バレンタインデーinKHχ
曙光きらめく街、デイブレイクタウン。
日々世界の為に光を集めるキーブレード使いの拠点の街ではあるが、祝い事のある日は広場全体が祝いの色に染まる。今はバレンタインと言う事もあって、噴水の水がチョコレートになっておりハートのオブジェで彩っている。
そんなバレンタインの当日。この日の主役である女性は、いつも以上に頑張っていた。
「はああああぁ!!」
「いっけぇ!!」
「どりゃぁー!!」
「もう許しませんっ!!」
「いい加減に消えなさい!!」
現在進行形で。
別の意味で。
街の中で、アクア、シオン、オパール、レイア、スピカが暴れている……基、マカロン型や花束型のハートレスに猛攻撃を繰り出していた。
彼女達の怒りの攻撃に、ハートレスは闇へと消えてしまう。だが、消えると同時にさまざまなハートのようなお菓子が地面に散らばっていた。
「はぁ、はぁ…カイリ、リリィ! チョコは!?」
すぐさまオパールが指示を出すと、待機していたカイリとリリィが駆け寄って落ちているハートを調べ出す。
「うーん、全部違うみたい」
「似てるけど、これじゃない…どうしよう、もう時間が」
「みんなー!」
その時、屋根の上から黒い影が飛び降りる。
現れたのは、手裏剣を抱えたユフィ。その横の道からエアリスが小走りでやってきた。
「ユフィ、エアリス! 見つかった!?」
「だーめ。あっちのハートレス討伐したけど、変なのしか落とさないよ」
声をかけるオパールに首を振りながら答えるユフィ。
目的の物が見つからず誰もが不安そうな顔つきになっていると、エアリスが優しく笑いかけた。
「大丈夫。みんな集まるまで、まだ時間があるよ」
「そうね…ハートレスの数は着々と減っているわ。なんとしてでも私達のチョコを見つけるのよ!!」
『『『おーっ!!』』』
続く様にアクアも声を上げると、全員が掛け声を上げる。
そうして、次なるハートレスを探す為に走り去った。
街の噴水広場にあるモーグリの店。
時たまキーブレード使いのたまり場にもなる少し薄暗い店の中で、男性陣達が集まっていた。
「「ハートのお菓子?」」
ソラとヴェンが首を傾げながら訊くと、テーブルに座っているルキルとウィドが一枚のチラシを見ながら話し出した。
「ああ。今このデイブレイクタウンは、バレンタインって事で特殊なハートレスからハートのお菓子が出るらしいんだ」
「それをある場所に持っていくとちょっとしたクジが引けると言う事で、住民達はハートレス退治に勤しんでいる訳です」
最後にウィドが補足を言いながら説明を終えると、近くで話を聞いていたリクが腕を組みながら会話に入る。
「でもなんで、ハートレスがそんな物を持っているんだ?」
「言われてみれば…」
マニーや素材・回復アイテムを落とすのは知っているが、お菓子を落とすと言うのは初耳だ。この事についてソラも考えていると、別のテーブルに座っているクウが笑いながら人差し指を立てた。
「案外、心と間違えて女の子手作りのハート型お菓子を盗んだりしてな」
「そうか。こういう日に作るお菓子はみんな心を込めて作るものだからな…」
「テラ、これ冗談で言ってるからな?」
向かい側で納得して頷くテラに、クウは不安そうにツッコミを入れた。
一方、女性陣はと言うと―――
「それにしても、私達が作ったチョコを盗むなんて!」
「全くよ! 見た目は美味しそうだったり華やかなクセして、とんでもない強敵だし!」
「今年はテラとヴェンだけじゃなく、みんなに用意していたのに…こうなったら一匹残らず駆逐してやるわ!!」
怒り心頭と言った表情でカイリ、オパール、アクアがズカズカと先頭を歩いている。どうやら、クウの出まかせに吐いた嘘は本当だったようだ。
そんな彼女達の後ろを、シオン達が落ち込みながら後をついていた。
「あたしも出番の事があるからみんなに作ったのに…日本酒入りウスターソース和えのチョコ」
「うんうん。私も再建委員会のみんなに野菜や魚をふんだんに練り込んだ健康チョコを作り上げたのに」
「私だって、クウの為だけに特製の激辛チョコ作ったのよ…クウって、甘い物苦手なんだから」
「ま、負けてませんよスピカさん!! 私だって、クウさんに渡す前に辛い物をたっぷりと加えれば…!!」
スピカの呟きに、レイアは慌てながら恐ろしい思考を脳内に繰り広げている。
この殺人料理人の彼女達の会話に、リリィは冷や汗を垂らしながら隣にいるユフィに目配せをした。
「…ねえ。もしかしてだけど、シオンとエアリスさんとスピカさんのチョコでハートレス消えてるとかないかな?」
「ありえそうだから怖いね…」
料理人の一人が身内であるユフィも、否定出来ずに口の端を引く付かせてしまう。
その時、建物の中にある階段の所にハートレスが屯っているのが見えてユフィは大声を上げる。
「いたよ、ハートレス!」
「カイリ、リリィ、ポーションの準備はいいわね! 今度こそっ!」
先頭にいた事もあり、我先にとアクアはキーブレードを構えて突っ込む。
それを合図に、戦えるメンバーもまたハートレスへと勝負を挑んでいった。
街は明るいと言うのに、一角はどう言う訳か白い靄が深く一面が真っ白に見える。
その場所で、一人の少女が全身チョコレートで出来た悪魔のハートレスと戦っていた。
「あーもー! こいつ、どれだけ体力有り余ってんだよ!」
フレイアは苛立って叫びながら、ハートレスから一旦距離を取る。
かれこれ殴る、蹴るなどの攻撃を10分くらい繰り出しているにも関わらず、目の前のハートレスは倒れる素振りすら見せていない。
さすがにポーションも残り僅かとなり、諦めかけた時だった。
「ノーブルハーツ!」
突然誰かが間に割り込むなり、ハートを描く様に桃色の斬撃をハートレスにお見舞いする。
その攻撃が効いたのが、ハートレスは大量のハート型お菓子をばら撒いて消えていった。
「大丈夫?」
そう言ってフレイアに声をかけたのは、髪飾りを付けた長めの銀色の髪に袴と振袖の和服。そして首には白いファーを巻き、右目に黒い眼帯を付けた少女だった。
「あ、あぁ。助かったよ。あんた、キーブレード持ってるけど…もしかしてここの住人?」
「あー、えーと……もしかしてこのチョコ、ハートレスに取られた奴?」
目を逸らすなり、少女は地面に落ちていたチョコを拾ってフレイアに差し出す。
本来の目的の物に、フレイアは安堵しながらチョコを受け取った。
「ああ、ありがとね。やっと家族に作ったチョコを取り戻せたよ」
「気にしないでよ。ボ…自分もこのチョコ、取り戻したかったから」
少女は笑いかけると、キーブレードを消して未だに地面に落ちていたハート型のチョコを拾い集め出した。
「それ、あんたの? 随分多いじゃないか」
「ううん。ハートレスに取られたの、知り合いの分なんだ――本命はちゃんと自分で持ってるから」
「本命か…羨ましいね、そう言う相手がいるって。あー、チョコレートでベトベトになってら。後でラッピングの袋交換しないと――そういや、あんた。名前は?」
ここで思い出したようにフレイアが顔を上げて問いかける。
だが、地面に散らばっていたチョコと一緒に少女の姿は消えていた。
「いない…?」
「さて、集合時間まであと少しですね」
店の中でウィドが時間を確認していると、ソラもこの世界に来た理由を思い出す。
「えーと、カイリ達とは臨海公園で待ち合わせだったよな? もう行く?」
「ソラ、気が早すぎるぞ」
チョコが待ちきれずにそわそわするソラに、すかさずリクが注意する。
集合時間まで少しとは言え、集合場所の臨海公園はここからそう遠くない。もう少しだけこの店で時間を潰そうと決めていると、店の扉が開いた。
「すみませーん――あ、いたいた」
入口から銀髪に眼帯を付けた和服姿の少女が入ってくると、なぜかソラ達の方へと歩み寄った。
「えーと、誰?」
「実はこれ…道端に落ちていて届けに来たんです。あなた達のチョコみたいなので、渡しておきます」
「俺達に?」
見知らぬ少女が差し出した何かを詰めた袋を、テラは不思議そうに受け取る。
それをテーブルに置いて袋の口を開くと、中にはさまざまなハート型のチョコが入っていた。
「すっごーい! チョコの山だー!」
「本当だ! ちゃんと俺達の名前が書いてある!」
「どうやら、アクア達が私達に作ったチョコみたいですね」
大量のチョコにソラとヴェンがはしゃぐ中、誰が作ったチョコなのかをウィドが見抜いた。
どれも美味しそうなハートのチョコだが、ラッピンクされているチョコの中には何やら暗黒物質のような物も混ざっている。
「一部、何か禍々しい物が入っている気が…?」
「見るな…直視したら負けだ…」
明らかに食べ物ではないチョコにリクが怯んでいると、ルキルは見慣れているのか遠い目で肩を叩く。
こうして一足早く渡されたバレンタインチョコにみんなが騒ぐが、甘い物を好まない事もあり少し離れた場所でクウはその光景を眺めている。
自分と同じく甘い物は好まないテラがヴェンと一緒に話しているのを見ていると、チョコを届けてくれた少女が徐に声をかけた。
「あの、コートにゴミが付いてるよ」
「ゴミ?」
「ほら、ここ」
そう言うと、少女はコートの襟元を握る。
直後、襟元を広げると同時にコートの内ポケットに素早く何かを入れた。
「え…」
思わず声を上げようとするが、少女は爪先を伸ばして顔を近づけるとクウの唇に人差し指を当てて口を塞いだ。
(内緒だよ)
他の人には聞こえない様に笑顔を浮かべて呟くと、少女は小走りで店の奥にある階段を上ってその場から去っていく。
引き止める事も、声をかける事も出来ずにクウはそっと少女の指が当てられた唇を触る。そうして唇をなぞっていると、テラが近づいてきた。
「クウ、どうした?」
「――ん、何でもねぇ! さーて、どうせこのチョコ女性陣達が作った奴だろ! さっさと食べようぜっ!!」
まるで話を逸らす様にクウはテーブルに置いてあるチョコの一つを手に取ると、さっさと袋を開けて口の中に放り込んだ。
「待て、クウ!! それは明らかに毒物「げはぁ!?」クウーーーーーーーーーーーーっ!!?」
「おい、泡吹いてるぞ!?」
暗黒物質チョコを食べた瞬間その場に倒れるクウに、テラだけでなくルキルまで悲鳴を上げる。
このままでは死んでしまうと、ソラとヴェンがカウンターにいるモーグリへと駆け寄った。
「わー! エリクサーないか!」
「フェニックスの尾くださーい!」
「そんなもの売ってないクポ」
モーグリが冷静にツッコミを入れるが、もうそれ所では無い。
倒れたクウに回復魔法をかけたり心肺蘇生を行ったりと店の中がパニックに陥ってしまうが、ふとウィドは辺りを見回した。
「そう言えばあの子、なぜ私達の事を知っていたんでしょうか?」
急に騒がしくなった喧騒を聞きながら、少女は階段を上がって屋根裏部屋へと辿り着く。更に奥にある階段を上りながら、少女は人知れず笑みを浮かべる。
「今はまだ無理だけど、もうすぐ会えるから」
自分が彼らの事を知っていても、まだ物語の中に、彼らの中には存在しない。それ故表立った交流を持つ事も不可能だ。
だけど、今日は女性にとって特別な日。だからこそ、一足先に想いを渡したかった。
階段を上り終えると、開いている窓に近づく。そこで右目に付けている眼帯を外し、頭の髪飾りを外すとその場に捨てる。
少女は窓から飛び降りて屋根の上に降りると、振り返って笑顔を見せた。
「ハッピーバレンタイン♪」
今日が良い日であった事を思いながら、少女は人知れず店から去って行った。
直後、街の一角で激しい爆発を目撃した。
「あ、あっちの事忘れてた…」
今も尚チョコを取り戻そうと戦っている人達を思い出し、屋根の上で冷や汗を垂らす少女だった。
日々世界の為に光を集めるキーブレード使いの拠点の街ではあるが、祝い事のある日は広場全体が祝いの色に染まる。今はバレンタインと言う事もあって、噴水の水がチョコレートになっておりハートのオブジェで彩っている。
そんなバレンタインの当日。この日の主役である女性は、いつも以上に頑張っていた。
「はああああぁ!!」
「いっけぇ!!」
「どりゃぁー!!」
「もう許しませんっ!!」
「いい加減に消えなさい!!」
現在進行形で。
別の意味で。
街の中で、アクア、シオン、オパール、レイア、スピカが暴れている……基、マカロン型や花束型のハートレスに猛攻撃を繰り出していた。
彼女達の怒りの攻撃に、ハートレスは闇へと消えてしまう。だが、消えると同時にさまざまなハートのようなお菓子が地面に散らばっていた。
「はぁ、はぁ…カイリ、リリィ! チョコは!?」
すぐさまオパールが指示を出すと、待機していたカイリとリリィが駆け寄って落ちているハートを調べ出す。
「うーん、全部違うみたい」
「似てるけど、これじゃない…どうしよう、もう時間が」
「みんなー!」
その時、屋根の上から黒い影が飛び降りる。
現れたのは、手裏剣を抱えたユフィ。その横の道からエアリスが小走りでやってきた。
「ユフィ、エアリス! 見つかった!?」
「だーめ。あっちのハートレス討伐したけど、変なのしか落とさないよ」
声をかけるオパールに首を振りながら答えるユフィ。
目的の物が見つからず誰もが不安そうな顔つきになっていると、エアリスが優しく笑いかけた。
「大丈夫。みんな集まるまで、まだ時間があるよ」
「そうね…ハートレスの数は着々と減っているわ。なんとしてでも私達のチョコを見つけるのよ!!」
『『『おーっ!!』』』
続く様にアクアも声を上げると、全員が掛け声を上げる。
そうして、次なるハートレスを探す為に走り去った。
街の噴水広場にあるモーグリの店。
時たまキーブレード使いのたまり場にもなる少し薄暗い店の中で、男性陣達が集まっていた。
「「ハートのお菓子?」」
ソラとヴェンが首を傾げながら訊くと、テーブルに座っているルキルとウィドが一枚のチラシを見ながら話し出した。
「ああ。今このデイブレイクタウンは、バレンタインって事で特殊なハートレスからハートのお菓子が出るらしいんだ」
「それをある場所に持っていくとちょっとしたクジが引けると言う事で、住民達はハートレス退治に勤しんでいる訳です」
最後にウィドが補足を言いながら説明を終えると、近くで話を聞いていたリクが腕を組みながら会話に入る。
「でもなんで、ハートレスがそんな物を持っているんだ?」
「言われてみれば…」
マニーや素材・回復アイテムを落とすのは知っているが、お菓子を落とすと言うのは初耳だ。この事についてソラも考えていると、別のテーブルに座っているクウが笑いながら人差し指を立てた。
「案外、心と間違えて女の子手作りのハート型お菓子を盗んだりしてな」
「そうか。こういう日に作るお菓子はみんな心を込めて作るものだからな…」
「テラ、これ冗談で言ってるからな?」
向かい側で納得して頷くテラに、クウは不安そうにツッコミを入れた。
一方、女性陣はと言うと―――
「それにしても、私達が作ったチョコを盗むなんて!」
「全くよ! 見た目は美味しそうだったり華やかなクセして、とんでもない強敵だし!」
「今年はテラとヴェンだけじゃなく、みんなに用意していたのに…こうなったら一匹残らず駆逐してやるわ!!」
怒り心頭と言った表情でカイリ、オパール、アクアがズカズカと先頭を歩いている。どうやら、クウの出まかせに吐いた嘘は本当だったようだ。
そんな彼女達の後ろを、シオン達が落ち込みながら後をついていた。
「あたしも出番の事があるからみんなに作ったのに…日本酒入りウスターソース和えのチョコ」
「うんうん。私も再建委員会のみんなに野菜や魚をふんだんに練り込んだ健康チョコを作り上げたのに」
「私だって、クウの為だけに特製の激辛チョコ作ったのよ…クウって、甘い物苦手なんだから」
「ま、負けてませんよスピカさん!! 私だって、クウさんに渡す前に辛い物をたっぷりと加えれば…!!」
スピカの呟きに、レイアは慌てながら恐ろしい思考を脳内に繰り広げている。
この殺人料理人の彼女達の会話に、リリィは冷や汗を垂らしながら隣にいるユフィに目配せをした。
「…ねえ。もしかしてだけど、シオンとエアリスさんとスピカさんのチョコでハートレス消えてるとかないかな?」
「ありえそうだから怖いね…」
料理人の一人が身内であるユフィも、否定出来ずに口の端を引く付かせてしまう。
その時、建物の中にある階段の所にハートレスが屯っているのが見えてユフィは大声を上げる。
「いたよ、ハートレス!」
「カイリ、リリィ、ポーションの準備はいいわね! 今度こそっ!」
先頭にいた事もあり、我先にとアクアはキーブレードを構えて突っ込む。
それを合図に、戦えるメンバーもまたハートレスへと勝負を挑んでいった。
街は明るいと言うのに、一角はどう言う訳か白い靄が深く一面が真っ白に見える。
その場所で、一人の少女が全身チョコレートで出来た悪魔のハートレスと戦っていた。
「あーもー! こいつ、どれだけ体力有り余ってんだよ!」
フレイアは苛立って叫びながら、ハートレスから一旦距離を取る。
かれこれ殴る、蹴るなどの攻撃を10分くらい繰り出しているにも関わらず、目の前のハートレスは倒れる素振りすら見せていない。
さすがにポーションも残り僅かとなり、諦めかけた時だった。
「ノーブルハーツ!」
突然誰かが間に割り込むなり、ハートを描く様に桃色の斬撃をハートレスにお見舞いする。
その攻撃が効いたのが、ハートレスは大量のハート型お菓子をばら撒いて消えていった。
「大丈夫?」
そう言ってフレイアに声をかけたのは、髪飾りを付けた長めの銀色の髪に袴と振袖の和服。そして首には白いファーを巻き、右目に黒い眼帯を付けた少女だった。
「あ、あぁ。助かったよ。あんた、キーブレード持ってるけど…もしかしてここの住人?」
「あー、えーと……もしかしてこのチョコ、ハートレスに取られた奴?」
目を逸らすなり、少女は地面に落ちていたチョコを拾ってフレイアに差し出す。
本来の目的の物に、フレイアは安堵しながらチョコを受け取った。
「ああ、ありがとね。やっと家族に作ったチョコを取り戻せたよ」
「気にしないでよ。ボ…自分もこのチョコ、取り戻したかったから」
少女は笑いかけると、キーブレードを消して未だに地面に落ちていたハート型のチョコを拾い集め出した。
「それ、あんたの? 随分多いじゃないか」
「ううん。ハートレスに取られたの、知り合いの分なんだ――本命はちゃんと自分で持ってるから」
「本命か…羨ましいね、そう言う相手がいるって。あー、チョコレートでベトベトになってら。後でラッピングの袋交換しないと――そういや、あんた。名前は?」
ここで思い出したようにフレイアが顔を上げて問いかける。
だが、地面に散らばっていたチョコと一緒に少女の姿は消えていた。
「いない…?」
「さて、集合時間まであと少しですね」
店の中でウィドが時間を確認していると、ソラもこの世界に来た理由を思い出す。
「えーと、カイリ達とは臨海公園で待ち合わせだったよな? もう行く?」
「ソラ、気が早すぎるぞ」
チョコが待ちきれずにそわそわするソラに、すかさずリクが注意する。
集合時間まで少しとは言え、集合場所の臨海公園はここからそう遠くない。もう少しだけこの店で時間を潰そうと決めていると、店の扉が開いた。
「すみませーん――あ、いたいた」
入口から銀髪に眼帯を付けた和服姿の少女が入ってくると、なぜかソラ達の方へと歩み寄った。
「えーと、誰?」
「実はこれ…道端に落ちていて届けに来たんです。あなた達のチョコみたいなので、渡しておきます」
「俺達に?」
見知らぬ少女が差し出した何かを詰めた袋を、テラは不思議そうに受け取る。
それをテーブルに置いて袋の口を開くと、中にはさまざまなハート型のチョコが入っていた。
「すっごーい! チョコの山だー!」
「本当だ! ちゃんと俺達の名前が書いてある!」
「どうやら、アクア達が私達に作ったチョコみたいですね」
大量のチョコにソラとヴェンがはしゃぐ中、誰が作ったチョコなのかをウィドが見抜いた。
どれも美味しそうなハートのチョコだが、ラッピンクされているチョコの中には何やら暗黒物質のような物も混ざっている。
「一部、何か禍々しい物が入っている気が…?」
「見るな…直視したら負けだ…」
明らかに食べ物ではないチョコにリクが怯んでいると、ルキルは見慣れているのか遠い目で肩を叩く。
こうして一足早く渡されたバレンタインチョコにみんなが騒ぐが、甘い物を好まない事もあり少し離れた場所でクウはその光景を眺めている。
自分と同じく甘い物は好まないテラがヴェンと一緒に話しているのを見ていると、チョコを届けてくれた少女が徐に声をかけた。
「あの、コートにゴミが付いてるよ」
「ゴミ?」
「ほら、ここ」
そう言うと、少女はコートの襟元を握る。
直後、襟元を広げると同時にコートの内ポケットに素早く何かを入れた。
「え…」
思わず声を上げようとするが、少女は爪先を伸ばして顔を近づけるとクウの唇に人差し指を当てて口を塞いだ。
(内緒だよ)
他の人には聞こえない様に笑顔を浮かべて呟くと、少女は小走りで店の奥にある階段を上ってその場から去っていく。
引き止める事も、声をかける事も出来ずにクウはそっと少女の指が当てられた唇を触る。そうして唇をなぞっていると、テラが近づいてきた。
「クウ、どうした?」
「――ん、何でもねぇ! さーて、どうせこのチョコ女性陣達が作った奴だろ! さっさと食べようぜっ!!」
まるで話を逸らす様にクウはテーブルに置いてあるチョコの一つを手に取ると、さっさと袋を開けて口の中に放り込んだ。
「待て、クウ!! それは明らかに毒物「げはぁ!?」クウーーーーーーーーーーーーっ!!?」
「おい、泡吹いてるぞ!?」
暗黒物質チョコを食べた瞬間その場に倒れるクウに、テラだけでなくルキルまで悲鳴を上げる。
このままでは死んでしまうと、ソラとヴェンがカウンターにいるモーグリへと駆け寄った。
「わー! エリクサーないか!」
「フェニックスの尾くださーい!」
「そんなもの売ってないクポ」
モーグリが冷静にツッコミを入れるが、もうそれ所では無い。
倒れたクウに回復魔法をかけたり心肺蘇生を行ったりと店の中がパニックに陥ってしまうが、ふとウィドは辺りを見回した。
「そう言えばあの子、なぜ私達の事を知っていたんでしょうか?」
急に騒がしくなった喧騒を聞きながら、少女は階段を上がって屋根裏部屋へと辿り着く。更に奥にある階段を上りながら、少女は人知れず笑みを浮かべる。
「今はまだ無理だけど、もうすぐ会えるから」
自分が彼らの事を知っていても、まだ物語の中に、彼らの中には存在しない。それ故表立った交流を持つ事も不可能だ。
だけど、今日は女性にとって特別な日。だからこそ、一足先に想いを渡したかった。
階段を上り終えると、開いている窓に近づく。そこで右目に付けている眼帯を外し、頭の髪飾りを外すとその場に捨てる。
少女は窓から飛び降りて屋根の上に降りると、振り返って笑顔を見せた。
「ハッピーバレンタイン♪」
今日が良い日であった事を思いながら、少女は人知れず店から去って行った。
直後、街の一角で激しい爆発を目撃した。
「あ、あっちの事忘れてた…」
今も尚チョコを取り戻そうと戦っている人達を思い出し、屋根の上で冷や汗を垂らす少女だった。
■作者メッセージ
と言う訳で、今回のKHχのバレンタインイベントに即発して数日でこの話を作ってしまいました。バレンタインと言う事で配布される新カードが女子色に染まって…ホワイトデーが楽しみになった瞬間でもありました(笑)
今回登場した女性キャラは私の小説で出ていたキャラに限定しましたが(オレットは僅かなので今回は省きました)、新キャラを登場させたりバレンタイン専用の技を使わせたりしてみました。尚、新キャラの衣装はKHχの正月イベントで貰った物。眼帯の髪型はブレイブリーデフォルトのコラボイベントで貰った物です。新キャラの髪型で近いのがそれしかなかったので…。
次の更新ですが、一週間以内にまたこちらの方で行います。出すのが何日になるかは…分かる方は分かるでしょう。
今回登場した女性キャラは私の小説で出ていたキャラに限定しましたが(オレットは僅かなので今回は省きました)、新キャラを登場させたりバレンタイン専用の技を使わせたりしてみました。尚、新キャラの衣装はKHχの正月イベントで貰った物。眼帯の髪型はブレイブリーデフォルトのコラボイベントで貰った物です。新キャラの髪型で近いのがそれしかなかったので…。
次の更新ですが、一週間以内にまたこちらの方で行います。出すのが何日になるかは…分かる方は分かるでしょう。