リラ様誕生日企画・Part3-1
とある世界の森の中にある、小さな家。
一見すると隠れ家のようにも見える場所に、二人の人物がいた。
「さて、呼ばれたのはいいが…」
「なーんで俺とお前なんだろうな? お前は敵キャラだし、俺に至っては正式に登場すらしてねーのに」
一人は敵キャラとして何度か対峙している、キーブレードマスターの称号を持つセヴィル。もう一人は、彼の親友でありクウの師であるクロトスラルだ。
疑問を抱きながらも指定された場所で待っていると、奥の方で気配が現れる。
振り向くと、何故かクウとウィドがやつれた表情でやってきた。
「よぉ、師匠…久しぶりだな…」
「お、お前達…何があった?」
セヴィルにしてみれば現在敵対している二人だが、過労の色を見ては警戒よりも心配が勝ってしまうようだ。
そうこうしていると、突然クウが膝を付いて二人に向かって深々と土下座をした。
「師匠…マジで頼みがある…!」
「やだね」
「人が土下座までしてるのに速攻で断るかぁ!!」
何の迷いもなく断ったクロトスラルに、クウは顔を上げて怒鳴りつける。
「当たり前だぁ!! 俺に対していつも喧嘩腰のお前が土下座までして頼みこむって事は、相当ヤバげな何かを押し付ける気だろうが!!」
「ぐっ…!!」
しかし、反論したクロトスラルの言葉が正論だったのかクウは顔を歪めて押し黙ってしまう。
警戒心を高めるクロトスラルに、今まで黙っていたウィドもゆっくりと頭を下げた。
「あの、この問題は私達ではどうにもならないので…出来れば、あなた方にお願いしたんです…」
「クロ、どうする? 今の俺は敵関係だが、ここまで頭を下げられたら…」
「俺帰る」
ウィドとセヴィルの説得にも耳を貸さず、クロトスラルは『闇の回廊』を開いた。
「逃がすかぁ!!!」
「のわっ!?」
もはや実力行使とばかりに、クウがクロトスラルに飛び掛かる。
どうにか回廊に逃げ込む前に背中に組みつく事に成功すると、クウによって拘束されたクロトスラルは暴れ出した。
「スピカちゃんや他の女性が頼むのならまだ分かるが、何でバカ弟子と弟が来るんだよ!! 特に弟は見た目は女っぽいが俺はそんな詐欺に騙されねーぞ!!」
「こいつ、ぶちのめしていいか…っ!!!」
「止めておけ、逆立ちしてもクロには勝てない」
青筋を浮かび上がらせて分厚い本を取り出すウィドに、セヴィルは子供に言い聞かせるように優しく宥める。
クロトスラル。見た目はこんなだが、でたらめに強いのだ。
「…とにかく、用件を聞かせてくれ。内容が分からない以上、俺もクロもどうする事も出来ない」
「ああ――ほら、もう出てきていいぞ」
セヴィルの提案に、クロトスラルを拘束したままクウは首を動かして声をかける。すると、奥の方から三人の子供が現れた。
「へー、あんた達がスピカとクウの師匠なんだ!」
「………」
「…どうも」
そこから現れたのは、リラの作品で登場するリズ、ムーン、カヤの三人だ。
これらの人物に、クロトスラルも抵抗を止めて訝しげに背後にいるクウを見た。
「おい…バカ弟子。これはどういう事だ?」
「どうも何も、決まってんだろ…」
クウは腕を放してクロトスラルを解放するなり、思いっきり頭を下げた。
「師匠、セヴィル。こいつらに一日修行させてくれ!!」
「クロ、いい加減に腹を括れ!!」
「いやだー! 俺は帰るー!」
「いい歳した大人がダダ捏ねんじゃねーよ!!」
「ちくしょう! 放せこのバカ弟子ー!」
「姉さんもいない今、頼れるのはあなた方だけなんです!!」
「こいつらに関してとんでもない話聞かされてるのに、あんなの聞いた後で引き受ける訳ねーだろぉ!」
そんな情けない事を言いながら回廊に逃げ込もうとしてるクロトスラルだが、阻止するようにセヴィル、クウ、ウィドが服や腕を掴んで引き止めている。
大の大人四人が子供じみた攻防戦を繰り広げる中、リズとムーンは呆れた眼差しを送りつけていた。
「…私達に関して、どんな話聞いてるのかしら?」
「さあな」
「こうなったのはお前らの所為でもあるんだぞ…」
カヤは大きく溜息を吐き、先程の話を思い返した…。
(修行だぁ!? どういう事だ!?)
(どうも何も、今回は互いのキャラを交換しての修行体験なんだとよ…)
頭を押さえながらクウがクロトスラルに説明する横で、セヴィルが眉を潜める。
(大体、スピカはどうした?)
(姉さんは本編での事情があって、あちらでの修行組に参加していないんです)
ウィドも遠い目で説明すると、クロトスラルも少しだけ落ち着きを取り戻して話を聞く事にした。
(で、何で俺達に頼む羽目になったんだよ。お前らの所、強者キャラが沢山いるんだろ?)
(最初はちゃんと、修行経験のある俺やテラ達で教えようと思っていたんだ)
(ですが、たまたま居合わせたリクを見た途端にムーンだけでなくゼムナスと勘違いしたリズまで大暴れして、見境なく城を破壊してしまって…)
(おかげで無関係な俺達も城にいる全員から説教受けて、城どころか世界から追い出されてしまって…)
((………))
これにはセヴィルとクロトスラルも黙り込んでしまう。
そして、話の流れは先程へと戻る…。
「仕方ないな…こうなったら最終手段に出るぞ」
「それしかねーな…!」
「最終手段?」
クロトスラルを引き止めながらのセヴィルとクウの会話の内容に、ウィドが反応する。
答えるよりも前にクウは掴んでいた手を放すと、リズ達へ向き合った。
「リズ、耳貸せ。お前らもこい」
「「「え?」」」
突然のクウの指示に、困惑しながらもリズ達は近づく。
それから三人の耳元で何か囁くと、リズが驚きを露わにした。
「ええ!? 何で私がそんな事言うの!?」
「良いから言う通りにしろ。修行したいんだろ?」
「そりゃあ、まあ…」
複雑そうにリズが頷いていると、クウはリズを連れて今も尚逃げようとしているクロトスラルの所に連れて行く。
「クロッ!!」
「やーだーやーだー! 俺は絶対にいーやーだー!」
セヴィルに怒鳴られながらも子供の様に駄々を捏ねるクロトスラル。
「あの、クロトスラル…だっけ?」
その時、クウに連れられたリズが声をかける。
これにはクロトスラルも足を止めてリズへ振り返ると、何処か不安そうに見上げながら言った。
「わ、私(とムーンとカヤ)に…付きっ切りで、修行させて欲しいんだけど…!!」
「ぐぅ…!」
クウと同じく女性の頼みは断れない性分なようで、クロトスラルは思いっきり仰け反ってしまう。
抵抗は止めたものの、まだ依頼を引き受けたくないのが分かりセヴィルは難しい顔で腕を組む。
「さすがにガードが固いか。クウ、仲間である女性メンバーの情報はあるか?」
「あるにはあるが…」
懐からクウが数枚のメモを取り出していると、セヴィルが無言で素早く奪い取る。そのまま、クロトスラルに笑顔を見せつけてメモを差し出した。
「クロ。これで手を打たないか? どれもこれも美女ばかりの情報が揃ってるぞ」
「セヴィル、てめぇぇぇ!!?」
「おーし、任せろ!! この俺がお前達を鍛えさせてやるぜー!!」
「わーありがとー」
「どんなしゅぎょうだろうなー」
「たのしみだなー」
詳細メモをダシにするセヴィルにクウが怒鳴り付けると同時に、取引が効いたのかクロトスラルが復活する。
これにはリズ達も棒読みで囃し立てる中、セヴィルは大きく溜息を吐いた。
「どうにか持ち直したな」
「持ち直したじゃねーよ!! 師匠に俺特性の詳細メモ渡して、殺す気か!?」
「いや、別に俺の情報を渡してもいいんだが――メンバーがメンバーだからな…」
「ああ…そうだったな…」
遠い目を浮かべてこちら側での敵(リリス、カルマ)を思い浮かべるセヴィルを見て、クウも納得を見せるしかなかった。
こうして、リズ達はクウとウィドの紹介で戦いと人生の師匠であるセヴィルとクロトスラルの元に預けられた。
二人が元の世界に戻るのを見送り、セヴィルはさっそく前に並んでいるリズ達に話しかけた。
「さて、それじゃあ今から修行を始めるぞ。一日だけだから、通常よりも少しだけ詰めていこう」
「「「お願いしまーすっ!!」」」
キーブレードマスターであり、スピカの師匠だと知っているからか、三人は元気よく声を上げた。
素直な感情を露わにするリズ達に安堵を感じるが、セヴィルは顔には出さず修行の内容を話す。
「まずは腹筋と背筋100回、その後は腕立てとスクワット80回だ。リズ、お前は女性だから半分で構わない。女性の身体で無理をさせる訳にはいかないからな」
「「「はい!」」」
セヴィルの指示に、三人は大きく叫ぶとさっそくその場に座り込んだ。
「「え…?」」
「なによ、そのポカンとした表情?」
この三人の行動にセヴィルとクロトスラルが固まっていると、リズが腹筋をする体制で不思議そうに見上げてきた。
「いや、その…」
「やけに素直だなーと思ってよ。俺的には――」
『だー、めんどくさい!! こんなのチマチマやってられるかぁぁ!!』
『こんなのより、もっと強くなる方法を…リクを抹殺できる方法教えろやー!!』
『あんたら強いんだろ? だったら直に戦って強さ磨いた方がいいよなぁ!!』
「――って言いながら、武器構えて俺達に襲ってくるのを想像してたから」
そんな想像を真顔でクロトスラルが話すと、リズは呆れた眼差しを送ってきた。
「いや、私達そこまで酷い性格じゃないから」
「ああ。これでも親父との特訓で、基礎は大事だって事は理解してるしな」
「じゃ、さっそくやるか」
カヤの言葉を合図に、三人は腹筋を始める。
真面目にセヴィルの言い渡す特訓メニューに取り組むリズ達を見て、大人二人は苦笑しながら顔を見合わせた。
「最初はどうなるかと心配してたが…」
「これなら、俺達のやる修行法でも大丈夫そうだな」
少なくとも、クウ達のように酷い目にはあわない。その事が分かりようやく安心を見せたセヴィルとクロトスラルだった。
その後、一通りの運動を終えると場所を変えて広い草原に出る。
そこにある大きな岩の傍でセヴィルが一人待っていると、軽快な足音と共にリズが駆け寄ってきた。
「――よーし、一番乗りー!」
「よし、キッチリ10週走ったな。だがリズ、これは競争じゃなく持久走だ。幾ら足が速いとはいえ、さっさと終わらせては意味がない。確かに足は鍛えられるだろうが、その分身体のスタミナだけでなく精神力である根気が付きにくくなる」
「はーい…いいじゃない、早く走るくらい」
「良くない。鍛錬とは日々の積み重ねだ、サボったり間違ったやり方をしても意味が無いんだ。まったく、スピカが見たらなんと言うか…」
「もしかして、スピカもこう言う事してたの? 意外〜!」
スピカに関する話題が出て、リズは興味を持ったのか笑いながら最強として振る舞っている彼女の事を思い出す。
すると、意外にもセヴィルは苦笑を張り付けて修行時代のスピカについて教えてくれた。
「あれでも努力家だからな。確かに闇の世界に落とされてからは常人より強い光と闇の力を手に入れていたが、こう言ったトレーニングは毎日欠かさずにしていた。あいつとはえらい違いだ」
「ふーん」
セヴィルの言う『あいつ』が何となく分かり、リズは相槌を打つ。
そうこうしていると、草原を走っていたムーンとカヤも息を絶え絶えにしてやってきた。
「ふぅ…お前はやっぱり足早いな…」
「はぁ、はぁ…やっと終わった…」
「では、俺の修行はここまでだ。次は休憩で食事といこうか」
「「「やった!」」」
修行メニューが終わったのを聞いて、三人は喜びの声を上げる。
すると、セヴィルは後ろを振り返った。
「クロ、準備は出来てるか?」
「おうよ。それじゃお前ら、さっきの場所に戻って昼飯を作るぞー」
「「「え?」」」
予想しなかったクロトスラルの指示に、リズ達は思わず目を丸くする。
そんな子供達に、クロトスラルは不満そうに頭を掻き出す。
「なんだ、その顔は? 作らなきゃ食事にありつけないだろ?」
「いや、確かにそうだけど…」
「言って置くが、これも修行だ。ほら、戻ってカレー作るぞ!」
ムーンの言葉に耳を貸す事無く、クロトスラルは最初の場所へと戻っていく。これを見て、仕方なくリズ達も後を追う事にした。