。約一名は別ですが…」
「はん! 誰が何と言おうと、これは譲れない信念なんだよ!」
何処か冷めたウィドの視線に、クウは悪びれも無く胸を張って威張った。
「そう、なら…――あなた達にはここで消えて貰うわ」
「「はい?」」
予想しなかったアクアの言葉に、思わず目を丸くする。
だが、アクアは即座にキーブレードを突きつけた。
「『メガフレア』!!」
「どわあぁ!?」
辺り一帯に高熱の爆発を放つものだから、クウは即座に翼を展開させてウィドと共に身を包む。
そうして防御すると、アクアは舌打ちしてテラを見た。
「テラ!!」
「はあぁ!!」
追撃をかけるように、テラは跳躍して頭上からキーブレードを振るい叩きつける。
翼とキーブレードから火花が飛び散るが、どうにかクウは押しのけるように翼を羽ばたかせて攻撃を流した。
「いきなり何をするんだ!?」
「サンタは何人もいらない!! 俺達だけがヴェン達の寝顔と笑顔を見れればそれでいい!!」
「それでいて成長したソラやリク、カイリ達の寝顔と笑顔も私達の物よ!! あなた達のようなオリキャラなんかには渡さないわ!!」
「ここまで来ると、ウィドより性質が悪いな…」
「どう言う意味ですか!? それよりも…!!」
ここでウィドが言葉を切ると、キーブレードを構えるテラとアクアを睨む。
クウも言いたい事が伝わり、顔を歪めて頭を掻いた。
「仕方ない、ここは一時休戦で組むしかねえな…」
こうして即席でタッグを組むと、それぞれ拳と剣を構えた。
「どうやら、引いてはくれないようだな」
「当たり前だ…あんなに楽しみにしているレイアの笑顔を考えたら、な?」
「手加減はしません。全力で来るのですね」
「元よりそのつもりです」
テラ、クウ、アクア、ウィドが言葉を交えながら対峙する。
再び辺りに静寂が流れるが、それは数秒で断ち切られた。
「『氷壁破・白柱』」
「「「「っ!?」」」」
一人の乱入者が作り出した、中央に出来た巨大な氷柱によって。