【サンタになって大人達にプレゼントを配ろう計画】・前編
12月の中盤。クリスマス・年越しが近づき、人々は忙しくも楽しい気持ちにさせられるだろう。
それはこちらのメンバーも一緒だったが、今年は一つだけ違う事があった。
「「「「「プレゼント?」」」」」
とある部屋に集まっていた、テラ、アクア、クウ、ウィド、スピカが一斉に疑問形で言う。
そんな彼らの前では、話題を出したヴェンとレイアが頷く。
「うん! もし貰えるなら、みんなはサンタさんに何を頼む?」
「ヴェン、いきなりどうしたんだ?」
「そうよ。本来クリスマスにプレゼントを貰えるのは子供よ。私達はもう大人だし、さすがに頼まないわ」
ウキウキと話すヴェンに、すぐさま保護者であるテラとアクアが訂正を入れる。
すると、レイアは若干むくれながら反論する。
「もー! だから、“もし”ですよ! もし頼むのでしたら何を頼みますか?」
「もし、ですか?」
「何だよ、お前ら急に?」
突然の話にウィドが戸惑っていると、クウが純粋に疑問をぶつける。
この質問に、何故か二人は急に狼狽えだした。
「え、えーと…!」
「だって…!」
明らかに何か様子がおかしい。しかし、それを深く追及するほど保護者達は厳しくはない。寧ろ甘い方だ。
困った顔で互いに目くばせすると、スピカが助け舟を出した。
「まあいいじゃない。私達が欲しい物を教えるだけなんでしょ? と言っても、急には思い付かないわね…」
「あ、大丈夫! はい、クリスマスイブまでに欲しい物をこのカードに書いてよ!」
そう言って、ヴェンが人数分の赤いカードを取り出して五人に配る。表はモーグリの顔とオーナメントの絵が描かれている。
言われるままにカードを受け取ると、何も書かれていない裏面を見ながらテラが訊いた。
「書いた後はどうするんだ?」
「枕元に置いてください! そうすればサンタさんが「レイア!?」むぐっ!」
即座にヴェンがレイアの口を塞ぐが、飛び出した単語に大人達は二人に注目した。
「「「「「サンタさん?」」」」」
「な、何でもないよ!! それじゃあみんな、絶対欲しいもの書いて枕元に置いてねー!!」
まるでその場から逃げるように、ヴェンはレイアを連れて急いで走って立ち去る。
そうして二人がいなくなると、クウは訝しげな眼をしたまま全員を見回した。
「…あれ、どう思う?」
「怪しいわね…」
アクアも腕を組んで二人が去った方向を見る中、ウィドとスピカは苦笑を浮かべた。
「これは怪しいというか…」
「あの子達…私達と同じ事しようとしてるわね」
12月24日、クリスマスイブ。
だが、時刻が0時を過ぎた瞬間、25日のクリスマス当日となる。
それと同時に、深夜にある団体が現れた。
「メリークリスマース!」
「メリークリスマス!…さて、みんな。準備はいい?」
「バッチリ!」
それは黒いサンタの服を来たソラ、更にいつもの恰好をしたカイリ、ヴェンと。
「「はぁ…どうして俺まで…!」」
三人の後ろで盛大にため息を吐くリクとルキル。
これから行おうとしている事に乗り気でない二人に、不満そうにカイリは腰に両手を当てる。
「いいじゃない。何だかんだで大人組にはお世話になってるでしょ?」
「それじゃあ、計画の確認をするぞー! えーと、まずこっそりとみんなの部屋に忍び込むだろ?」
「で、枕元にあるプレゼントのカードを見て、ささっと欲しいプレゼントを持ってくればいいんだよな! これがソラの考えた【サンタになって大人達にプレゼントを配ろう計画】だな!」
と、ソラとヴェンが深夜に行う計画を確認する。
内容を聞けば分かっただろうが、今回のクリスマスイベントは子供組がサンタとなり大人達にプレゼントを渡すというものだ。この日の為に事前準備だって完璧にしている。(まあ、大人には完全にバレているが)
「今回の為に、コスチュームもクリスマスタウン版にしてきたからな! 頑張るぞー!」
「頑張ろー!」
「おー!」
((果てしなく不安だ…!!))
意気揚々と拳を掲げるソラ、カイリ、ヴェンに対し、リクとルキルは同じ事を考えていたと言う。
「まずは、テラの部屋から行くぞ…ドキドキするなー」
「お邪魔しまーす…」
早速ソラ達はテラの個室の前に到着し、ヴェンがドアを開ける。
中は家具が最低限しか置かれていない簡易な部屋で、そのベットでテラが眠っていた。枕元には赤いカードがある。
(あ、あった。ヴェン。カード、カード)
(そーっと、そーっと…)
ソラが見つけて指示を出し、忍び足でヴェンが近づく。ゆっくりと足音を立てて起こさないように忍び寄り、枕元にあるカードを摘まむ。
「うーん…」
「「「「「!?」」」」」
その瞬間、急にテラが寝返りを打つものだから五人に緊張が走る。
すぐ傍にいるヴェンも固まる中、いち早くリクが指示を出した。
(外だ! いったん外に出るぞ!)
(う、うん!)
リクのおかげですぐにヴェンは我に返り、他の人達も慌てて退避を開始する。こうして全員はテラを起こす事なく部屋の外へと撤退に成功した。
「あ、危なかった…!」
「で、カードには何が書かれてあるんだ?」
「えーと――」
サンタであるソラが訊くと、ヴェンはテラのカードに目を通した。
『強くなれるもの』
「テラらしいなー」
「でもこれ、どんなものをプレゼントしよう?」
こんな時でも変わらないテラの思考に思わずヴェンは感心するが、プレゼントの内容にカイリが困り顔になる。
すると、ソラは一つの携帯端末を取り出した。
「だいじょーぶ! えーと、これをこうして……あれ、どうするんだっけ?」
「貸せ。…この端末はこのボタンを、と――オパール、聞こえるか?」
妙なボタンを適当に押すソラを見かねて、端末を取り上げて代わりにリクが操作する。直後、取り付けているスピーカー部分から声が発せられた。
『はいはーい…ってリ、リク!? あああ、あの、ちょ!? え、えとその!?』
「オパール、テンパらないでよ。で、ソラ。どうするの?」
「あ、そうだった。オパール、『パワーアップ』と『ガードアップ』作ってよ。オパールなら材料も技術もあるし作れるだろ?」
「その手で来たか…いやまあ、確かに強くなるが」
すぐにカイリが話を戻すと、ソラはプレゼントを注文する。
ある意味手軽に強くなれるアイテムにルキルが頭を押さえると、別の場所にいるであろうオパールから意外な返答が返された。
『作れるには作れるけど、それ滅茶苦茶貴重な材料じゃないの…悪いけど、材料はあんた達で集めて』
「オパール。作ってくれたらリクの好物の料理教えるよ?」
『10秒待ってなさい。速攻で作ってレイアに届けさせるわ!!』
カイリの取引に速攻で喰いつき、合成を始めたのか通信が切れた。
「ふふん、どうよ!」
「「おおー、さすがカイリ!」」
「甘チョロだな」
「?」
誰もがカイリを褒め称える中、一人だけ意味が分かっていないリクだった。
さて、通信が切れてキッカリ10秒経つと、ソラ達の元にラッピングされた箱型のプレゼントが虚空から現れる。箱が現れたのはすぐ近くだったので、床に落ちる前にソラは両手でキャッチ出来た。
「来た来た。便利だよなー、プレゼントはレイディアントガーデンにいるオパールが作るか買うかして、そのままレイアがテレポの魔法で届ける」
「私達は欲しい物を教えて、枕元に置くだけ。この作戦って意外に出来るかも!」
実行した作戦の概要にカイリも頷くと、ヴェンが箱を受け取ってテラの部屋のドアノブに手をかけた。
「じゃ、俺テラの所に置いてくるよ! 先にアクアの部屋に行ってて」
「分かった」
再びプレゼントを置きに行くヴェンを残し、ソラ達は次の部屋へと向かった。
「よーし、次はアクアの番だー」
「ソラ、静かに。では、お邪魔しま〜す…」
テンションが上がるソラを注意してから、カイリがドアを開ける。
テラと同じような部屋でアクアもベットに眠っており、例のカードも枕元に置いていた。
(あ、アクアもカード置いてくれてる)
(抜き足、差し足、忍び足…よし、取った!)
(それじゃあ外に出るぞ)
眠っているアクアにソラが近づいて枕元のカードを掴むと、またリクが声をかける。
今度は起きる事もなく、四人は無事に部屋の外に出る。
「で、アクアの欲しい物はっと」
通路に出てから、ソラはカードの裏側に書いてある文字を読む。
『新しいお菓子の調理器具』
「あれ? 意外だ…」
「意外じゃないよ。アクアよくお菓子とかも作るから」
てっきりテラと似たような事を答えるかと思っていたソラに、同じ女で料理もするからかカイリが訳を話す。
さて、アクアの欲しい物にルキルが困ったように眉を顰める。
「だが、これはどうする?」
「まずはオパールに相談だ。オパール、いいか?」
連絡係となったようでリクが通信を繋ぐと、すぐにオパールが出た。
『んー、大丈夫。スピーカーは繋いでいたから会話聞こえてたし。新しい調理器具かぁ…さすがにそれは作れないなぁ…』
『今から買ってきましょうか? その分時間がかかりますが…』
さすがのオパールも困っていると、レイアが割り込みながら提案を出す。
「うん、そうしようか。じゃあ、アクアのプレゼントはレイアが買って来るまで後回し。先に他の人を終わらせよう」
「よーし、次に行くぞー!」
レイアをおつかいに行かせ、その間の時間を有効活用させるカイリ。異存はないようでソラも拳を上げて次の人の所に向かった。
「さーて、クウの部屋に来たぞー」
「それじゃ、さっさとカードを取るか」
三回目だから慣れたのか、今度はリクがドアを開ける。
同じような部屋で同じようにクウが眠っており、リクは素早く近づきカードを取ってそそくさと部屋を後にした。
「ふぅ、リクご苦労様」
「流石にみんな慣れてきたな。で、こいつの欲しい物はと…」
そう言って、リクが持っているカードの裏側を捲る。
『 』
しかし、今までと違いカードには何も書かれていなかった。
「何にも書かれてない…もー、ヴェンは本当に言ったのか!?」
「俺が何、ソラ?」
噂をすればなんとやら。テラにプレゼントを渡し終えて追いついたのか、丁度ヴェンが戻ってきた。
「ヴェン! 欲しい物書いてってみんなにちゃんと伝えたのか!? クウのカード何にも書いてないぞ!?」
「え!? 俺ちゃんと伝えたぞ!?」
「二人とも、声が大きいよ! 他の人も起きちゃう!」
騒ぎ出す二人にカイリがその場を収めようとすると、リクも何も書かれていないカードを仰ぎだす。
「下らない願いを書くよりマシだろ? あいつの事だから、欲しい物は女とかモテるグッズとか書くぞ」
「うー…サンタとしてはそっちの方がまだマシな気がするんだけど…!!」
何が何でもサンタとしての使命を全うさせたいソラに、ルキルも呆れてしまった。
「何も書かれてないんだから、欲しい物はないって事だろ。ほら、次行くぞ」
「ルキル、次がウィドだから張り切ってるでしょ?」
「なっ!? そ、そんな事はない!」
カイリの指摘に顔を真っ赤にしてウィドの部屋に向かうルキル。
ヴェンも後をついていく中、ソラはリクの持っているカードに目を向けた。
「あ、クウのカード返さなきゃ」
「別に返す必要ないだろ」
「良くないって! 俺返してくる!」
やはりサンタとして仕事をしたいようで、リクからカードを取るとソラは慌てて部屋に戻った。
(――ったく、あいつら。部屋の前でぎゃーぎゃー騒いで、あれでもサンタかよ)
扉が閉まり遠ざかっていく喧噪を耳にしながら、クウはベットからゆっくりと上半身を起こす。
そして、枕元にあるソラが置いたカードを拾う。
「書けって言うから書いたのに、最後まで気づかなかったか。ま、普通は気づかないよな…“炙り出し”なんて昔流行った手法だし」
手の内に黒い羽根を作り出すと、羽根を媒介にして闇の炎を作り出す。
その炎をカードに近づけると、熱に反応して文字が浮き上がる。
『大切な人達と笑いあえる時間』
「いつものように答えてもいいけど、たまには真面目に答えるのも悪くねーな。こんなの絶対見せないけど」
ククッと喉を鳴らして一頻り笑い、クウは今度こそベットの中で眠りについた。