リラ様誕生日企画・Part3-2
最初の場所に戻ると簡易キャンプのように調理器具や釜戸が準備されている。
こうしてリズ達は促されてるままにクロトスラルと共に昼食であるカレー作りを開始した。
「ほー、意外と手際いいんだな」
「そりゃあ、親父から家事を任されてるからな。そう言うあんたも料理上手いじゃないか」
「当たり前だ、今の男は料理が上手い奴ほどモテるからな。リズちゃんもそう思わないか〜?」
「初耳なんだけど、それ」
「と言うか、くだらない理由だな…」
テキパキと野菜や肉を切っていくムーンを褒めつつも、自分の事をアピールするクロトスラル。だが、リズは適当にスルーしカヤには冷めた目で見られてしまう。
こうして料理を作りながら交流する四人を、セヴィルは離れた所で見守っていた。
「ふぅ…」
「懐かしい、って顔してるわね」
急にかけられた声に、セヴィルは振り返る。すると、そこにはスピカが微笑みながら立っていた。
「スピカ…! なぜここに? 修行に出ているのでは…」
「ええ、行って来たわ。なかなか楽しかったわよ」
「…そうか」
簡単に会話を終わらせるとスピカは黙って隣にやってくる。そうしてセヴィルと同じように視線をリズ達へ向けると、静かに微笑んだ。
「みんな楽しんでるわね」
「クロの行う修行はそれが目的だ」
「そうね。彼はああして触れ合う事で、その人の心を自由にさせてきた。女性相手だとセクハラ起こすのが玉に傷なのよね」
「ああ」
マスターとしての厳格な自分の方法と違い、クロトスラルの行う修行は主に自由な事が多い。時に実戦を教える時だって、何を教える事なく戦わせて独自の考えや戦い方を鍛えるのだ。
心を自由にし、自分らしくさせる。人としての思い出を作る事で、その人が道を外さない様に、見失わないようにする。それがクロトスラルの行う修行の真髄だ。
厳しさと甘さ。剛と柔。正反対の教え方だが、自分達は互いのやり方を認めている。そうやって後継者となる弟子を育てて来たのだから。
「一つ、聞かせて欲しい」
唐突にセヴィルはそう呟き、隣にいるスピカに言い放った。
「お前は誰だ?」
この質問に、スピカは顔色を変えることなく静かに笑った。
「――なんだ、バレちゃってたか」
口から零れたのは、スピカではない少女の声。
セヴィルは反射的に、スピカに向かってキーブレードを振り下ろす。
しかし、当たった感触はなく立っていた筈のスピカの姿も消えている。その代わり、背後で鈴の音が響いた。
「おっと。危ないなぁ」
即座に振り返ると、小さな人影が軽やかに降り立つ。
赤と白の巫女衣装に縫い付けた何枚もの羽衣の先端に大きな鈴が付いている。そんな服を着て白い髪に黒い目の10歳ぐらいの少女が笑っていた。
「お前は…スズノヨミか?」
「おいおい、その言い方はないだろ? 前にも言わなかったかい、僕の事は親しみを込めて『スズちゃん』と呼んでくれって」
素っ気ないセヴィルの言葉に、両手を合わせながら少女――スズノヨミは答える。
そんな彼女に、セヴィルは手の内にあるキーブレードを消すと顔を逸らす。
「生憎、今の俺はクウと同じ裏切り者だ。そんな筋合いはない」
「君は相変わらず堅物だねぇ」
「そう言うお前も相変わらずだな」
再会を兼ねた挨拶を終わらせ、セヴィルは横目でスズノヨミを見る。
見た目は子供だが、彼女も自分達と同じ『組織』内のメンバーだ。油断していると酷い目に遭うのはよく知っている。例え能力が戦闘要員でないにせよだ。
とりあえずスズノヨミが自分を襲う気配がないのが分かり、セヴィルは一旦話を戻した。
「それで、表舞台を嫌うお前が何の用だ? どうしてスピカに化けていた?」
「酷いなぁ、僕はクロトスラルに呼ばれてきたのに。ま、あの子に化けていたのは…ちょっと君を試させて貰ったに過ぎない。だが、君に話していた内容に嘘は吐いてない。僕が話した事は全てがスピカの本心さ」
胸を張りながら言い切るスズノヨミに、セヴィルは溜息を吐く。
「…いつ『虫』を取りつけた?」
「嫌な物を付けさせた言い方止めてくれないかなぁ? 術の事はスピカも気づいてる、気づいていて取り払おうとしてないから使わせて貰ってる。それだけさ」
「それで、クロに呼ばれたと言うのは?」
「何でも、『あるゲーム』で僕の力を使いたいとかって頼んでさ。それで仕方なく、モブキャラ同然の僕がこの舞台に立つ事になったのさ」
スズノヨミの説明に、セヴィルの視線はリズ達と料理をしているクロトスラルへと向いた。
「なるほどな…スズノヨミの【平等】の力とクロの考えるゲーム。心を強くさせるには丁度いい」
スズノヨミが何処かに去ってしばらくすると、リズ達がカレーを作り終えた。
昼食を兼ねた休憩を取る事にして五人はさっそくカレーを食べる。料理が得意とムーンが言っていたのは嘘ではなく、店で出されても文句の無い程の絶品な味だった。これにはセヴィルだけでなくクロトスラルも褒めると少しだけ嬉しそうにしていた。
後片付けも終わり食休みも十分にすると、いよいよクロトスラルが本腰を入れて修行を再開した。
「さて、昼飯休憩も終わった事で…ここからは俺の修行を始めるぜ!」
「ねえねえ、どんな修行するの?」
待ちきれずにリズが目を輝かせると、クロトスラルは腕を組むなり自信ありげに胸を張った。
「今日は体験だからな、やって貰うのは【宝探し】だ!」
「「宝探し…?」」
「へー、何か面白そう!」
セヴィルと違った修行内容にムーンとカヤが目を丸くする中、リズだけは純粋な眼差しを向ける。
女の子の視線にテンションが上がったのか、クロトスラルは男二人を無視して説明を続けた。
「ルールは至ってシンプルだ! この森の中に、取って置きのお宝を隠した。それを見つければクリアだ」
「宝を探す、か…確かに面白そうだが、そんなので強くなるのか?」
カヤが思った事を言うと、予想通りの反応とばかりにクロトスラルが面白そうに笑う。
「そこはやって見りゃ分かるさ。しかし、ただ探すだけじゃ面白くない。そこで」
そこで言葉を切るなり、何の前触れもなくクロトスラルは手を伸ばす。
すると、リズ達の身体の一部に魔方陣が現れ、不思議な光と共に消えていく。突然の処置にリズが焦りを浮かべた。
「い、今の何よ!?」
「ちょっとした制約だ。お前らの力を全面的に封じさせるためのな」
「なっ!? ふざけんな、てめー!!」
「武器も出ない!? 何してくれてんだー!!」
「呆れて物が言えないわ…」
能力を封じられたことに対してカヤとムーンが文句をぶつける中、リズは一人冷静に肩を竦める。
「おいおい、これから行うのは宝探しであって戦いじゃない。力づくで探しても面白くないだろ?」
このクロトスラルの言い分に、騒いでいた二人は押し黙ってしまう。
こうして大人しくさせると、クロトスラルは満足そうに頷いて森の方を見た。
「ここは比較的安全なんだ。そう危険が起きる事も無いから、頑張って宝探しに集中しろ――んじゃ、スタートだ!」
そんな掛け声を合図に、クロトスラル考案の宝探しが始まった。
「ちっ、やっぱり魔法も封じられているか…とんでもない力持ってるな、あの男」
「武器が無くても…って思ったが、力まで制限されるなんて」
宝が隠されている森の中を進みながら、カヤとムーンは制約の効果がどれくらいかを確かめていた。
現時点で分かった事は、技も魔法も使えない事。リズやムーンが虚空から取り出す方法の武器は使えない事(カヤは持っていたので使える)。更には今まで鍛えていた力や魔力、体力等全ての能力も下げられている事だった。
完全に弱体化された身体が慣れずに苦悩する二人に、リズも同じなのか溜息を吐く。
「ホントだよね。こういう時、木に登って探したりあちこちぶっ壊したり出来たら楽なのに…」
「リズ、さすがにそれはダメだろ」
思わずカヤがツッコミを決めるが、気を取り直す様に腕を組んだ。
「何がともあれ、宝探しが終われば俺達の力もちゃんと解放されるだろう。さっさと見つけてあの軟弱な男をぶっ潰すぞ」
「だな。最低でも十発は顔面をぶん殴ってやる」
「あ、あったー!」
「「早いなオイ!?」」
カヤとムーンが決意した瞬間にリズが宝箱を見つけたので、反射的にツッコミを入れてしまう。
その間に、リズは嬉しそうに草むらの影に隠れた宝箱へと駆け出す。そんなリズの前に、小さな人影が割り込んだ。
「ふーん、これがクロトスラルが用意した宝か。宝箱に入れるとは、なかなかの趣向じゃないか」
突然現れた巫女衣装に白く長い髪の少女――スズノヨミは、宝箱を持ち上げるなり観察するように眺め始める。
これにはリズも足を止めると、真っ先に少女を睨んだ。
「あんた、誰?」
「おいおい、出会い頭にそんな言い方は酷いな。僕の事は親しみを込めて『スズちゃん』と呼びなさい」
そんな自己紹介をすると、ムーンとカヤも不信感を露わにする。
「胡散臭い奴だな、こいつ…」
「ああ、怪しいな…」
「そう警戒するなよ。言って置くが、君達と違って僕はしがないモブキャラだ。主人公でも悪役でも仲間でも、ましてや友達でもない。そこら辺にいるような気にも留めないただの一般人さ」
そうリズ達に説明していると、急にニヤリと笑い出した。
「そんな一般人でも、お宝は欲しいからね。悪いが貰っていくよ!」
素早く身を翻すなり、スズノヨミは宝箱を腕に担いで走り去る。
こうして宝箱を持って逃げたスズノヨミを見て、リズが叫んだ。
「あんのコソ泥! ムーン、カヤ、すぐに追いかけるわよ!!」
「「ああっ!!」」
二人も頷くと、急いでスズノヨミを追いかけ始めた。
その頃、クロトスラルとセヴィルは森の入口付近でリズ達の帰りを待ちながら話をしていた。
「クロ、スズノヨミはどうした?」
「ん? なんでスズちゃん呼んだ事――ああ、会ったのか。スズちゃんは術を貰ってからは俺も見てないけど…ま、話を面白くしようとリズちゃん達を引っ掻き回しているんだろ」
クロトスラルが笑いながら言うと、セヴィルもまた笑い返す。
普段は傍観に徹するが、面白い事には積極的に首を突っ込むのが彼女の性格だ。今頃リズ達と接触して悪役になっているかもしれない。
スズノヨミの行動に苦笑していた時、セヴィルが目を見開いて森へと注視する。
「――クロ」
「気づいたか、セヴィル…」
同じようにクロトスラルも呟くと、帽子に手を当てて深く被り直した。
「待てやゴラーーーーーーっ!!! 捕まえたら特大級の光と風と雷の融合技喰らわせてやるんだからーーーーー!!!」
「全力だったら、あいつを半殺しにまで痛めつけられるのに…!!」
「俺もあいつに氷魔法フルコースお見舞いしてやりたい気分だ…!!」
一方、リズ達はスズノヨミを追いかけながら物騒な事を怒鳴りつけていた。普通なら追いつけるのに追いつけてないのは、弱体化されたからだ。
一向に追いつかない距離に苛立つ三人に、スズノヨミは走りながら呆れた表情を見せつける。
「君達、そんな会話聞いた後で僕が捕まる訳ないだろ? 全く、何の力も持ってないくせによくそんな出来ない事をペラペラ言えるもんだね」
「お前! 何で俺達の事知って…!」
スズノヨミの発言にカヤが反応を見せた時、すぐ近くから轟音が響く。
戦いの感が働いてリズやムーンとカヤが足を止める。そして、意外にもスズノヨミも何かを感じ取ったのか足を止める。
直後、激しい爆風が起こり木々が吹き飛ぶ。そうして現れたのは、カメレオン型のハートレス――ステルススニークだった。
「ハ、ハートレス!?」
「それよりあいつは!?」
敵の登場にリズが驚いていると、思い出したようにムーンがスズノヨミを見る。
「ばたんきゅ〜…」
どうやら攻撃に巻き込まれたようで、遠くの方で目を回して倒れていた。
「おい、あいつ気絶してるぞ!?」
「どんだけひ弱なのよコイツ!?」
あっさりとやられてしまったスズノヨミに、ムーンだけでなくリズまで信じられないとばかりに目を見開く。
そうこうしていると、ハートレスがリズ達に標的を変えて飛び掛かって来た。
「「「う、うわあああぁ!!?」」」
未だに力を制限された状態のリズ達は、思わず悲鳴を上げて…ハートレスの動きが止まった。