開闢の宴・外伝2-5(完結)
空賊のオパールから改めて聞かされた、彼女の正体。
未だにその場に座り込んで怯える姫のオパールに、リクは覚悟を決めて近づいた。
「オパール」
「…い…くな…」
声をかけると、小さな呟きが耳に届く。
姫がゆっくりと顔を上げると、表情が崩れる程に泣いていた。
「こんな、姿で…会いたく、無かったのに…!」
「え?」
「空賊目指してるのは、確かにあたしの姿…だけど、本当はこう言う事だって憧れてない訳じゃない…!」
この状態で嘘を吐くのは無駄だと悟っているのか、本音を吐く姫。
そんな彼女の言葉を、リクは黙って聞く。
「でも…現実のあたしを思えば、そう言うのってやっぱり変だよね…こんなの、似合わないよね…っ!」
育ちがどうだろうと、自分も一人の女だ。お城やお姫様と言った憧れを持たない訳じゃない。
しかし、戦いの中で生きてきた自分にとってそれは妄想でしかない。だから隠してきたのだ。自分の思いや本音を裏に返し、言葉や行動で表現するように。
その裏が表に返された事により、嫌われる覚悟をする姫に…リクは目線を合わせるように屈むと、優しく彼女の頭に手を置いた。
「そんな事ないさ。その服だってちゃんと似合ってる」
「リ、ク…?」
「少しは素直になったっていいんだ。どんな形だろうと、こうしてお前の事を知れるのなら俺は嬉しい」
「それ…ほん、とう…?」
恐る恐る姫が聞くと、リクは笑って頷いた。
「ああ」
「あり、がと…!! ううっ…リクゥ!!」
「うわっ!?」
嬉しくて抱き着く姫に、リクは倒れながら彼女を受け止める。
その様子を空賊が嬉しそうに見ていると、空いたままの扉からバルフレアとフランが入ってきた。
「どうやら、あの子の王子様が闇を払ったようだな」
「うん…ありがとね、二人とも」
バルフレアにお礼を言うと、フランが意味ありげに視線を送った。
「あなた…自分の世界を飛び出してでも、彼に会いたかった?」
「だって、こうでもしないと会えないから…」
何処か寂しそうに答えると、再び姫に抱き着かれたリクに顔を向ける。
「出来れば、リクをあたしの世界にまで招きたい。でも…今のままじゃ駄目って事も、分かってる」
「あなたは本来奥深い場所にいる。そこに彼が行くためには――」
「あたしの気持ち伝えないといけない…そして、その気持ちに答えてくれないといけない」
心の奥深くにある深層意識となれば、信頼するだけの人では駄目なのだ。
信頼し、信頼され…それそこ、共に生涯を歩むと誓ったパートナーでないと危険が生じる。
だが、彼にはもう相手がいる。胸の内を明かしても…――片思いの鍵では、奥へと続く心の扉は開かない。
「きっと、あいつがあたしの世界に来る事は出来ないから…これだけでも、満足しなきゃ」
そう言った彼女の表情は笑っている筈なのに、とても悲しそうだった…。
その後、俺は姫と別れて空賊の彼女に連れられて巨大な城壁の門へと来ていた。
城壁の門はいつの間にか開けられ、先は眩い光で包まれている。空賊曰く、ここから元の世界に帰れるとの事だ。
「すまないな、いろいろ助けて貰って」
「ううん、気にしないでよ。そもそも、これはあたしが招いた事だし」
「そうなのか?」
「あたしはオパールの《好奇心》を司る人格なの。人を成長させる要素でもあるんだけど、こう言ったトラブルを起こしたりもするから」
頬を掻き、苦笑を浮かべる空賊。少しは悪いと思っているらしい。
改めて後ろにある街を視界に納め、様々な騒動を思い出す。全てが反対だと分かった今は、その騒動も何処か嬉しく思う。
と、不意にある事を思い出した。
「どうしたの?」
「なあ…この世界では味方が敵になるんだよな?」
この質問に、彼女は何をいきなりと言う顔をされる。
だが、そうなると一つだけ気がかりな事があった。
「リリィの事…敵って思ってるのか?」
直後、彼女の顔色があからさまに変わる。
思わず目を細めると、彼女は顔を隠す様に俺から背けた。
「…そんなんじゃ、ないわよ」
「だったら、どうして中立の立場を取ってるんだ? 本当に友達だと思ってるなら、そんな曖昧な存在には――」
「あんたには分かんないわよっ!!!」
追及する途中で、思いっきり怒鳴りつける。
さすがにこれ以上言葉を紡げずに口を閉ざすと、彼女は顔を背けたまま呟いた。
「――リリィの事、ちゃんと友達には思ってる。それは嘘じゃないから安心して」
「でも…」
「この話はもう終わり!! さっさと帰りなさいっ!!!」
「うおぁ!?」
突然振り返るなり、力の限り門の中へと俺を突き飛ばす。
門の先にある光に包まれ、視界が一瞬で白へと染まり出す。
床が無いのか身体がゆっくりと下降する中、微かに声が聞こえた。
…バカ…
何処か泣きそうな声を最後に、意識が光の中へと沈んだ。
頭の中に、機械の様な無機質な声が響く。
ついさっき聞いたような音と共に、ゆっくりと瞼を開いた。
「――ん…」
まず初めに視界に映ったのは、横へとスライドして開かれていくガラスのような装甲だ。
そっと自分の顔に手を当てると、元の少年で無くアンセムの顔へと戻っている。
戻って来たのだと実感していると、この城の主であるアイネアスが顔を覗かせた。
「目覚めたか?」
「ここは…?」
「現実の世界だ。無事に彼女の心の世界から戻って来たようだな」
「なっ!? どうしてそれを…!!」
自分が体験してきた事を知っているアイネアスに、思わず起き上がりながら疑問をぶつける。
「その話は、こっちで聞いて頂戴」
続いての第三者の声が聞こえ、急いで目を向ける。
そこには、ニコニコと笑顔を浮かべるサイキと、彼女の傍で正座して俯いているオパールがいた。遠く離れた場所では一緒に作業していたキルレストとベルフェゴル、チェルとイブが何とも言い難い表情の顔を背けている。
「オ、オパール…」
元の衣装に戻っているオパールに声をかけると、やつれてた顔でこちらを見上げる。
立ち位置や表情から察するに、恐らく説教を受けていたのだろう。そう理解し、恐る恐るポッドとなる場所から身を起こしてアイネアスと共にサイキの元へと歩いて行った。
「さて…まずは、どこから説明しましょうか」
正座するオパールの横に立ち、ニコニコしながら考えているサイキの言葉を緊張の面付きで待つ。
やがて考えが纏まったのか、サイキが説明を始めた。
「元々、私達【レーヴァテイル】と言う種族には深層意識で作られた精神世界があるの。その世界に他者がダイブして、さまざまな心の問題を解決する事によって詩(うた)を使った魔法を強化したり新たに紡ぎだしたりする事が出来るの」
「だが、深層世界の奥深くに行ける程の信頼できる人はそう簡単には見つからない。そう言ったレーヴァテイルの為に、この機械――通称『ダイブマシン』を作ったんだ。ある程度信じられる人なら、多少は心の問題を解決して詩魔法を作ったり強化する事も出来るからな」
「だけどある時、レーヴァテイルじゃない一人の女性が私達に提案してきたの。『普通の人間でも、この機械を使って精神世界を見せる事は出来ないのか?』って。最初は戸惑ったけど、いろいろやって普通の人間でも精神世界にダイブ出来るように改造したって訳」
「今は使い道も無くなり、このモノマキアに封じたんだが…――まさか、こうして抉じ開けられるとはな…」
説明が終わると共に、ギロリと蛇の如く睨むアイネアス。
この視線に居た堪れなくなったのか、オパールも俺も頭を下げた。
「ごめんなさい…」
「すいません、俺が止められなかったばっかりに…」
「何よそれ! あたし一人が悪いみたいじゃない!」
「忍び込もうとしたんだから当然だろ?」
「リクだってキーブレード使って協力してくれたくせにー!」
正論をぶつけているのに、オパールは喧嘩腰になって反論してくる。
こんな状態でも負けん気の彼女に溜息を吐いていると、サイキはニコニコした状態でアイネアスを見た。
「どうやら、オパールにはもう少しお説教が必要みたいね。アイネアス、お願い」
「ああ」
「えええぇぇーーーーーーーーーっ!!?」
説教続行を言い渡され、絶叫を上げるオパール。
自業自得だと心の中で呟いていると、急にサイキが腕を掴んだ。
「あなたにも、少しだけ注意する事があるわ。こっちにいらっしゃい」
そう言うと腕を引っ張られ、オパールたちを残して部屋を出ていく。
そうして廊下に出ると、サイキは手を放して真剣な表情で向かい合った。
「あなたが体験した精神世界の事だけど、他言厳禁にしておいて頂戴。本人にも出来るだけ詳しく聞かせないようにね」
「どうして?」
「逆に聞くけど、あなたの心の中を他人が言いふらしたりすれば傷ついたりしない? 自分でも知らないのに、こんな世界だったって事細かに話したら嫌な気分になったりしないかしら?」
心の中。それは言い換えれば本当の自分の姿。
誰しも隠したい事や見せたくない事がある。それは、オパールの世界で先程体験したばかりだ。
これには反省を浮かべ、すぐに頭を下げた。
「…分かりました。絶対に話しません」
「そんなに気構えないで。もし本人が聞いたら、差当りない感じで答えればいいから」
真面目な俺に優しく言うと、サイキは何処か嬉しそうに笑った。
「あの子の精神世界に行けたと言う事は、それほど信頼されている証拠よ。どんな形であれ、広い世界の中で出会えたと言う奇跡を大切にしてね」
最後にそう言うと、サイキは俺から離れ機械のある部屋へと戻っていく。
一人この場に残され、今言われた言葉を思い返した。
「広い世界の中で出会えた、か…」
外の世界を飛び出して最初に出会ったのは、闇に魅入られ利用しようとした奴らばかり。
それでも、王様やナミネやアクセルに出会えた。ソラみたいに数は多くないが…数少ないからこそ、大事な出会いとなっている。
そして今、この事件で沢山の仲間が出来た。これがなければ、俺はオパールと…リリィとも出会う事などなかったかもしれない。
「もうだめぇ〜…」
噂をすれば何とやらか。ふらついた足取りでオパールが部屋から出てきた。
「オパール、説教は終わったのか?」
「どうにかね…――それよりリク…今回はさすがにあたしが悪かったわ、ごめん…」
開口切るなり、いきなりオパールは頭を下げる。
さっきまでの喧嘩口調とは反対の行動に、思わず目を丸くしていた。
「な、なによ…!?」
「いや、やけに素直だなと思って…」
「あ、うん…何かよく分からないんだけど、ちょっとは素直になってみようかなって…」
頬を掻き、何処か恥ずかしそうに目を逸らすオパール。
精神世界での心の解消は、確かに現実世界の彼女に影響を齎しているようだ。
表情に出さない様に笑っていると、オパールが不安げにこちらを見てきた。
「ねぇ…リク」
「なんだ?」
「あたしの、心の中って…どんな感じだったの? へ、変じゃなかった…!?」
自分の心が知りたいようで、じっとこちらを見上げる。
だが、葛藤が見え隠れする声色に、先程のサイキの説明を思い出しながら口を開く。
「そうだな…」
出来るだけ彼女がショックを受けないようオブラートで包むような答えを考えて、自分なりの回答を放った。
「一国の姫で、とても綺麗だったぞ」
直後、何故かオパールの空気が凍った気がした。
「――ろ…」
「ん?」
「忘れろぉ!!! むしろその記憶消えろぉぉぉ!!?」
「い、いだだだぁ!!? オイ髪を引っ張るな!? 千切れるぅぅぅ!!?」
悲鳴を上げながら、心に誓った。
誰であろうと、今後は絶対に心の世界の事は口にしないと。
未だにその場に座り込んで怯える姫のオパールに、リクは覚悟を決めて近づいた。
「オパール」
「…い…くな…」
声をかけると、小さな呟きが耳に届く。
姫がゆっくりと顔を上げると、表情が崩れる程に泣いていた。
「こんな、姿で…会いたく、無かったのに…!」
「え?」
「空賊目指してるのは、確かにあたしの姿…だけど、本当はこう言う事だって憧れてない訳じゃない…!」
この状態で嘘を吐くのは無駄だと悟っているのか、本音を吐く姫。
そんな彼女の言葉を、リクは黙って聞く。
「でも…現実のあたしを思えば、そう言うのってやっぱり変だよね…こんなの、似合わないよね…っ!」
育ちがどうだろうと、自分も一人の女だ。お城やお姫様と言った憧れを持たない訳じゃない。
しかし、戦いの中で生きてきた自分にとってそれは妄想でしかない。だから隠してきたのだ。自分の思いや本音を裏に返し、言葉や行動で表現するように。
その裏が表に返された事により、嫌われる覚悟をする姫に…リクは目線を合わせるように屈むと、優しく彼女の頭に手を置いた。
「そんな事ないさ。その服だってちゃんと似合ってる」
「リ、ク…?」
「少しは素直になったっていいんだ。どんな形だろうと、こうしてお前の事を知れるのなら俺は嬉しい」
「それ…ほん、とう…?」
恐る恐る姫が聞くと、リクは笑って頷いた。
「ああ」
「あり、がと…!! ううっ…リクゥ!!」
「うわっ!?」
嬉しくて抱き着く姫に、リクは倒れながら彼女を受け止める。
その様子を空賊が嬉しそうに見ていると、空いたままの扉からバルフレアとフランが入ってきた。
「どうやら、あの子の王子様が闇を払ったようだな」
「うん…ありがとね、二人とも」
バルフレアにお礼を言うと、フランが意味ありげに視線を送った。
「あなた…自分の世界を飛び出してでも、彼に会いたかった?」
「だって、こうでもしないと会えないから…」
何処か寂しそうに答えると、再び姫に抱き着かれたリクに顔を向ける。
「出来れば、リクをあたしの世界にまで招きたい。でも…今のままじゃ駄目って事も、分かってる」
「あなたは本来奥深い場所にいる。そこに彼が行くためには――」
「あたしの気持ち伝えないといけない…そして、その気持ちに答えてくれないといけない」
心の奥深くにある深層意識となれば、信頼するだけの人では駄目なのだ。
信頼し、信頼され…それそこ、共に生涯を歩むと誓ったパートナーでないと危険が生じる。
だが、彼にはもう相手がいる。胸の内を明かしても…――片思いの鍵では、奥へと続く心の扉は開かない。
「きっと、あいつがあたしの世界に来る事は出来ないから…これだけでも、満足しなきゃ」
そう言った彼女の表情は笑っている筈なのに、とても悲しそうだった…。
その後、俺は姫と別れて空賊の彼女に連れられて巨大な城壁の門へと来ていた。
城壁の門はいつの間にか開けられ、先は眩い光で包まれている。空賊曰く、ここから元の世界に帰れるとの事だ。
「すまないな、いろいろ助けて貰って」
「ううん、気にしないでよ。そもそも、これはあたしが招いた事だし」
「そうなのか?」
「あたしはオパールの《好奇心》を司る人格なの。人を成長させる要素でもあるんだけど、こう言ったトラブルを起こしたりもするから」
頬を掻き、苦笑を浮かべる空賊。少しは悪いと思っているらしい。
改めて後ろにある街を視界に納め、様々な騒動を思い出す。全てが反対だと分かった今は、その騒動も何処か嬉しく思う。
と、不意にある事を思い出した。
「どうしたの?」
「なあ…この世界では味方が敵になるんだよな?」
この質問に、彼女は何をいきなりと言う顔をされる。
だが、そうなると一つだけ気がかりな事があった。
「リリィの事…敵って思ってるのか?」
直後、彼女の顔色があからさまに変わる。
思わず目を細めると、彼女は顔を隠す様に俺から背けた。
「…そんなんじゃ、ないわよ」
「だったら、どうして中立の立場を取ってるんだ? 本当に友達だと思ってるなら、そんな曖昧な存在には――」
「あんたには分かんないわよっ!!!」
追及する途中で、思いっきり怒鳴りつける。
さすがにこれ以上言葉を紡げずに口を閉ざすと、彼女は顔を背けたまま呟いた。
「――リリィの事、ちゃんと友達には思ってる。それは嘘じゃないから安心して」
「でも…」
「この話はもう終わり!! さっさと帰りなさいっ!!!」
「うおぁ!?」
突然振り返るなり、力の限り門の中へと俺を突き飛ばす。
門の先にある光に包まれ、視界が一瞬で白へと染まり出す。
床が無いのか身体がゆっくりと下降する中、微かに声が聞こえた。
…バカ…
何処か泣きそうな声を最後に、意識が光の中へと沈んだ。
頭の中に、機械の様な無機質な声が響く。
ついさっき聞いたような音と共に、ゆっくりと瞼を開いた。
「――ん…」
まず初めに視界に映ったのは、横へとスライドして開かれていくガラスのような装甲だ。
そっと自分の顔に手を当てると、元の少年で無くアンセムの顔へと戻っている。
戻って来たのだと実感していると、この城の主であるアイネアスが顔を覗かせた。
「目覚めたか?」
「ここは…?」
「現実の世界だ。無事に彼女の心の世界から戻って来たようだな」
「なっ!? どうしてそれを…!!」
自分が体験してきた事を知っているアイネアスに、思わず起き上がりながら疑問をぶつける。
「その話は、こっちで聞いて頂戴」
続いての第三者の声が聞こえ、急いで目を向ける。
そこには、ニコニコと笑顔を浮かべるサイキと、彼女の傍で正座して俯いているオパールがいた。遠く離れた場所では一緒に作業していたキルレストとベルフェゴル、チェルとイブが何とも言い難い表情の顔を背けている。
「オ、オパール…」
元の衣装に戻っているオパールに声をかけると、やつれてた顔でこちらを見上げる。
立ち位置や表情から察するに、恐らく説教を受けていたのだろう。そう理解し、恐る恐るポッドとなる場所から身を起こしてアイネアスと共にサイキの元へと歩いて行った。
「さて…まずは、どこから説明しましょうか」
正座するオパールの横に立ち、ニコニコしながら考えているサイキの言葉を緊張の面付きで待つ。
やがて考えが纏まったのか、サイキが説明を始めた。
「元々、私達【レーヴァテイル】と言う種族には深層意識で作られた精神世界があるの。その世界に他者がダイブして、さまざまな心の問題を解決する事によって詩(うた)を使った魔法を強化したり新たに紡ぎだしたりする事が出来るの」
「だが、深層世界の奥深くに行ける程の信頼できる人はそう簡単には見つからない。そう言ったレーヴァテイルの為に、この機械――通称『ダイブマシン』を作ったんだ。ある程度信じられる人なら、多少は心の問題を解決して詩魔法を作ったり強化する事も出来るからな」
「だけどある時、レーヴァテイルじゃない一人の女性が私達に提案してきたの。『普通の人間でも、この機械を使って精神世界を見せる事は出来ないのか?』って。最初は戸惑ったけど、いろいろやって普通の人間でも精神世界にダイブ出来るように改造したって訳」
「今は使い道も無くなり、このモノマキアに封じたんだが…――まさか、こうして抉じ開けられるとはな…」
説明が終わると共に、ギロリと蛇の如く睨むアイネアス。
この視線に居た堪れなくなったのか、オパールも俺も頭を下げた。
「ごめんなさい…」
「すいません、俺が止められなかったばっかりに…」
「何よそれ! あたし一人が悪いみたいじゃない!」
「忍び込もうとしたんだから当然だろ?」
「リクだってキーブレード使って協力してくれたくせにー!」
正論をぶつけているのに、オパールは喧嘩腰になって反論してくる。
こんな状態でも負けん気の彼女に溜息を吐いていると、サイキはニコニコした状態でアイネアスを見た。
「どうやら、オパールにはもう少しお説教が必要みたいね。アイネアス、お願い」
「ああ」
「えええぇぇーーーーーーーーーっ!!?」
説教続行を言い渡され、絶叫を上げるオパール。
自業自得だと心の中で呟いていると、急にサイキが腕を掴んだ。
「あなたにも、少しだけ注意する事があるわ。こっちにいらっしゃい」
そう言うと腕を引っ張られ、オパールたちを残して部屋を出ていく。
そうして廊下に出ると、サイキは手を放して真剣な表情で向かい合った。
「あなたが体験した精神世界の事だけど、他言厳禁にしておいて頂戴。本人にも出来るだけ詳しく聞かせないようにね」
「どうして?」
「逆に聞くけど、あなたの心の中を他人が言いふらしたりすれば傷ついたりしない? 自分でも知らないのに、こんな世界だったって事細かに話したら嫌な気分になったりしないかしら?」
心の中。それは言い換えれば本当の自分の姿。
誰しも隠したい事や見せたくない事がある。それは、オパールの世界で先程体験したばかりだ。
これには反省を浮かべ、すぐに頭を下げた。
「…分かりました。絶対に話しません」
「そんなに気構えないで。もし本人が聞いたら、差当りない感じで答えればいいから」
真面目な俺に優しく言うと、サイキは何処か嬉しそうに笑った。
「あの子の精神世界に行けたと言う事は、それほど信頼されている証拠よ。どんな形であれ、広い世界の中で出会えたと言う奇跡を大切にしてね」
最後にそう言うと、サイキは俺から離れ機械のある部屋へと戻っていく。
一人この場に残され、今言われた言葉を思い返した。
「広い世界の中で出会えた、か…」
外の世界を飛び出して最初に出会ったのは、闇に魅入られ利用しようとした奴らばかり。
それでも、王様やナミネやアクセルに出会えた。ソラみたいに数は多くないが…数少ないからこそ、大事な出会いとなっている。
そして今、この事件で沢山の仲間が出来た。これがなければ、俺はオパールと…リリィとも出会う事などなかったかもしれない。
「もうだめぇ〜…」
噂をすれば何とやらか。ふらついた足取りでオパールが部屋から出てきた。
「オパール、説教は終わったのか?」
「どうにかね…――それよりリク…今回はさすがにあたしが悪かったわ、ごめん…」
開口切るなり、いきなりオパールは頭を下げる。
さっきまでの喧嘩口調とは反対の行動に、思わず目を丸くしていた。
「な、なによ…!?」
「いや、やけに素直だなと思って…」
「あ、うん…何かよく分からないんだけど、ちょっとは素直になってみようかなって…」
頬を掻き、何処か恥ずかしそうに目を逸らすオパール。
精神世界での心の解消は、確かに現実世界の彼女に影響を齎しているようだ。
表情に出さない様に笑っていると、オパールが不安げにこちらを見てきた。
「ねぇ…リク」
「なんだ?」
「あたしの、心の中って…どんな感じだったの? へ、変じゃなかった…!?」
自分の心が知りたいようで、じっとこちらを見上げる。
だが、葛藤が見え隠れする声色に、先程のサイキの説明を思い出しながら口を開く。
「そうだな…」
出来るだけ彼女がショックを受けないようオブラートで包むような答えを考えて、自分なりの回答を放った。
「一国の姫で、とても綺麗だったぞ」
直後、何故かオパールの空気が凍った気がした。
「――ろ…」
「ん?」
「忘れろぉ!!! むしろその記憶消えろぉぉぉ!!?」
「い、いだだだぁ!!? オイ髪を引っ張るな!? 千切れるぅぅぅ!!?」
悲鳴を上げながら、心に誓った。
誰であろうと、今後は絶対に心の世界の事は口にしないと。
■作者メッセージ
これにて、ようやく二つ目の外伝が終わりです。いやぁ…元ネタが元ネタだけに、結構話が長かった…。
外伝も終わった事で、ようやく本編に打ち込めます。R企画も書かないといけませんが、本編の方に集中するんでそっちは更新が停滞気味になってしまいます…楽しみにしてる方がいるのでしたらすみません。
外伝も終わった事で、ようやく本編に打ち込めます。R企画も書かないといけませんが、本編の方に集中するんでそっちは更新が停滞気味になってしまいます…楽しみにしてる方がいるのでしたらすみません。