スピカとカヤの審神者交流会2(*刀剣乱舞ネタです)
△月△日
俺と短刀達の頑張りの甲斐あって、どうにか全員の傷が癒え始めた頃、また用事が出来てしまった。
流石にもう誰も頼みたくないが、そう言う訳にも行かない。とにかく常識人をと思い、今度の留守はガイアに任せてみた。三人の中で一番まともだから、酷くはならない筈だ…多分。
用事も出来るだけ早く済ませて本丸に帰ってきたら、骨喰や一期、光忠を中心とした焼け落ちて無くなった刀剣達がトラウマを抉られた表情を浮かべて落ち込んでいた。どうやらガイアが炎の能力を使った時に、死に際を思い出させたらしい。
折角治りかけた傷が再び抉れてしまい、もうこの三兄妹無理だと確信したのち、彼女も出禁に指定した。
「何というか…おんしら、大変じゃったんじゃのう」
「でも、これで納得したわ」
思わず陸奥守がカヤと山姥切に同情の視線を送っていると、スピカが日記から目を離して天井を仰ぐ。
「何故あなたの本丸の刀剣達が、私を警戒する目で見ていたのかね…」
ここに来てからずっと、すれ違う刀剣達は友好的に接する者も含めて刀を何時でも抜けるように手をかけていたし、短刀の殆どが怯えて自分達と距離を取っていた。
最初は『ある世界』で出会ったレイシャのようにカヤにも警戒されているのかと思ったが、今ようやく理由が分かった。
「すまない…!! あんたは俺と同じ審神者だからっては皆に伝えたんだが…!!」
「気にしないで…ここまで来たら警戒されても当然のレベルよ」
□月〇日
ウラノスの出来事からもう少しで一ヵ月、ようやくみんなの傷も完全に治った。
次の留守はどうしようかと思い、思い切ってリズに任せてみた。と言うか「みんな審神者やってずるい! 私もやってみたい!」とねだられた――正直何かしでかすのが確実に分かっているから任せる事に対して不安しかないんだよ、だからやらせたくないんだ。なんて面として言えなかった…こんな臆病な審神者で、みんなごめん…。
帰ってきたら、何がどうなっているのか小夜や骨喰の卑屈代表から、頂点に立つ三日月の刀剣も含めた本丸全員がリズを信仰していた。しかもみんな物凄く錬度が上っていた。俺は訳が分からなかった。ただ、置いてけぼりってこういう事を言うんだな…、と言うのは辛うじて分かった。
なぜこうなったのか、とりあえず一回観察する事にした――が、すぐに理解した。出陣に関係ない筈のリズも刀剣達とついて行き、錬度差ある検非違使相手に引けを取らずに一緒に突っ込んで戦って一人残らず破壊しまくっていた。しかも演練まで部隊と一緒になって戦うのだから、相手の審神者と刀剣を怯えさせていた。
このままじゃ俺の本丸にとんでもない噂が立つし、下手すれば乗っ取られる!! そう直感し、リズも出禁した。後に時間をかけて、戦闘狂だったみんなの性格を元に戻した…!! うん、みんないつも通りが一番だ。間違ってもリズのように敵に容赦なく飛び蹴りかましたり、破天荒な行動したり、腹黒の笑顔しちゃいけない…!!
「…………」
「(^_^)」
あまりにも酷い内容にスピカが黙り込みながらカヤを見るが、「何も語るな」と言う顔を作っていた。
□月☆日
ある日、俺の話を聞いたのかソラさんが審神者の代理を遣りたいと言ってきた。
本当は嫌だが、半日離れる用事があったので少しならと任せてみた。少し目を話しただけで、酷い事は起こらないだろうと。この時の俺は、そう信じていた…。
急いで用事を片付けて帰ってきたら、みんな無事だった。だが、何故か一振り、小狐丸がいない事に気づいた。聞いて見たら、誤操作して刀解したと言う。
俺は意識が吹き飛んでいたらしい。辛うじて覚えているのは、真っ青になって土下座したソラに本気のドロップキックと限界突破のダイヤモンドダスト喰らわせた後、好きな物のフルコースをこれほどにまで食べた事だろうか。「レア物刀解してごめんなさい!!」「レア刀だからって問題じゃねえ!! 錬度53も育てるのどれだけ大変だったと思っとんのじゃぁぁぁぁ!!!!」「レア物だから怒っていたんじゃないのぉ!?」って会話も辛うじて覚えてた、アッハッハwww …どれだけレア物だろうがお気に入りかつレベル上げてる奴を消されて切れねぇ奴なんていねぇんだよゴラァァァ!!!
アハハ…俺の小狐丸…初めて数日で来たけど、大事な小狐丸…!! もちろん出禁にした、と言うかもう誰も入らせない!! この本丸は俺が守ると胸に誓った!!!
「………大変だったのね、カヤ」
「あ、うん。その言葉だけでもう泣ける…!!」
寧ろ、ここまで来たら泣いていいレベルだ。そうスピカは心の中で呟く。
カヤを見ると目元を押えて泣いていて、山姥切も宥めるように肩に手を置いている。彼らの様子に、ふとスピカの中で疑問が生まれた。
「…ちなみに、近侍の山姥切だったらどうしてたの?」
「潰す」
「「(・□・)」」
即答の上に真顔で言い切ったカヤに、スピカも陸奥守も上のように唖然とした顔になった。
「え、俺の相棒のまんば刀解してたら? 許さんよ? 何が何でも許さんよ? これまでも苦労を全部ぶつけてやるよ?」
そう早口で答えるカヤの目は、本気と書いてマジと呼んだ。恐らくリズが相手だろうがゼムナスが相手だろうがロクサスが相手だろうが、今の(まんばを失った)彼ならば完膚なきまでにぶちのめせるだろう。
「…まあ私も、審神者をやっている知り合いに「私が間違ってレア刀を刀解したらどうする?」って質問したら「レア刀ならまだいい。だが、極の刀剣を刀解したら本気で首を絞める」って脅された事あるわ…」
「気が合いそうだな、その友人。俺もやられたら本気で切れる自信あるぞ?」
「…あなた、もう極持っているの?」
「ああ、いるぜ。6人もな!」
「…もうあなたの部隊で世界救えるんじゃない?」
「最近演練で他の審神者ビビらせているしなぁ…」
遠い目で言い切るカヤに、スピカはこれ以上何も言えなくなってしまった。
□月□日
消されたものは仕方ないから、小狐丸を求め鍛刀をした。
その結果、何故か鶴丸のじーちゃんが数回来た。嬉しいけど複雑だよ!! こんな驚き俺は求めちゃいねーんだよぉ!!!
「鶴丸…ですって…!」
「いやー、ここ最近は鍛刀しても鶴丸ばっかりしかこなくて…酷い時は最大五回連続で鍛刀されたよ…」
「流石にあれは、驚きを通り越して滅入った」
うんうんと山姥切に頷いていると、急に前方から闇の気配を感じる。
見ると、スピカが闇のオーラに身を包んでこちらに向かって拳を握り込み笑っている。笑顔の筈なのに全く笑顔ではない。
「カヤ、今から大太刀部隊呼んでもいいわよね、いいでしょ?」
「スピカさん!?」
「こっちは鶴丸欲しいのに全くでないのよ。あなたに教えてもらった『オール資材890』使っても全く出ないの私の本丸のレア刀は蛍丸だけよどういう事かしら喧嘩売ってるならお高く買うわよ?」
「あ、主!? 落ち着くんじゃ、わしらじゃそこの近侍の錬度99と極部隊には勝てんぞ!?」
「陸奥守。九州人はね、敵を刺し違えてでも戦いを行う程の思考を持っているの。その昔、撤退する時は敵の本陣を真っ正面から突破して、自分の本陣に帰還したほどなのよ。現代では逃〇中のハンターを見ては「逃げるより返り討ちにして倒したい」って考える程戦闘に特化しているのよ。九州の刀である蛍丸と同田貫なら分かってくれるわ。修羅の国って言われとったとばい九州は肥後なめとったらあかんばい痛い目にあいたかとぉ?」
「頼む! 主、落ち着いてくれーやぁ!? そっちの審神者も主を止めるんじゃー!!」
「頼むスピカさん俺が悪かったから落ち着いてくれー!!」
10分後…
「ん〜、このずんだ餅美味しい〜♪」
「そりゃあまっこと良かった…」
騒ぎを聞きつけた燭台切がたまたま持ってきたおやつにより、機嫌を取り戻すスピカ。
上機嫌でずんだ餅を食べる彼女の様子に近侍の陸奥守だけでなく、カヤと山姥切も疲れた顔で溜息を吐いた。
(お菓子一つで落ち着いてくれてよかった…)
(事前にクウさんから、スピカさんは食べ物があれば上機嫌になるって教えてもらって正解だった…)
互いに心の中で呟きながら、カヤは尚もずんだ餅を食べるスピカに話しかける。
「そんなに鶴丸欲しいなら、鍛刀した奴一本あげましょうか…? 他の人に羨ましがられているけど、スピカさんだったらあげますよ?」
鍛刀しても鍛刀しても鶴しか出ないのだ。正直な感想いらないし、欲しい人に渡した方が無難だろう。
すると、丁度ずんだ餅を食べ終わり、カヤの申し出にスピカは微笑した。
「要らないわ。ちゃんと自力で見つけるから」
キッパリと断った彼女に、カヤは一瞬耳を疑った。
「で、でも怒りを買う程欲しいんじゃ?」
「確かに鶴丸は欲しいわ。だけど、人の手を借りて成しえても何の意味もない。自分の力で成す事に意味があるの。羨ましい気持ちは持つけど、嫉妬はしないし怒りに任せた行動もしない。これからも私は私の力で刀剣達を集めて育てていくわ」
「主は真面目なんじゃ。さっきもあやん事言うとったが、《奪う》とは一言もいっとらんじゃろ?」
「…変わらないな、あなたは」
「それが私だから。さて、次のページで最後ね。最後は…」
◎月☆日
検非違使が出てきて…大切に育ててきた秋田藤四郎が破壊されてしまった…。
俺の…秋田藤四郎…!! 破壊された時の最後の言葉が心に刺さってる…!! 守ってあげられなくて、こんな審神者で本当にごめん…!!
「「……っ……!!」」
最後の最後で出たとんでもない内容に、スピカも陸奥守も言葉を失ってしまう。
そんな二人に、カヤも山姥切も失笑を浮かべて徐に立ち上がった。
「そんな顔をするな…折角だ、初代の秋田に挨拶してくれ」
そう言って、隣の襖を開ける。
今いる部屋と同じような和室。だが、その奥には秋田藤四郎の写真が飾られた仏壇に拝んでいる一期がいた。
「これは、お客様ですか…!」
「警戒するな、一期。彼女は俺の仲間ではなく、審神者友達だ」
「そう、ですか…失礼しました」
「いえ、お気遣いなく…」
「り、立派な仏壇じゃのぅ…」
カヤの説明で引き下がる一期に対し、スピカと陸奥守はしどろもどろな状態になってしまう。
「はい、私の一代目の弟が眠っております。秋田、主のお友達が会いに来てくれたよ」
「今日の御供え物は、おはぎとずんだ餅か」
「ええ、山姥切殿。五虎退と前田がおやつをお供えしていたんです」
「そうか。秋田、良かったな」
カヤは一期の隣に座り、写真の秋田に微笑む。同じように山姥切も隣に座り、じっと写真を見つめる。
「主…わし、さっきから前が見えんのじゃが…!!」
「奇遇ね…私も目の前の光景が直視出来ないの…!!」
この三人の姿に、陸奥守とスピカは涙目で目を逸らすしかなかったと言う。