開闢の宴・外伝2-2
頭の中に、機械の様な無機質な声が響く。
平衡感覚が掴めない状態で、意識は下へ下へと向かっている。
俺は、どうなったんだ?
「――ク…リク…」
突然俺を呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと瞼を開ける。
瞬間、一面の闇に光が差しこんだ。
「う、ううっ…」
視界が真っ白になりつつ、ぼやける焦点を合わせる。
すると、目の前にオパールの顔が広がった。
「オパール…?」
ゆっくりと名前を呟くと、オパールがこちらに笑いかける。
ボンヤリと彼女の顔を見ていると、何か柔らかい物に頭を乗せている事に気付く。
視線を向けると、何とオパールの膝の上に頭を乗せていた。
「うわぁ!?」
「あ…良かった、目が覚めたみたいで」
慌てて飛び跳ねる様に起き上ると、オパールは安心したように微笑みかける。
改めてオパールを見ると、どう言う訳か軽装だった服が変わっていた。
少し明るめの色をしたシャツとズボンに様々なアクセサリーや布を付けており、頭のバンダナはなく幾つもの髪留めで長い髪を括っている。
より盗賊っぽくなった彼女の服装に、思わず目を疑った。
「オパール…その服、なんだ?」
「この服? あたしがイメージする空賊の服だけど、似合う?」
「似合うって、何時の間に…」
呆れたように頭を押さえていると、違和感を感じる。
すぐに自分の身体を見回すと、心に潜むアンセムの姿ではなく元の少年の姿に戻っていた。
「俺…何で、元の身体に戻っているんだ? それより、ここは何処だ!?」
バッと辺りを見回すと、そこは何処かの街並みだ。明らかにモノマキア内部ではない。
何が何だか分からない現象に驚いていると、オパールはゆっくりと胸に手を当てて語り出した。
「ここはあたしの――正確には、オパールの顕在・深層意識を具現化させた世界って所。それで、あたしは彼女の心の一部」
「何を言っているんだ…? 頭でも打ったぬごぉ!?」
本音を口にした途端、思いっきり頭を殴られた。
「ありのままの事実よ。分かりやすく言うなら、あんたがいるこの世界はあたしの精神から出来てるの。今あんたはオパールの心を覗き見ているようなものなんだから、もう少し考えて物を言いなさい」
「じゃあ、お前は…オパールであって、オパールじゃない?」
「そう言う事。とにかく、現状を理解した事だし…ここから出る方法探すわよ」
「出る方法?」
「《この世界》はあんたにとって危険なの。《あたしの世界》ならまだいいけど…オパールはあんたをそこまで受け入れてないから、道を作る事は出来ない。だから、一刻も帰る方法を――」
そこまでオパールが説明してた時、急に慌ただしい足音が近づいてきた。
「見つけたぞ!」
「全員包囲なさい!」
「見つかった!? 逃げるわよ!!」
「お、おい!?」
急にオパールが手を掴むと、その場から逃げるように走り出す。
それと同時に、後ろから沢山の人達が追いかけて来た。
「逃げたぞ!」
「すぐに捕まえて!」
聞き覚えのある声に、オパールに引っ張られながら後ろを振り返る。
何と、見慣れない白い服に全身を纏う鎧を引き攣れながらテラとアクアが先導に立って自分達を追いかけている。
「どうしてテラやアクアが俺の事…!?」
「ここはそう言う世界なのっ!! この世界のオパールはあんたを【一番の敵】って思ってる!! だから捕まえようとしてんのよ!!」
「じゃあ、お前も…!?」
「んな訳ないでしょ!! あんたは…【特別】なんだから…」
ボソリと何かを呟くが、逃げながらの状況では上手く聞き取れなかった。
「今、何て言ったんだ!?」
「――ッ、何でもないっ!!」
顔を赤くしながら誤魔化すなり、薄暗い裏路地に入り込む。
入り組んだ道を軽々と進んで兵士との距離を離すと、オパールは立ち止まってこちらを振り返った。
「このままじゃ、ラチが空かない…二手に分かれるわよ」
「それってどう言う…」
「あんたはこの辺に隠れてて。あたしが囮になって惹き付けるから」
「そんな事出来るか!? そうするくらいなら、俺がうぐぅ!?」
再び殴られてしまい頭を押さえると、オパールは呆れたように見返してきた。
「まーたそんな事言う。…あたしなら大丈夫よ、この世界はあたしにとっては掌も同然。簡単に捕まったりはしないから」
自信ありげに言い切ると、急に真剣な目で遠くからでも見える巨大な城壁で出来た門を差した。
「誰もいなくなったら、あそこの大きな門の上に行って。そこに協力者がいるから」
「協力者?」
「すぐに分かるわよ。それじゃ…――ごめん」
「え?」
その直後、後頭部に衝撃が走り意識が黒に染まった…。
「う、うぅ…!」
再び目を覚ますと、いつの間にか荷物が置かれた場所に倒れていた。
ズキズキと痛みが走る頭を押さえて、自分を隠していたであろう荷物を掻き分けながら起き上がった。
「本気で叩きやがって…もう少し手加減してくれ…」
荒っぽい気絶のさせ方に文句を言うが、当の本人は何処にもいない。
自分を追っていた兵士はもちろん、人の気配も特にはせずに軽く安堵の息を吐いた。
「とにかく…まずは、あの門みたいな場所に行かないとな」
オパールに言われた通りに指定された場所へ向かおうとして、ふとある事を思い出した。
(そう言えば…協力者って奴の特徴、聞いてなかったな…)
そう。オパールからは場所を指定されただけで、協力者となる人の特徴は一切聞かされていない。
相手が自分の事を分かってくれるしかない。そう祈りながら、巨大な城壁の門へと向かう事にした。
その後、細心の注意を払っていたおかげか道中誰にも見つかる事はなく無事に巨大な城壁の上へと辿り着く事が出来た。
「どうにか辿り着いたが…何処にいるんだ?」
辺りを見回し、オパールの言っていた協力者らしき人物を探す。
その時、頭上から光る何かがこちらへと飛んでくるのに気付いた。
「ッ!?」
後ろに跳ぶように避けると共に、幾つもの手裏剣が石畳へと突き刺さる。
即座にキーブレードを取り出していると、後ろから手が伸びて腕を掴まれる。
そのまま動きを拘束され、一気に地面へと抑えつけられた。
「ぐあっ!?」
「大人しくしろ」
どうにか視線を向けると、何とレオンが鋭い眼光で睨みながら自分を抑えつけている。
そんな中、大剣を持った黒い服の金髪の青年が現れるとあの兵士達に指示を出していた。
「たった今リクを拘束した。すぐに『姫』の元へと連行しろ」
「くそっ…!」
どうにか拘束を解こうとするが、レオンの抑えつけた腕は緩む事はない。
見事に捕まってしまったが、それよりもこの場所を教えてくれた彼女の方が心配だった。
(まさか、オパールも捕まったのか…? どうすれば――!)
この状況を打破しようと考えていた時、突然辺りに爆炎が起きた。
「きゃあぁ!?」
「ぐわぁ!?」
「な、何だ!?」
ユフィや金髪の青年が爆発に巻き込まれ、思わずリクが顔を上げる。
すると、爆炎の向こうに片手に銃を持った男が立っているのが見えた。
「やれやれ…あの子の頼みとは言え、こんなガキを助ける事になるとはな」
「あなた、誰っ!?」
エアリスの厳しい問いかけをすると、男は薄く笑って答えた。
「――この物語の主人公さ」
そう言うと、主人公と言った男は余裕を保つように手に持った銃を肩に担ぐ。
こんな状況だと言うのに、男の言葉に俺は思わず眉を潜めた。
「主人公…?」
「何が目的!?」
兵士達の中にいた黒い服を着た長い黒髪の女性が叫ぶと、男は何故かこちらを見てきた。
「あの子の大事なお宝をあんたらが奪うんで、取り返しに来たのさ」
「俺達から取り返せると思っているのか?」
未だに俺を抑えつけているレオンの言葉に、男は自信ありげに笑った。
「もちろん」
直後、上空から氷の塊が落ちてくると共に氷結が広い範囲で襲い掛かった。
「ぐっ…! まだいたのか!?」
氷結に襲われてレオンが怯んでいると、甲高いエンジン音が聞こえる。
見ると、兎の耳をした女性がエアバイクに乗って自分達の方へと向かっていた。
「ナイスだ、フラン!」
「バルフレア、そのボウヤを!」
フランと呼ばれた女性は、男――バルフレアに叫ぶ。
すると、男はこちらへと走り込んできた。
「掴まれ、ボウズ!!」
「え! ちょ――!?」
一気に肩に担がれるなり、そのまま城壁の端へと走る。
そして、あろう事か高い城壁から俺を担いだまま飛び降りた。
「うわあああああああああぁ!!?」
思わず悲鳴を上げていると、エアバイクが近づく。
そうして男が飛び乗ると、落ちる俺の腕を掴んだ。
「フラン、一気に飛ばせ!!」
「ええっ!!」
まるで彼らから逃げるように、俺を宙づり状態にさせたままエアバイクで町中を走り抜けた。
その後、町中での危険な逃避行の末、俺達はどうにか地上へと降り立った。
そして今、忙しなく動く兵士達に見つからない様に建物の影に隠れて様子を見ていた。
「――とりあえず、追っ手は撒いたわね」
「当たり前だ。空賊は逃げ足が命だからな」
そんな二人の話を聞きながら、座り込む男の隣にいる女性の方へ目を向ける。
兎の耳をしてどこか神秘的な雰囲気に思わず見惚れていると、バルフレアがこちらに気付く。
「ボウズ、そんなにヴィエラが珍しいか?」
「あんた達…本当に何者だ?」
我に返って尤もな疑問をぶつけると、路地を見ていた女性が振り返って語り出した。
「私達は彼女の育った現実世界で言う所の空賊。だけど、この精神世界では不確定な役者よ」
「この深層意識の世界ではお前の味方だが、ここより奥にある世界では敵になる可能性もある。だから、俺達が何者かはハッキリと答える事は出来ないのさ」
二人の言っている事はよくは分からないが、彼らが協力者である事は何となく分かった。
「とりあえず…オパールが言った協力者ってのは、あんた達でいいんだな?」
「バルフレア。んで、こっちはフランだ」
「…リクだ」
自分と女性を指しながら名前を教えるバルフレアに、渋々ながら俺も名前を教える。
すると、バルフレアは徐に立ち上がって路地へと歩き出した。
「さて、話も自己紹介も終わった事だ…この町を探索しに行くぞ」
「なっ! そんな事出来る状況じゃないだろ!? それに、オパールが捕まってるかもしれないし…!!」
「あのオパールなら大丈夫さ。あいつはここよりずっと奥深くの深層意識の住人、ここの住人やルールに屈するほど弱くないんだよ」
「それに、あなたはこの世界を知らなくてはならない。世界を知る事は、彼女の心に潜む闇を知る事。その闇を払わない限り、あなたはこの世界から出られないわ」
フランから聞いた衝撃の事実に、リクは表情を固まらせる。
知らない内に閉じ込められてしまった状況、何よりこの世界――オパールの心に闇が関わっているのだから。
「オパールの、心の闇…」
「とにかく、ここでじっとしていても何も始まらない。歩きながらいろいろ説明してやる」
バルフレアの言葉に異論など出来る訳がなく、仕方なく彼らと共に路地へと足を踏み出した。
■作者メッセージ
ここでようやく、FF12のあの空賊コンビを登場させる事が出来ました。
本編では名前や回想のみでの登場だったのですが、今回の番外編の構想上では出すのは可能だと判断してこのような助っ人の立ち位置にしてみました。
ちなみに、今回のバルフレアと共に城壁から飛び降りるシーンは実際にFF12のムービーシーンを元にしています。FF12は友達から借りてのプレイで、ガンビットやライセンス等のシステム覚えるので最初は四苦八苦…ですが、慣れてみると楽しくて楽しくて…ストーリーはもちろん、さまざまなやり込み要素も含まれていていいゲームでした。って、途中から感想になってしまってますね…すいません。
本編では名前や回想のみでの登場だったのですが、今回の番外編の構想上では出すのは可能だと判断してこのような助っ人の立ち位置にしてみました。
ちなみに、今回のバルフレアと共に城壁から飛び降りるシーンは実際にFF12のムービーシーンを元にしています。FF12は友達から借りてのプレイで、ガンビットやライセンス等のシステム覚えるので最初は四苦八苦…ですが、慣れてみると楽しくて楽しくて…ストーリーはもちろん、さまざまなやり込み要素も含まれていていいゲームでした。って、途中から感想になってしまってますね…すいません。