【サンタになって大人達にプレゼントを配ろう計画】・後編
「ウィドの部屋についたぞー」
「先生の欲しい物…あらかた想像がつくな。じゃあ、入るぞ…」
未だにテンションの冷めないソラを尻目に、ルキルが部屋のドアを開けて部屋に入る。
中ではウィドもぐっすり眠っており、ルキルは足音を立てずにさっさと枕元のカードを取ると外に出た。
「よし…さて、先生の欲しい物はと」
余裕を崩さずに、ルキルは手に入れたウィドのカードを見る。
『遺跡丸ごと』
「「「「…………」」」」
カードに書かれてあった欲しい物の内容に、誰もが口を閉ざしてしまった。
「よ、余裕かと思ったら酷いのが出たぞ…!!?」
「遺跡丸ごとって何!? どれだけ遺跡好きなの、ウィドって…!?」
「石板とか、古文書とかじゃなくて丸ごとって…!! 俺達にどうしろって言うんだよ…!?」
あまりにぶっ飛んだプレゼントに、ヴェン、カイリ、ルキルが顔を青ざめてしまう。
ソラもリクも言葉が出ず、手も足も出ない状況に陥る中、端末を通してオパールが話しかけた。
『ふっふーん。あんた達、安心なさい。こんな事もあろうかと、秘策を作ってたわ』
「ひ、秘策?」
『あ、レイア戻ってきたわね。それじゃ、送るわね』
ソラが訊き返すと同時に、タイミングよくレイアが帰ってきたようで向こう側が静かになる。
数秒後、二つの荷物がテレポで運ばれてソラ達に届けられた。
「うわっ!」
「調理器具と…ミニチュア?」
それは一部が透明な袋に入ったアクアの欲しがっていた調理器具と、オリンポスコロシアムの闘技場を模ったミニチュアだった。
精密に作られたミニチュアにカイリが見入っていると、端末越しにオパールが得意げに説明した。
『遺跡関連なのは予想してたから、スケールの小さいミニチュアを作ってたの! ある意味“遺跡丸ごと”でしょ!』
「技術の無駄遣いじゃないのか、これ…?」
『失礼ね! 繊細な作業は空賊だから出来る事よ!』
呆れるリクに対して即座に文句を返すオパール。何がともあれ問題が解決して、ソラはお礼を言った。
「何がともあれありがと、オパール!」
「じゃ、もう一つのプレゼントは俺がまたアクアに届けてくるよ」
「じゃあこいつを先生の部屋に置いて…スピカさんの部屋で合流しよう」
そうして、ヴェンとルキルが直々にお世話になっている人達にプレゼントを置きに行く。何だかんだで喜ばせたいという思いは何処も一緒なようだ。
そんな二人を見ながら、ソラ達は最後の場所に向かった。
「ようやく最後だー!」
「今回は事故もなく終わりそうだね。こう言うのって、毎回ドタバタで終わる感じだけど」
終わりがまじかに迫りソラに続くようにカイリも感想を言うと、リクも安心して息を吐く。
「結構不安だったが、終わりが見えると少し寂しいな」
「スピカさんが欲しい物が気になるな…あの人、何を欲しがるんだろう?」
「それはこれから分かるよ。じゃあ、お邪魔しま〜す…」
そう言って、ヴェンがドアを開ける。
こちらもベッドですやすやと眠るスピカ。最後と言う事で、ソラがささっと枕元にあるカードを取り、部屋を出た。
「これが最後のカードだな」
「えーと、スピカさんのプレゼントは――」
リクが後ろからのぞき込むと、最後の務めとばかりにソラはカードの裏側を見た。
『ノウス=パルトゥスと言う世界にある、アルテマウェポン・アルテマシールド・アストラルロード』
「「「「「……エ?」」」」」
カードに書いてあるとんでもない内容に、五人は目が点になった。
『あんた達、どうしたの?』
「ねえ、みんな…ノウス=パルトゥスって、どこ?」
「俺に聞くな…!」
『待って、こっちでコンピューター駆使して調べてみるから』
ソラの問いにリクが震えながら顔を逸らすと、オパールがコンピューターを使っているのかカチャカチャと鳴らして調べ始める。
『出た出た。そこは混沌によって崩壊している世界で、入手の仕方は…――ええええええええぇ!!?』
「オパール、どうした!?」
突然上がったオパールの悲鳴に、ルキルが反応する。
すると、少ししてオパールからの返答が返された。
『アルテマウェポン・アルテマシールドは世界が終わる終末の日に出るダンジョンの奥の四体のボスを倒す…』
『アストラルロードに至っては、世界中を回る商人に50万払うそうです…』
「「「「「……………ナニソレ?」」」」」
二人が探してくれた情報を聞き、もうそれしか言い返せなかった。
「姉弟だ…やっぱり先生の姉だ…!! サンタ相手に全く容赦ない…!!」
「ソ、ソラ…さすがにこれは諦めた方が…!!」
最後の最後で無理難題を押し付けられてルキルとヴェンが諦めモードに入る。
そんな中、ソラはと言うと…顔は引き攣っていたが、その目に決意を浮かばせていた。
「やるよ、俺…!!」
「「「「ソラ!?」」」」
「俺、サンタだもん…! プレゼントを届けて笑顔を見るのがサンタの使命だろ! うん、やる! やらなきゃ!」
「待て、ソラ。スピカさんにはフルーツタルトを贈ろう。俺達はサンタなんだろ? なら、無理に危険を冒す必要なんてどこにも…!!」
つらつらとリクが諦めさせようと説得していると、急にソラがリクを見上げる。
「大丈夫! リクと一緒なら何でもやれるさ! な、リク!!」
「ソ、ソラ…!?」
「二人なら何だって出来るだろ、そうだろ!?」
「…ッ…!!」
純粋な、それでいて縋るようなソラの瞳にリクは知らず知らず怯んでしまう。
「リ、リク…無理、しない方が…」
「そうだって…さすがにこれは、俺達総出でも限界が…」
「ホンモノ、悪い事は言わない。断れ」
さすがにリクに同情しているのか、カイリ、ヴェン、ルキルがやんわりと逃げ道を作ってくれる。
「リク…!」
一方で、ソラは尚も涙目でリクを見上げる。
双方に板挟みになりながらも、リクの出した結論は。
「……ぞ…」
「「「『『へ?』』」」」
「――行くぞお前らぁ!!!」
―――それから日は経ち、12月31日。大晦日。
「大晦日も残り僅かとなったな」
「何だかんだで、一年あっという間だったなー」
少し大きめの和室よ洋室が一緒に合わさった部屋。そこで炬燵に入り、のんびりとテラとクウが呟く。クローリングの床にあるソファではウィドとスピカが座っており、点けている大型液晶テレビの紅白歌合戦を見ている。
ゴーン、ゴーン…と外から除夜の鐘も聞こえ出す。一年の締めくくりのような感じで聞いていると、部屋の扉が開いた。
「みんなー、年越しそば出来たわよー。今年はお肉に海老天も載せてみたわ」
アクアが五人分の年越しそばをお盆に載せて持ってくると、一人一人にそばの入った丼を手渡していく。
全員にそばを配り終えてアクアも炬燵に入ると、ウィドとスピカは箸を取りながら顔を見合わせる。
「それにしても、子供組はどこに行ったんでしょうか?」
「そうね、クリスマス前から姿を見てないわ」
「どうせどっかで今年最後を楽しんでんだろ。あいつらも友達が多いんだし、俺ら大人は大人の時間を楽しみながら新年を過ご」
そう言いながら、クウが大きな酒瓶を炬燵の上に置く。
直後、炬燵の真上から巨大な馬が天井を突き破って落下した。
「ぎゃああああ!!! 年越しそばとシュテンから貰った秘蔵の酒がぁぁぁ!!?」
「何なの!? この馬は!?」
「この気配、オーディン?」
突然現れて炬燵を破壊した巨大な馬にアクアが起き上がって身構えていると、馬の正体に気づいたのかスピカが首を傾げる。
そうこうしているとオーディンは消え、代わりに行方が知れなかった子供組が雪崩のようにその場に倒れこんだ。
「ヴェン!? どうしたんだ、こんなボロボロになって!?」
「ルキル!? あなた達、一体何を!?」
炬燵の残骸に横たわる子供達にテラとウィドの保護者が駆け寄ると、ボロボロのソラが四つん這いで起き上がった。
「メ…メリー、クリスマス…」
「クリスマスって、もうすぐ一週間経つぞ!! と言うかお前ら本当に何があったんだよ!? レイアまで何に巻き込んだんだ!?」
ツッコミ交じりにクウが怒鳴っていると、ソラは大きな白い袋を差し出した。
「ス、スピカさん…これ…! サンタのプレゼント…!」
「うそ、本当に『ライトニングリターンズ』の世界に行って取ってきたの!? レア中のレアで最強の装備なのよ!? まさか本当に取ってくるなんて…駄目元でカードに書いて良かったわ〜」
「何てものを頼んだんだよ、スピカ!? 駄目元なら心の中に留めろぉ!!」
止まる事無くクウのツッコミが炸裂する中、ようやくアクアが全員を助け起こした。
「一体何があったの、あなた達?」
回復魔法を全体でかけて全員の傷をあらかた傷を治す。
それでも子供組は俯いて座ったままだ。
「ボスが…ダンジョンの敵が…!」
「世界中駆けまわっても、ランダムで出会えない…!」
「あの赤い髪のお姉さんがいなかったら、絶対帰ってこれなかった…!」
「あんなでかい相手を軽々と倒して、持ってる服も必死で頼み込んで…!」
「しかもこうして送ってくれて…つくづく感謝しないとな…!」
余程酷い目に遭ったようでオパール、カイリ、ルキル、ヴェン、リクが震えながら事のあらましを喋る。
とにかく大変な目に遭った事が分かり、ウィドは疲れた表情を浮かべた。
「どうやら、今年は大変な年越しになりそうですね…」
「そのようだな…ハハハ」
ゴーン、とまた一つ煩悩を消す除夜の鐘が鳴る中、テラも…いや、スピカ以外の全員が引き攣った笑いを浮かべるしかなかったそうな…。
■作者メッセージ
今年のクリスマスの作品はいかがでしたでしょうか? 前回は保護者組が中心だったので、今年は子供組でやってみました。これを完成させたいがために、本編の方は一旦お休みしました、ハイ。
なお、今年の投稿はあと一回、旅館の方で投稿できたらと考えています。ネタは前々から言ったようにあります。完成も…出来ればパパッと終わらせたいです、ハハハ…。
なお、今年の投稿はあと一回、旅館の方で投稿できたらと考えています。ネタは前々から言ったようにあります。完成も…出来ればパパッと終わらせたいです、ハハハ…。