開闢の宴・外伝2-4
広場で二人と別れた後、俺達はどう言う訳か姫であるオパールの居るであろう城へと進んでいく。
訝しげに視線を送るものの、先頭を歩く二人は気づかないフリをして先を進む。さすがに不安が過り、呼び止めようと声を出そうとした時だった。
「それー!」
一つの明るい声と一緒に、背中に何かが激突した。
「ごふっ!! …って、ソラ!?」
突然の衝撃によろめきながら振り返ると、何とソラが背中に抱き着いている。
記憶の存在とは言え思わぬ出会いに思考が混乱していると、ソラは背中にしがみ付いたまま笑顔を見せた。
「へへー、捕まえたー! 俺の勝ちー!」
「あーあ、負けちゃった」
「もー、ソラってば早いんだからー」
そうこうしていると、パタパタと軽い足音が近づく。
「ヴェン! カイリまで!」
ソラに続いて登場した人物に驚いてると、どう言う訳かソラは俺から離れた。
「よーし! じゃ、次はリクが鬼なー!」
「お、鬼って…」
「隠れろー!」
「ちゃんと数えてから見つけてねー!」
事態を把握する前に、一斉に逃げる三人。
僅か数秒で完全に三人の姿が見えなくなり、頭痛を感じて頭を押さえた。
「かくれんぼかよ…と言うか、三人共更に子供になってないか?」
町の住民だから命令は伝わっているようだが、意味が分かってないようで何かの遊びと勘違いしてしまっている。
あの三人が敵になってないのはありがたいものの、釈然としない何かを感じているとバルフレアが肩を竦めた。
「俺達に聞くなよ。本来の人格は知らないんだ」
「少なくとも、オパールは彼らをああ見ている。だからあんな性格になっているのよ」
「一体どうなっているんだ、こいつの心の中は…」
年は少し離れているとはいえ、ソラ達を子供扱いしている目線。敵であるリリスが味方。そして、大多数が敵と言う町の様子。
もはや常識が通用しない状況に溜息を吐くと、バルフレアが静かに口を開く。
「どうもこうも、これが人の心って奴さ」
そう言うと顔を上げて、少し曇り掛かった空に目をやる。
「人によって考えが違うんだ。この世には心の数だけ世界が溢れているのさ…星の海のように、数えきれない程の世界が」
空を見ながら自分に語る彼の表情は、時折オパールが見せるそれに酷似していた。
一つの夢を抱き、空に思いを馳せる顔に。
「なぁ…あんた達はどうして俺の味方をするんだ? この世界の人達は俺の事を敵って認識する筈だろ? なのに、どうして俺にはあんた達の様な味方がいるんだ?」
「――良く気づいたわね」
すると、何処となく優しい目でフランがこちらを見てくる。
予想しなかった言葉に思わず疑問を浮かべると、バルフレアも笑いながら後方にある城を親指で差した。
「俺達がお前に味方する理由は、ただ一つ――『姫』のためだ」
「なにっ!?」
「そう睨むなよ。言って置くが、俺達もここの住人なんだ。『姫』の事は大事に思っている」
「だからこそ、私達はあなたを助ける。現実の私達は彼女の良き理解者。だから、『姫』の事を理解している…あなたを助けたオパール同様にね」
「…話が矛盾してないか?」
彼らの話を要約すれば、敵であるにも関わらず手助けている行為だ。しかも、それは自分を捕まえようとするオパールの為。
もはや話が噛みあっていない。訳が分からなくなっていると、フランが首を振る。
「矛盾なんてしていないわ。この世界の事を、あなたが理解していないだけ」
「この世界は顕在意識の中でも一番浅い部分、言い換えればオパールが表に見せている部分だ。つまり、オパールの事を知っていればこの世界の謎は自ずと解ける」
「世界の謎? 何だそれは?」
詳しく聞こうと詰め寄るが、どう言う訳かバルフレアは背を向けた。
「さて…話す事は話したし、見せる物も見せた。ここでお前とはお別れだな」
そう言って、何の迷いもなく自分から離れていく。しかもフランまでもが無言でバルフレアの後を追うように去ろうとしている。
「なっ! ここで俺を置いていくのか!?」
勝手にあちこち振り回され、勝手に置いて行かれるのだ。怒鳴らない方がおかしい。
そんな俺に、足を止めて振り返ったバルフレアとフランは呆れた視線をぶつけてきた。
「ああ、そうだ。いいか…この精神世界では答えを教えて貰っちゃ意味が無い。自分で見つけて初めて意味を成すんだ」
「この世界で感じた事、今までの行動。それを考えれば、この世界の謎が解けるわ」
「そう言う事。じゃ、後は頑張れよ」
「お、おい待て!?」
話は終わりとばかりに、バルフレアは後ろから手を振って立ち去っていく。
だが、最後にフランが足を止めて振り返り、こちらに期待の眼差しを送った。
「この世界のオパールを救ってあげて。それが出来るのは…《心の鍵》を持つあなただけよ」
フランの言葉に、思わずドキリと心臓が鳴る。
その隙に二人は俺の前から去ってしまうが、追う気にはならなかった。追いかけても、きっと意味など無いから。
二人の姿が見えなくなるまで見送ると、その場で立ったまま目を閉じてゆっくりと腕を組んで謎についての答えを考えた。
「この世界で、感じた事…」
ポツリと呟き、オパールの世界に来た時の記憶を引き出す。
(俺は敵…だから、この世界の住人は俺を追っている…それでも、ちゃんと味方がいる…)
テラやレオンなど見知った人達が捕まえようとしてるのに、町の住民であるバルフレアやフラン、リリィとリリスが味方となって助けてくれた。
(ここでは姫、だけど別の所では空賊…これも矛盾している)
別の場所からやってきたと言う空賊の格好をしたオパールは、確かに彼女らしい。
だが、姫と言うのは正直似合わない。『セブンプリンセス』と言う高貴な女性も目にしていた分、どうしてもギャップを感じる。
(そう言えば、城の近くにいるのに…どうして兵士がいないんだ?)
未だに敵である自分が町をうろついているのだ。城に入り込まない様に守りを固めていてもおかしくないのに、人一人見かけない。
それ以前に、バルフレア達と行動してから兵士に見つかった事はもちろん、こちらから見かけた事もない。
次々に明るみになる矛盾に気が付いていると、不意にオパールの言葉が蘇る。
―――あたしはあんたの味方でいたいって、そう決めたから…
―――この世界のオパールは、あんたを【一番の敵】だと思ってる…
「そうか――そう言う事か…!」
町の中心にある巨大な城。
城の一番高い場所には、町全体を見渡せるバルコニーが存在する。
そこに薄いピンクと白の煌びやかなドレスを纏ったオパールがいた。
「早く捕まってよ…――でないと、あたし…!」
何時までも捕まらないリクに、焦燥を露わに手すりを握り締める。
「相変わらず、捻くれてるわね」
突然かけられた声に、ハッとなって振り返る。
バルコニーを繋ぐ、様々な煌びやかな装飾が付けられた自分の部屋。その中に、空賊であるオパールがこちらを見て立っている。
いつの間にか侵入され、姫であるオパールは思いっきり睨みつける。
「あんた…!!」
「空賊のあたしを舐めんじゃないわよ。こんな世界、あたしにとっては朝飯前なんだから」
「出てってよ!! あたしの世界から!! あんたがいたら、あたし…!!」
まるで怯える子供のように癇癪を起すと、空賊のオパールは軽く肩を竦める。
「素直になりなさいよ。そんなんじゃ…あんたが望む王子様、現れないわよ?」
「べ、別にあいつの事なんて…どうでも…!!」
「あたしはあんた。だからあんたの事は分かってる。そして、あいつの事も分かってる」
顔を赤らめつつも顔を背ける姫に、空賊は静かに語りかける。
そして、そっと胸に手を当てる。
「リクなら…“あたし”を救ってくれるって」
そう言って、リクに対しオパール自身が信頼を寄せている言葉を送る。
しかし、姫はそれが癪にさわったのか、再び睨みつけて怒鳴り出した。
「あいつにそんな事出来る訳がない!!! そもそも、あたしはそんな事これっぽっちも望んでないっ!!!」
「あっ、そぉーう。ねぇ、どうする――リク?」
「え…?」
何処かわざとらしそうに振り返る空賊に、姫は固まる。
恐る恐る姫が視線の先に目を向けると、そこには部屋の扉を開けたリクがいた。
「本当に無事だったんだな、お前」
「当ったり前でしょ。で、ここに来れたと言う事は…分かったんでしょ、この世界の事」
「ああ」
何の迷いもなく頷き、姫であるオパールへと歩き出す。
リクが近づくのを見て後ずさろうとするが、バルコニーでは逃げる事すらできない。
その間にリクは向かい合うように足を止めると、姫へと視線を向けた。
「オパール。この世界は――」
怯えを見せる彼女にそう言うと、一拍置いて答えを述べた。
「全部、《あべこべ》だな?」
リクの放った答えに、一瞬で顔色が変わりビクリと身を震わせる。
明らかに図星だと分かり、リクは続きを話す。
「俺を敵って思ってる割には、必ず誰かが助けてくれる。移動する時だって誰もいなくなっているし、この城には守る筈の兵士がいない」
現実では味方の人達が敵、敵が味方となっている。捕まえたい筈なのに、捕まえない。盗賊を目指す彼女が、一国の姫。ありとあらゆる矛盾で出来た世界。
全てが逆だと考えれば、おのずと答えが―――オパールの本音が見える。
「お前が言ってる事が逆だとすれば…――俺は【一番の味方】なんだよな?」
「…ッ…!」
大きく目を見開き、その場に蹲る姫。
知ってしまった恐怖にガタガタ震える姫の代わりに、空賊の彼女が頷いた。
「そう――この世界は現実のあたしの感情の裏返しで出来た世界。だから、この世界を収める彼女が言う事全てがあべこべなの」
こうしてネタバラシをすると、悲しそうな目で姫を見た。
「彼女は――《素直になれないあたし》だから」
■作者メッセージ
今回の話で世界の真相が分かった所で、ちょっとだけ補足を。
この話で出た世界は、言い換えれば彼女のツンデレの世界です。突き放してるように見えますが、本当はそれとは逆の事を考えてますよと言うね(笑)
なので、全て…とは行きませんが、ツンによって大部分が逆に発想されます。それでもデレの部分も存在しているので、何かとリクを助けていました。
夢さんからバトン交代も請け合ったので、急ピッチでこちらを完成出来ればと思っています。
この話で出た世界は、言い換えれば彼女のツンデレの世界です。突き放してるように見えますが、本当はそれとは逆の事を考えてますよと言うね(笑)
なので、全て…とは行きませんが、ツンによって大部分が逆に発想されます。それでもデレの部分も存在しているので、何かとリクを助けていました。
夢さんからバトン交代も請け合ったので、急ピッチでこちらを完成出来ればと思っています。