開闢の宴・外伝2-3
それから仲間になったバルフレアとフランの三人でしばらく路地を歩いていると、大きな噴水のある広場へと出た。
「ここは誰もいないようね」
「その方が落ち着いて探索出来るだろ」
追われている立場なのに、余裕を見せながら辺りを見回すバルフレアとフラン。
俺も同じように辺りを見回していると、綺麗な町のはずなのに一部の壁や壊れていたり、住宅の中に廃墟となった家が見える。
そんな街の風景に、急に既視感を覚えた。
「どうかした?」
「大したことじゃない。この町って、もしかしてホロ……レイディアントガーデンなのか?」
一番初めに降り立った闇によって崩壊した世界。そして、一年の期間で光へと再建している世界。この町は、そんな二つの世界の姿が重なっているように思えたのだ。
この導き出した答えに、フランは肯定するように頷いた。
「ええ。ここは彼女の精神世界、心に焼き付いた記憶や思いがこうして世界を形作っている」
「そして、ここはオパールにとって大事な故郷だ。昔の輝かしい頃の故郷と、崩壊してしまった今の故郷。二つの思い出が重なって出来た世界なのさ」
更に詳しく教えてくれたバルフレアの説明に、改めてこの場を見回す。
一度は闇に沈めたのに何の変わりも無く存在する故郷を持つ自分と違い、未だに崩壊した状態の故郷。
それはソラ程ではないが明るく前向きな彼女にも、心の闇が存在している証。
「この世界の何処かに、俺を閉じ込めている闇がある訳か……そいつを倒せば、俺は元の世界に戻れるのか?」
「倒すって言い方は物騒だな」
予想もしなかった言葉を放つバルフレアに、思わず眉を潜める。
それを見かねたのか、フランが割って入った。
「闇は誰しもが心に抱えるモノ。人の心から闇を消してしまえば、心のバランスが崩れてしまうわ」
「じゃあ、どうすれば…?」
「そう難しく考えるなよ。ただ単に、この世界のオパールが抱えている悩みや不安要素を解消すればいいだけだ」
「あなたが心の闇を昇華させる。そうすれば、闇は光に変わり現実世界の彼女にも良い影響を与えてくれるわ」
「闇を、光に…」
この二人が語る方法に、不安が過る。
もう闇の存在ではないとはいえ、何度も助けられている自分がオパールに光を与えられるのか。
「俺、出来るのか…?」
思わず本音を口にすると、徐にバルフレアが近づいて肩を叩いてきた。
「さあな。少なくとも、お前はこの世界に踏み入る事が出来たんだ。心の中を見せるとなると、普通は拒絶するのに…お前にはそれをせずに、この世界へ誘った」
「それだけ、オパールはあなたを信頼している。決して、意図的にあなたをこの世界に閉じ込めている訳ではない。それだけは理解して頂戴」
優しく二人は言葉を送るが、自信などつく訳もなく始終俯くしか出来なかった。
その後話が終わると共に場所を移動するが、どう言う訳か兵士に見つからずに今度は住宅地の中心にある大きな広場へとやってきた。
「なあ、ここって住宅街だろ? 危なくないか?」
人が集まる場所の筈なのに、隠れる様子もなく付近を見回す二人に声をかける。
すると、バルフレアは何処か面白そうにニヤリと笑った。
「それはどうかな」
「どう言う意味だ?」
聞き返すと、後ろから人の気配を感じる。
すぐに振り返って確認すると同時に、思わず息を呑んだ。
「あれ? もしかして、リク?」
青い髪と瞳の少女が、キョトンとした目で首を傾げている。
見間違える訳もない。ある世界で奪われた、俺の大事な人――リリィがそこにいた。
「リリィ!? なんでここに!?」
「『なんで』って言われても…うーん、何て言えばいいんだろ?」
質問に対して困ったように考えるリリィに、おのずと彼女がここにいる理由を理解した。
「そうか…ここはオパールの記憶の世界だから…」
この世界は、オパールの記憶から作り出された存在。この世界の住人である彼女は、本物のリリィではないのだ。
その事が分かり胸が締め付けられていると、リリィは何かに気付いた様に手を叩いた。
「あ、そうだった! リクって敵だっけ? 本当なら城の兵士達に通報しないといけないけど…」
「ちょ、待ってくれ!? さすがにそれは…!!」
「何をしてる?」
続けて聞こえた聞き覚えのある少女の声に、急いで振り返る。
「リリスっ…!?」
声の主――リリスに、リクは警戒心をむき出しにする。
自分に復讐を抱き、リリィの意識を奪い取った人物。例え本物でないにしろ、油断は出来ない。
だが、当の本人は襲い掛かる事もせずに不思議そうに自分達を一瞥していた。
「あら? 誰かと思えば空賊様にリクじゃない。我に何か協力でも?」
「まあ、そんな所だ。折角だ、こいつにこの町の事を教えてくれ。そこのお嬢ちゃんも、出来れば俺達の味方になってくれるとありがたいんだが」
「はぁ!?」
信じられないバルフレアの頼みに大声を出していると、フランが軽く息を吐いて説明した。
「大丈夫。リリスはこの世界ではあなたの『味方』よ、もう一人の少女は中立を保っているけど交渉次第で味方につくわ」
「リリスが…味方?」
訝しげにリリスを見ると、フランの言葉通り敵意はまったく露わにしていない。それどころか、少しばかり友好的な目を向けているような気もする。
「ふーん…まあいい。なら、この町に付いて大まかに話そう」
バルフレアの説得が効いたのか、リリスは軽く頷く。
そして、少し先にある大きな城へと指を差した。
「まず、あの城にはこの町を収める『姫』が住んでいる。その姫の言う事は絶対、この町に住む住人達は命令を聞かなければいけない」
「どうして?」
「この国の姫は一番偉いの。だから、みんな姫の言う事を聞くの」
城の説明にリリィも加わって教えてくれるので、次に湧き上がった疑問を聞く。
「なあ、さっきから思ってたが『姫』って誰なんだ?」
『姫』。それは、あの巨大な城壁の門で捕まった際にも聞いた言葉だ。
そんな質問をぶつけると、リリスが答えた。
「それは“オパール”の事。彼女がこの世界を収める姫で、あの城の主」
「オパールが…?」
脳裏に自分を助けてくれた彼女が思い浮かぶが、逃げる時にしてくれた話を思い出す。
捕まえようとしているのは、この世界のオパール――彼女達の言っている『姫』だ。少なくとも、あのオパールは俺を助けてくれた。
それでは、どうしてこの世界のオパールは味方であるはずの俺を捕まえようとしているのか。
(そもそも俺を敵視しているって事は…オパール、本当は俺の事嫌いだったのか?)
よく思い返してみると、何かしらオパールを怒らせる原因はいつも自分が作っている。その時の不満や怒りが溜まっていたのかもしれない。
それに…彼女の故郷を闇に沈めた奴らと一時期手を組んでいた。口では許していたが、本心では許していないのなら…心が痛むが、この状況にも納得する。
「…ん? なあ、二人はどうして俺の味方をしてくれるんだ? 姫の命令は絶対なんだろ?」
この世界でのオパールの命令は『リクを捕まえる事』。なのに、標的を目の前にしているのに二人はどうして捕まえようとしないのか。
明らかに矛盾している行動を問うと、二人は一斉に首を傾げた。
「さあ? ただ、味方をしないといけないと思っただけ」
「私もそうだよ。命令は大事だけど、リクも大事だから…」
「そうか…」
リリスはともかく、自分を労わってくれるリリィの言葉に思わず顔が綻ぶ。
それに対しリリィも笑みを返していると、急にリリスが路地の方に目をやった。
「じゃあ、我はもう行く。お前達もすぐに離れた方が良い、あと少ししたら巡回の兵士が来る」
「私も行かなきゃ…じゃあね、リク!」
「あ、ああ…」
笑顔でリリィが手を振ると、先に離れて行くリリスの後を小走りで追う。
記憶の幻影とは言え思わぬ二人の出会いに、何時しか複雑な表情を浮かべていた。
「ここは誰もいないようね」
「その方が落ち着いて探索出来るだろ」
追われている立場なのに、余裕を見せながら辺りを見回すバルフレアとフラン。
俺も同じように辺りを見回していると、綺麗な町のはずなのに一部の壁や壊れていたり、住宅の中に廃墟となった家が見える。
そんな街の風景に、急に既視感を覚えた。
「どうかした?」
「大したことじゃない。この町って、もしかしてホロ……レイディアントガーデンなのか?」
一番初めに降り立った闇によって崩壊した世界。そして、一年の期間で光へと再建している世界。この町は、そんな二つの世界の姿が重なっているように思えたのだ。
この導き出した答えに、フランは肯定するように頷いた。
「ええ。ここは彼女の精神世界、心に焼き付いた記憶や思いがこうして世界を形作っている」
「そして、ここはオパールにとって大事な故郷だ。昔の輝かしい頃の故郷と、崩壊してしまった今の故郷。二つの思い出が重なって出来た世界なのさ」
更に詳しく教えてくれたバルフレアの説明に、改めてこの場を見回す。
一度は闇に沈めたのに何の変わりも無く存在する故郷を持つ自分と違い、未だに崩壊した状態の故郷。
それはソラ程ではないが明るく前向きな彼女にも、心の闇が存在している証。
「この世界の何処かに、俺を閉じ込めている闇がある訳か……そいつを倒せば、俺は元の世界に戻れるのか?」
「倒すって言い方は物騒だな」
予想もしなかった言葉を放つバルフレアに、思わず眉を潜める。
それを見かねたのか、フランが割って入った。
「闇は誰しもが心に抱えるモノ。人の心から闇を消してしまえば、心のバランスが崩れてしまうわ」
「じゃあ、どうすれば…?」
「そう難しく考えるなよ。ただ単に、この世界のオパールが抱えている悩みや不安要素を解消すればいいだけだ」
「あなたが心の闇を昇華させる。そうすれば、闇は光に変わり現実世界の彼女にも良い影響を与えてくれるわ」
「闇を、光に…」
この二人が語る方法に、不安が過る。
もう闇の存在ではないとはいえ、何度も助けられている自分がオパールに光を与えられるのか。
「俺、出来るのか…?」
思わず本音を口にすると、徐にバルフレアが近づいて肩を叩いてきた。
「さあな。少なくとも、お前はこの世界に踏み入る事が出来たんだ。心の中を見せるとなると、普通は拒絶するのに…お前にはそれをせずに、この世界へ誘った」
「それだけ、オパールはあなたを信頼している。決して、意図的にあなたをこの世界に閉じ込めている訳ではない。それだけは理解して頂戴」
優しく二人は言葉を送るが、自信などつく訳もなく始終俯くしか出来なかった。
その後話が終わると共に場所を移動するが、どう言う訳か兵士に見つからずに今度は住宅地の中心にある大きな広場へとやってきた。
「なあ、ここって住宅街だろ? 危なくないか?」
人が集まる場所の筈なのに、隠れる様子もなく付近を見回す二人に声をかける。
すると、バルフレアは何処か面白そうにニヤリと笑った。
「それはどうかな」
「どう言う意味だ?」
聞き返すと、後ろから人の気配を感じる。
すぐに振り返って確認すると同時に、思わず息を呑んだ。
「あれ? もしかして、リク?」
青い髪と瞳の少女が、キョトンとした目で首を傾げている。
見間違える訳もない。ある世界で奪われた、俺の大事な人――リリィがそこにいた。
「リリィ!? なんでここに!?」
「『なんで』って言われても…うーん、何て言えばいいんだろ?」
質問に対して困ったように考えるリリィに、おのずと彼女がここにいる理由を理解した。
「そうか…ここはオパールの記憶の世界だから…」
この世界は、オパールの記憶から作り出された存在。この世界の住人である彼女は、本物のリリィではないのだ。
その事が分かり胸が締め付けられていると、リリィは何かに気付いた様に手を叩いた。
「あ、そうだった! リクって敵だっけ? 本当なら城の兵士達に通報しないといけないけど…」
「ちょ、待ってくれ!? さすがにそれは…!!」
「何をしてる?」
続けて聞こえた聞き覚えのある少女の声に、急いで振り返る。
「リリスっ…!?」
声の主――リリスに、リクは警戒心をむき出しにする。
自分に復讐を抱き、リリィの意識を奪い取った人物。例え本物でないにしろ、油断は出来ない。
だが、当の本人は襲い掛かる事もせずに不思議そうに自分達を一瞥していた。
「あら? 誰かと思えば空賊様にリクじゃない。我に何か協力でも?」
「まあ、そんな所だ。折角だ、こいつにこの町の事を教えてくれ。そこのお嬢ちゃんも、出来れば俺達の味方になってくれるとありがたいんだが」
「はぁ!?」
信じられないバルフレアの頼みに大声を出していると、フランが軽く息を吐いて説明した。
「大丈夫。リリスはこの世界ではあなたの『味方』よ、もう一人の少女は中立を保っているけど交渉次第で味方につくわ」
「リリスが…味方?」
訝しげにリリスを見ると、フランの言葉通り敵意はまったく露わにしていない。それどころか、少しばかり友好的な目を向けているような気もする。
「ふーん…まあいい。なら、この町に付いて大まかに話そう」
バルフレアの説得が効いたのか、リリスは軽く頷く。
そして、少し先にある大きな城へと指を差した。
「まず、あの城にはこの町を収める『姫』が住んでいる。その姫の言う事は絶対、この町に住む住人達は命令を聞かなければいけない」
「どうして?」
「この国の姫は一番偉いの。だから、みんな姫の言う事を聞くの」
城の説明にリリィも加わって教えてくれるので、次に湧き上がった疑問を聞く。
「なあ、さっきから思ってたが『姫』って誰なんだ?」
『姫』。それは、あの巨大な城壁の門で捕まった際にも聞いた言葉だ。
そんな質問をぶつけると、リリスが答えた。
「それは“オパール”の事。彼女がこの世界を収める姫で、あの城の主」
「オパールが…?」
脳裏に自分を助けてくれた彼女が思い浮かぶが、逃げる時にしてくれた話を思い出す。
捕まえようとしているのは、この世界のオパール――彼女達の言っている『姫』だ。少なくとも、あのオパールは俺を助けてくれた。
それでは、どうしてこの世界のオパールは味方であるはずの俺を捕まえようとしているのか。
(そもそも俺を敵視しているって事は…オパール、本当は俺の事嫌いだったのか?)
よく思い返してみると、何かしらオパールを怒らせる原因はいつも自分が作っている。その時の不満や怒りが溜まっていたのかもしれない。
それに…彼女の故郷を闇に沈めた奴らと一時期手を組んでいた。口では許していたが、本心では許していないのなら…心が痛むが、この状況にも納得する。
「…ん? なあ、二人はどうして俺の味方をしてくれるんだ? 姫の命令は絶対なんだろ?」
この世界でのオパールの命令は『リクを捕まえる事』。なのに、標的を目の前にしているのに二人はどうして捕まえようとしないのか。
明らかに矛盾している行動を問うと、二人は一斉に首を傾げた。
「さあ? ただ、味方をしないといけないと思っただけ」
「私もそうだよ。命令は大事だけど、リクも大事だから…」
「そうか…」
リリスはともかく、自分を労わってくれるリリィの言葉に思わず顔が綻ぶ。
それに対しリリィも笑みを返していると、急にリリスが路地の方に目をやった。
「じゃあ、我はもう行く。お前達もすぐに離れた方が良い、あと少ししたら巡回の兵士が来る」
「私も行かなきゃ…じゃあね、リク!」
「あ、ああ…」
笑顔でリリィが手を振ると、先に離れて行くリリスの後を小走りで追う。
記憶の幻影とは言え思わぬ二人の出会いに、何時しか複雑な表情を浮かべていた。