スピカとカヤの審神者交流会3(*刀剣乱舞ネタです)
交流中に思わぬ事実を知り、打ちひしがれそうになったスピカと陸奥守。
それでもどうにか立ち直り、交流会を再開する。
「さて、次はあんたの番だ。見せてくれよ」
「いいわ――はい。これが私の日記よ」
そう言って、スピカが持参した日記をカヤに渡す。
別の本丸の生活の情報が詰まっているそれを、カヤと山姥切は読み始めた…。
〇月〇日
色々あって、審神者と言う役職に就く事になった。最初の刀剣男子――初期刀では、九州にゆかりがある坂本龍馬の刀、陸奥守吉行を選んだ。
最初は覚えなければいけない事が沢山あるけど、焦らず地道にやっていきましょう。
〇月×日
初めて数日。鍛刀や出陣でそれなりに刀剣達も増えてきた。
そこで歓迎会も含めて、腕によりをかけて料理を作って振る舞ってみた。
すると、全員匂いを嗅いだだけで重傷になってしまった。人が食べる物と刀が食べる物は違うからだろうか? もっと勉強しなければ。
「陸奥守ぃぃぃーーーーーーー!!!??」
読み終わった直後、事の重大性にカヤが絶叫を上げた。
「わしゃ、あんとき綺麗な川と手を振る龍馬が見えたぜよ…」
「お前…!!」
若干遠い目で思い出す陸奥守に、カヤは同情したくなる。
そんな中、山姥切は会話の理由が分からず小声で話し掛ける。
(どういう事だ、主?)
(あの人の作る料理はいわば毒物なんだよ…食べたら最後、生と死の狭間を彷徨いかねない…)
(どんな料理だ!?)
「その頃、料理出来る刀剣がまだいなかったから、色々試行錯誤して料理を作ってたんだけど、どれも駄目で……しばらくして歌仙兼定が来てから、彼が厨担当になったの。刀剣が作る料理を人間である私が食べても何ともないのに。変よねぇ?」
「陸奥守、よく耐えたな…!!」
「なはは…」
カヤの言葉に、陸奥守は力なく笑うだけだった。彼の目が泣きかけているのは気のせいではないだろう。
(主、この人は素なのか!? 素で言っているのか!?)
(残念ながら、素だ)
ツッコミを入れる山姥切にカヤはそれだけ言うと、続きを読みだした。
×月□日
事情があって、一ヵ月ほど本丸を留守にしてしまった。日記も久しぶりに書く。
ここ一週間、鍛刀しても鍛刀しても出陣しても新選刀ばっかりで一向に新しい刀が出てこない。
昨日も来ない今日も来ない明日も来ない蛍丸すら出ない…そんな事を思いながら鍛刀の確認をした所、何と燭台切光忠が出てきた。
まさかのサプライズエンカウントに「みっちゃああああん!!!」と拳を握り込んで叫んだ。本来彼はレア刀ではないのだが、それだけ新しい刀に飢えていたのかとちょっと実感してしまった…。
△月〇日
こつこつ集める予定だったが、ここまで出ないと流石に限界だ。余りにもレア刀が出ないと審神者をやっているカヤに愚痴った所【550/660/760/550】の黄金レシピとオール720のレシピを教えてもらったので実践した。
それでもどう言う訳か新選組と狐と国広兄弟しか出てこない。そんな中、期間限定の演習イベントをしていたら短刀達が傷つきながらも『明石国行』を連れて来た。『愛染国行』を入れていて良かった…本気でそう思った。彼も保護者である明石に凄く喜んでいた。だが、次のステージの検非違使は無理だった。一回進軍しただけで刀装が剥がれて何人も中傷になった。検非違使の怖さを嫌って程教えられた。
「す、凄いな…初めて一ヵ月少しなのに、明石を手に入れられるって…」
「そんなに凄いの? 口を開けば『働きたくあらへん〜』とか言ってるけど」
今頃本丸で愛染とゴロゴロしているであろう明石、通称「ニー刀」をスピカが思い浮かべる。
彼女の様子に、どうやら事の重大性が分かっていないと分かり、カヤが理由を話した。
「普通はかなり先の戦場で手に入るレア刀剣の一振だ。しかも、手に入れるにあたってかなり苦労しなければならない程だから、明石の難民審神者も結構いるんだ…イベントで手に入ったスピカは運がいいよ」
「初めて数日で三日月と小狐丸手に入れたあなたに言われても…」
「だが、その小狐丸も…小狐丸もぉ…!!」
「ご、ごめんなさい! つ、続き読んで! ねっ!」
再び嫌な事を思い出して肩を震わせるカヤに、スピカは先を促した。
△月△日
兼さんが重傷を負いながらも4-1の進軍をしてくれた。すぐに手入れしようとしたが、錬度上げで負傷した刀剣がいた為手入れ部屋は満員だった。10分後ようやく明石が治ったが「まだまだ手入れが必要なんやけどなぁ〜」と言った数秒後、堀川が黒笑浮かべてキレた。
脇差である筈の彼が太刀クラスの明石を床に沈め、即座に兼定を手入れ部屋に入れるという珍妙な光景が見れた。愛の力って凄いわ。
△月□日
今回も山吹国定か兼さんだろうと思って鍛刀していたら、『獅子王』が出てきた。これには目を疑って叫んだ。
その次の日、錬度もある程度上がったので4−2へと進軍させた。ボスマスには止まらなかったにも関わらず、『蜻蛉切』、更には『御手杵』と連続で槍をドロップしてくれた。流石にこの奇跡に目を疑った。
△月☆日
今日は陸奥守に代わって光忠を近侍にして鍛刀したら、初の大太刀で『石切丸』が出てきた。その後も鍛刀したら『太郎太刀』が出た。二日連続で同じ種類の刀に、何時しか自分の運勢が怖くて若干パニックを起こしていた。
□月〇日
近侍を光忠に交代してから三日目。鍛刀で新たに出てきたのは『大倶利伽羅』と言う打刀だった。
それにしても、この刀。何となく誰かさんに似ている気がする…孤独でいたい所とか、ぶっきらぼうだけど仲間を気にかけたり大事にする所とか、文句を言いつつも手伝ってくれる感じとか…。
(……スピカさんの言ってる、大倶利伽羅に似ている人ってあの人の事なんだよなぁ? 似てる、のか?)
カヤが例のあの人(注:某ファンタジーの名前を言ってはいけない闇の魔法使いではありません)を思い浮かべていると、山姥切がスピカにストレートに質問した。
「大倶利伽羅に似ている人物とは、誰だ?」
「えーと、まあ…その…!」
「なはは! 言うてしまうと、主の想い人じゃ!」
「む、陸奥守っ!」
赤い顔をして誤魔化そうとしていたのに、あっさりと陸奥守にバラされてしまい大声を上げるスピカ。
そんな二人の会話に、想像通りとばかりにカヤは頭を押えて大きな溜息を吐いた。
「やっぱりですか…」
「知っているのか、主?」
「ああ…奴はそうだな。女性ならば誰構わずナンパするスケベ大魔王な上に基本やる気もなくだらしない女の敵だ」
「そんな奴が何故大倶利伽羅に似ていると判断した!? と言うか、どうしてそんな奴に惚れたんだお前はぁ!!?」
大倶利伽羅は不愛想で孤独を好む刀剣だ。内番は良い顔せず、戦は好むが合戦や遠征の命令にいい顔はしない…いや、これはやる気がない訳ではなく、群れるのが嫌いなだけだ。文句を言いつつも仕事はするのだから。
そんな彼と、主から聞いた彼女の想い人は全く持って似ていないし、悪い男に引っかかっていると判断するのが妥当だ。ツッコミを入れる山姥切にスピカは若干感心した視線を送る。
「まるでグラッセ並みのキレがいいツッコミね。私の所の山姥切はツッコミなんてしないのに」
「俺の環境上、仕方なくな…」
「どんな環境なの……いいわ、それ以上言わなくて」
少し気になったが、遠い目を浮かべるカヤとさっきの日記を思い返し、これ以上深入りしてはいけないと感じたスピカであった。
「それより、さっきの質問だが…」
「私が好きな人は、あなたやカヤが思ってるより悪い人じゃないのよ」
「それは、俺の主の目が節穴だと言いたいのか?」
少しだけ口調がキツくなり、山姥切の目つきが鋭くなる。主をバカにされたと解釈したのだろう。
山姥切国広は本来“贋作”と呼ばれ、卑屈で自虐な性格だ。カヤの事でここまで真剣になれるのは、それだけ愛されていると言う証でもある。
「私とカヤは、知り合いではあるけど付き合いが違うから。彼の事に関しても、表面的な部分は合ってるわ。だけど、付き合いが長くないから裏側までは知らないの。大倶利伽羅だって、見た目は不愛想で人と慣れ合わない。だけど、実際に接するとそうではない、でしょ?」
山姥切の睨みに臆せず、笑顔で答えるスピカ。
贋作と言えど、刀剣男子は付喪神に値する。高位な存在でも崩れる事ない彼女の立ち振る舞いに、山姥切は根負けしたように軽く息を吐いていた。
「…あんた、只者じゃないだろ?」
「審神者やっている人は、みんなそうじゃないのかしら?」
「もういい…」
これ以上相手をしていては疲れる。そう思い、山姥切は続きを読んだ。
□月×日
大倶利伽羅を近侍にして鍛刀した所、『へし切り長谷部』も出てきて打刀がほぼ揃った。
新たに仲間になった長谷部だが、なぜか既視感を感じる。
どんな時も主、主とくっつく姿は、そう…あの子にとても似ていた。
「否定出来ないぃぃぃーーーーー!!!」
「…今度は誰なんだ?」
さっきとは違うカヤの反応に、山姥切はうんざりそうに質問する。
「一言で言うなら、重度のシスコンだ」
「あんたの周りもどうなっているんだっ!?」
「カヤの仲間と一緒にしないで。私の仲間はあそこまで破天荒じゃないわ」
(どの口が言っているんだ…)
呆れながらスピカにそう言いたかったが、カヤはぐっと我慢した。