クリスマスの戦い (中編)
「――随分と楽しそうな事してるじゃない、あなた達?」
辺りに響く女性の声に、四人は急いで顔を上げる。
巨大な氷柱の上で、スピカが涼しい顔で金髪の髪を靡かせていた。
「こう言うのは、私も混ぜて貰わないとね?」
「スピカァァ!?」
味方オリキャラ内では最上級に位置する程の実力を持つ人物の登場に、クウは思わず震えてしまう。
「姉さん!? どうしてここに!?」
「決まってるわ。本編がなかなか進まない所為で、番外編でも出番が少ないまま…何でもいいからここで目立って置かないと!!」
「動機が不純だな、オイ!?」
高々とウィドの質問に答えるスピカに、クウは即座にツッコミを入れてしまう。
しかし、スピカは気にすることなく氷柱から降り立つと腕を組む。
「それよりも、いいのかしら? 仮にも本編で負けたとは言え、エンとは単独で戦ってたのよ。そんな私と一対一で戦うつもり?」
「うぐっ…!?」
スピカの発言に、クウは顔を歪めて目を逸らす。
テラパートではラスボスであるエンと戦ったものの、夢さんキャラで上位の実力を持つ無轟がいても倒せなかった。四人でも大変だったのを、スピカは一人で戦いのけたのだ。
この強敵の乱入に、テラは冷や汗を流してアクアを見た。
「アクア、どうする…あの二人に加え、彼女と戦うとなると…」
「それもそうね…」
アクアも神妙な面付きで、作戦を練り直した時だ。
スピカの作った氷柱が突如音を立てて割れ、そのままガラガラと崩れ去った。
「今度は何だ!?」
クウが叫びながら崩れ去った氷柱を見ると…――信じられない光景が目に飛び込んだ。
「リヴァルの為にも…邪魔はさせんっ!!!」
「ラスボスゥゥゥ!!?」
崩れた氷柱の中央でダブルセイバーと白い袋を持ったエンに、思わずクウは絶叫を上げる。
だが、それは他の人も一緒なようで、ウィドが唖然としながらエンを指差した。
「エ、エン!? 一体なぜ!?」
「もちろん、あの子のサンタとして来たんですよ。ちなみに、全員分のプレゼントもこの通り用意してます」
「あら、意外ね?」
「ああ…てっきり、息子の分しかないと思っていたが」
「さすがの私も、そんな贔屓な事はしませんよ」
スピカとテラが意外そうに首を傾げると、エンは何処か含みのある笑みを浮かべると説明を始めた。
「一人だけに渡したりしてみなさい。そうなれば、普通はサンタではない人物が用意したと考えるでしょう。まだ赤ん坊であるリヴァルの夢を壊さない為に、こうして全員分用意した訳です」
そこで言葉を切ると、何故かエンは顔を俯かせた。
「そう。全ては成長しても尚リヴァルの純粋な笑顔と眼差しを見る為。その為に同志を募ったのに…――カルマですらも呆れて誰もこの計画に協力してくれなかったのだっ!!! 何故だぁぁぁ!!?」
「当たり前だ。普通に考えて、誰も協力したかねえだろ」
ここにはいない敵キャラ達に怒りをぶつけるエンに、クウは冷ややかな視線を送る。
あとがきと変わらない親バカなエンに、さすがのアクアも呆れを見せた。
「…こんな良いお父さんがラスボスでいいんでしょうか…?」
「俺もそう思った…」
テラも同意していると、エンは気を取り直したのか軽く頭を振った。
「とにかく、過ぎてしまった事を言っても仕方ありません。私の前を立ち憚ると言うのなら、あなた達全員倒します」
「「「「くっ…!?」」」」
ラスボスとの戦闘に、スピカでさえも顔を歪ませてその場にいる全員は怯んでしまう。
たった一人を除いて。
「しょうがない、使いたくは無かったんだが…」
「クウ?」
何処か余裕を見せるクウに、テラは声をかける。
すると、クウは顔を俯かせながらコートをポケットに手を入れた。
「――喰らえぇ!!」
直後、何かを取り出すと思いっきり地面に叩きつける。
それと同時に、白い煙が勢いよくばらまき全員の視界を覆った。
「なにっ!?」
「ゴボ、げほっ!?」
「煙玉!? 何時の間に!?」
「こんな時の為に、用意して正解だったぜ!! おっさきー!!」
「しまった!?」
油断していたテラやウィド、スピカが辺りを見回す隙に、クウは一直線に玄関のドアに駆け込む。
エンが気づいて後を追おうと、ダブルセイバーを振るって煙を吹き飛ばし視界を露わにする。
どうにか煙を払うが、その時にはクウは玄関を開けて。
「――ぎゃああああああっ!!?」
何故か悲鳴を上げて空中に吹っ飛ばされた。
そのまま雪に埋もれるクウを見て、五人は玄関を見ると…巨大なハンマー振り子のように入口で動いていた。
「何…あの、巨大なハンマー?」
「こんなもの!!」
アクアが目を丸くする中、エンは先手とばかりにハンマーを切断する。
そうして中に入って着地すると…上から大量の槍が降ってきた。
「ぬうわあああああっ!!?」
これにはエンも悲鳴を上げ、双剣に変えて次々と降ってくる槍を切り裂いた。
「こ、このトラップは一体!?」
「まさか…『ブリザド』!!」
ウィドが驚いていると、アクアは氷の結晶を飛ばす。
そうして壁に当たると、上からワックスが落ちてきた。
「やっぱり…この家全体に罠が仕掛けられてます!?」
「何故トラップハウスになっている!?」
珍しくテラがツッコミを入れる中、ウィドはやれやれと肩を竦めた。
「…どうやら、対立する所ではないようですね。姉さん?」
「そうね…ここで倒しても、今度は無数の罠を潜り抜ける必要があるもの。正直、明日の朝までに子供部屋にプレゼントを届けて脱出は難しいわ」
「ここは共闘するしかないようだな…」
「そうね…予定変更、皆でヴェン達にプレゼントを届けるわよー!!」
「「「おおーっ!!」」」
アクアの掛け声に三人が拳を上げる。
こうして急遽同盟を組んだ四人に、吹き飛ばされたクウと槍の残骸に囲まれたエンが声をかけた。
「そ、その前に回復を…!!」
「私も、ここから出してくれ…!!」
そして―――
「きゃっ!?」
「アクア、危なぐふぅ!?」
「テラ!? きゃあ!!」
悲鳴を上げながら、横から倒れてくる棚やツリーを避けるテラとアクアの後ろでは。
「ウィド、伏せなさい!!」
「うわぁ!?」
上から落ちてくるさまざまなペンキ缶を、魔法の障壁で防ぐスピカ。
「ぬうああああ!! ファイトー!!」
「いっぱーつ!!」
別の部屋では、底が抜けた床に落ちたクウを有名なセリフを叫びながらエンが助けていた。
さて、大人達がさまざまな罠で苦戦している中、二階にある目的の子供部屋では。
「オパール、オパールってば!」
ベットで揺さぶられオパールが目を覚ますと、そこには不安そうなシオンの顔が。
「ん〜…どしたの、シオン…?」
「さっきから部屋の外、凄い音がなってるんだけど…」
「あ〜…この家、防犯用にあたしが設置した罠で一杯にしてるから…多分それ…――大丈夫よ、その内泥棒は捕まるから〜…」
そう言うと、再び毛布に包まって寝ようとする。
だが、次のシオンの言葉でオパールの意識は覚醒する。
「けど…段々、音がここに近づいてるよ?」
「…何ですって?」
目を細めるなり、オパールはベットから起き上る。
そうしてドアに近づいて耳を当てると、ドタバタな音が少しずつ近づいてくる。
「くっ…!? ホーム・○ローン様に設計したあたしの罠を諸ともせずに潜り抜けるなんて、何て奴らよ!!」
「ねえ、もしかしてサンタさんじゃないの?」
「サンタが大量の罠を掻い潜ってまで届ける訳ないでしょ!! これは確実に泥棒よ!! それより、何か手は…!?」
頑張る大人達に対して盛大な勘違いをするオパールは、ギッと鋭い目で辺りを見回した。
「そうよ…この手があるじゃない…!!」
「ぜぇ…ぜぇ…!!」
「よ…ようやく、辿り着いた…!!」
「な、長かった…!!」
さまざまな罠を潜り抜け、どうにか階段を上がり切った六人。
テラ、クウ、ウィドは肩で息をする中、突然悍ましい空気を感じ取る。
そして、スピカとエンは反射的に腕を上げた。
「「『リフレガ』!!」」
魔法の障壁を張ると共に、どす黒い鋭利な闇が襲い掛かる。
どうにか攻撃を防御して障壁を解くと、廊下の奥に黒いコートを着た赤い瞳のナイトメアがいた。
「アンチブラックコート!? 何でこんな所に!?」
「あのナイトメアは、確かソラの悪夢でもあるわ…――まさか、ソラが闇に落ちようとしているの!?」
目を丸くするテラの隣でアクアが顔を青ざめて推理するが、実際はと言うと―――
【――誰もいない山小屋に避難して夜中になった頃、風の音と共に何故か『助けて…助けて…』とか細い声が誰もいない筈の部屋から聞こえ…】
「うーん、うーん…!?」
「ソラ…すっごく魘されてるね」
MDプレーヤーのイヤホンから流れる怪談話を聞かされるソラに、シオンは苦笑を浮かべる。
その隣では、オパールが得意げになって魘されるソラを見ていた。
「こうでもしないと、こいつが悪夢見れないでしょ? さ、早く寝直すわよ」
「そうだね…ソラには悪いけど、これも泥棒を退治する為だもんね」
―――と、こう言った事があっているのだが、保護者組は知る由もなく暴走を始める。
「と言う事は、同じ部屋で寝てるヴェンが危ない!?」
「リヴァルに危機が迫ってるだと!? 貴様ぁ、そこを退いて貰う!!」
テラとエンがアンチブラックコートを睨みながら武器を取り出す中、クウは呆れた目を向けた。
「そんなに怒らなくても、あんたならこんな敵余裕だろ?」
「強いサンタなんて、サンタではないでしょう? この日の為に、ステータスを【パネルスロット】にしてちゃんと弱体化してきました」
「親バカだからって何してんじゃラスボスゥ!!? つーか、最初の脅しはハッタリだったのかよ!?」
何処か馬鹿にしたように見るエンに、即座にクウがツッコミを入れる。
それもそうだ。例えてみれば、ゼムナスや若き頃のゼアノートと言った隠しボスだったキャラが、続編で普通のボス戦になった途端に倒せるように弱体したようなものなのだから。
「クウ、漫才は後にしてちょうだい!!」
「来ますよ!!」
「結局バトルに持ち込むのかよチキショー!!」
スピカとウィドも戦闘態勢を整えるのを見て、クウも文句を言いつつも拳を握る。
こうして全員が武器を構えると、アンチブラックコートが闇を引き攣れて襲い掛かった。
「凍れ! 『ブリザガ』!」
「『ファイアストライク』!」
アクアが先端から氷の結晶を放ち、テラがキーブレードに炎を纏って回転して攻撃する。
だが、アンチブラックコートは剣のように鋭くしそれらの攻撃をいなす。
「意外と強い!?」
「一体どうして!?」
どうやら、怪談話を元にした悪夢はかなり強いようだ。
そうしているとアンチブラックコートは捕獲するように大きな×印の闇を打ち出してくるが、ウィドが『空衝撃』を繰り出して相殺した。
「どうすれば…!?」
ウィドが衝撃波を飛ばし終えて剣を下ろすと、突然クウが顔を上げた。
「いや…方法はある!!」
「ホントか!?」
クウの言葉に、テラが反応する。
すると、クウは何故かウィドとスピカに顔を向けて言い放った。
「ウィド、スピカ!! 下のキッチンに行って何か料理作って来い!!」
「料理、ですか?」
「何かよく分からないけど、いいわ!! 行くわよ、ウィド!!」
「待ってください、姉さん!」
作戦に乗り気なのか、はたまた料理を作れる事で張り切ったのか、スピカは急いで階段を下りてキッチンへと向かう。
続けてウィドも階段を下りるのを見て、テラの表情は凍ってしまった。
辺りに響く女性の声に、四人は急いで顔を上げる。
巨大な氷柱の上で、スピカが涼しい顔で金髪の髪を靡かせていた。
「こう言うのは、私も混ぜて貰わないとね?」
「スピカァァ!?」
味方オリキャラ内では最上級に位置する程の実力を持つ人物の登場に、クウは思わず震えてしまう。
「姉さん!? どうしてここに!?」
「決まってるわ。本編がなかなか進まない所為で、番外編でも出番が少ないまま…何でもいいからここで目立って置かないと!!」
「動機が不純だな、オイ!?」
高々とウィドの質問に答えるスピカに、クウは即座にツッコミを入れてしまう。
しかし、スピカは気にすることなく氷柱から降り立つと腕を組む。
「それよりも、いいのかしら? 仮にも本編で負けたとは言え、エンとは単独で戦ってたのよ。そんな私と一対一で戦うつもり?」
「うぐっ…!?」
スピカの発言に、クウは顔を歪めて目を逸らす。
テラパートではラスボスであるエンと戦ったものの、夢さんキャラで上位の実力を持つ無轟がいても倒せなかった。四人でも大変だったのを、スピカは一人で戦いのけたのだ。
この強敵の乱入に、テラは冷や汗を流してアクアを見た。
「アクア、どうする…あの二人に加え、彼女と戦うとなると…」
「それもそうね…」
アクアも神妙な面付きで、作戦を練り直した時だ。
スピカの作った氷柱が突如音を立てて割れ、そのままガラガラと崩れ去った。
「今度は何だ!?」
クウが叫びながら崩れ去った氷柱を見ると…――信じられない光景が目に飛び込んだ。
「リヴァルの為にも…邪魔はさせんっ!!!」
「ラスボスゥゥゥ!!?」
崩れた氷柱の中央でダブルセイバーと白い袋を持ったエンに、思わずクウは絶叫を上げる。
だが、それは他の人も一緒なようで、ウィドが唖然としながらエンを指差した。
「エ、エン!? 一体なぜ!?」
「もちろん、あの子のサンタとして来たんですよ。ちなみに、全員分のプレゼントもこの通り用意してます」
「あら、意外ね?」
「ああ…てっきり、息子の分しかないと思っていたが」
「さすがの私も、そんな贔屓な事はしませんよ」
スピカとテラが意外そうに首を傾げると、エンは何処か含みのある笑みを浮かべると説明を始めた。
「一人だけに渡したりしてみなさい。そうなれば、普通はサンタではない人物が用意したと考えるでしょう。まだ赤ん坊であるリヴァルの夢を壊さない為に、こうして全員分用意した訳です」
そこで言葉を切ると、何故かエンは顔を俯かせた。
「そう。全ては成長しても尚リヴァルの純粋な笑顔と眼差しを見る為。その為に同志を募ったのに…――カルマですらも呆れて誰もこの計画に協力してくれなかったのだっ!!! 何故だぁぁぁ!!?」
「当たり前だ。普通に考えて、誰も協力したかねえだろ」
ここにはいない敵キャラ達に怒りをぶつけるエンに、クウは冷ややかな視線を送る。
あとがきと変わらない親バカなエンに、さすがのアクアも呆れを見せた。
「…こんな良いお父さんがラスボスでいいんでしょうか…?」
「俺もそう思った…」
テラも同意していると、エンは気を取り直したのか軽く頭を振った。
「とにかく、過ぎてしまった事を言っても仕方ありません。私の前を立ち憚ると言うのなら、あなた達全員倒します」
「「「「くっ…!?」」」」
ラスボスとの戦闘に、スピカでさえも顔を歪ませてその場にいる全員は怯んでしまう。
たった一人を除いて。
「しょうがない、使いたくは無かったんだが…」
「クウ?」
何処か余裕を見せるクウに、テラは声をかける。
すると、クウは顔を俯かせながらコートをポケットに手を入れた。
「――喰らえぇ!!」
直後、何かを取り出すと思いっきり地面に叩きつける。
それと同時に、白い煙が勢いよくばらまき全員の視界を覆った。
「なにっ!?」
「ゴボ、げほっ!?」
「煙玉!? 何時の間に!?」
「こんな時の為に、用意して正解だったぜ!! おっさきー!!」
「しまった!?」
油断していたテラやウィド、スピカが辺りを見回す隙に、クウは一直線に玄関のドアに駆け込む。
エンが気づいて後を追おうと、ダブルセイバーを振るって煙を吹き飛ばし視界を露わにする。
どうにか煙を払うが、その時にはクウは玄関を開けて。
「――ぎゃああああああっ!!?」
何故か悲鳴を上げて空中に吹っ飛ばされた。
そのまま雪に埋もれるクウを見て、五人は玄関を見ると…巨大なハンマー振り子のように入口で動いていた。
「何…あの、巨大なハンマー?」
「こんなもの!!」
アクアが目を丸くする中、エンは先手とばかりにハンマーを切断する。
そうして中に入って着地すると…上から大量の槍が降ってきた。
「ぬうわあああああっ!!?」
これにはエンも悲鳴を上げ、双剣に変えて次々と降ってくる槍を切り裂いた。
「こ、このトラップは一体!?」
「まさか…『ブリザド』!!」
ウィドが驚いていると、アクアは氷の結晶を飛ばす。
そうして壁に当たると、上からワックスが落ちてきた。
「やっぱり…この家全体に罠が仕掛けられてます!?」
「何故トラップハウスになっている!?」
珍しくテラがツッコミを入れる中、ウィドはやれやれと肩を竦めた。
「…どうやら、対立する所ではないようですね。姉さん?」
「そうね…ここで倒しても、今度は無数の罠を潜り抜ける必要があるもの。正直、明日の朝までに子供部屋にプレゼントを届けて脱出は難しいわ」
「ここは共闘するしかないようだな…」
「そうね…予定変更、皆でヴェン達にプレゼントを届けるわよー!!」
「「「おおーっ!!」」」
アクアの掛け声に三人が拳を上げる。
こうして急遽同盟を組んだ四人に、吹き飛ばされたクウと槍の残骸に囲まれたエンが声をかけた。
「そ、その前に回復を…!!」
「私も、ここから出してくれ…!!」
そして―――
「きゃっ!?」
「アクア、危なぐふぅ!?」
「テラ!? きゃあ!!」
悲鳴を上げながら、横から倒れてくる棚やツリーを避けるテラとアクアの後ろでは。
「ウィド、伏せなさい!!」
「うわぁ!?」
上から落ちてくるさまざまなペンキ缶を、魔法の障壁で防ぐスピカ。
「ぬうああああ!! ファイトー!!」
「いっぱーつ!!」
別の部屋では、底が抜けた床に落ちたクウを有名なセリフを叫びながらエンが助けていた。
さて、大人達がさまざまな罠で苦戦している中、二階にある目的の子供部屋では。
「オパール、オパールってば!」
ベットで揺さぶられオパールが目を覚ますと、そこには不安そうなシオンの顔が。
「ん〜…どしたの、シオン…?」
「さっきから部屋の外、凄い音がなってるんだけど…」
「あ〜…この家、防犯用にあたしが設置した罠で一杯にしてるから…多分それ…――大丈夫よ、その内泥棒は捕まるから〜…」
そう言うと、再び毛布に包まって寝ようとする。
だが、次のシオンの言葉でオパールの意識は覚醒する。
「けど…段々、音がここに近づいてるよ?」
「…何ですって?」
目を細めるなり、オパールはベットから起き上る。
そうしてドアに近づいて耳を当てると、ドタバタな音が少しずつ近づいてくる。
「くっ…!? ホーム・○ローン様に設計したあたしの罠を諸ともせずに潜り抜けるなんて、何て奴らよ!!」
「ねえ、もしかしてサンタさんじゃないの?」
「サンタが大量の罠を掻い潜ってまで届ける訳ないでしょ!! これは確実に泥棒よ!! それより、何か手は…!?」
頑張る大人達に対して盛大な勘違いをするオパールは、ギッと鋭い目で辺りを見回した。
「そうよ…この手があるじゃない…!!」
「ぜぇ…ぜぇ…!!」
「よ…ようやく、辿り着いた…!!」
「な、長かった…!!」
さまざまな罠を潜り抜け、どうにか階段を上がり切った六人。
テラ、クウ、ウィドは肩で息をする中、突然悍ましい空気を感じ取る。
そして、スピカとエンは反射的に腕を上げた。
「「『リフレガ』!!」」
魔法の障壁を張ると共に、どす黒い鋭利な闇が襲い掛かる。
どうにか攻撃を防御して障壁を解くと、廊下の奥に黒いコートを着た赤い瞳のナイトメアがいた。
「アンチブラックコート!? 何でこんな所に!?」
「あのナイトメアは、確かソラの悪夢でもあるわ…――まさか、ソラが闇に落ちようとしているの!?」
目を丸くするテラの隣でアクアが顔を青ざめて推理するが、実際はと言うと―――
【――誰もいない山小屋に避難して夜中になった頃、風の音と共に何故か『助けて…助けて…』とか細い声が誰もいない筈の部屋から聞こえ…】
「うーん、うーん…!?」
「ソラ…すっごく魘されてるね」
MDプレーヤーのイヤホンから流れる怪談話を聞かされるソラに、シオンは苦笑を浮かべる。
その隣では、オパールが得意げになって魘されるソラを見ていた。
「こうでもしないと、こいつが悪夢見れないでしょ? さ、早く寝直すわよ」
「そうだね…ソラには悪いけど、これも泥棒を退治する為だもんね」
―――と、こう言った事があっているのだが、保護者組は知る由もなく暴走を始める。
「と言う事は、同じ部屋で寝てるヴェンが危ない!?」
「リヴァルに危機が迫ってるだと!? 貴様ぁ、そこを退いて貰う!!」
テラとエンがアンチブラックコートを睨みながら武器を取り出す中、クウは呆れた目を向けた。
「そんなに怒らなくても、あんたならこんな敵余裕だろ?」
「強いサンタなんて、サンタではないでしょう? この日の為に、ステータスを【パネルスロット】にしてちゃんと弱体化してきました」
「親バカだからって何してんじゃラスボスゥ!!? つーか、最初の脅しはハッタリだったのかよ!?」
何処か馬鹿にしたように見るエンに、即座にクウがツッコミを入れる。
それもそうだ。例えてみれば、ゼムナスや若き頃のゼアノートと言った隠しボスだったキャラが、続編で普通のボス戦になった途端に倒せるように弱体したようなものなのだから。
「クウ、漫才は後にしてちょうだい!!」
「来ますよ!!」
「結局バトルに持ち込むのかよチキショー!!」
スピカとウィドも戦闘態勢を整えるのを見て、クウも文句を言いつつも拳を握る。
こうして全員が武器を構えると、アンチブラックコートが闇を引き攣れて襲い掛かった。
「凍れ! 『ブリザガ』!」
「『ファイアストライク』!」
アクアが先端から氷の結晶を放ち、テラがキーブレードに炎を纏って回転して攻撃する。
だが、アンチブラックコートは剣のように鋭くしそれらの攻撃をいなす。
「意外と強い!?」
「一体どうして!?」
どうやら、怪談話を元にした悪夢はかなり強いようだ。
そうしているとアンチブラックコートは捕獲するように大きな×印の闇を打ち出してくるが、ウィドが『空衝撃』を繰り出して相殺した。
「どうすれば…!?」
ウィドが衝撃波を飛ばし終えて剣を下ろすと、突然クウが顔を上げた。
「いや…方法はある!!」
「ホントか!?」
クウの言葉に、テラが反応する。
すると、クウは何故かウィドとスピカに顔を向けて言い放った。
「ウィド、スピカ!! 下のキッチンに行って何か料理作って来い!!」
「料理、ですか?」
「何かよく分からないけど、いいわ!! 行くわよ、ウィド!!」
「待ってください、姉さん!」
作戦に乗り気なのか、はたまた料理を作れる事で張り切ったのか、スピカは急いで階段を下りてキッチンへと向かう。
続けてウィドも階段を下りるのを見て、テラの表情は凍ってしまった。