祝・リマスター発売&ホワイトデー (後編)
少ししてバターをクリーム状に混ぜ終えると、ソラは先を促した。
「次は?」
「あ、ああ…グラニュー糖を二回に分けて加えたら、その都度混ぜ合わせます、だってさ」
「何だか、お菓子作りって面倒なんだな…」
次の手順をヴェンが説明するなり、ソラは疲れたように溜息を吐く。
そんなソラに、シャオは苦笑を浮かべた。
「まあまあ、このレシピって結構初心者用なんだよ? 他のレシピに比べたら、これ以上に時間かかるし材料も必要になってくるんだからさ。あ、これ一回目のグラニュー糖だよ」
そう言うと、テラに半分に分けたグラニュー糖を渡す。
テラはすぐにグラニュー糖をボウルに入れて混ぜ合わせると、ヴェンが不安そうに聞いてきた。
「テラ、さっきからずっと混ぜてばっかりだけど大丈夫か?」
「大丈夫だ。これでも鍛えているからな」
「分かった。でも、疲れた時は交代するからな!」
「ハハッ、その時は頼むな?」
拳を握って宣言するヴェンに、テラも何処か嬉しそうに笑い返す。
二回目のグラニュー糖も混ぜ終えると、ヴェンはレシピの続きを読み上げた。
「次は…卵黄を一個ずつ加え、その都度よく混ぜ合わせます」
「でさ、卵黄って何だ?」
「卵の黄身の事だよ。ちょっと待ってて」
ソラが卵黄の事を聞くと、シャオが耐熱ボウルを取り出して片手で卵を握る。
そうして卵を割るなり、器用に黄身だけを割った殻にそれぞれ動かして卵白をボウルに落とす。
ある程度卵白を取り除くと、事前に用意した受け皿に黄身を落とした。
「はい、一丁上がり!」
「うわー! シャオ、凄いな! よーし、俺も!」
このスゴ技に、ソラも意気揚々と卵を握ってテーブルに叩きつける。
だが、力加減を間違えたのか卵はそのまま黄身ごとグシャリと割れてしまった。
「ア、アレ?」
「ソラさんは、基本的な卵の割り方から練習しないとね…」
卵塗れになったソラの手を見て、シャオは思わず苦笑を浮かべる。
この光景に、ふとテラはアクアの事を思い出した。
「そう言えば、アクアは片手で卵を割ったりしてたな」
「うんうん、あれは本当に凄いって思った」
「あ、それってこんな感じ?」
テラの話にヴェンも頷いていると、シャオはまた卵を握る。
すると、軽く叩いて罅を入れるなり片手で卵を半分に割って中身をボウルの中に落とした。
「シャオ、そんな事も出来るの!?」
「ふふーん! 更に、こんな事も!」
驚くソラに気分を良くしたのか、シャオは両手で卵を握るとさっきと同じように両手の卵を同時に割った。
「「おおーっ!?」」
これにはソラとヴェンも歓声を上げる。
だが、離れた場所で見ていた無轟はある疑問を浮かべていた。
「…それにしても、あの卵はどうする気なのだ?」
『そんな時こそ、僕達の出番でしょ! よっと!』
炎産霊神が得意げに言うと、軽く指を振る。
同時に、卵を入れていたボウルが炎に包まれた。
「「「「うわぁ!?」」」」
突然ボウルが燃えるので、シャオだけでなくソラやヴェンにテラまで叫び声を上げる。
やがて炎が収まって四人がボウルの中を覗くと、テラとヴェンが目を見開いた。
「す、凄い…!?」
「全部目玉焼きになってる!?」
『ふふーん、どうだい? 炎だって、使い方でこんな風に出来るんだから!』
ボウルの中の卵が目玉焼き風に焼けているのを見ていると、炎産霊神が胸を張る。
ソラがフォークを持って目玉焼きの黄身を突くと、何ととろみのある湯気を出しながら黄身が割れた。
「うわー、中は半熟だ!!」
「いい感じに焼けてておいしー!」
試しにヴェンが食べてみると、ちゃんと目玉焼きとしての味がある。
こうして炎産霊神の人気が集まる中、シャオは不機嫌になって頬を膨らませた。
「むぅう…!! だったら、これはどうだ!!」
幾つもの卵を持つなり、何とお手玉を始める。
そのまま、落ちてくる卵を次々と割り出した。
「お手玉しながら卵を割ってる!?」
『だったらその卵、こうして!』
テラが目を丸くしていると、炎産霊神も負けじとシャオの投げた卵に一瞬で炎を纏わせる。
その卵をシャオが割ると、何と綺麗に火を通して固まった卵が出てきた。
「凄い、今度はゆで卵だ!?」
「しかも固ゆでに!?」
炎だけで作ったゆで卵に、ソラとヴェンが目を輝かせる。
またまた優勢に立つ炎産霊神に、シャオはジェラシーを感じて睨みつける。この様子に、無轟は何処か呆れた溜息を吐いた。
「…段々と、本来の目的とは関係なくなってる気がするのだが?」
「まあ、もう一人のツッコミ担当があれですからねぇ」
そんな無轟に、ゼロボロスは苦笑を浮かべてある方向を指した。
「本編では私を差し置いて、よくもまあ姉さんの前にしゃあしゃあと出れたモノです!! 今ならカイリとの再会を阻止するリクの気持ちが分かりますよ!! あなたなんて、ナミネの気持ちまったく理解せずに会おうとするソラや、シオンの最後の願いを叶えようとするロクサスの前に立ち憚るリクと同類ですからね!!」
「ううぅ…!! この世界に帰りたいって思う事の何がいけないんだ…!! 自由を求めて、何が悪いんだよ…!!」
怒りを爆発させるウィドの言葉に、クウは蹲りながら暗いオーラを出している。本編での心の叫びも、こんな状態では往生疑が悪く聞こえるのは何故だろうか。
「そうだ…ソラを超えたいと思う事の何が悪い…? ソラを助けたいと思って何がいけないんだ…?」
「俺はホンモノ何かよりも闇を使いこなせるんだ…誰よりもナミネの傍にいるんだ…」
どうやらウィドの言葉が聞こえていたようで、リクとルキルも先程よりも黒いオーラを立ち上らせる。
もはや悪循環に陥った光景に、無轟すらも目を逸らしてしまった。
「…被害が拡大しているな」
「とにかく、まずは彼らを止めませんとね」
ゼロボロスは苦笑を交えつつ、シャオと炎産霊神の対決を止めに行く。
結局、無轟が炎産霊神を止める事で場を収め、どうにか黄身も混ぜ合わせた。
「次は…薄力粉を加えたら、粉っぽさが無くなるまで混ぜ合わせて生地をこねる、か」
「やっとクッキーらしくなってきたな!」
ヴェンがレシピを見て教えると、ソラが嬉しそうに拳を握る。
しかし、それと同時に今まで動かなかった人物が何故か顔を上げた。
「…こねる…」
「リク、どうした?」
ユラリと立ち上がるリクに、テラが不思議そうに首を傾げる。
だが、出来上がりつつある生地の前に立つと何やらブツブツと言い始めた。
「数々の戦いによって鍛え抜かれた技…とくと味わうがいいっ!!!」
キーブレードを取り出すなり、何と怒りをぶつける様に薄力粉を入れた生地を叩きつけるように混ぜるリク。
まるで人が変わったように生地を練るリクに、他の人達は唖然となった。
「うわぁ…凄い勢いで生地をこねてる…」
「“こねる”と言うより、“討伐する”の表現が合いそうですが…」
「俺…小麦粉に生まれてこなくて良かったってつくづく思うよ…」
「って言うか、これもう【レイ○ン教授vs逆転○判】の後日談シーンだよね!? 同じ声優だけど、【KH】の発売日に何他のネタ使ってるのぉぉ!!?」
ソラ、ゼロボロス、ヴェンの発言に、シャオのツッコミが炸裂する。
すると、リクは生地を練りながら口を開いた。
「騎士たる者、心に剣と正義を持って裁くべし!! 悪や罪と共に、あの忌まわしい過去もここで斬り捨ててくれるぅ!!!」
「もはや現実逃避ぃ!!?」
どうやら、過去に犯した自分の所業に耐えきれなくなり性格(人格?)が変わってしまったようです。
何だかんだあったが、リクは生地を練り終えるなり再びフラフラとした足取りで遠くに離れて行った。
「それで、この後は?」
「んーと…生地をスプーンで掬い形を整えたら、オーブンシートに敷いた鉄板を乗せて180度のオーブンで約13分焼く。表面がきつね色になったら取り出し、冷ましたら出来上がりだって!」
テラが聞くと、ヴェンはレシピを最後まで読み終える。
いろいろあったがようやく終わりが見え、ソラはガッツポーズを作った。
「ようやく終わりだな!」
『何か、あっと言う間だったね』
「んじゃま、皆でやっちゃおうか!」
炎産霊神は何処か拍子抜けに呟くが、シャオは構わずにスプーンを用意する。
鉄板とオーブンシートも準備し、いよいよ出来上がった生地を一つ一つ掬っては整え始めた。
「うーん…こんな感じかな?」
「もうちょっと、形を整えたらどうだ?」
「シャオ、少し小さすぎないか?」
「そうかな? どうせ焼けば膨らむし、これぐらいでいいと思うけど」
ソラ、ヴェン、テラ、シャオがそんな会話を挟みながらも、着々と作業を進める。
やがてボウルにあった生地は無くなり、代わりに鉄板2〜3枚分の量が出来上がった。
「「…出来たー!!」」
意外にも大量に出来たクッキーの元に、ソラとヴェンが喜びを露わにする。
その間に、ゼロボロスは軽く後片付けながら鉄板を見た。
「さて、後は焼くだけですね」
『今度こそ、僕の出番だね!』
「ボク的には、ここでクッキーを炭にしないで欲しいんだけど…?」
再び前に出る炎産霊神に、シャオがジト目で見る。
今まで頑張って生地を作って来たのに、ここで黒焦げにしてしまったら全てが水の泡である。
そんなシャオの不安を感じ取ったのか、無轟も苦笑を浮かべた。
「大丈夫だ。さすがのこいつも、場を弁える」
『とにかく、180℃で焼けばいいんでしょ? …じゃ、行くよー!!』
バッと手を上げると共に、鉄板が炎に包まれる。
やがて炎は意思を持ったように蠢き、少ししてドーム状の形となった。
「まるで炎の窯ですね」
『後は任せといてよ! いい感じに焼けたらちゃんと炎を消すからさ!』
これにはゼロボロスが感心していると、炎産霊神はドンと胸を叩く。
その言葉に、ソラはエプロンを脱ぎだした。
「じゃあ、これで終わりだな!」
「さすがに疲れたな…」
「だったらテラ、一緒にアイス買いに行こう!!」
「わーい、さんせーい!」
テラも溜息を吐くなり、ヴェンがそんな提案を持ちかける。
するとシャオも嬉しそうに便乗し、四人はそのまま厨房を後にする。
そうして残ったのはクッキーを焼く炎産霊神、ウィドに怒鳴られるクウ、未だに落ち込むリクとルキル、そしてゼロボロスと無轟だけだった。
「それで…あそこの四人はどうしましょうか?」
「…ほおって置くしかあるまい」
(うん…ホント、大変だったよねぇ〜…)
回想を終えるなり、シャオはこっそりと心の中で乾いた笑い声を上げる。
クッキーを作るだけでいろんな一騒動があったなんて、ここにいる女子達はきっと知らないだろう。いや、この場合は知らない方がいい。
シャオが心の中で結論付けていると、急にオパールが恥ずかしそうに顔を赤くした。
「ところで、ソラ。リ…リク、は?」
「そう言えば、ルキルもいないね?」
今頃気づいたのか、オパールだけでなくシオンも首を傾げる。
何故かここにいない人物に疑問に思う二人に、ソラとヴェンも首を傾げていた。
「え? それが、どう言う訳か昨日からすっごく落ち込んでて…」
「リメイク作品が発売されたのに、どうしたんだろうな?」
原因がそれとも知らず、4人は不思議そうにここにはいないリクとルキルの事を考えていたと言う…。
「次は?」
「あ、ああ…グラニュー糖を二回に分けて加えたら、その都度混ぜ合わせます、だってさ」
「何だか、お菓子作りって面倒なんだな…」
次の手順をヴェンが説明するなり、ソラは疲れたように溜息を吐く。
そんなソラに、シャオは苦笑を浮かべた。
「まあまあ、このレシピって結構初心者用なんだよ? 他のレシピに比べたら、これ以上に時間かかるし材料も必要になってくるんだからさ。あ、これ一回目のグラニュー糖だよ」
そう言うと、テラに半分に分けたグラニュー糖を渡す。
テラはすぐにグラニュー糖をボウルに入れて混ぜ合わせると、ヴェンが不安そうに聞いてきた。
「テラ、さっきからずっと混ぜてばっかりだけど大丈夫か?」
「大丈夫だ。これでも鍛えているからな」
「分かった。でも、疲れた時は交代するからな!」
「ハハッ、その時は頼むな?」
拳を握って宣言するヴェンに、テラも何処か嬉しそうに笑い返す。
二回目のグラニュー糖も混ぜ終えると、ヴェンはレシピの続きを読み上げた。
「次は…卵黄を一個ずつ加え、その都度よく混ぜ合わせます」
「でさ、卵黄って何だ?」
「卵の黄身の事だよ。ちょっと待ってて」
ソラが卵黄の事を聞くと、シャオが耐熱ボウルを取り出して片手で卵を握る。
そうして卵を割るなり、器用に黄身だけを割った殻にそれぞれ動かして卵白をボウルに落とす。
ある程度卵白を取り除くと、事前に用意した受け皿に黄身を落とした。
「はい、一丁上がり!」
「うわー! シャオ、凄いな! よーし、俺も!」
このスゴ技に、ソラも意気揚々と卵を握ってテーブルに叩きつける。
だが、力加減を間違えたのか卵はそのまま黄身ごとグシャリと割れてしまった。
「ア、アレ?」
「ソラさんは、基本的な卵の割り方から練習しないとね…」
卵塗れになったソラの手を見て、シャオは思わず苦笑を浮かべる。
この光景に、ふとテラはアクアの事を思い出した。
「そう言えば、アクアは片手で卵を割ったりしてたな」
「うんうん、あれは本当に凄いって思った」
「あ、それってこんな感じ?」
テラの話にヴェンも頷いていると、シャオはまた卵を握る。
すると、軽く叩いて罅を入れるなり片手で卵を半分に割って中身をボウルの中に落とした。
「シャオ、そんな事も出来るの!?」
「ふふーん! 更に、こんな事も!」
驚くソラに気分を良くしたのか、シャオは両手で卵を握るとさっきと同じように両手の卵を同時に割った。
「「おおーっ!?」」
これにはソラとヴェンも歓声を上げる。
だが、離れた場所で見ていた無轟はある疑問を浮かべていた。
「…それにしても、あの卵はどうする気なのだ?」
『そんな時こそ、僕達の出番でしょ! よっと!』
炎産霊神が得意げに言うと、軽く指を振る。
同時に、卵を入れていたボウルが炎に包まれた。
「「「「うわぁ!?」」」」
突然ボウルが燃えるので、シャオだけでなくソラやヴェンにテラまで叫び声を上げる。
やがて炎が収まって四人がボウルの中を覗くと、テラとヴェンが目を見開いた。
「す、凄い…!?」
「全部目玉焼きになってる!?」
『ふふーん、どうだい? 炎だって、使い方でこんな風に出来るんだから!』
ボウルの中の卵が目玉焼き風に焼けているのを見ていると、炎産霊神が胸を張る。
ソラがフォークを持って目玉焼きの黄身を突くと、何ととろみのある湯気を出しながら黄身が割れた。
「うわー、中は半熟だ!!」
「いい感じに焼けてておいしー!」
試しにヴェンが食べてみると、ちゃんと目玉焼きとしての味がある。
こうして炎産霊神の人気が集まる中、シャオは不機嫌になって頬を膨らませた。
「むぅう…!! だったら、これはどうだ!!」
幾つもの卵を持つなり、何とお手玉を始める。
そのまま、落ちてくる卵を次々と割り出した。
「お手玉しながら卵を割ってる!?」
『だったらその卵、こうして!』
テラが目を丸くしていると、炎産霊神も負けじとシャオの投げた卵に一瞬で炎を纏わせる。
その卵をシャオが割ると、何と綺麗に火を通して固まった卵が出てきた。
「凄い、今度はゆで卵だ!?」
「しかも固ゆでに!?」
炎だけで作ったゆで卵に、ソラとヴェンが目を輝かせる。
またまた優勢に立つ炎産霊神に、シャオはジェラシーを感じて睨みつける。この様子に、無轟は何処か呆れた溜息を吐いた。
「…段々と、本来の目的とは関係なくなってる気がするのだが?」
「まあ、もう一人のツッコミ担当があれですからねぇ」
そんな無轟に、ゼロボロスは苦笑を浮かべてある方向を指した。
「本編では私を差し置いて、よくもまあ姉さんの前にしゃあしゃあと出れたモノです!! 今ならカイリとの再会を阻止するリクの気持ちが分かりますよ!! あなたなんて、ナミネの気持ちまったく理解せずに会おうとするソラや、シオンの最後の願いを叶えようとするロクサスの前に立ち憚るリクと同類ですからね!!」
「ううぅ…!! この世界に帰りたいって思う事の何がいけないんだ…!! 自由を求めて、何が悪いんだよ…!!」
怒りを爆発させるウィドの言葉に、クウは蹲りながら暗いオーラを出している。本編での心の叫びも、こんな状態では往生疑が悪く聞こえるのは何故だろうか。
「そうだ…ソラを超えたいと思う事の何が悪い…? ソラを助けたいと思って何がいけないんだ…?」
「俺はホンモノ何かよりも闇を使いこなせるんだ…誰よりもナミネの傍にいるんだ…」
どうやらウィドの言葉が聞こえていたようで、リクとルキルも先程よりも黒いオーラを立ち上らせる。
もはや悪循環に陥った光景に、無轟すらも目を逸らしてしまった。
「…被害が拡大しているな」
「とにかく、まずは彼らを止めませんとね」
ゼロボロスは苦笑を交えつつ、シャオと炎産霊神の対決を止めに行く。
結局、無轟が炎産霊神を止める事で場を収め、どうにか黄身も混ぜ合わせた。
「次は…薄力粉を加えたら、粉っぽさが無くなるまで混ぜ合わせて生地をこねる、か」
「やっとクッキーらしくなってきたな!」
ヴェンがレシピを見て教えると、ソラが嬉しそうに拳を握る。
しかし、それと同時に今まで動かなかった人物が何故か顔を上げた。
「…こねる…」
「リク、どうした?」
ユラリと立ち上がるリクに、テラが不思議そうに首を傾げる。
だが、出来上がりつつある生地の前に立つと何やらブツブツと言い始めた。
「数々の戦いによって鍛え抜かれた技…とくと味わうがいいっ!!!」
キーブレードを取り出すなり、何と怒りをぶつける様に薄力粉を入れた生地を叩きつけるように混ぜるリク。
まるで人が変わったように生地を練るリクに、他の人達は唖然となった。
「うわぁ…凄い勢いで生地をこねてる…」
「“こねる”と言うより、“討伐する”の表現が合いそうですが…」
「俺…小麦粉に生まれてこなくて良かったってつくづく思うよ…」
「って言うか、これもう【レイ○ン教授vs逆転○判】の後日談シーンだよね!? 同じ声優だけど、【KH】の発売日に何他のネタ使ってるのぉぉ!!?」
ソラ、ゼロボロス、ヴェンの発言に、シャオのツッコミが炸裂する。
すると、リクは生地を練りながら口を開いた。
「騎士たる者、心に剣と正義を持って裁くべし!! 悪や罪と共に、あの忌まわしい過去もここで斬り捨ててくれるぅ!!!」
「もはや現実逃避ぃ!!?」
どうやら、過去に犯した自分の所業に耐えきれなくなり性格(人格?)が変わってしまったようです。
何だかんだあったが、リクは生地を練り終えるなり再びフラフラとした足取りで遠くに離れて行った。
「それで、この後は?」
「んーと…生地をスプーンで掬い形を整えたら、オーブンシートに敷いた鉄板を乗せて180度のオーブンで約13分焼く。表面がきつね色になったら取り出し、冷ましたら出来上がりだって!」
テラが聞くと、ヴェンはレシピを最後まで読み終える。
いろいろあったがようやく終わりが見え、ソラはガッツポーズを作った。
「ようやく終わりだな!」
『何か、あっと言う間だったね』
「んじゃま、皆でやっちゃおうか!」
炎産霊神は何処か拍子抜けに呟くが、シャオは構わずにスプーンを用意する。
鉄板とオーブンシートも準備し、いよいよ出来上がった生地を一つ一つ掬っては整え始めた。
「うーん…こんな感じかな?」
「もうちょっと、形を整えたらどうだ?」
「シャオ、少し小さすぎないか?」
「そうかな? どうせ焼けば膨らむし、これぐらいでいいと思うけど」
ソラ、ヴェン、テラ、シャオがそんな会話を挟みながらも、着々と作業を進める。
やがてボウルにあった生地は無くなり、代わりに鉄板2〜3枚分の量が出来上がった。
「「…出来たー!!」」
意外にも大量に出来たクッキーの元に、ソラとヴェンが喜びを露わにする。
その間に、ゼロボロスは軽く後片付けながら鉄板を見た。
「さて、後は焼くだけですね」
『今度こそ、僕の出番だね!』
「ボク的には、ここでクッキーを炭にしないで欲しいんだけど…?」
再び前に出る炎産霊神に、シャオがジト目で見る。
今まで頑張って生地を作って来たのに、ここで黒焦げにしてしまったら全てが水の泡である。
そんなシャオの不安を感じ取ったのか、無轟も苦笑を浮かべた。
「大丈夫だ。さすがのこいつも、場を弁える」
『とにかく、180℃で焼けばいいんでしょ? …じゃ、行くよー!!』
バッと手を上げると共に、鉄板が炎に包まれる。
やがて炎は意思を持ったように蠢き、少ししてドーム状の形となった。
「まるで炎の窯ですね」
『後は任せといてよ! いい感じに焼けたらちゃんと炎を消すからさ!』
これにはゼロボロスが感心していると、炎産霊神はドンと胸を叩く。
その言葉に、ソラはエプロンを脱ぎだした。
「じゃあ、これで終わりだな!」
「さすがに疲れたな…」
「だったらテラ、一緒にアイス買いに行こう!!」
「わーい、さんせーい!」
テラも溜息を吐くなり、ヴェンがそんな提案を持ちかける。
するとシャオも嬉しそうに便乗し、四人はそのまま厨房を後にする。
そうして残ったのはクッキーを焼く炎産霊神、ウィドに怒鳴られるクウ、未だに落ち込むリクとルキル、そしてゼロボロスと無轟だけだった。
「それで…あそこの四人はどうしましょうか?」
「…ほおって置くしかあるまい」
(うん…ホント、大変だったよねぇ〜…)
回想を終えるなり、シャオはこっそりと心の中で乾いた笑い声を上げる。
クッキーを作るだけでいろんな一騒動があったなんて、ここにいる女子達はきっと知らないだろう。いや、この場合は知らない方がいい。
シャオが心の中で結論付けていると、急にオパールが恥ずかしそうに顔を赤くした。
「ところで、ソラ。リ…リク、は?」
「そう言えば、ルキルもいないね?」
今頃気づいたのか、オパールだけでなくシオンも首を傾げる。
何故かここにいない人物に疑問に思う二人に、ソラとヴェンも首を傾げていた。
「え? それが、どう言う訳か昨日からすっごく落ち込んでて…」
「リメイク作品が発売されたのに、どうしたんだろうな?」
原因がそれとも知らず、4人は不思議そうにここにはいないリクとルキルの事を考えていたと言う…。
■作者メッセージ
【KH 1.5HDRMX】発売日にホワイトデーと言う事で、本編そっちのけで番外編を作って見ました(笑
ちなみに、私はPS3を未だに持っていないのですが、『KH』未プレイの友達は何処か嬉しそうに予約をしていて…なのに、私は変な意地を張ってしまった所為でプレイはもちろん見る事もままならない状況に…自業自得だけど、やっぱり辛い…。
ちなみに、私はPS3を未だに持っていないのですが、『KH』未プレイの友達は何処か嬉しそうに予約をしていて…なのに、私は変な意地を張ってしまった所為でプレイはもちろん見る事もままならない状況に…自業自得だけど、やっぱり辛い…。