リラ様誕生日企画・Part4-6
「全く、油断も隙もない……クウ、もう大丈夫だ。後は俺に任せていい。とりあえずこの書面にサインさえすれば今後の生活も俺が全て面倒を見て」
「待てやぁ!! お前が手に持ってる紙って婚姻届じゃねーか!?」
ちゃっかり名前所か必要な部分まで書いており、後はもう印を押すだけと言う徹底ぶりだ。
「式はどこで挙げようか? あ、衣装はウェデングドレスと白無垢どっちが着たい? 俺はどっちも似合うと思うけどな」
「俺の意見全面無視!?」
男女としての立場が逆転したのを幸いに、籍を入れるだけでなく結婚式まで事を進めようとするスピカ。
しかし、立場が変わっても邪魔者は存在する。
「姉さ、いえ兄さん!! そんな奴と結婚なんて私は断じて認めません!!」
「そうです!! クウさんのお婿さんになるのは私です!!」
「俺泣いていい?」
シスコン…いや、ブラコンであるウィドはともかく、掴みかかるレイアの言葉に男としての心が折れかけるクウ。
一方、スピカは尚も余裕の態度で、睨むレイアへと不敵に笑いかける。
「レイア、残念だがお前は結婚出来る年齢に達してない。女ならあと二年だろうが、男は四年も待たないといけないんだぞ? それまでクウが待ってると思うか? 俺が彼女の心を仕留められないと思うか?」
「よ、四年も…!? う、う、ううううぅ…!!」
長い歳月とスピカの口八丁に、とうとうレイアはがっくりと膝をついてしまう。
「では私とならどうだ!? ちゃんとした大人の姿だ!!」
「シャオォ!! お前のその姿はどう足掻いても受け入れられないからな!?」
代わりに自信満々に詰め寄ったアンセムだが、さすがのクウも拒絶反応を起こす。
ライバルはいなくなり、スピカの圧勝…と思われたが、忘れてはならない障害が一つ残っていた。
「私は嫌です!! こんな奴、『義姉さん』なんて絶対呼びませんからね!!」
頑なに嫁を受け入れようとしないウィド。この妹の様子に、スピカはなぜかクウを引っ張りだす。
「仕方ないな。クウ、こうなったらウィドを納得させるぞ」
「あ、あのー…納得って?」
「あの子は家族に甘い。ならば甥っ子か姪っ子の顔でも見せればきっと考えを改めてくれるはずだ」
「ちょっと待てぇ!!! お前出来婚させる気かぁぁぁ!!?」
「安心しろ、痛いのなんて一瞬で収まるさ。多分」
「それ以前の問題だろうがぁ!!! ひぃ!? ちょ…いやあああぁぁ!!!」
「クウさーーーーんっ!!?」
悲鳴を上げてどこかに拉致られようとするクウに、たまらずグラッセが叫ぶ。
「ねえ。いっその事、もう皆このままでいいんじゃない?」
「母さん!? いや、カイリさん何さらっと恐ろしい事言っちゃってるの!?」
「じゃあ逆に聞くけど、皆男に戻ったとして、男になったリズ達に勝てると思ってる?」
『『『うぐ…!』』』
カイリの指摘に、女性達の誰もが言葉を詰まらせた。
「今でさえ役立たずなのに、男の状態で攫われたり操られたり、お母さん気質だし人の言う事聞かずに自分の思うままに進んで、そんな男がこの真の男達に勝てるって本気で思ってる?」
「そうだな。今なら全員敵側になったとしても全員救えるし世界も守れそうだ」
「止めてアクアさん!! KH3の男性メンツの立場がなくなるぅぅぅ!!!」
男前なアクアの発言に最強と言われるゼムナスやロクサスですらも暗い顔で押し黙ってしまい、グラッセの悲鳴じみたツッコミも止まらない。
そんな中、言われっぱなしだったアクセルが吼えた。
「ええい! 何と言おうと俺達は元の姿に戻るんだ! おい、薬は!? 施設の何処かに元に戻るワクチンがある筈だろ!!」
「そ、それが…ダスクの報告じゃ、それらしいのがないようで」
「はぁ!?」
周りにダスクを従えたデミックスの報告に、思わずアクセルが叫ぶ。
そこで、リズもある事に気づく。
「そう言えば、親玉であるあいつも見てない…一体どこに?」
その時、目の前のモニターに砂嵐が起こる。
全員が画面に注目するとモニターの砂嵐は収まり、最初にリズに話しかけた占い師…大司教が映っていた。
「あ、あいつは!!」
「よくぞここまで辿り着きましたね。あなたの行いは全て拝見させて頂きました」
「ど、どう言う事だ!?」
リズが叫ぶと、大司教はモニター越しにリズの手首を指差す。
見ると、リズが今日付けていたブレスネットの表面に小さな機械が付いている。どうやらそれを使って監視されていたようだ。
手首を掴まれた時か。そう気づいてリズはすぐに壊すが、大ボスに見られていた事実は変わらない。
「あなた達は確かに男として、幾多の試練を手に入れた力で括りぬけてここまで辿り着いた。そして女として生まれ変わった者達は脆弱となり何も出来ない存在となった。そう、これこそが我らの教えのあり方。男は男らしく、女は女らしく。誰よりも悩んでいたあなただからこそ、導く事が出来たのです。感謝しますよ」
「何が感謝だ! 私達を元に戻せ!!」
全てが敵の思い通りだとしり、癇癪を起すリズ。
すると突然、映像が切り替わり町の外を映す。
町の人々が驚きに満ちており、上空にはあの光が再び町に落とされようとしていた。
「我らの役目はこれまで。これからの人生は、真に生まれ変わったあなたが導いていくのです――男として目覚めたあなたなら、きっと出来る筈です…」
その大司教の言葉が終わると同時に、町に光が落とされる。
そして再び、辺り一帯に眩い光が包みこんだ…。
光が収まり視界が戻ると、住人達が地面に倒れている。
しかし、徐々に目覚め出した。
「な、何なの…? あっ!」
「戻った――やった、戻ったぞー!」
目が覚めると周りの人達の性別が元に戻っており、町中が喜びの歓喜に満ち溢れる。
そんな人々を、リズとグラッセは離れた所で眺めていた。
「全員元に戻ったな…」
「ああ…
――地下にいた、俺達を除いて…!!」
そう。あの基地は地下にあった所為で、性別転換させる光がリズ達に届く事がなかったのだ。
リズ達全員(グラッセ(茶髪)、カイリを除いて)が固まる中、レイディアントガーデンの人達は尚も騒いでいる。
こうして一部が性別転換されたまま、この事件は幕を閉じようとしていた。
「頼むー!! もう一回打ってくれー!!」
「元に戻しやがれ!! いや、戻してくださいー!?」
上空に向かってクウとアクセルが必死で叫ぶが、結局現状が変わる事がなかった…。
あの事件から、数週間が経った。
場所は名もないどこかの世界。街中の広場で、男達が一人の少年によって次々とやられていた。
「ぎゃあ!」
「ったく、性懲りもなく嫌がる女に手を出すなんて――それでも男か?」
「ち、畜生!」
「これに懲りたら、二度とバカな真似をするなよ? 今度やったら、これぐらいじゃ済まないぞ?」
『す、すみませんでしたぁぁぁ!!!』
少年が睨んで脅すだけで、男達は竦み上がってその場を去っていく。それを見送ると、少年は襲われていた女性に手を伸ばして助け起こした。
女では決して出来なかった事が出来ている。密かに少年――リズはそんな事を感じていた。
やがてリズがやってきたのは、一軒の飲食店。
中に入ると、奥の席でウラノスが待っていた。その向かい側にはスピカとウィドも座っている。
「やっと来たか、リズ」
「ウラノス。それにスピカとウィドも」
久々に会ったスピカとウィドに軽く挨拶をし、ウラノスの隣に座る。すると、開口一番にスピカが詫びた。
「すまないな、急に呼び出して」
「気にしてないさ。で、ウラノスと何か話をしていたようだけど」
「ああ。この二人に近況報告をと思ってさ」
ウラノスはそう言い、再び姉弟…いや兄妹に向き合った。
「まあ、何だ。あの後、幼馴染君はクソガキと共に修行の旅に出たよ。男を磨くとか言う妙な理由でよ。ムーンは他の世界で家事に関する教室を開いて、主婦を中心にいろんな生徒を受け持っている状況だ。料理に掃除に洗濯と主婦に関する事に関しては一番だからな」
「ちなみに、ラックはジェダイトの元で泊まり込みで料理を教わっているらしい。男になっても相変わらず暗黒物質作るから毎回悲鳴上げるか叩かれるかのどっちかだけど」
「テルス兄さんは…相変わらず変態を満喫している。あまりの行き過ぎに警察に逮捕されそうになっていたけど、カヤが止めてくれて助かったぜ…」
「あと、]V機関の連中は女ばっかりになったからね。世界平和って事でマールーシャを中心に花屋を始めたんだってさ。そうそう、ラクシーヌは女になってナルシストに磨きがかかった変態のバラ野郎を黒焦げにしては尻に敷いている。シオンは…まあ相変わらずだな」
こうしてウラノスと共に身内の事を教えると、今度はリズが兄妹に質問する。
「それで、あんた達の方はどうなんだ?」
「似たようなものさ。カイリは今度はソラとリクを守るって言って、キーブレードマスターを目指しているようでな。アクアも戦えなくなったテラやヴェンの代わりに男として世界を巡ってこれまで以上に活動している。二人とも今まで以上にイキイキしてるな」
「オパールは故郷に戻ってからイケメンとして数々の女性から声を掛けられたりしてますが、シドと共に新たなエンジニアとして活動しています。恐らく、変わらないのはレイアくらいでしょう」
「へぇ? あんたも変わらない様に見えるけど?」
「いえ。妹になったおかげで、気兼ねなく兄さんに精一杯甘えられますから!」
((シスコン…いや、ブラコンが更に増しとる…))
人目があると言うのに遠慮なく兄の腕に抱きつくウィドの姿に、二人はそう思ってしまった。
「甘えると言えば、ルキルもそうだ。女になった事で心に余裕が出来たのかリクに対して素直になった。仲の良い姉妹になって、こちらとしても嬉しいよ」
「なるほど。…ところで、クウとの結婚はいつになるんだ? ご祝儀は幾ら持ってくればいい?」
ここでスピカが推し進めていた計画を思い出し、リズが質問する。
その瞬間、二人とも顔を見合わせてそのまま黙り込んでしまった。
「「………」」
「スピカ? ウィド?」
「あいつはいないよ」
「「え?」」
ようやく答えたスピカに、リズだけでなくウラノスも疑問の声を出す。
暗い顔をするスピカの横で、ウィドも呆れたような溜息を吐いた。
「兄さんが結婚にまでこじつけようとしたのに、何処かに行ってしまったんです。『自分探しの旅に出る』って書置きを残して」
「あいつ、バカか。女の身体、しかも一人で旅に出るってどれだけ危険なのか分かってんのか?」
これにはウラノスが呆れながら呟くが、当のスピカはカップを傾ける。
「確かにあいつはバカだ。だが、頭は悪くない。危険と分かってて旅に出たんだ――心のままに動く、じっとしれられない性分なんだよ」
「スピカはそれでいいのか? 今ならライバルはいない、正式な恋人になるチャンスだったんじゃないの?」
「…俺が惚れたのは、そう言う部分だ。そんな所が無くなったクウは、そこらにいるただの女だよ」
「スピカ…」
あくまでも好きな人の良くも悪くもある考えを尊重し、大切にする。そんな大人な考えに、リズは今の質問が愚問であったと思い知らされる。
思わず反省を見せていると、スピカは肩をすくめて笑顔を見せた。
「それに――やる事はやったしな」
「「あんた何をしたんだ!?」」
「冗談だ」
不吉な言葉に二人がツッコミを入れると、ククッと笑って返す。
「まあ、何だ。俺達は俺達でこの姿を満喫している…お前達と同じようにな」
カップの飲み物を飲み切ると、徐にポケットに手を入れて二枚のチケットをリズに差し出す。
どうやらイラストを見る限り、恋愛をモチーフにした映画のチケットのようだ。
「このチケット…」
「取るの大変だったんだぞ? 折角だし、二人で見に行くと良い。それじゃ、俺達は行くとするか。ウィド、帰るぞ」
「はい、兄さん。それでは二人とも、また」
そう言って、スピカとウィドは顔を赤らめる二人を置いて去っていく。
自分達の分の会計を済ませ、出ようとした所でウィドが耳元でスピカに囁いた。
「――兄さん、いいんですか?」
「ウィド、決めるのは俺達じゃない」
そう言って、ウィドに顔を向ける事無く断言する。
「あの子が決めてこそ、歩き出せるんだ」
「待てやぁ!! お前が手に持ってる紙って婚姻届じゃねーか!?」
ちゃっかり名前所か必要な部分まで書いており、後はもう印を押すだけと言う徹底ぶりだ。
「式はどこで挙げようか? あ、衣装はウェデングドレスと白無垢どっちが着たい? 俺はどっちも似合うと思うけどな」
「俺の意見全面無視!?」
男女としての立場が逆転したのを幸いに、籍を入れるだけでなく結婚式まで事を進めようとするスピカ。
しかし、立場が変わっても邪魔者は存在する。
「姉さ、いえ兄さん!! そんな奴と結婚なんて私は断じて認めません!!」
「そうです!! クウさんのお婿さんになるのは私です!!」
「俺泣いていい?」
シスコン…いや、ブラコンであるウィドはともかく、掴みかかるレイアの言葉に男としての心が折れかけるクウ。
一方、スピカは尚も余裕の態度で、睨むレイアへと不敵に笑いかける。
「レイア、残念だがお前は結婚出来る年齢に達してない。女ならあと二年だろうが、男は四年も待たないといけないんだぞ? それまでクウが待ってると思うか? 俺が彼女の心を仕留められないと思うか?」
「よ、四年も…!? う、う、ううううぅ…!!」
長い歳月とスピカの口八丁に、とうとうレイアはがっくりと膝をついてしまう。
「では私とならどうだ!? ちゃんとした大人の姿だ!!」
「シャオォ!! お前のその姿はどう足掻いても受け入れられないからな!?」
代わりに自信満々に詰め寄ったアンセムだが、さすがのクウも拒絶反応を起こす。
ライバルはいなくなり、スピカの圧勝…と思われたが、忘れてはならない障害が一つ残っていた。
「私は嫌です!! こんな奴、『義姉さん』なんて絶対呼びませんからね!!」
頑なに嫁を受け入れようとしないウィド。この妹の様子に、スピカはなぜかクウを引っ張りだす。
「仕方ないな。クウ、こうなったらウィドを納得させるぞ」
「あ、あのー…納得って?」
「あの子は家族に甘い。ならば甥っ子か姪っ子の顔でも見せればきっと考えを改めてくれるはずだ」
「ちょっと待てぇ!!! お前出来婚させる気かぁぁぁ!!?」
「安心しろ、痛いのなんて一瞬で収まるさ。多分」
「それ以前の問題だろうがぁ!!! ひぃ!? ちょ…いやあああぁぁ!!!」
「クウさーーーーんっ!!?」
悲鳴を上げてどこかに拉致られようとするクウに、たまらずグラッセが叫ぶ。
「ねえ。いっその事、もう皆このままでいいんじゃない?」
「母さん!? いや、カイリさん何さらっと恐ろしい事言っちゃってるの!?」
「じゃあ逆に聞くけど、皆男に戻ったとして、男になったリズ達に勝てると思ってる?」
『『『うぐ…!』』』
カイリの指摘に、女性達の誰もが言葉を詰まらせた。
「今でさえ役立たずなのに、男の状態で攫われたり操られたり、お母さん気質だし人の言う事聞かずに自分の思うままに進んで、そんな男がこの真の男達に勝てるって本気で思ってる?」
「そうだな。今なら全員敵側になったとしても全員救えるし世界も守れそうだ」
「止めてアクアさん!! KH3の男性メンツの立場がなくなるぅぅぅ!!!」
男前なアクアの発言に最強と言われるゼムナスやロクサスですらも暗い顔で押し黙ってしまい、グラッセの悲鳴じみたツッコミも止まらない。
そんな中、言われっぱなしだったアクセルが吼えた。
「ええい! 何と言おうと俺達は元の姿に戻るんだ! おい、薬は!? 施設の何処かに元に戻るワクチンがある筈だろ!!」
「そ、それが…ダスクの報告じゃ、それらしいのがないようで」
「はぁ!?」
周りにダスクを従えたデミックスの報告に、思わずアクセルが叫ぶ。
そこで、リズもある事に気づく。
「そう言えば、親玉であるあいつも見てない…一体どこに?」
その時、目の前のモニターに砂嵐が起こる。
全員が画面に注目するとモニターの砂嵐は収まり、最初にリズに話しかけた占い師…大司教が映っていた。
「あ、あいつは!!」
「よくぞここまで辿り着きましたね。あなたの行いは全て拝見させて頂きました」
「ど、どう言う事だ!?」
リズが叫ぶと、大司教はモニター越しにリズの手首を指差す。
見ると、リズが今日付けていたブレスネットの表面に小さな機械が付いている。どうやらそれを使って監視されていたようだ。
手首を掴まれた時か。そう気づいてリズはすぐに壊すが、大ボスに見られていた事実は変わらない。
「あなた達は確かに男として、幾多の試練を手に入れた力で括りぬけてここまで辿り着いた。そして女として生まれ変わった者達は脆弱となり何も出来ない存在となった。そう、これこそが我らの教えのあり方。男は男らしく、女は女らしく。誰よりも悩んでいたあなただからこそ、導く事が出来たのです。感謝しますよ」
「何が感謝だ! 私達を元に戻せ!!」
全てが敵の思い通りだとしり、癇癪を起すリズ。
すると突然、映像が切り替わり町の外を映す。
町の人々が驚きに満ちており、上空にはあの光が再び町に落とされようとしていた。
「我らの役目はこれまで。これからの人生は、真に生まれ変わったあなたが導いていくのです――男として目覚めたあなたなら、きっと出来る筈です…」
その大司教の言葉が終わると同時に、町に光が落とされる。
そして再び、辺り一帯に眩い光が包みこんだ…。
光が収まり視界が戻ると、住人達が地面に倒れている。
しかし、徐々に目覚め出した。
「な、何なの…? あっ!」
「戻った――やった、戻ったぞー!」
目が覚めると周りの人達の性別が元に戻っており、町中が喜びの歓喜に満ち溢れる。
そんな人々を、リズとグラッセは離れた所で眺めていた。
「全員元に戻ったな…」
「ああ…
――地下にいた、俺達を除いて…!!」
そう。あの基地は地下にあった所為で、性別転換させる光がリズ達に届く事がなかったのだ。
リズ達全員(グラッセ(茶髪)、カイリを除いて)が固まる中、レイディアントガーデンの人達は尚も騒いでいる。
こうして一部が性別転換されたまま、この事件は幕を閉じようとしていた。
「頼むー!! もう一回打ってくれー!!」
「元に戻しやがれ!! いや、戻してくださいー!?」
上空に向かってクウとアクセルが必死で叫ぶが、結局現状が変わる事がなかった…。
あの事件から、数週間が経った。
場所は名もないどこかの世界。街中の広場で、男達が一人の少年によって次々とやられていた。
「ぎゃあ!」
「ったく、性懲りもなく嫌がる女に手を出すなんて――それでも男か?」
「ち、畜生!」
「これに懲りたら、二度とバカな真似をするなよ? 今度やったら、これぐらいじゃ済まないぞ?」
『す、すみませんでしたぁぁぁ!!!』
少年が睨んで脅すだけで、男達は竦み上がってその場を去っていく。それを見送ると、少年は襲われていた女性に手を伸ばして助け起こした。
女では決して出来なかった事が出来ている。密かに少年――リズはそんな事を感じていた。
やがてリズがやってきたのは、一軒の飲食店。
中に入ると、奥の席でウラノスが待っていた。その向かい側にはスピカとウィドも座っている。
「やっと来たか、リズ」
「ウラノス。それにスピカとウィドも」
久々に会ったスピカとウィドに軽く挨拶をし、ウラノスの隣に座る。すると、開口一番にスピカが詫びた。
「すまないな、急に呼び出して」
「気にしてないさ。で、ウラノスと何か話をしていたようだけど」
「ああ。この二人に近況報告をと思ってさ」
ウラノスはそう言い、再び姉弟…いや兄妹に向き合った。
「まあ、何だ。あの後、幼馴染君はクソガキと共に修行の旅に出たよ。男を磨くとか言う妙な理由でよ。ムーンは他の世界で家事に関する教室を開いて、主婦を中心にいろんな生徒を受け持っている状況だ。料理に掃除に洗濯と主婦に関する事に関しては一番だからな」
「ちなみに、ラックはジェダイトの元で泊まり込みで料理を教わっているらしい。男になっても相変わらず暗黒物質作るから毎回悲鳴上げるか叩かれるかのどっちかだけど」
「テルス兄さんは…相変わらず変態を満喫している。あまりの行き過ぎに警察に逮捕されそうになっていたけど、カヤが止めてくれて助かったぜ…」
「あと、]V機関の連中は女ばっかりになったからね。世界平和って事でマールーシャを中心に花屋を始めたんだってさ。そうそう、ラクシーヌは女になってナルシストに磨きがかかった変態のバラ野郎を黒焦げにしては尻に敷いている。シオンは…まあ相変わらずだな」
こうしてウラノスと共に身内の事を教えると、今度はリズが兄妹に質問する。
「それで、あんた達の方はどうなんだ?」
「似たようなものさ。カイリは今度はソラとリクを守るって言って、キーブレードマスターを目指しているようでな。アクアも戦えなくなったテラやヴェンの代わりに男として世界を巡ってこれまで以上に活動している。二人とも今まで以上にイキイキしてるな」
「オパールは故郷に戻ってからイケメンとして数々の女性から声を掛けられたりしてますが、シドと共に新たなエンジニアとして活動しています。恐らく、変わらないのはレイアくらいでしょう」
「へぇ? あんたも変わらない様に見えるけど?」
「いえ。妹になったおかげで、気兼ねなく兄さんに精一杯甘えられますから!」
((シスコン…いや、ブラコンが更に増しとる…))
人目があると言うのに遠慮なく兄の腕に抱きつくウィドの姿に、二人はそう思ってしまった。
「甘えると言えば、ルキルもそうだ。女になった事で心に余裕が出来たのかリクに対して素直になった。仲の良い姉妹になって、こちらとしても嬉しいよ」
「なるほど。…ところで、クウとの結婚はいつになるんだ? ご祝儀は幾ら持ってくればいい?」
ここでスピカが推し進めていた計画を思い出し、リズが質問する。
その瞬間、二人とも顔を見合わせてそのまま黙り込んでしまった。
「「………」」
「スピカ? ウィド?」
「あいつはいないよ」
「「え?」」
ようやく答えたスピカに、リズだけでなくウラノスも疑問の声を出す。
暗い顔をするスピカの横で、ウィドも呆れたような溜息を吐いた。
「兄さんが結婚にまでこじつけようとしたのに、何処かに行ってしまったんです。『自分探しの旅に出る』って書置きを残して」
「あいつ、バカか。女の身体、しかも一人で旅に出るってどれだけ危険なのか分かってんのか?」
これにはウラノスが呆れながら呟くが、当のスピカはカップを傾ける。
「確かにあいつはバカだ。だが、頭は悪くない。危険と分かってて旅に出たんだ――心のままに動く、じっとしれられない性分なんだよ」
「スピカはそれでいいのか? 今ならライバルはいない、正式な恋人になるチャンスだったんじゃないの?」
「…俺が惚れたのは、そう言う部分だ。そんな所が無くなったクウは、そこらにいるただの女だよ」
「スピカ…」
あくまでも好きな人の良くも悪くもある考えを尊重し、大切にする。そんな大人な考えに、リズは今の質問が愚問であったと思い知らされる。
思わず反省を見せていると、スピカは肩をすくめて笑顔を見せた。
「それに――やる事はやったしな」
「「あんた何をしたんだ!?」」
「冗談だ」
不吉な言葉に二人がツッコミを入れると、ククッと笑って返す。
「まあ、何だ。俺達は俺達でこの姿を満喫している…お前達と同じようにな」
カップの飲み物を飲み切ると、徐にポケットに手を入れて二枚のチケットをリズに差し出す。
どうやらイラストを見る限り、恋愛をモチーフにした映画のチケットのようだ。
「このチケット…」
「取るの大変だったんだぞ? 折角だし、二人で見に行くと良い。それじゃ、俺達は行くとするか。ウィド、帰るぞ」
「はい、兄さん。それでは二人とも、また」
そう言って、スピカとウィドは顔を赤らめる二人を置いて去っていく。
自分達の分の会計を済ませ、出ようとした所でウィドが耳元でスピカに囁いた。
「――兄さん、いいんですか?」
「ウィド、決めるのは俺達じゃない」
そう言って、ウィドに顔を向ける事無く断言する。
「あの子が決めてこそ、歩き出せるんだ」