新年早々ドタバタなお正月・3
「さ、第二回戦始めますよー。手は膝の上にねー?」
二回戦の準備が終わり、それぞれ正座している代表者に声をかける作者。
その中の二人に目を向けると、何やら笑顔で笑っていた。
「オパールさん、よろしくお願いしますね!」
「よろしく、レイア!」
そう言って互いに士気を高める二人に、遠くから不満げな視線が送られる。
「むぅうう…!!」
「そんなにやりたかったのか、リリィ?」
不満そうに頬を膨らませるリリィに、リクが不思議そうに問いかける。
いろいろと捻じれていく空気に、思わずルキルが正座しながら呆れを浮かべた。
「…何なんだ、この空気?」
「え、何が? それよりまだか?」
「すぐやるから、そう慌てないで。じゃ、行きますよ…」
今か今かとソワソワしながら正座して待つヴェンに、作者は読み札のカルタに目を通す。
いよいよ開戦となり、六人に緊張が走った。
《ここは手に入れるかわりに失い、失う代わ「あった!」》
そう叫ぶなり、素早くヴェンが腕を伸ばす。
他の人も慌てて手を伸ばすが間に合わず、ヴェンが目当てのカルタを取った。
「やった、取った!」
「凄いぞ、ヴェン!」
「よくやったわね!」
「へへっ…」
テラとアクアに褒められたのが嬉しいのか、ヴェンは照れ臭そうに笑う。
この三人の様子を、ロクサスとシオンが羨ましそうに見ていた。
「いいな…俺もあんなお姉さんが欲しい」
「あたしも…」
「本当だよねー。どうしてラクシーヌってあんな性格なんだにぎゃあああ!!?」
デミックスも同意するように頷くなり、ラクシーヌから大量の雷が送られたのは言うまでもない。
《ま「ハイィ!!」けら、れぇ…?》
続けて読んだ瞬間、即座にカルタが取られてしまう。
他の人も一瞬何が起こったか分からずオパールを見ると、何と一枚のカルタを手にしていた。
「は、早すぎる!?」
「そ、それは本当に合ってるのか!?」
ヴェンとヴィクセンが目を丸くすると、オパールは自信満々に頷いた。
「合ってるわよ、ほら読んでみなさいよ」
「ハ、ハイ…《負けられないよな、闇なんかに》…合ってます」
読み終わってからオパールのカルタを見て、作者が再度確認する。
たった一文字でカルタを取ったオパールに、さすがのルキルも声を上げた。
「いくらなんでも早すぎないか!?」
「凄いです、オパールさん!!」
「これが実力よ、オーホホホっ!」
早業を見せたオパールに周りもザワザワするが、レイアは気にせずに目を輝かせる。
それに便乗してオパールが手を顔に当てて姫君のような高笑いを出すと、気分が落ち着いたのか作者が読み終わったカルタを置いた。
「つ、次行きましょうか…」
そう言うと、再び目を通して読み上げた。
《ソラ、記憶に気をつ「取った!」》
六人の中でいち早く見つけ、アクセルが素早くカルタを取った。
「よーし、こんなもんか」
「ふっ、さっきの早技はどうした?」
「うっさいわね、あたしだって気分ってものがあるの!」
ヴィクセンが馬鹿にするように言うものだから、オパールは不機嫌そうに睨みつける。
「はぁ? カルタに気分って関係あるか?」
「あーもー、作者次っ!!」
「はいはい…」
ルキルに指摘されたのが癪に障ったのか、オパールは作者に先を促した。
《やっと面白くなってきた! 地味に「頂き!」「ちょっと待て!?」》
丁度近くにあったのかヴェンが手を伸ばしてカルタを取っていると、アクセルが叫んだ。
「なあ、それ【GBA版】の俺のセリフだよな!? 【PS2版】のセリフはどうした!?」
「んなもん、どうでもいいでしょ」
何処か必死げなアクセルに対し、作者は興味なさげに言い返した。
「よくない!! 俺が悪に見えるだろうがぁ!!」
「何言ってるんだよ、元はと言えば悪役だったろ?」
「ぐはぁ!?」
身も蓋もない事をロクサスに言われ、アクセルの精神に棘が刺さる。
そんなアクセルを無視し、作者はカルタを読み上げた。
《ナミネは俺が守る。ナミネに近づくや「ぬぉあぁ!?」ちょー!?》
突然ソウルイーターが投げられ、作者はどうにか身体を逸らして避ける。
それから前を見ると、ルキルがカルタの一枚に手を置きながら真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。
「それ以上言ったら、今度こそ突き刺す…!!」
「ハ、ハイ…!?」
この脅しに、作者はコクコクと頷くしか方法が無かった。
何とも言えない空気になってしまうが、作者は気を取り直して再び読み上げる。
《つ「そこぉ!!」ぎの、チャン…》
だが、一文字の所でまたもやオパールが動く。
あまりの迅速な動きに再び目を丸くしていると、オパールは強気の笑みで取ったカルタを見せつけた。
「合ってる、でしょ?」
「…イエス…」
一寸の狂いも無く取ったオパールに、作者は何とも言えない表情でコクリと頷く。
再び見せたオパールの早業に、ヴィクセンとルキルは目を疑うばかりだった。
「一体どうなっているのだ、あの早技は…!?」
「どうして、こう突発的に…」
「…もしかして…」
ここで作者は何かに気づいたのか、読み札のカルタを広げていく。
そうしてカルタの一部を並べ替えるので、ルキルが声をかけた。
「作者、どうした?」
「…先に言っておきます。予想が正しければ、ここからはオパールのターンになるかも…」
「「「「は?」」」」
突然の宣告に、ヴェン、ルキル、アクセル、ヴィクセンは目を丸くする。尚、レイアはキョトンと首を傾げている。
そうしている間に作者は並び替えが済んだのか、サッと目を通して読み上げる。
《な「フッ!!」んなんだ、お前は》
《そ「てぇや!!」ばにいてくれるんだよな》
《だ「どりゃあ!!」から行くんだ、俺の力…闇の力で》
先程とは打って代わり、読み上げる前に次々とカルタを早業で取っていくオパール。
だが、ここで一部を除く全員はオパールが反応するカルタの“ある共通点”に気が付いた。
(((リクのカルタにだけめっちゃ反応してるぅぅぅ!!?)))
そう。オパールが即座に反応するカルタは、全てリクのセリフをモチーフにしたカルタだったのだ。
この事実に、アクセルとヴィクセンはいろんな意味で唖然とするしかなかった。
「愛の力って、すげぇな…」
「何て言う強敵だ…!?」
「むぅううう…!!」
「ぬぅあああ…!!」
そんな中、何故かリリィとリリスから何とも言えない唸り声が上がる。
だが、オパールの行動に周りの人達はもちろん作者も気が付かなかった。
「では、次。《さ(ドスゥ!!)あな…》って、きゃああああああっ!!?」
読み上げた直後、丁度作者の近くにあったカルタに青い槍がカルタ目掛けて垂直に突き刺さる。
思わず悲鳴を上げて腰を抜かす作者だが、全員は槍を投げた人物に注目していた。
「リ、リリス!? いきなり何を…!?」
「…ムカついたから、突き刺したまでよ…!!」
「ムカつくって、俺の事!? 槍で突き刺すぐらい俺の事憎かったのか!?」
オパールの問いに肩を震わせながら答えるリリスに、リクが青い顔をする。
しかし、リリスは無視して突き刺した槍を引き抜くとアクセルとヴィクセンを睨みつけた。
「そこ、変われ」
「「エ?」」
「あんた達のチームに入ってやるから、二人ともどけって言ってるのよ…っ!!!」
怒りのオーラを露わにしながら、ギロリと睨みつけるリリス。
巫女衣装に槍を握った姿で今にも殺さんと言わんばかりの覇気にアクセルは怯むが、ヴィクセンのプライドが逃げるのを阻止した。
「な、何を言っておるのだ!? そんな事、この私が許さ「『アクエリアスフィア』」ごああああああっ!!?」
「ぎゃああああああっ!!?」
「ヴィクセン!!?」
「「アクセルー!!?」」
通常より巨大な水の球体に押し潰される二人に、レクセウスだけでなくロクサスとシオンも悲鳴を上げる。
こうして攻撃を終えると、リリスは槍を構えて機関メンバーを睨みつけた。
「他に文句は?」
『『『何もございません、姉御ぉ!!!』』』
逆らったら殺される。そんな思考が全員の頭に過り、即座にリリスに席を譲る。
こうして二人を退場させ、リリスがその場に正座する。この一連の様子に、オパールの中で闘志が芽生えた。
「何かよく分からないけど、上等じゃない…レイア、下がってて。リリスはあたし一人でやってやるから」
「オ、オパールさん…?」
レイアが不安そうに呟いていると、後ろで抗議の声が上がった。
「だったら、私もリクのチームで戦う!! いいですよね!?」
「「んなぁ!?」」
「「ど、どうぞどうぞ…」」
リリィの発言にオパールとリリスが驚く中、ヴェンとルキルはその迫力に怖気づいたのかそそくさと席を譲る。
こうして三人だけの戦いの場になると、オパールは冷や汗を掻く作者に怒鳴りつけた。
「作者!! さっさと出しなさい!!」
「誰がリクの事分かってるか、決着つけるんだから…!!」
「あいつのカルタ諸共、地に叩き潰してやる…!!」
思い思いに発言してゴゴゴ、と闘志を燃やす三人。
先程のクウとエンの仲間割れとは比べ物にならない危機に、作者は恐る恐る声をかけた。
「あ、あのぉ…――これ、一応【COM】だからリクのセリフはそんなに…」
「だったら【358/2Days】の分も使えばいいでしょ!?」
「そうだよ!! 【COM】はその話の中間の出来事でしょ!?」
「さっさとしなさい。この季節に水浴びさせるわよ?」
「畏まりましたぁぁぁ!!!」
オパール、リリィ、リリスに睨まれ、作者は急いで【358/2Days】の分も取り出して準備を行う。
この光景に、当の元凶であるリクは顔を真っ青にして震えていた。
「えっと…何で、三人はこんなに俺の事で燃えているんだ?」
「今年は更に波乱になりそうだな…」
「ゲーム内でのシオンやナミネの事考えれば、女難の相でもあるんだろ…」
そんなリクの隣では、テラと回復したクウが遠い目で引き攣った笑みを浮かべていた。
―――その後
《た「やぁ!!」しかに、俺の方こそ存在しない者かもな》
《ウ「でぇい!!」ソだ、俺は島のみんなをちゃんと覚えている》
《い「はあぁ!!」や。ただ、悲しいな》
《で「「見切ったぁ!!」」も、俺は闇を捨てたんだ》
《た「「取らせないっ!!」」とえ、俺が俺じゃなくなったとしても》
読み上げる度に三人同時に動き、それぞれ一歩も引かない攻防戦が続く。
まるで愛の戦争(?)に誰もが唖然とするが、中には目を輝かせる人物もいた。
「うっわー!! 三人共、凄い速さで取ってる!!」
「凄いなぁ、あたしもあんな風にカルタ取ってみたいな!」
ソラとシオンが思い思いに言いながら戦いを見守っていると、アクセルとサイクスが青い顔をした。
「頼むからそれだけは止めてくれ、シオン…」
「俺達の寿命が削ぎ落とされるだけじゃ済まないからな…」