リラ様誕生日企画・Part4-4
ハッキングの済ませた裏路地を移動し、商店街の近くにやってきたのはアクセル、ゼクシオン、クウ、ウラノスの四人だ。
まずはアクセルが裏路地から顔を覗かせながら、あちこちに取り付けられた監視カメラを確認する。
「いいか? あくまでも俺達は女らしくだ…ここから先に出たら、男である事を捨てろ」
「はい。僕ら配属のモーグリが用意した女性用の服です。あなた達はこれに着替えてください、男のままの服じゃ怪しまれます」
機関メンバーのコートは着用者のサイズに合わせて変化できるが、こちらはそうではない。女性となって体格が縮んでしまいぶかぶかのままなので、返って目立ってしまう。
言われるままに二人はゼクシオンから渡された衣装に着替える。ウラノスは白いシャツの上に茶色のカーディガン、丈が足元まである茶色のスカートに黒のストッキングだ。クウはピッタリとした黒の長シャツの上からに半袖と膝元の黒のコート、短パンに膝元まである黒のブーツを付ける。
こうして二人の準備も完了すると、監視される町中へとアクセルが一歩踏み出した。
「よし――行くぞ、お前ら!!」
アクセルを先頭に、町の中へと足を踏み出した四人。
服装を変えたからか、さっきのように信者は出てこない。
それでも油断は出来ない。一旦ゼクシオンは立ち止まると、監視の目を誤魔化そうと女らしく話しかけた。
「見てください、あそこに美味しい漬物屋さんがあります。食べに行きましょ」
「「女が喜々としながら漬物屋に行くかぁ!!」」
「ぶごぉ!?」
直後、クウとウラノスが同時にゼクシオンに飛び蹴りを放った。
「あなた達、漬物をバカにしないでください!! 世界は広いんです、どこかにきっとぼ…私のような漬物galeがいる筈です!!」
「漬物galeって何だよ!?」
「ったく、アホか!! ここは女の心を知り尽くした俺が手本を見せてやる!!」
珍しくウラノスがツッコミを入れる横で、クウが胸を張って立ち上がる。
これまで幾多の女を落としてきたのだ。さすがに女性の好みや行動はここにいる誰よりも分かっている。
早速笑顔を浮かべると、三人に向かって近くのカフェの店を指す。
「ウラノスー、あそこの店にあるスイーツを…ス、スイーツ…――やっぱこっちの激辛料理店に」
「お前も一緒じゃねーかぁ!!!」
激辛料理店に足を運ぼうとするクウに向かって、即座にウラノスが雷付きのチャクラムを投げつける。
明らかに狙ってきた攻撃をどうにか避けると、クウは喧嘩腰にウラノスを睨みつける。
「しょうがないだろ、俺甘いもの嫌いなんだよ!! ってか何すんだよ!! 女にそんな攻撃していいと思ってるのか!?」
「あーら、女同士なら文句はないでしょぉ? ま、あんたみたいな経験もないアバズレには分からないでしょうけどぉ?」
「てめ…ウラノスゥ、その断崖絶壁の胸で何言ってんの? スタイルじゃこっちが圧倒的でしょぉ、その気になりゃワタシだって一つや二つ本気出してやるってのー」
「へぇ、胸が大きければいいってもんじゃないのよ? そんな脂肪タプタプ抱えて、肩凝るでしょ? 服だって一部がギュウギュウで布が可哀想だなオイィ?」
「ちょっとー、欲しい物が無いからって僻みとか止めてくれよー。ってか胸ばっかりじゃなくて他もスタイルいいんだけどぉ? 変態の血筋なのに目の付け所が悪いなあぁ?」
「誰が変態の血筋じゃあ!! 大体なぁ、胸がでかいだけの奴が偉い訳じゃねーぞ!! 今の世の中は貧乳の時代なんだよ、中身なんだよ! 外見で勝負するてめえなんて、寄ってかかるのは身体目当ての男だぜ!! てめえと同じクズな男だ!!」
完全に女言葉が崩れ、しまいには二人の間で火花が飛び散る。
「だったら勝負しようじゃねーか!! 女の俺がお前より上だって証明してやるよ!!」
「上等だ!! お前のようなガサツな女に負ける気はしない!!」
お互いに怒鳴りつけると、二人は怒り心頭のままに足早にどこかへと走り去ってしまった。
「ふ、二人とも何処に…!!」
「水と油じゃねーか、あの二人…」
「――みんな、ちゃんとやってるかなぁ?」
一方、別部隊であるカイリはリズと共に噴水の広場にやってきていた。リズも機関から支給された男性用の服装に着替えている。
素早い動作で監視カメラに機械を付け終え、リズは軽やかに降り立ちながら答える。
「さぁね…と、さあな――う〜、男の言葉って難しい…」
「ふふ。でも、これっていい機会かもしれないよね。男らしさとか、女らしさとか、普段意識してないから。ソラ達には女の気持ちを知る絶好の機会かも」
「そうだな…危ない!」
「きゃ!」
突然リズに抱きしめられ、壁際に寄せられる。
何事かとカイリが顔を赤らめるが、リズの後ろに数人の信者達がいる事に気づく。
見回りの信者達が二人を見て足を止めるが、特に何もしていないからか怪しまれる事無く通り過ぎた。
「ふぅ、行ったか…」
「あ、ありがとうリズ…!」
完全に過ぎ去ってからようやくカイリを開放すると、何故か顔を赤くしている。
鈍感の称号を持つリズには顔を赤らめる理由が分からず首を傾げるが、すぐに信者の去った方向を忌々し気に見つけた。
「未だに監視の目もあるな。どうすれば…」
「ねえ、リズ。いっその事、恋人のフリでもしてみる? ほら、私達男女だしその方が怪しまれずに済むかも!」
「恋人か…いいかもな」
「ああ、いいと思うぜ」
カイリの案に賛成した時、何故か低い声が耳元で聞こえて背筋がヒヤリとする。
それはカイリも一緒なようで、二人は声のした方へゆっくりと振り返る。
「でも…母親と恋人のフリって俺出来るかなぁ?」
「本当だなぁ…俺もこんな美少年の恋人のフリなんて出来るかなぁ?」
まだ昼間の筈なのに、どこかの暗がりからグラッセとソラが怖い顔をして現れる。
結果――リズにはソラが、カイリにはグラッセが横に付く形で共に歩く事となった。
「「……なんか、ごめん」」
「「なにがぁ?」」
反射的に二人が謝るものの、妙な所で恐ろしい親子であった。
「おにーさん、私とお茶しなーい?」
「私、中身女だけど?」
高い声で逆ナンするウラノスの誘いを、エアリス(男)は呆れた目で足払い。
「おにーさん、私とお茶しなーい?」
「何なのよそのデカイ胸!! ふざけんなぁ!!」
同じく猫撫で声で逆ナンするクウの誘いを、ユフィ(男)は目の敵とばかりに睨み去っていく。
ナンパ対決を初めてもう30分。これまでに沢山の男に声をかけたのに、二人の成果は0人だった。
「そういや、ここにいる男の人達…みんな元女だって忘れてた」
「俺も…今自分の姿が誰もが羨むスタイル抜群の女の身体になってたの忘れてた」
状況が状況だが、ここまで酷いと精神が折れてしまいとぼとぼと歩く二人。
これはもう勝負がつかないと思われたその時、今度は前方に金髪の男性二人組の後姿を見つけた。
「あれは!」
「今度こそ!」
「あ、ずりーぞ!?」
いち早く駆けるクウに、ウラノスも慌てて追いかける。
「「ちょっとそこのおにーさん!!」」
勝負に勝ちたいと言う思いを込め、二人は同時にそれぞれの男性の肩を掴む。
すると、男性二人は振り返る事もせず淡々と会話をし出した。
「こんな時にナンパのお誘い、か…よっぽど暇そうに見えてたようだな、俺達」
「いつもなら女性からの逆ナンも大歓迎なんだけど、こんな状況下だとさすがに呆れてくるな」
この男性、何やら様子がおかしい。
その事に気づいていると、二人の足元にある物が転がっていた。
「「か、監視カメラァ!?」」
自分達を脅かしていた監視カメラの残骸。それが大量に積まれているのだ。
女性二人が肩から手を放して怯んでいると、尚も背を向けたまま男性二人は話を続ける。
「ふっ。女性って言うが、この世界の女性は元男じゃないか。俺達と同じように」
「ああ、そうだったな。って事は、男性からのアプローチ…まあ、私としては二重に美味しい展開になるよ」
「ああ、そうだ。君の肩を掴んでいる女性…よく見れば君の弟に見えるんだが気のせいか?」
「そっちこそ、あなたに声を掛けたナイスバディな女性は思いを寄せている男性に見えるんだけど?」
「バカ言え。彼は女の姿だからと言って、誰構わず男にナンパするような奴じゃない筈だろ」
「私の弟だって、今頃はこんな状況に陥れた敵を殲滅させようとしている筈だ」
「――それで?」
「――あなた達、何処のオス豚だ?」
ようやく振り返ると、蔑んだ目で男達は見下ろしてくる。
その顔は、間違いなく最強の姉――いや、兄の顔だった。
「「……ッ……!!」」