激突、主人公対決!2
勝負方法は町中を練り歩いて困った人を助けると言うシンプルな方法。そんな優しさ勝負だが、結論から言うとクウの圧勝だった。
なにせリズは吐き気を催したままの参加だ。見かけたとしても、時々立ち止まっては壁や柱に吐きまくり後手に回ってしまう。そんなリズにクウも最初は遠慮したが、捕まえた犬を抱えるなり吐き上げた胃酸を頭にぶっかけたり、青白い顔のまま暴漢に飛び蹴りしたり。とにかく散々な目にしか合わない。
そんな姿を何度も目の当たりにして、とうとうクウは甘さを放棄した。とにかく心が命じるままに、リズより先にクウが率先して動いて人助けをしていった。
「どう考えても今回の勝負は赤コーナー! クウに上がりましたー!!!」
再び駅前広場に戻り、カヤは無表情のまま結果を報告する。その片隅では、リズは未だに壁に手を付けて吐き上げていた。
「うぇぇぇ…よくもまぁ、あそこまで優しく出来る物だ( ゜д゜)」
「まだ吐くのかよ!!オパールさん何か薬あります?」
「あー。エリクサーで作った胃薬あるけど、効くかなー?」
ポーチを漁ると、グラッセに胃薬の入った小瓶を渡すオパール。
「そりゃあ、町中で困ってる人を助けるくらいはできるだろ。てか、リズ何やってたんだよ!! 暴漢を飛び蹴りするのはいいとして、助けた奴までドン引きさせるとか何をどうすりゃそうなるんだ!? 俺がフォローしなかったら騒ぎになってたぞ!!」
「おろろろろ( ゜д゜)」
「力で示す以外の方法分からないんですって、何せ故郷では色々とありましたんで…あ、エリクサーありがとうございます」
通訳と同時に遠目を作ってお礼を言うと、早速グラッセはリズにオパール特製の胃薬をテルスと協力して飲み込ませる。
勝負に勝ったのにもはや何も言えなくなり、黙ってしまうクウ。けれど、彼にはちゃんと勝利を祝ってくれる恋人達がいる。
「まあ、そこがクウのいい所だからね」
「ついでにリズさん、メンタルがた落ちですし」
「そんなに嫌だったんだ、師匠のキメ顔…」
上機嫌なスピカ、苦笑するレイア、心配するツバサと、見事に反応が上・中・下と分かれている。
「ぶろぼぼぼ( ゜д゜)」
「恋する乙女には申し訳ないがああいう男苦手だわとの事です」
吐いてるようにしか聞こえないのに、グラッセは一言一句間違えずに答える。熟練とも言える二人のやり取りに、ウィドも呆れしか浮かばなくなる。
「もはやどこぞの史上初ゲロを吐くチャイナヒロインになり下がってますね…」
「ゲロインもここまで長く吐かねぇけどな、そもそもコイツヒロインってガラじゃねぇし」
「ああ、言われればそうでした。ヒロインは別にいたんでしたっけ。これは失敬、すみませんグラッセ」
「俺は主人公ですけど!!!?」
さりげなく酷い事を言われ、グラッセが大声でツッコミを決める。そうこうしている内に、ようやくリズが復活を遂げた。
「ぶぶご………ふぅ、オパールありがとう、胃薬効いたよー!!」
「はーい、口直しにお茶飲みなさい」
テルスが麦茶を差し出したので、早速リズは受け取って一気に飲み干した。
「あ、やっと効いた? 後でエリクサーの代金請求するんで、よろしくねー」
「うん、ゼムナス宛によろしくー!!」
「ぶぅらあああああああああああああ!!!!!?」
薬代の原価を請求すると、流れる様にゼムナスに全額負担させるリズ。これには通りすがりでやってきていたゼムナスが悲鳴を上げる。
ゼムナスの悲痛の心の叫びに対し、オパールの目は既に¥マークと化していた。
「りょうかーい。モーグリに通して請求書送っとくわー♪」
こうして5万マニーの請求書(半分以上ぼったくり)をゼムナスに叩きつけた後、1vs1と引き分けに持ち越して二人の主人公は最終戦へと進むのだった。
最後に訪れたのは、存在しなかった世界。
城の最上階にある虚空の祭壇で、最終決戦が行われようとしていた。
「それじゃあ第3回戦! 最終勝負は自分の特技を披露して仲間を喜ばせる事だー!!!」
「え」
「は?」
相変わらず無表情のままカヤが言い放った最後の対決方法。それを聞いたリズとクウは同時に間抜けな声を漏らした。
「主人公たるもの個性が必要、そのためにも自分の特技を披露して仲間から喜ばれるのも必要だそうだ…歴代の主人公たちからのアドバイスだ(`・ω・´)」
「何つう事を言ってくれてんじゃ、歴代主人公どもぉおおおおお!!?」
「『ブレイクダンス』でもしろってか!? ミニゲームしろってか!? ソラもリクもヴェンも後で拳骨喰らわせてやる、マジで泣かせてやらぁぁぁ!!!」
無茶振りなお題に二人が真っ暗な空に向かって叫んでいると、レイアが手を上げる。
「あのー。それって、自分の陣営の方ですか? それとも相手側の方になるんですか? もしかして両方です?」
「対象は全員だ! それじゃあお前ら…精々困って……ゴホン、楽しませてくれよ!!!」
「せめて本音隠せやこの腹黒がぁぁぁ!!!」
「俺の親友が真っ黒に…どうしてこうなった(´;ω;`)」
「100%【リズ】の影響よ」
鬼の形相を浮かべるリズの後ろでは、嘆くレイシャをテルスが宥めていたとか。
何がともあれ、最後の対決が幕を上がる。だが、何をどうしていいのか分からずクウは困ったように頭を掻く。
「特技って言われても…!」
「おやおや、何か1つくらいは出来るでしょう。とりあえずこの3Dでソラが付けてた鼻眼鏡かけて腹踊りとかやってみたらどうだ? 爆笑ものだろ?」
「ハッハッハ。そうだな、お前の顔を変形させたらさぞかし笑えるだろなぁ?」
黒い笑顔で鼻眼鏡を差し出すウィドに、クウはツッコミせずに同じように黒い笑顔を浮かべて青筋を立てる。
「えー…仲間が喜びそうな事……テルス、今日は私をセク「それ以上は言わせねぇよ?」ぐ、グラッセ、目が怖い…」
「普通にお菓子作りとかで良いだろ、お前の取り柄それだろ」
「よーしそこに直れ(#^ω^)ピキピキ」
素で言いのけるムーンに、リズはキーブレードを取り出すなり正座を促す。
「何だ? 腹踊りではなく全裸で踊りたい? 確かに約一名は喜びますねー? あなたにしては考えたじゃないですかー」
「そうだなー、お前ボコボコにした後全裸にしてやってもいいぞ、ああ?」
更に、喧嘩腰だったウィドとクウまで互いに火花を撒き散らす程ヒートアップしている。
喜ばせる所か災厄をばらまいている光景に、オパールとルキルとレイシャが一斉にカヤを見た。
「…どうすんのこれ?」
「クウもリズも収集が付かなくなってきてるんだが…!」
「…収束付かなくなってますけど、主催者さん」
「今から迅速に動かないと、お前らスピカさんとラックとラクシーヌとシオンとレイシャに作ってもらった物―ねじ入れるぞ」
ドスの聞いた声(無表情)で二人を脅すカヤ。すると、一瞬で怒りを納めたかと思えば恐怖を浮かべて全員へ振り返った。
「ひぃ!! 考える、真面目に考えます!!」
「さー!! お菓子作ろう!! 皆何食べたい!!?(真っ青)」
「………カヤ、今のどういう意味?(#^ω^)」
「リズ選手お菓子作りの準備を始めましたー、クウ選手何をするのか!!?」
後ろからのレイシャの黒いオーラの圧力を全力で無視を決め込み、実況を始めるカヤ。
冷汗を掻きながらリクエストを聞きに回るリズと違い、クウは行動出来ずにいる。
「お、俺は…! えーと、えーと…! モノづくりなんて出来ないし、魔法…は、攻撃以外は駄目だし…!!」
「だから全裸で踊れと」
「お前は口縫われたいかああん!!?」
何が何でも人としての尊厳を陥れようと企むウィドに、クウが再度怒りを発症した時だった。
「――くしゅ!」
可愛らしい、小さなくしゃみが祭壇に響く。
視線を向けると、スピカが顔を俯かせて鼻を辺りを片手で押えている。今のくしゃみはスピカがしたようだ。
「スピカ?」
「ごめんなさい。もうすぐ冬だし、ここ存在しなかった城の祭壇でしょ。皆と違って薄着だから、少し寒くて…」
身体を震わせて、腕を擦るスピカ。一応長袖でタイツも穿いているが、全体的にピッチリとした服装の為、寒さが直に伝わっているのだろう。
寒がるスピカの様子に、心配する人達。その光景に、リズの脳裏に閃きが走った。
「(…寒い、なら暖かいお菓子だ!)よしっ、作る物決めたわ、ちょいと皆待ってろー」
それだけ言うと、リズは祭壇を駆けおりていく。城の厨房に向かったのだろう。
残されたクウは、徐に右側だけ着流ししている自分のコートを脱いだ。
「…はぁ」
「クウ?」
「ほら、俺の着てろ」
脱いだコートをスピカに無理やり押し付けて手渡す。しかし、彼女は戸惑いを浮かべてコートを返そうとする。
「クウ、でも」
「いいよ、身体鍛えるし。いいから着てろ」
「流石女タラシ…」
慣れたようにスピカを気遣うクウの立ち振る舞いに、ムーンは呆れの眼差しを送る。
申し訳なさを感じつつも、スピカは嬉しさを隠しきれずにクウのコートを羽織る。ぶかぶかだが、まだ残るぬくもりに笑みが零れる。
それを見たレイア、ツバサ、シルビアは、当然クウへと詰め寄った。
「いいな、スピカさん! ボクも欲しいー!」
「わ、私も!」
「わ、我も!」
「無茶言うなよ!? あー…じゃ、ツバサとレイアにこれ」
ごそごそと左手でポケットを漁りながら取り出したものは、二つの黒いグローブだった。
「手袋?」
「あ、これ…」
「ツバサは俺が付けてる奴。レイアは前に付けてたの。一応ビフロンスの奴らが直してくれたんだが」
「わーい、ありがと師匠!」
「十分です!」
笑顔で受け取り、二人の少女は手袋を嵌める。スピカと同じでサイズはぶかぶかだが、普段身に着けている物を自分達がこうして着用出来ると言うのは素直に嬉しい。
「で、シルビアは…ウィド、お前のスカーフ貸せ」
「ちょ…勝手に取らないでください!」
ウィドのスカーフを掴んで解くと、文句を聞き流して自分の口元に当てる。
「はー…」
「む?」
スカーフに吐息を吹きかける。何をしたいのか分からずシルビアが首を傾げていると、リズが大き目のバスケットを持って祭壇に帰ってきた。
「じゃーん!! お待たせ!! 寒がってる人もいるから、くるみ生姜のココナッツミルクスープ作りましたー!!!」
「体を温める飲み物か、皆に配って来るわ」
グラッセはバスケットに入っていた魔法瓶を幾つか取り出し、同じく入っていた紙コップに飲み物を注いでいく。
その間に、リズはバスケットから更なる料理を取り出した。
「ついでに腹に何か入れないと辛い時間になってきたから、かぼちゃのパンケーキも焼いてきたよー、皆さんどうぞー」
保温用のタッパーに入れて来たパンケーキを取り出して、持ってきた紙皿に取り分ける。
料理の腕前と気配りを披露するリズ。一方で、クウはようやくスカーフから口を放してシルビアに差し出した。
「…ほら、俺が直々に温めたからこれでいいだろ?」
「うむ! それなら許す! ぬくぬくじゃー!」
「…何か私が出ている間にハーレム完成してんだけど、何があった?」
「その言い方やめろ」
上機嫌でスカーフを胸元に抱きしめるシルビアに、リズは思った事を呟いてしまう。すかさずムーンがツッコミを入れるが。
「みんなー、リズ達から飲み物とお菓子の差し入れー」
「どれもおいしそうだぞ」
「お菓子!」
そんなハーレムも、オパールとルキルが持ってきたリズの手料理によって終わりを迎える。ツバサはすぐにルキルの持っていたパンケーキの皿を受け取り、他の人も飲み物を受け取っていく。
「甘い物が駄目な人にはレモネードティーとごぼうチップ作って来た、出来立てだから火傷しないように気を付けなよ」
バスケットから別の魔法瓶と保温タッパーを取り出して、用意をするリズ。ちゃんと好みを考えて作ってきてくれたらしい。
細かい部分の気配りに感心しながら、クウは楽しそうに食事を始める周りの様子をじっと眺めていた。
なにせリズは吐き気を催したままの参加だ。見かけたとしても、時々立ち止まっては壁や柱に吐きまくり後手に回ってしまう。そんなリズにクウも最初は遠慮したが、捕まえた犬を抱えるなり吐き上げた胃酸を頭にぶっかけたり、青白い顔のまま暴漢に飛び蹴りしたり。とにかく散々な目にしか合わない。
そんな姿を何度も目の当たりにして、とうとうクウは甘さを放棄した。とにかく心が命じるままに、リズより先にクウが率先して動いて人助けをしていった。
「どう考えても今回の勝負は赤コーナー! クウに上がりましたー!!!」
再び駅前広場に戻り、カヤは無表情のまま結果を報告する。その片隅では、リズは未だに壁に手を付けて吐き上げていた。
「うぇぇぇ…よくもまぁ、あそこまで優しく出来る物だ( ゜д゜)」
「まだ吐くのかよ!!オパールさん何か薬あります?」
「あー。エリクサーで作った胃薬あるけど、効くかなー?」
ポーチを漁ると、グラッセに胃薬の入った小瓶を渡すオパール。
「そりゃあ、町中で困ってる人を助けるくらいはできるだろ。てか、リズ何やってたんだよ!! 暴漢を飛び蹴りするのはいいとして、助けた奴までドン引きさせるとか何をどうすりゃそうなるんだ!? 俺がフォローしなかったら騒ぎになってたぞ!!」
「おろろろろ( ゜д゜)」
「力で示す以外の方法分からないんですって、何せ故郷では色々とありましたんで…あ、エリクサーありがとうございます」
通訳と同時に遠目を作ってお礼を言うと、早速グラッセはリズにオパール特製の胃薬をテルスと協力して飲み込ませる。
勝負に勝ったのにもはや何も言えなくなり、黙ってしまうクウ。けれど、彼にはちゃんと勝利を祝ってくれる恋人達がいる。
「まあ、そこがクウのいい所だからね」
「ついでにリズさん、メンタルがた落ちですし」
「そんなに嫌だったんだ、師匠のキメ顔…」
上機嫌なスピカ、苦笑するレイア、心配するツバサと、見事に反応が上・中・下と分かれている。
「ぶろぼぼぼ( ゜д゜)」
「恋する乙女には申し訳ないがああいう男苦手だわとの事です」
吐いてるようにしか聞こえないのに、グラッセは一言一句間違えずに答える。熟練とも言える二人のやり取りに、ウィドも呆れしか浮かばなくなる。
「もはやどこぞの史上初ゲロを吐くチャイナヒロインになり下がってますね…」
「ゲロインもここまで長く吐かねぇけどな、そもそもコイツヒロインってガラじゃねぇし」
「ああ、言われればそうでした。ヒロインは別にいたんでしたっけ。これは失敬、すみませんグラッセ」
「俺は主人公ですけど!!!?」
さりげなく酷い事を言われ、グラッセが大声でツッコミを決める。そうこうしている内に、ようやくリズが復活を遂げた。
「ぶぶご………ふぅ、オパールありがとう、胃薬効いたよー!!」
「はーい、口直しにお茶飲みなさい」
テルスが麦茶を差し出したので、早速リズは受け取って一気に飲み干した。
「あ、やっと効いた? 後でエリクサーの代金請求するんで、よろしくねー」
「うん、ゼムナス宛によろしくー!!」
「ぶぅらあああああああああああああ!!!!!?」
薬代の原価を請求すると、流れる様にゼムナスに全額負担させるリズ。これには通りすがりでやってきていたゼムナスが悲鳴を上げる。
ゼムナスの悲痛の心の叫びに対し、オパールの目は既に¥マークと化していた。
「りょうかーい。モーグリに通して請求書送っとくわー♪」
こうして5万マニーの請求書(半分以上ぼったくり)をゼムナスに叩きつけた後、1vs1と引き分けに持ち越して二人の主人公は最終戦へと進むのだった。
最後に訪れたのは、存在しなかった世界。
城の最上階にある虚空の祭壇で、最終決戦が行われようとしていた。
「それじゃあ第3回戦! 最終勝負は自分の特技を披露して仲間を喜ばせる事だー!!!」
「え」
「は?」
相変わらず無表情のままカヤが言い放った最後の対決方法。それを聞いたリズとクウは同時に間抜けな声を漏らした。
「主人公たるもの個性が必要、そのためにも自分の特技を披露して仲間から喜ばれるのも必要だそうだ…歴代の主人公たちからのアドバイスだ(`・ω・´)」
「何つう事を言ってくれてんじゃ、歴代主人公どもぉおおおおお!!?」
「『ブレイクダンス』でもしろってか!? ミニゲームしろってか!? ソラもリクもヴェンも後で拳骨喰らわせてやる、マジで泣かせてやらぁぁぁ!!!」
無茶振りなお題に二人が真っ暗な空に向かって叫んでいると、レイアが手を上げる。
「あのー。それって、自分の陣営の方ですか? それとも相手側の方になるんですか? もしかして両方です?」
「対象は全員だ! それじゃあお前ら…精々困って……ゴホン、楽しませてくれよ!!!」
「せめて本音隠せやこの腹黒がぁぁぁ!!!」
「俺の親友が真っ黒に…どうしてこうなった(´;ω;`)」
「100%【リズ】の影響よ」
鬼の形相を浮かべるリズの後ろでは、嘆くレイシャをテルスが宥めていたとか。
何がともあれ、最後の対決が幕を上がる。だが、何をどうしていいのか分からずクウは困ったように頭を掻く。
「特技って言われても…!」
「おやおや、何か1つくらいは出来るでしょう。とりあえずこの3Dでソラが付けてた鼻眼鏡かけて腹踊りとかやってみたらどうだ? 爆笑ものだろ?」
「ハッハッハ。そうだな、お前の顔を変形させたらさぞかし笑えるだろなぁ?」
黒い笑顔で鼻眼鏡を差し出すウィドに、クウはツッコミせずに同じように黒い笑顔を浮かべて青筋を立てる。
「えー…仲間が喜びそうな事……テルス、今日は私をセク「それ以上は言わせねぇよ?」ぐ、グラッセ、目が怖い…」
「普通にお菓子作りとかで良いだろ、お前の取り柄それだろ」
「よーしそこに直れ(#^ω^)ピキピキ」
素で言いのけるムーンに、リズはキーブレードを取り出すなり正座を促す。
「何だ? 腹踊りではなく全裸で踊りたい? 確かに約一名は喜びますねー? あなたにしては考えたじゃないですかー」
「そうだなー、お前ボコボコにした後全裸にしてやってもいいぞ、ああ?」
更に、喧嘩腰だったウィドとクウまで互いに火花を撒き散らす程ヒートアップしている。
喜ばせる所か災厄をばらまいている光景に、オパールとルキルとレイシャが一斉にカヤを見た。
「…どうすんのこれ?」
「クウもリズも収集が付かなくなってきてるんだが…!」
「…収束付かなくなってますけど、主催者さん」
「今から迅速に動かないと、お前らスピカさんとラックとラクシーヌとシオンとレイシャに作ってもらった物―ねじ入れるぞ」
ドスの聞いた声(無表情)で二人を脅すカヤ。すると、一瞬で怒りを納めたかと思えば恐怖を浮かべて全員へ振り返った。
「ひぃ!! 考える、真面目に考えます!!」
「さー!! お菓子作ろう!! 皆何食べたい!!?(真っ青)」
「………カヤ、今のどういう意味?(#^ω^)」
「リズ選手お菓子作りの準備を始めましたー、クウ選手何をするのか!!?」
後ろからのレイシャの黒いオーラの圧力を全力で無視を決め込み、実況を始めるカヤ。
冷汗を掻きながらリクエストを聞きに回るリズと違い、クウは行動出来ずにいる。
「お、俺は…! えーと、えーと…! モノづくりなんて出来ないし、魔法…は、攻撃以外は駄目だし…!!」
「だから全裸で踊れと」
「お前は口縫われたいかああん!!?」
何が何でも人としての尊厳を陥れようと企むウィドに、クウが再度怒りを発症した時だった。
「――くしゅ!」
可愛らしい、小さなくしゃみが祭壇に響く。
視線を向けると、スピカが顔を俯かせて鼻を辺りを片手で押えている。今のくしゃみはスピカがしたようだ。
「スピカ?」
「ごめんなさい。もうすぐ冬だし、ここ存在しなかった城の祭壇でしょ。皆と違って薄着だから、少し寒くて…」
身体を震わせて、腕を擦るスピカ。一応長袖でタイツも穿いているが、全体的にピッチリとした服装の為、寒さが直に伝わっているのだろう。
寒がるスピカの様子に、心配する人達。その光景に、リズの脳裏に閃きが走った。
「(…寒い、なら暖かいお菓子だ!)よしっ、作る物決めたわ、ちょいと皆待ってろー」
それだけ言うと、リズは祭壇を駆けおりていく。城の厨房に向かったのだろう。
残されたクウは、徐に右側だけ着流ししている自分のコートを脱いだ。
「…はぁ」
「クウ?」
「ほら、俺の着てろ」
脱いだコートをスピカに無理やり押し付けて手渡す。しかし、彼女は戸惑いを浮かべてコートを返そうとする。
「クウ、でも」
「いいよ、身体鍛えるし。いいから着てろ」
「流石女タラシ…」
慣れたようにスピカを気遣うクウの立ち振る舞いに、ムーンは呆れの眼差しを送る。
申し訳なさを感じつつも、スピカは嬉しさを隠しきれずにクウのコートを羽織る。ぶかぶかだが、まだ残るぬくもりに笑みが零れる。
それを見たレイア、ツバサ、シルビアは、当然クウへと詰め寄った。
「いいな、スピカさん! ボクも欲しいー!」
「わ、私も!」
「わ、我も!」
「無茶言うなよ!? あー…じゃ、ツバサとレイアにこれ」
ごそごそと左手でポケットを漁りながら取り出したものは、二つの黒いグローブだった。
「手袋?」
「あ、これ…」
「ツバサは俺が付けてる奴。レイアは前に付けてたの。一応ビフロンスの奴らが直してくれたんだが」
「わーい、ありがと師匠!」
「十分です!」
笑顔で受け取り、二人の少女は手袋を嵌める。スピカと同じでサイズはぶかぶかだが、普段身に着けている物を自分達がこうして着用出来ると言うのは素直に嬉しい。
「で、シルビアは…ウィド、お前のスカーフ貸せ」
「ちょ…勝手に取らないでください!」
ウィドのスカーフを掴んで解くと、文句を聞き流して自分の口元に当てる。
「はー…」
「む?」
スカーフに吐息を吹きかける。何をしたいのか分からずシルビアが首を傾げていると、リズが大き目のバスケットを持って祭壇に帰ってきた。
「じゃーん!! お待たせ!! 寒がってる人もいるから、くるみ生姜のココナッツミルクスープ作りましたー!!!」
「体を温める飲み物か、皆に配って来るわ」
グラッセはバスケットに入っていた魔法瓶を幾つか取り出し、同じく入っていた紙コップに飲み物を注いでいく。
その間に、リズはバスケットから更なる料理を取り出した。
「ついでに腹に何か入れないと辛い時間になってきたから、かぼちゃのパンケーキも焼いてきたよー、皆さんどうぞー」
保温用のタッパーに入れて来たパンケーキを取り出して、持ってきた紙皿に取り分ける。
料理の腕前と気配りを披露するリズ。一方で、クウはようやくスカーフから口を放してシルビアに差し出した。
「…ほら、俺が直々に温めたからこれでいいだろ?」
「うむ! それなら許す! ぬくぬくじゃー!」
「…何か私が出ている間にハーレム完成してんだけど、何があった?」
「その言い方やめろ」
上機嫌でスカーフを胸元に抱きしめるシルビアに、リズは思った事を呟いてしまう。すかさずムーンがツッコミを入れるが。
「みんなー、リズ達から飲み物とお菓子の差し入れー」
「どれもおいしそうだぞ」
「お菓子!」
そんなハーレムも、オパールとルキルが持ってきたリズの手料理によって終わりを迎える。ツバサはすぐにルキルの持っていたパンケーキの皿を受け取り、他の人も飲み物を受け取っていく。
「甘い物が駄目な人にはレモネードティーとごぼうチップ作って来た、出来立てだから火傷しないように気を付けなよ」
バスケットから別の魔法瓶と保温タッパーを取り出して、用意をするリズ。ちゃんと好みを考えて作ってきてくれたらしい。
細かい部分の気配りに感心しながら、クウは楽しそうに食事を始める周りの様子をじっと眺めていた。