闇の中のハロウィン(前編)
「トリックオアトリート!」
「お菓子くれなきゃ、いたずらです……」
闇の世界のどこかに存在する、巨大な黒の館。
装飾が施された廊下で、とんがり帽子に小さなマントを羽織った魔女の恰好をしたスズノヨミ。黒の猫耳に尻尾、そして肉球の付いた手袋と短めのワンピースを着たニルヴァナがお菓子を求めて手を差し出す。
その相手は、クロトスラル。女性に対しては超デレデレでスケベ心を隠そうとしない彼だが、いきなりの事に困惑を浮かべていた。
「…スズちゃん、ニルヴァナちゃん。随分可愛い恰好をしているが…どうしたよ?」
「もー、クロったらノリが悪いな! 今日はハロウィンだろ? だから僕達子供はこうして仮装して、お菓子を貰おうとしてるのに!」
「私は、スズさんに誘われ……付き合う、事に……」
「子供って――あー、うん。何でもない」
そんな年じゃないだろ、と言いかけたがすぐにはぐらかす。女性のタブーを口に出すタイプではないのもあるし、一瞬二人から殺気を感じたからかもしれない。
「そう言う訳で、お菓子くれー。くれなきゃいたずらだぞー」
「んな事急に言われてもなぁ……なーんてな。ほれ」
困った顔をしていたクロトスラルだが、ニヤッと笑うと二人に小さな紙袋を手渡す。
中を開けると、ハート型の一口サイズチョコレートが何個も入っていた。色は茶色だけでなく赤やらピンク、他には緑や白やら混じっている。
「用意がいい、です……」
「ハロウィンだからな。女性が強請って来た時用に用意してたんだ。いやー、こーんな可愛い魔女と黒猫ちゃんに強請られるとは俺も鼻がたか」
自慢げに語っていたクロトルラルだが、次に二人に目を向けると忽然と姿を消していた。
「やれやれ。クロの話に付き合ってるとキリがないよ。ハロウィンは一日しかないって言うのに」
「正確には、あと数時間です……仮装の準備で、かなり時間かけましたから……」
口説いてきたクロトスラルから逃げた二人は、貰ったチョコレートを口の中でモグモグと食べながら先を進んでいた。
この闇の世界では、時間の流れも光の世界と比較したらとても遅い。けれども、全ての場所がそうではない。自分達『組織』の拠点であるこの館が存在する場所は、光の世界と同じ時間が流れているそうだ。この場所にいれば、体感時間も光の世界と同じになり歳も平等に取れる。
尤も、ここにいる人達は闇の力を使って自ら肉体の時を止めている者が殆どだが。
「そうそう。早い所貰える人から貰わないと…」
チョコレートを食べ終えた辺りで、二人は館の一角に構えた研究所に辿り着く。
ここでは、組織で優秀な発明家二人により、ポーションやエーテルを始めとする様々なアイテムや装備品などの開発を行っている。闇の力があるとはいえ、力だけに頼ったり依存しては生きていけない。光だろうが、闇だろうが、狭間だろうが、戦いがある以上どの世界でも共通だ。
早速中に乗り込むと、ロングヘアーの赤い髪をしたメイド服を着た女性と、白衣にボサボサの短い黒髪と無精髭を生やした男性がいた。
「あら? スズに…ニルヴァナではありませんの」
「おやおや、可愛らしい仮装をしているねぇ」
女性と男性が二人に気づくと、スズは手を上げて呼びかける。
「やっほー。ぞっこんメイド」
「誰がぞっこんメイドですの!? わたくしにはちゃんとプリメスと言う名前がございますわ!」
「トリックオア、トリートです……」
「さあ、お菓子をくれたまえラーシャ。お得意の発明品を作るみたいに、お菓子も用意出来るだろ?」
不名誉な呼び名にプリメスと言うメイドは怒るが、無視してスズはラーシャと呼んだ人物に向かって手を差し出す。
ニルヴァナも続く様に猫の手袋を差し出すので、ラーシャは困ったように頬を掻く。
「お菓子ねぇ。あんた、何か持ってないかい? 自称女王専属のメイドだろう?」
「自称とはなんですか。それより持ってはいますが、駄目ですわ。これは女王の為に用意した私お手製の最高の仕上がりとなったマカロン。貴女達には渡しませんわ!!」
お菓子を渡す事を拒否をするプリメス。子供相手に大人げないとは思うが、言ってはいけない。
すると、スズの純粋なニコニコ顔は、黒さを滲ませた笑みに変わる。
「渡さないなら渡さないでいいさ。その時はお前達二人に悪戯をさせて貰うからさ」
「ふん。この私に悪戯とはいい度胸ですわね。言っておきますが、並大抵の事では動じませんわよ?」
「ニルヴァナ、例のブツを」
「こちら、ですね……」
指をパチンを鳴らしたスズ。それに反応して、ニルヴァナはバスケットを取り出す。
そのまま中を開くと、尋常じゃない異臭が漂う。思わずプリメスだけでなくラーシャも鼻を抑えると、ニルヴァナは無表情のまま一緒に付けていたトングを使って丸い形をした黒い物体を取り出した。
「そ、それは…!?」
「一目見て気づくか。そうさ、これはお前の大〜好きな女王が作り上げた魔のぶった…ハロウィン用のお菓子だ」
「今『魔の物体』って言おうとしなかったかい? いや、それよりも…どこでこれを…?」
プリメスだけでなく、ラーシャも黒い物体を恐怖の対処で見る。それもそうだ、彼女の作る料理(と言う名の魔の物体)の破壊力は、組織に所属している以上嫌と言う程味わっているのだから。
その疑問に答えたのは、他でもないスズだった。
「なーに、今現在キッチンを占領して色んなお菓子を作っていたから一部拝借したのさ」
「今日がハロウィンだと、スズさんが教えたから……意気揚々と、キッチンに乗り込みました……」
「元凶はあなたではないですかぁぁ!!!」
思わずプリメスが怒鳴るが、もはや後の祭りだ。
「さあ、この日の為に用意した悪戯(命の危険アリ)をするか。それとも女王の為に心を込めて作ったお菓子を僕達に渡すか…どちらか選ぶがいい!!」
「女王お手製の、物体です……普段から女王への偏愛を抱くあなたに、食べない選択肢は出来ない……」
ジリジリと、二人が近づいてくる。1人は魔女だと言うのに悪魔のような顔をして、もう1人は無表情でダークマターと化した何かを近づけてくる。
プリメスの能力があれば攻撃しようと思えば出来るし、防ごうと思えば出来る。だが、これまでの彼女の発言から分かるかもしれないが、プリメスは『女王』に対して周りがドン引きするくらいの忠誠を誓っている。それ故、目の前にある危険を排除出来ないのも事実なのだ。
「こ、この、この…っ!! だ、大体あの自称ナイト気取りのストーカーはどうしましたの!? 彼ならばこのような女王の暴挙を止める筈でしょう!? 肝心な時に何をしておりますの!!」
「プリメス、ブーメランと言う言葉……知って、ます……?」
「あとノラならお菓子をくれなかったから、このゲテモノを見せた。喜んで食べて、そのまま天国ツアーに行ってるよ」
「あの方本当に成長しませんわね…!」
目の前に差し出されたお菓子を食べたノラと呼んだ人物を思い浮かべたのか、プリメスは思わず痛そうに頭を押えた。
「1年も食べ続けたあなたも、大概変人です……」
「誰が変人ですって、ニルヴァナ!? 私は女王への愛があってこその」
「はいはい。んで、プリメス。どうするよ? ラーシャの分はお前のお菓子で賄おう…女王の為に作ったって事は、味は絶品の筈だからな」
「デスオアトリート、お菓子くれなきゃ死にます……」
話が脱線しかけたが、スズとニルヴァナの要求に我に返る。
助けを乞おうとラーシャの方を見る。しかし、彼はそっぽを向いて口笛を吹くばかり。どうやら助ける気は0のようだ。
改めて魔の物体をみる。何をどうすればこんな悍ましい物を作り上げられるのか、全く持って想像が出来ない。一度誰かが大型ハートレスに投げつけた所、一撃で倒したとの逸話もあるのだ。
それを食べない選択肢は、プリメスには出来ない。回避する方法はただ一つ――お菓子を渡さなければならない。
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ…!!!」
忠誠か。それとも、保身か。
メイドが選んだ答えは――。
「お菓子くれなきゃ、いたずらです……」
闇の世界のどこかに存在する、巨大な黒の館。
装飾が施された廊下で、とんがり帽子に小さなマントを羽織った魔女の恰好をしたスズノヨミ。黒の猫耳に尻尾、そして肉球の付いた手袋と短めのワンピースを着たニルヴァナがお菓子を求めて手を差し出す。
その相手は、クロトスラル。女性に対しては超デレデレでスケベ心を隠そうとしない彼だが、いきなりの事に困惑を浮かべていた。
「…スズちゃん、ニルヴァナちゃん。随分可愛い恰好をしているが…どうしたよ?」
「もー、クロったらノリが悪いな! 今日はハロウィンだろ? だから僕達子供はこうして仮装して、お菓子を貰おうとしてるのに!」
「私は、スズさんに誘われ……付き合う、事に……」
「子供って――あー、うん。何でもない」
そんな年じゃないだろ、と言いかけたがすぐにはぐらかす。女性のタブーを口に出すタイプではないのもあるし、一瞬二人から殺気を感じたからかもしれない。
「そう言う訳で、お菓子くれー。くれなきゃいたずらだぞー」
「んな事急に言われてもなぁ……なーんてな。ほれ」
困った顔をしていたクロトスラルだが、ニヤッと笑うと二人に小さな紙袋を手渡す。
中を開けると、ハート型の一口サイズチョコレートが何個も入っていた。色は茶色だけでなく赤やらピンク、他には緑や白やら混じっている。
「用意がいい、です……」
「ハロウィンだからな。女性が強請って来た時用に用意してたんだ。いやー、こーんな可愛い魔女と黒猫ちゃんに強請られるとは俺も鼻がたか」
自慢げに語っていたクロトルラルだが、次に二人に目を向けると忽然と姿を消していた。
「やれやれ。クロの話に付き合ってるとキリがないよ。ハロウィンは一日しかないって言うのに」
「正確には、あと数時間です……仮装の準備で、かなり時間かけましたから……」
口説いてきたクロトスラルから逃げた二人は、貰ったチョコレートを口の中でモグモグと食べながら先を進んでいた。
この闇の世界では、時間の流れも光の世界と比較したらとても遅い。けれども、全ての場所がそうではない。自分達『組織』の拠点であるこの館が存在する場所は、光の世界と同じ時間が流れているそうだ。この場所にいれば、体感時間も光の世界と同じになり歳も平等に取れる。
尤も、ここにいる人達は闇の力を使って自ら肉体の時を止めている者が殆どだが。
「そうそう。早い所貰える人から貰わないと…」
チョコレートを食べ終えた辺りで、二人は館の一角に構えた研究所に辿り着く。
ここでは、組織で優秀な発明家二人により、ポーションやエーテルを始めとする様々なアイテムや装備品などの開発を行っている。闇の力があるとはいえ、力だけに頼ったり依存しては生きていけない。光だろうが、闇だろうが、狭間だろうが、戦いがある以上どの世界でも共通だ。
早速中に乗り込むと、ロングヘアーの赤い髪をしたメイド服を着た女性と、白衣にボサボサの短い黒髪と無精髭を生やした男性がいた。
「あら? スズに…ニルヴァナではありませんの」
「おやおや、可愛らしい仮装をしているねぇ」
女性と男性が二人に気づくと、スズは手を上げて呼びかける。
「やっほー。ぞっこんメイド」
「誰がぞっこんメイドですの!? わたくしにはちゃんとプリメスと言う名前がございますわ!」
「トリックオア、トリートです……」
「さあ、お菓子をくれたまえラーシャ。お得意の発明品を作るみたいに、お菓子も用意出来るだろ?」
不名誉な呼び名にプリメスと言うメイドは怒るが、無視してスズはラーシャと呼んだ人物に向かって手を差し出す。
ニルヴァナも続く様に猫の手袋を差し出すので、ラーシャは困ったように頬を掻く。
「お菓子ねぇ。あんた、何か持ってないかい? 自称女王専属のメイドだろう?」
「自称とはなんですか。それより持ってはいますが、駄目ですわ。これは女王の為に用意した私お手製の最高の仕上がりとなったマカロン。貴女達には渡しませんわ!!」
お菓子を渡す事を拒否をするプリメス。子供相手に大人げないとは思うが、言ってはいけない。
すると、スズの純粋なニコニコ顔は、黒さを滲ませた笑みに変わる。
「渡さないなら渡さないでいいさ。その時はお前達二人に悪戯をさせて貰うからさ」
「ふん。この私に悪戯とはいい度胸ですわね。言っておきますが、並大抵の事では動じませんわよ?」
「ニルヴァナ、例のブツを」
「こちら、ですね……」
指をパチンを鳴らしたスズ。それに反応して、ニルヴァナはバスケットを取り出す。
そのまま中を開くと、尋常じゃない異臭が漂う。思わずプリメスだけでなくラーシャも鼻を抑えると、ニルヴァナは無表情のまま一緒に付けていたトングを使って丸い形をした黒い物体を取り出した。
「そ、それは…!?」
「一目見て気づくか。そうさ、これはお前の大〜好きな女王が作り上げた魔のぶった…ハロウィン用のお菓子だ」
「今『魔の物体』って言おうとしなかったかい? いや、それよりも…どこでこれを…?」
プリメスだけでなく、ラーシャも黒い物体を恐怖の対処で見る。それもそうだ、彼女の作る料理(と言う名の魔の物体)の破壊力は、組織に所属している以上嫌と言う程味わっているのだから。
その疑問に答えたのは、他でもないスズだった。
「なーに、今現在キッチンを占領して色んなお菓子を作っていたから一部拝借したのさ」
「今日がハロウィンだと、スズさんが教えたから……意気揚々と、キッチンに乗り込みました……」
「元凶はあなたではないですかぁぁ!!!」
思わずプリメスが怒鳴るが、もはや後の祭りだ。
「さあ、この日の為に用意した悪戯(命の危険アリ)をするか。それとも女王の為に心を込めて作ったお菓子を僕達に渡すか…どちらか選ぶがいい!!」
「女王お手製の、物体です……普段から女王への偏愛を抱くあなたに、食べない選択肢は出来ない……」
ジリジリと、二人が近づいてくる。1人は魔女だと言うのに悪魔のような顔をして、もう1人は無表情でダークマターと化した何かを近づけてくる。
プリメスの能力があれば攻撃しようと思えば出来るし、防ごうと思えば出来る。だが、これまでの彼女の発言から分かるかもしれないが、プリメスは『女王』に対して周りがドン引きするくらいの忠誠を誓っている。それ故、目の前にある危険を排除出来ないのも事実なのだ。
「こ、この、この…っ!! だ、大体あの自称ナイト気取りのストーカーはどうしましたの!? 彼ならばこのような女王の暴挙を止める筈でしょう!? 肝心な時に何をしておりますの!!」
「プリメス、ブーメランと言う言葉……知って、ます……?」
「あとノラならお菓子をくれなかったから、このゲテモノを見せた。喜んで食べて、そのまま天国ツアーに行ってるよ」
「あの方本当に成長しませんわね…!」
目の前に差し出されたお菓子を食べたノラと呼んだ人物を思い浮かべたのか、プリメスは思わず痛そうに頭を押えた。
「1年も食べ続けたあなたも、大概変人です……」
「誰が変人ですって、ニルヴァナ!? 私は女王への愛があってこその」
「はいはい。んで、プリメス。どうするよ? ラーシャの分はお前のお菓子で賄おう…女王の為に作ったって事は、味は絶品の筈だからな」
「デスオアトリート、お菓子くれなきゃ死にます……」
話が脱線しかけたが、スズとニルヴァナの要求に我に返る。
助けを乞おうとラーシャの方を見る。しかし、彼はそっぽを向いて口笛を吹くばかり。どうやら助ける気は0のようだ。
改めて魔の物体をみる。何をどうすればこんな悍ましい物を作り上げられるのか、全く持って想像が出来ない。一度誰かが大型ハートレスに投げつけた所、一撃で倒したとの逸話もあるのだ。
それを食べない選択肢は、プリメスには出来ない。回避する方法はただ一つ――お菓子を渡さなければならない。
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ…!!!」
忠誠か。それとも、保身か。
メイドが選んだ答えは――。
■作者メッセージ
はい、どうにかこうにかでハロウィン用の小説書きましたー。
え? これ前編じゃないか、続きはどうした? …そうなんですよ、全部は完成出来なかったんです…。なんせ、急ピッチでこの作品書き上げている最中なので…申し訳ない。でも、どうにか前編は出せたのでギリギリセーフって事で!!
後半の方は近い内に出せます。その時に、このハロウィン作品について説明出来たらいいです。
え? これ前編じゃないか、続きはどうした? …そうなんですよ、全部は完成出来なかったんです…。なんせ、急ピッチでこの作品書き上げている最中なので…申し訳ない。でも、どうにか前編は出せたのでギリギリセーフって事で!!
後半の方は近い内に出せます。その時に、このハロウィン作品について説明出来たらいいです。