リラ様誕生日企画・Part3-3
目の前で突然ハートレスの動きが急に止まる。だが、完全に止まった訳では無いようでその場で身体を震わせている。
これには三人が固まっていると、頭上から声が飛んできた。
「危ない所だったな」
「大丈夫か?」
その声と共に、セヴィルとクロトスラルが木の上から飛び降りてリズ達の前に降りて着地した。
「おい、こんなのがいるなんて聞いてないぞ!? どういう事だ!?」
助けに来てくれたのに会合一番にムーンが文句をぶつけると、煩いとばかりにクロトスラルは耳を押える。
「そう騒ぐな、俺達もこいつに関しちゃ予想外だったんだ」
「それより、制約っての外しなさいよ! あんなハートレス、ぶっ飛ばしてやるんだから!」
リズが動けないハートレスを指しながら勇む姿に、クロトスラルは困ったように頭を掻いた。
「あ〜…それなんだが」
「お前達の力を封じたのは、そこで目を回して気絶しているスズノヨミの力だ。彼女が起きない限り、俺達ではどうする事も出来ない」
「「「はぁー!!?」」」
気絶しているスズノヨミを指差しながら放ったセヴィルの言葉に、三人が絶叫を上げる。
そうこうしていると、ハートレスから糸が千切れるような音が響く。すると、クロトスラルの目が鋭くなり腰に付けていた大きめの銃(ハンドガン)を構えた。
「とにかく、スズちゃんが起きない限りどうしようもないんだ。ここは俺達に任せておけよ」
「任せておけって…あんたらに頼る筋合いはない! あんなの、俺達だけでも…!」
すかさずカヤが反論すると、振り返ってへらへらと笑いかけた。
「まあまあ、そう悲しい事言うなよ」
「本来、お前達のような年齢は俺達に取っては守るべき対象だ」
「“頼れ”と青臭い事は言わねーよ。その代わり――」
そう言うと、二人はハートレスの前に立って背中合わせになる。
リズ達を守る様に立つと、ハートレスに互いの持つ武器を突き付けた。
「「少しは俺達にもかっこつけさせろ」」
その言葉を合図に、動きが鈍っていたハートレスが吹っ切ったように飛び掛かる。
即座にセヴィルがキーブレードを振るい闇の衝撃波を繰り出す。力強い攻撃にハートレスが遠くへ吹き飛ぶのを見て、クロトスラルは口笛を鳴らす。
「ヒュ〜♪ 相変わらずだなー、セヴィル」
「無駄口叩くな、クロ!」
「へいへい、分かってますよ――となっ!」
立ち上がるハートレスに、クロトスラルは握っている銃で追撃するように弾丸を撃つ。
態勢を整える暇が取れずに怯むハートレスに、素早くセヴィルが近づく。
「『陽炎閃』!」
見えない速さで一閃する姿は、どことなくウィドやスピカの剣術に似ている。そんなセヴィルを支えるように、クロトスラルが援護射撃を繰り出す。
この師匠二人の息の合った立ち振る舞いに、リズ達は何時しか目が釘付けになっていた。
「あの二人、何か凄い…」
「ジェダイドと同じ武器なのに、戦い方が違う…」
「あれが、スピカとクウの師匠の力…!」
ムーンとカヤが二人の戦いの感想を漏らし、リズは師匠としての強さに目を輝かせている。
二人の連携でじわじわと追いつめていると、急にハートレスが風景に溶け込む様に姿を消した。
「クロ!」
「あいよっ!」
セヴィルが全てを言う前にクロトスラルは素早く銃を腰に仕舞う。そのまま大きく両腕を広げると共に、辺り一帯にピンと言う甲高い音が鳴り響く。
すると、姿を消していたハートレスが突然現れてその場で暴れ始める。それに比例するようにクロトスラルの顔が歪み出した。
「大丈夫かっ!」
「どうにか、な…! 馬鹿力ありすぎだぜ、こいつ…!」
両手で何かを引っ張るように動かしながら答えるクロトスラル。よく見ると手には何本もの黒いワイヤーがあり、それでハートレスの動きを封じているようだ。
一方、ワイヤーによって動きを封じられたハートレスは拘束を解こうと両腕に光を溜めこんでクロトスラルに向けて発射する。
迫る光弾。拘束している状態ではクロトスラルは動けない。攻撃から守ろうとセヴィルが前に出る。
しかし。それよりも早く、黒い剣がその攻撃を弾き返した。
「やはり起きていたか…スズノヨミ」
「――僕としては、さっさと終わらせてくれた方が良かったんだけどね。厄介事は画面の前で充分。テレビやパソコンのように干渉せずに好き勝手思える安全な位置で見るようにね」
いつの間にか目を覚ましたのか、スズノヨミがクロトスラルの前に立って守っている。
一つの見知った武器を持って。
「だけど、あれだね。モブキャラってさ、主人公や仲間と違って前に出た時、見栄えが格段に違う事あるよね〜?」
「お、お前…!?」
「ムーンの剣!?」
笑顔を見せるスズノヨミの両手には、ムーンの武器であるリジェクトソードが握られていたのだ。
これにはムーンだけでなくリズも唖然としていると、スズノヨミは軽く一瞥する。
「えーと、リズって言ってたっけ。君、こんな状況じゃこう言う技使うの?」
即座にムーンの剣を手の内から消すなり、今度はリズの使うキーブレードが握られる。
驚く間もなくスズノヨミはハートレスに駆け寄ると、風と雷の回転切りを放つ。その技名をムーンが叫んだ。
「斬空電撃波!?」
「まさか、あんたもシャオの何とかモードが使えるの!?」
「おいおい、僕はしがないモブキャラだよ。そんな特殊能力と一緒にしてくれないでくれない?」
「しがないモブキャラはキーブレードなんて使わないぞ…しかも、他人のな」
「それもそうか。んじゃ――君達のは止めて、この平凡な武器でいっか」
カヤの言い分に納得するように、スズノヨミは再びキーブレードを消す。と、今度は闇の力で形作られた細剣を取り出した。
「それは!?」
「ふん」
見覚えのある武器にリズが叫ぶ中、スズノヨミは剣を振るって巨大な衝撃波――『空衝撃・牙煉』を繰り出した。
この攻撃に、ワイヤーを千切る威力で上空に吹き飛んだハートレス。これにはクロトスラルもワイヤーを握っていた力を緩めて笑った。
「お膳立てご苦労さん、スズちゃん――主人公らしく決めちまえよ、セヴィル」
「ああ」
軽く返事を返すと共に、セヴィルは飛び上がってハートレスの胴体に一撃を浴びせる。
セヴィルの攻撃により、空中でハートレスは消えながらハートを飛び出す。完全に消えると共にセヴィルが着地すると、スズノヨミは細剣を消しながら笑顔を見せた。
「さーて、これで終わりだね」
「待てやゴラァァァ!!!」
「寝てるフリしてたとは、いい度胸だなてめぇ!!!」
「しかも俺の武器やリズの能力使いやがって…!!! お前本気で何をしたぁ!!!」
戦いが終わるなり、リズ、カヤ、ムーンは烈火の如く怒りの炎を上げてスズノヨミに詰め寄った。即座に攻撃しないのは、未だに力が封じられているからだろう。
今にも殴りかかろうとする三人に、スズノヨミは耳を押えながら顔を顰めた。
「うるっさいなぁ…今から説明するから、さっさと離れてくれない?」
ジト目でそんな事を言うが、リズ達は睨んだまま離れようとはしない。
スズノヨミは諦め半分に溜息を吐くと、仕方ないと言う様子で説明を始めた。
「簡単に説明すると、僕の扱う力は【平等】さ。僕の術を付けた者は、能力を均等にさせる事が可能なのさ。言い換えれば誰にでもなりたい、一般人が抱える憧れから生み出された能力だ」
自身の扱う力をスズノヨミが教えていると、カヤが不機嫌そうに舌打ちする。
「チッ。要は俺達の能力を奪って、自分で使うって事だろ? 嫌らしい能力だな…!!」
「いいや、何度も言っているだろう。僕は一般人であり凡人でありモブキャラだって――奪ったんじゃない、君達を僕と同じ《無力な人間》にしただけさ。三人共平等に、ね」
「無力な、人間…」
何か思う所があったのか、ムーンが顔を俯かせる。
同じようにリズとカヤも黙っていると、スズノヨミは右手を胸に当てて語る。
「同じ強さ、同じ能力、そして同じ気持ちを分かち合う。それが僕の作り出す【平等】のスキルさ。術をつけた人限定だが――つけるだけなら幾らでも出来る。その気になれば、“この世界全ての人が持つ能力”を手に入れる事だって可能だ」
「な…! 全ての人の能力…!?」
あまりにもスケールの大きい話に、珍しくカヤが狼狽える。
リズとムーンも警戒の目でスズノヨミを睨む中、セヴィルとクロトスラルは心の中で溜息を吐いた。
(確かに彼女が人に振れるだけで『虫』がつく。構成上は可能だが――実行は“不可能”だ)
(それにあいつらは勘違いしている。ま、それがスズちゃんの“もう一つの武器”でもあるんだかな)
身内であるが故にスズノヨミの事を知っている二人は、すぐに話の中に嘘が混じっている事に気付く。だが、リズ達の味方をする気はないようでその事について教えようとはしなかった。
スズノヨミも二人の意図が分かっているのか、リズ達に向かって笑顔を向けた。
「でもま、これはこれでいい体験出来ただろ?」
「どこがいい体験よ!! あんなハートレス、私達だけでも対処出来たのに!!」
「それ」
「「「は?」」」
リズの怒鳴り声に目を鋭くしてビシッと指を差すと、ムーンやカヤまでがポカンとしてしまう。
「君達は守られる事で、不満を感じた。言い換えれば…守ってる仲間に同じ思いさせてるんじゃないの?」
「「「あ…」」」
スズノヨミの言いたい事が分かり、三人はこれまでの事を思い返す。
確かに自分達は誰かに守られるような体験をしている。だから強くなりたいと願い、それなりに力をつけて来た。
けれど、それは同時に誰かに自分達がかつて抱いた思いを押し付ける事になっている。セヴィルとクロトスラルも否定の言葉を言わない辺り、彼女の言い分は正しいのかもしれない。
さすがにリズ達が黙りこんでいると、スズノヨミは笑顔に戻って大きく腕を広げた。
「なーに、気にする事はない。弱いからこそ気づく事があり、強いからこそ気づかない事がある。当たり前の常識であるからこそ、忘れがちな事だ」
こうして話を一段落させると、スズノヨミは先程の乱闘で手放した宝箱へと近づいた。
「ところで、お宝は何かなー?」
どこかウキウキとしながらスズノヨミが宝箱を開ける。
だが、中を見た途端不審な表情を浮かべた。
「何コレ?」
その言葉と共にスズノヨミが宝箱の中から一枚の紙を取り出す。内容が気になりリズ達も駆け付けてスズノヨミの持つ紙に目を通す。
そこにはたった一言、【ハズレ】の文字がデカデカと書いてあった。
「ハズレ!? どういう事だよオイィ!?」
それなりに苦労して(大半がスズノヨミの所為)手に入った宝の中身に、ムーンがブチ切れてクロトスラルに詰め寄る。当の本人は耳の穴を指を塞ぎながら呆れた眼差しを向けた。
「どうも何も、そのままの意味だよ。宝探しなんだから簡単に見つかっちゃ面白くない。ダミーも用意しない訳にはいかないだろ?」
そう説明すると、悪者が作る様な古典的な笑みをムーンに見せつけた。
「宝探しが終わるまで、スズちゃんと平等に非力な力しか持てないんだ。キッチリ探せよー」
クロトスラルの悪魔の宣言に、三人が森中に響くような怒り狂った声を上げたのは言うまでもない…。
これには三人が固まっていると、頭上から声が飛んできた。
「危ない所だったな」
「大丈夫か?」
その声と共に、セヴィルとクロトスラルが木の上から飛び降りてリズ達の前に降りて着地した。
「おい、こんなのがいるなんて聞いてないぞ!? どういう事だ!?」
助けに来てくれたのに会合一番にムーンが文句をぶつけると、煩いとばかりにクロトスラルは耳を押える。
「そう騒ぐな、俺達もこいつに関しちゃ予想外だったんだ」
「それより、制約っての外しなさいよ! あんなハートレス、ぶっ飛ばしてやるんだから!」
リズが動けないハートレスを指しながら勇む姿に、クロトスラルは困ったように頭を掻いた。
「あ〜…それなんだが」
「お前達の力を封じたのは、そこで目を回して気絶しているスズノヨミの力だ。彼女が起きない限り、俺達ではどうする事も出来ない」
「「「はぁー!!?」」」
気絶しているスズノヨミを指差しながら放ったセヴィルの言葉に、三人が絶叫を上げる。
そうこうしていると、ハートレスから糸が千切れるような音が響く。すると、クロトスラルの目が鋭くなり腰に付けていた大きめの銃(ハンドガン)を構えた。
「とにかく、スズちゃんが起きない限りどうしようもないんだ。ここは俺達に任せておけよ」
「任せておけって…あんたらに頼る筋合いはない! あんなの、俺達だけでも…!」
すかさずカヤが反論すると、振り返ってへらへらと笑いかけた。
「まあまあ、そう悲しい事言うなよ」
「本来、お前達のような年齢は俺達に取っては守るべき対象だ」
「“頼れ”と青臭い事は言わねーよ。その代わり――」
そう言うと、二人はハートレスの前に立って背中合わせになる。
リズ達を守る様に立つと、ハートレスに互いの持つ武器を突き付けた。
「「少しは俺達にもかっこつけさせろ」」
その言葉を合図に、動きが鈍っていたハートレスが吹っ切ったように飛び掛かる。
即座にセヴィルがキーブレードを振るい闇の衝撃波を繰り出す。力強い攻撃にハートレスが遠くへ吹き飛ぶのを見て、クロトスラルは口笛を鳴らす。
「ヒュ〜♪ 相変わらずだなー、セヴィル」
「無駄口叩くな、クロ!」
「へいへい、分かってますよ――となっ!」
立ち上がるハートレスに、クロトスラルは握っている銃で追撃するように弾丸を撃つ。
態勢を整える暇が取れずに怯むハートレスに、素早くセヴィルが近づく。
「『陽炎閃』!」
見えない速さで一閃する姿は、どことなくウィドやスピカの剣術に似ている。そんなセヴィルを支えるように、クロトスラルが援護射撃を繰り出す。
この師匠二人の息の合った立ち振る舞いに、リズ達は何時しか目が釘付けになっていた。
「あの二人、何か凄い…」
「ジェダイドと同じ武器なのに、戦い方が違う…」
「あれが、スピカとクウの師匠の力…!」
ムーンとカヤが二人の戦いの感想を漏らし、リズは師匠としての強さに目を輝かせている。
二人の連携でじわじわと追いつめていると、急にハートレスが風景に溶け込む様に姿を消した。
「クロ!」
「あいよっ!」
セヴィルが全てを言う前にクロトスラルは素早く銃を腰に仕舞う。そのまま大きく両腕を広げると共に、辺り一帯にピンと言う甲高い音が鳴り響く。
すると、姿を消していたハートレスが突然現れてその場で暴れ始める。それに比例するようにクロトスラルの顔が歪み出した。
「大丈夫かっ!」
「どうにか、な…! 馬鹿力ありすぎだぜ、こいつ…!」
両手で何かを引っ張るように動かしながら答えるクロトスラル。よく見ると手には何本もの黒いワイヤーがあり、それでハートレスの動きを封じているようだ。
一方、ワイヤーによって動きを封じられたハートレスは拘束を解こうと両腕に光を溜めこんでクロトスラルに向けて発射する。
迫る光弾。拘束している状態ではクロトスラルは動けない。攻撃から守ろうとセヴィルが前に出る。
しかし。それよりも早く、黒い剣がその攻撃を弾き返した。
「やはり起きていたか…スズノヨミ」
「――僕としては、さっさと終わらせてくれた方が良かったんだけどね。厄介事は画面の前で充分。テレビやパソコンのように干渉せずに好き勝手思える安全な位置で見るようにね」
いつの間にか目を覚ましたのか、スズノヨミがクロトスラルの前に立って守っている。
一つの見知った武器を持って。
「だけど、あれだね。モブキャラってさ、主人公や仲間と違って前に出た時、見栄えが格段に違う事あるよね〜?」
「お、お前…!?」
「ムーンの剣!?」
笑顔を見せるスズノヨミの両手には、ムーンの武器であるリジェクトソードが握られていたのだ。
これにはムーンだけでなくリズも唖然としていると、スズノヨミは軽く一瞥する。
「えーと、リズって言ってたっけ。君、こんな状況じゃこう言う技使うの?」
即座にムーンの剣を手の内から消すなり、今度はリズの使うキーブレードが握られる。
驚く間もなくスズノヨミはハートレスに駆け寄ると、風と雷の回転切りを放つ。その技名をムーンが叫んだ。
「斬空電撃波!?」
「まさか、あんたもシャオの何とかモードが使えるの!?」
「おいおい、僕はしがないモブキャラだよ。そんな特殊能力と一緒にしてくれないでくれない?」
「しがないモブキャラはキーブレードなんて使わないぞ…しかも、他人のな」
「それもそうか。んじゃ――君達のは止めて、この平凡な武器でいっか」
カヤの言い分に納得するように、スズノヨミは再びキーブレードを消す。と、今度は闇の力で形作られた細剣を取り出した。
「それは!?」
「ふん」
見覚えのある武器にリズが叫ぶ中、スズノヨミは剣を振るって巨大な衝撃波――『空衝撃・牙煉』を繰り出した。
この攻撃に、ワイヤーを千切る威力で上空に吹き飛んだハートレス。これにはクロトスラルもワイヤーを握っていた力を緩めて笑った。
「お膳立てご苦労さん、スズちゃん――主人公らしく決めちまえよ、セヴィル」
「ああ」
軽く返事を返すと共に、セヴィルは飛び上がってハートレスの胴体に一撃を浴びせる。
セヴィルの攻撃により、空中でハートレスは消えながらハートを飛び出す。完全に消えると共にセヴィルが着地すると、スズノヨミは細剣を消しながら笑顔を見せた。
「さーて、これで終わりだね」
「待てやゴラァァァ!!!」
「寝てるフリしてたとは、いい度胸だなてめぇ!!!」
「しかも俺の武器やリズの能力使いやがって…!!! お前本気で何をしたぁ!!!」
戦いが終わるなり、リズ、カヤ、ムーンは烈火の如く怒りの炎を上げてスズノヨミに詰め寄った。即座に攻撃しないのは、未だに力が封じられているからだろう。
今にも殴りかかろうとする三人に、スズノヨミは耳を押えながら顔を顰めた。
「うるっさいなぁ…今から説明するから、さっさと離れてくれない?」
ジト目でそんな事を言うが、リズ達は睨んだまま離れようとはしない。
スズノヨミは諦め半分に溜息を吐くと、仕方ないと言う様子で説明を始めた。
「簡単に説明すると、僕の扱う力は【平等】さ。僕の術を付けた者は、能力を均等にさせる事が可能なのさ。言い換えれば誰にでもなりたい、一般人が抱える憧れから生み出された能力だ」
自身の扱う力をスズノヨミが教えていると、カヤが不機嫌そうに舌打ちする。
「チッ。要は俺達の能力を奪って、自分で使うって事だろ? 嫌らしい能力だな…!!」
「いいや、何度も言っているだろう。僕は一般人であり凡人でありモブキャラだって――奪ったんじゃない、君達を僕と同じ《無力な人間》にしただけさ。三人共平等に、ね」
「無力な、人間…」
何か思う所があったのか、ムーンが顔を俯かせる。
同じようにリズとカヤも黙っていると、スズノヨミは右手を胸に当てて語る。
「同じ強さ、同じ能力、そして同じ気持ちを分かち合う。それが僕の作り出す【平等】のスキルさ。術をつけた人限定だが――つけるだけなら幾らでも出来る。その気になれば、“この世界全ての人が持つ能力”を手に入れる事だって可能だ」
「な…! 全ての人の能力…!?」
あまりにもスケールの大きい話に、珍しくカヤが狼狽える。
リズとムーンも警戒の目でスズノヨミを睨む中、セヴィルとクロトスラルは心の中で溜息を吐いた。
(確かに彼女が人に振れるだけで『虫』がつく。構成上は可能だが――実行は“不可能”だ)
(それにあいつらは勘違いしている。ま、それがスズちゃんの“もう一つの武器”でもあるんだかな)
身内であるが故にスズノヨミの事を知っている二人は、すぐに話の中に嘘が混じっている事に気付く。だが、リズ達の味方をする気はないようでその事について教えようとはしなかった。
スズノヨミも二人の意図が分かっているのか、リズ達に向かって笑顔を向けた。
「でもま、これはこれでいい体験出来ただろ?」
「どこがいい体験よ!! あんなハートレス、私達だけでも対処出来たのに!!」
「それ」
「「「は?」」」
リズの怒鳴り声に目を鋭くしてビシッと指を差すと、ムーンやカヤまでがポカンとしてしまう。
「君達は守られる事で、不満を感じた。言い換えれば…守ってる仲間に同じ思いさせてるんじゃないの?」
「「「あ…」」」
スズノヨミの言いたい事が分かり、三人はこれまでの事を思い返す。
確かに自分達は誰かに守られるような体験をしている。だから強くなりたいと願い、それなりに力をつけて来た。
けれど、それは同時に誰かに自分達がかつて抱いた思いを押し付ける事になっている。セヴィルとクロトスラルも否定の言葉を言わない辺り、彼女の言い分は正しいのかもしれない。
さすがにリズ達が黙りこんでいると、スズノヨミは笑顔に戻って大きく腕を広げた。
「なーに、気にする事はない。弱いからこそ気づく事があり、強いからこそ気づかない事がある。当たり前の常識であるからこそ、忘れがちな事だ」
こうして話を一段落させると、スズノヨミは先程の乱闘で手放した宝箱へと近づいた。
「ところで、お宝は何かなー?」
どこかウキウキとしながらスズノヨミが宝箱を開ける。
だが、中を見た途端不審な表情を浮かべた。
「何コレ?」
その言葉と共にスズノヨミが宝箱の中から一枚の紙を取り出す。内容が気になりリズ達も駆け付けてスズノヨミの持つ紙に目を通す。
そこにはたった一言、【ハズレ】の文字がデカデカと書いてあった。
「ハズレ!? どういう事だよオイィ!?」
それなりに苦労して(大半がスズノヨミの所為)手に入った宝の中身に、ムーンがブチ切れてクロトスラルに詰め寄る。当の本人は耳の穴を指を塞ぎながら呆れた眼差しを向けた。
「どうも何も、そのままの意味だよ。宝探しなんだから簡単に見つかっちゃ面白くない。ダミーも用意しない訳にはいかないだろ?」
そう説明すると、悪者が作る様な古典的な笑みをムーンに見せつけた。
「宝探しが終わるまで、スズちゃんと平等に非力な力しか持てないんだ。キッチリ探せよー」
クロトスラルの悪魔の宣言に、三人が森中に響くような怒り狂った声を上げたのは言うまでもない…。
■作者メッセージ
えー、誕生日が終わるまであと二時間チョイですがあと一つだけ話が残っています。これもそれも妖怪の所為なのねそうなの……ハイ嘘ですごめんなさい。後半完成してないのに一週間前辺りからのχのイベントに感けていた所為ですごめんなさい。
現在も急ピッチで書き上げていますが、間に合うのかなこれ…。
現在も急ピッチで書き上げていますが、間に合うのかなこれ…。