闇の中のハロウィン(後編)
「ん〜、このマカロンは絶品だね〜」
「流石は自称、女王専属メイドです……」
可愛らしくラッピングした箱に詰まった色鮮やかなマカロンを食べながら、二人はご機嫌で次のお菓子を求めて歩いていた。
尚、研究室を出ていく際に「私は無力ですわ…」とか嘆きの言葉を誰かが言っていたが、気にしない。
「次は誰に、貰いに行きますか……?」
「おー。スズちゃんにニーちゃん、可愛い恰好してるねー」
独特な呼び方をする人物は、組織の中で1人しかいない。
二人が呼ばれた方へ顔を向けると、黒いローブを身にまとったレクトがいた。今帰った所なのか、少しボロボロだ。
「レクト、さん……」
「丁度いい。トリックオアトリート!」
次の得物を見つけたとばかりに、スズはお菓子を強請りにいく。ハロウィンの欲望を隠そうともしない彼女に、レクトは思い出すように遠くに目をやる。
「…ああ、そっか。今日はハロウィンだったね。うーん、と言われても今お菓子は…」
「くれないなら、女王お手製のお菓子を食べて貰います……」
ニルヴァナが持参しているバスケットからトングを使って魔の物体を取りだすや否や、レクトの顔色が急激に変わった。
「うん待って! すぐに用意するから! えーと、えーと…あっそうだ! 今から皆で食堂に行こう! きっと何かお菓子がある筈」
「食堂のキッチンは今も尚女王が占領しているぞ。行ったら行ったで毒見役は間逃れないと思うが?」
「何でよりにもよってスーちゃんがぁぁぁ!!?」
現状を教えるなり、プリメス同様に悲鳴を上げるレクト。彼もまた、料理の被害に遭っていたようだ。
だが、今の彼は任務帰りでお菓子を持っていない。行っても地獄、このままでも地獄を味わう事になってしまう。
どうにかして間逃れようとレクトがあれこれ考えていた時、ズル、ズルと何かを引き摺る様な音が後ろの方から聞こえて来た。
「さわがしいぞ…きさまら…!」
短めの黒髪に灰色の目、全体的に黒で固めた服に灰色をした鎧のパーツを足や腕、胴体に申し訳程度に付けた騎士風の男性が顔を真っ青にして、ヨロヨロと覚束無い足取りをして近づいてくる。
「あ、ノラじゃん。生き返ったのかー」
「変な、略し方…するんじゃ、ない…!」
ケラケラと笑うスズに、ノラと呼ばれた男は苦しそうに呻きながらツッコミを入れる。
今にも死にそうなノラの姿に、レクトは顔を引きつらせながらニルヴァナの持つ魔の物体に目を向けた。
「えーと、ノライト…? 顔真っ青だけど、まさか、スーちゃんの料理…」
「女王お手製の、料理が食えなくて…騎士などぐほぉ!」
ドヤ顔で語っていたが、とうとう我慢出来ずに変な悲鳴を上げてその場に倒れてしまう。
そうして倒れた拍子に、ノライトの懐から袋に詰めたお菓子が床に転がり落ちる。それを見たニルヴァナは、思わず手を伸ばす。
「あ、お菓子――」
「触るなぁ!! これはハロウィンの為うぇぷ…女王の為に用意した高級菓子ぐぅ…!」
即座に取り戻すなり、吐き気を我慢しながら子供二人から距離を取ろうとするノライト。
ここで、レクトは急いでニルヴァナの持つ魔の物体を手に取るなり。
「ノライト、これ上げる!」
「むごはああぁぁぁ!!!」
瀕死となっているノライトの口の中にねじ込んだ。
胃と精神に追い打ちをかけられ、ノライトは再びぶっ倒れてしまう。レクトは意識を失ったノライトからお菓子を奪い取ると、二人に差し出した。
「はいニーちゃん、スズちゃん、俺からのトリートだよ!」
「レクト。君時々平気な顔で酷い事するよね」
もはや屍(死んでない)状態となったノライトを横目に、スズはお菓子を貰いつつも素直な感想を呟いた。
こうして、様々な人達に出会いながらお菓子を貰っていくスズノヨミとニルヴァナ。
時間もだいぶ経ち、ハロウィン終わりまで残り1時間を過ぎた。
「だいぶお菓子も、集まりました……あっという間の、一日でした……」
「さて。最後は…あそこだな」
「あそこ――」
ニルヴァナが聞き返そうとしたが、その前にスズは走り出す。
そして、狙いをつけたドアを蹴破るように一つの部屋の中へと勢いよく入り込んだ。
「はーい、トリックオアトリート!! お菓子くれなきゃ悪戯するよー!!」
「うわあああああぁ!!?」
スズの乱入に驚いたのだろう、部屋にいた少年の悲鳴が上がる。
その悲鳴に満足したようで、スズはにんまりと笑みを浮かべて目の前の黒髪に黒目の少年に声をかけた。
「やあ、クウ。晴れて女王の守護役に選ばれたって言うのに、相変わらず間抜な顔だね」
「な、なんだよいきなり!?」
少年――クウが怒鳴ると共に、ニルヴァナも部屋の中に入る。部屋の主であるクウだけでなく、長い茶髪に眼鏡をかけた青年――セヴィルがいる事に気づく。
セヴィルもまたニルヴァナに気づき、意外な顔をして話しかけてきた。
「ニルヴァナ? その恰好はどうした?」
「スズさんに、仮装をされました……」
「はいはい。それよりセヴィルもいたのか。丁度いい、お菓子をくれ。くれなきゃ悪戯だぞー?」
「お菓子? ある訳ないだろ、昨日まで師匠とセヴィルにあっちで扱かれてたんだから……あふ…久々にこっちに戻ってきたんだから寝させろよ…」
余程眠いらしく、軽く足払うとベットの中に潜り込み始めるクウ。その言葉を聞いて、スズはしてやったりの顔を浮かべる。
「いいのかい? くれなきゃ悪戯だぞ?」
「悪戯…? なるほど、皆が噂してた女王の作った菓子をばらまいて死人を出す悪魔はお前達の事だったのか」
「はっはっは、せめて可愛い魔女と黒猫って呼んで欲しいね! とりあえず噂した奴らはあとで酷い目に遭わせてやる!」
自業自得だろう、とセヴィルは言いかけたがグッと堪える。今の彼女達は兵器を持参している状態、口答えすれば魔の物体を口の中に放り込まれかねない。
代わりに、セヴィルはポケットを漁って二つの棒付きキャンディを取り出した。
「クロに言われて持たされたが、正解だったようだ。さあ、トリートだ」
「ありがとう、ございます……」
渡されたお菓子に、ニルヴァナはもちろんスズも喜んで貰う。それをベッドの中でチラっと見たクウは、軽く欠伸をする。
「セヴィルがくれたんだから、俺の分はいいだろ…じゃ、おやすみ…」
「いい訳ないだろ。それじゃ君には悪戯だ」
「やだ! スピカの作ったお菓子なんて食ったら死ぬに決まってる!」
中々酷い事を言いながら、クウは眼が冴えたのか起き上がる。
だが、スズはここにいる誰もが予想しなかった言葉を口にした。
「ふっ、安心しろ。君に用意する悪戯はそれじゃないんだなぁ…?」
「な、なんだよ…その、黒い笑みは…?」
「スズ、さん…?」
「ニルヴァナ、セヴィル。クウを押さえつけろ…ハロウィンの終わりを飾る、面白い見世物を用意してやろう。僕の権限を使ってな」
そうして浮かべたスズノヨミの笑みは、完全に悪魔そのものだった。
「まあ、クウ! 凄く似合っているわ!」
「…死にたい…!!」
場所は変わり、食堂。変な異臭が辺りに漂っているが、全部の窓を開けて換気をしているようで臭いは大分マシになった方である。
その部屋の食事スペースにて、ドレスを身に纏い薄い黒のベールに包まれた少女こと女王の異名で呼ばれているスピカは楽しそうに笑っていた。
悪戯と称し、クラシカルタイプのメイド服を着せられ、死んだ目をしているクウの姿に。
「ハハッ、誰がそんな言葉を喋れと言ったかな?」
パチンとスズが指を鳴らすと同時に、クウは丸まってた背筋を伸ばしてスピカに面と向かって向かい合う。
「何でもご命令ください、ご主人様…!」
泣きながらそんな言葉をスピカに言ってしまうクウ。誰がどう見ても、スズに操られていると分かるだろう。
この光景は、他の人達にも当然見られていた。
「…む、むごい…」
「女王のお菓子を食べて、死の狭間を彷徨う方が何倍もマシじゃないかい…?」
メイドとなってしまったクウの姿に、何とも言えない顔でレクトとラーシャはヒソヒソと囁き合う。あれをやられては男としてのプライドがボロボロになってしまうだろう。実際なってるが。
哀れや同情の視線をクウに送る中、別の感情をぶつける者もいた。
「これがセヴィルに続く、キーブレード使いの後継者か。ハッ、終わったな。いっそそのままメイドになったらどうだ、ん?」
「ノライト、てめーあとでぶっ殺す…!」
いつの間にか復活したようで、ノライトが挑発してきたのでクウも青筋を浮かべてその喧嘩を買ってしまう。
「ちょっと泥棒犬!! 女王の守護役に選ばれただけでは飽き足らず、私の揺ぎ無いポジションまで奪う気ですのっ!?」
「俺にこんな趣味ねーしうるせーんだよストーカー変態者の老害!! 何がスピカの騎士だよメイドだよ、そんなんだからお役目ごめんされたんだろうが!!」
「貴様、俺を馬鹿にしただけでは飽き足らず馴れ馴れしく女王を呼ぶとは…いい度胸だ!! 今日こそは始末してくれる!!」
「ノライト、私も手伝いますわよ!! 覚悟なさい泥棒犬、今日こそ追い出してくれますわぁ!!」
「やれるもんならやって見ろっ!!」
とうとう喧嘩沙汰になってしまい、そこらに人がいるにも関わらず暴れまわる三人。急いで避難する人もいれば、それぞれ飛んでくる攻撃をいなしたり防御しながら見守る人も。
さて。騒ぎを作った元凶であるスズノヨミは、自然体の状態で三人の乱闘を観戦している。と言うのも、ちゃっかりセヴィルとクロトスラルの後ろに隠れて二人を盾にしているからだ。
「いやー、これこれ。やっぱハロウィンは最後まで面白可笑しく騒がなくちゃね!」
「何が面白可笑しくだ。こんな馬鹿騒ぎ、どう考えても迷惑極まりない行為だ」
「んで、スズちゃんよー。俺達がこうして守ってやってんだ。そろそろ本音聞かせてくれない?」
「本音? はてさて、クロは何を言ってるのかな?」
「バカ弟子にあんな格好させたの――孤立しかけてる状態のあいつに、少しでも周りが接してくれるようしてくれたんだろ?」
クロの放った言葉に、スズの眉は微かに動いた。
「あいつは周りを傷つけた。今はスピカちゃんやレクト、俺達がいるが…まだまだ距離を取ったりする奴らはいるし、バカ弟子自身も他人に近付こうとせずに距離を置いている。だから、あんな事したんだろ。少しでもあいつの印象を変えようとさ」
「…考えすぎじゃない? 僕は面白い事が大好きな人間、それだけだよ」
「まー、スズちゃんがそう言うならそう言う事にしておくかー。わざわざメイド服着せるような真似されたくないしなー」
クロはそんな会話をしながら、飛んでくる攻撃をセヴィルと一緒にワイヤーやキーブレードで弾き返す。
何だかんだで思惑を無かった事にするクロにちょっとだけ不満を持ったスズだが、改めてメイド服で戦うクウの姿を捕らえた。
「ハロウィンは悪さをする悪霊や魔女から身を守る為の儀式だが、子供が楽しむお祭りでもあるのさ――闇の中に落とされたとはいえ、君も女王も僕達の中では立派な子供。こんな形だが、ハロウィンの終わりも残りわずか。楽しんでくれたまえ」
僅かな笑みを零し、スズは見る。
楽しそうに乱入する笑ったスピカと、困ったように彼女と背中を合わせるクウを。
「流石は自称、女王専属メイドです……」
可愛らしくラッピングした箱に詰まった色鮮やかなマカロンを食べながら、二人はご機嫌で次のお菓子を求めて歩いていた。
尚、研究室を出ていく際に「私は無力ですわ…」とか嘆きの言葉を誰かが言っていたが、気にしない。
「次は誰に、貰いに行きますか……?」
「おー。スズちゃんにニーちゃん、可愛い恰好してるねー」
独特な呼び方をする人物は、組織の中で1人しかいない。
二人が呼ばれた方へ顔を向けると、黒いローブを身にまとったレクトがいた。今帰った所なのか、少しボロボロだ。
「レクト、さん……」
「丁度いい。トリックオアトリート!」
次の得物を見つけたとばかりに、スズはお菓子を強請りにいく。ハロウィンの欲望を隠そうともしない彼女に、レクトは思い出すように遠くに目をやる。
「…ああ、そっか。今日はハロウィンだったね。うーん、と言われても今お菓子は…」
「くれないなら、女王お手製のお菓子を食べて貰います……」
ニルヴァナが持参しているバスケットからトングを使って魔の物体を取りだすや否や、レクトの顔色が急激に変わった。
「うん待って! すぐに用意するから! えーと、えーと…あっそうだ! 今から皆で食堂に行こう! きっと何かお菓子がある筈」
「食堂のキッチンは今も尚女王が占領しているぞ。行ったら行ったで毒見役は間逃れないと思うが?」
「何でよりにもよってスーちゃんがぁぁぁ!!?」
現状を教えるなり、プリメス同様に悲鳴を上げるレクト。彼もまた、料理の被害に遭っていたようだ。
だが、今の彼は任務帰りでお菓子を持っていない。行っても地獄、このままでも地獄を味わう事になってしまう。
どうにかして間逃れようとレクトがあれこれ考えていた時、ズル、ズルと何かを引き摺る様な音が後ろの方から聞こえて来た。
「さわがしいぞ…きさまら…!」
短めの黒髪に灰色の目、全体的に黒で固めた服に灰色をした鎧のパーツを足や腕、胴体に申し訳程度に付けた騎士風の男性が顔を真っ青にして、ヨロヨロと覚束無い足取りをして近づいてくる。
「あ、ノラじゃん。生き返ったのかー」
「変な、略し方…するんじゃ、ない…!」
ケラケラと笑うスズに、ノラと呼ばれた男は苦しそうに呻きながらツッコミを入れる。
今にも死にそうなノラの姿に、レクトは顔を引きつらせながらニルヴァナの持つ魔の物体に目を向けた。
「えーと、ノライト…? 顔真っ青だけど、まさか、スーちゃんの料理…」
「女王お手製の、料理が食えなくて…騎士などぐほぉ!」
ドヤ顔で語っていたが、とうとう我慢出来ずに変な悲鳴を上げてその場に倒れてしまう。
そうして倒れた拍子に、ノライトの懐から袋に詰めたお菓子が床に転がり落ちる。それを見たニルヴァナは、思わず手を伸ばす。
「あ、お菓子――」
「触るなぁ!! これはハロウィンの為うぇぷ…女王の為に用意した高級菓子ぐぅ…!」
即座に取り戻すなり、吐き気を我慢しながら子供二人から距離を取ろうとするノライト。
ここで、レクトは急いでニルヴァナの持つ魔の物体を手に取るなり。
「ノライト、これ上げる!」
「むごはああぁぁぁ!!!」
瀕死となっているノライトの口の中にねじ込んだ。
胃と精神に追い打ちをかけられ、ノライトは再びぶっ倒れてしまう。レクトは意識を失ったノライトからお菓子を奪い取ると、二人に差し出した。
「はいニーちゃん、スズちゃん、俺からのトリートだよ!」
「レクト。君時々平気な顔で酷い事するよね」
もはや屍(死んでない)状態となったノライトを横目に、スズはお菓子を貰いつつも素直な感想を呟いた。
こうして、様々な人達に出会いながらお菓子を貰っていくスズノヨミとニルヴァナ。
時間もだいぶ経ち、ハロウィン終わりまで残り1時間を過ぎた。
「だいぶお菓子も、集まりました……あっという間の、一日でした……」
「さて。最後は…あそこだな」
「あそこ――」
ニルヴァナが聞き返そうとしたが、その前にスズは走り出す。
そして、狙いをつけたドアを蹴破るように一つの部屋の中へと勢いよく入り込んだ。
「はーい、トリックオアトリート!! お菓子くれなきゃ悪戯するよー!!」
「うわあああああぁ!!?」
スズの乱入に驚いたのだろう、部屋にいた少年の悲鳴が上がる。
その悲鳴に満足したようで、スズはにんまりと笑みを浮かべて目の前の黒髪に黒目の少年に声をかけた。
「やあ、クウ。晴れて女王の守護役に選ばれたって言うのに、相変わらず間抜な顔だね」
「な、なんだよいきなり!?」
少年――クウが怒鳴ると共に、ニルヴァナも部屋の中に入る。部屋の主であるクウだけでなく、長い茶髪に眼鏡をかけた青年――セヴィルがいる事に気づく。
セヴィルもまたニルヴァナに気づき、意外な顔をして話しかけてきた。
「ニルヴァナ? その恰好はどうした?」
「スズさんに、仮装をされました……」
「はいはい。それよりセヴィルもいたのか。丁度いい、お菓子をくれ。くれなきゃ悪戯だぞー?」
「お菓子? ある訳ないだろ、昨日まで師匠とセヴィルにあっちで扱かれてたんだから……あふ…久々にこっちに戻ってきたんだから寝させろよ…」
余程眠いらしく、軽く足払うとベットの中に潜り込み始めるクウ。その言葉を聞いて、スズはしてやったりの顔を浮かべる。
「いいのかい? くれなきゃ悪戯だぞ?」
「悪戯…? なるほど、皆が噂してた女王の作った菓子をばらまいて死人を出す悪魔はお前達の事だったのか」
「はっはっは、せめて可愛い魔女と黒猫って呼んで欲しいね! とりあえず噂した奴らはあとで酷い目に遭わせてやる!」
自業自得だろう、とセヴィルは言いかけたがグッと堪える。今の彼女達は兵器を持参している状態、口答えすれば魔の物体を口の中に放り込まれかねない。
代わりに、セヴィルはポケットを漁って二つの棒付きキャンディを取り出した。
「クロに言われて持たされたが、正解だったようだ。さあ、トリートだ」
「ありがとう、ございます……」
渡されたお菓子に、ニルヴァナはもちろんスズも喜んで貰う。それをベッドの中でチラっと見たクウは、軽く欠伸をする。
「セヴィルがくれたんだから、俺の分はいいだろ…じゃ、おやすみ…」
「いい訳ないだろ。それじゃ君には悪戯だ」
「やだ! スピカの作ったお菓子なんて食ったら死ぬに決まってる!」
中々酷い事を言いながら、クウは眼が冴えたのか起き上がる。
だが、スズはここにいる誰もが予想しなかった言葉を口にした。
「ふっ、安心しろ。君に用意する悪戯はそれじゃないんだなぁ…?」
「な、なんだよ…その、黒い笑みは…?」
「スズ、さん…?」
「ニルヴァナ、セヴィル。クウを押さえつけろ…ハロウィンの終わりを飾る、面白い見世物を用意してやろう。僕の権限を使ってな」
そうして浮かべたスズノヨミの笑みは、完全に悪魔そのものだった。
「まあ、クウ! 凄く似合っているわ!」
「…死にたい…!!」
場所は変わり、食堂。変な異臭が辺りに漂っているが、全部の窓を開けて換気をしているようで臭いは大分マシになった方である。
その部屋の食事スペースにて、ドレスを身に纏い薄い黒のベールに包まれた少女こと女王の異名で呼ばれているスピカは楽しそうに笑っていた。
悪戯と称し、クラシカルタイプのメイド服を着せられ、死んだ目をしているクウの姿に。
「ハハッ、誰がそんな言葉を喋れと言ったかな?」
パチンとスズが指を鳴らすと同時に、クウは丸まってた背筋を伸ばしてスピカに面と向かって向かい合う。
「何でもご命令ください、ご主人様…!」
泣きながらそんな言葉をスピカに言ってしまうクウ。誰がどう見ても、スズに操られていると分かるだろう。
この光景は、他の人達にも当然見られていた。
「…む、むごい…」
「女王のお菓子を食べて、死の狭間を彷徨う方が何倍もマシじゃないかい…?」
メイドとなってしまったクウの姿に、何とも言えない顔でレクトとラーシャはヒソヒソと囁き合う。あれをやられては男としてのプライドがボロボロになってしまうだろう。実際なってるが。
哀れや同情の視線をクウに送る中、別の感情をぶつける者もいた。
「これがセヴィルに続く、キーブレード使いの後継者か。ハッ、終わったな。いっそそのままメイドになったらどうだ、ん?」
「ノライト、てめーあとでぶっ殺す…!」
いつの間にか復活したようで、ノライトが挑発してきたのでクウも青筋を浮かべてその喧嘩を買ってしまう。
「ちょっと泥棒犬!! 女王の守護役に選ばれただけでは飽き足らず、私の揺ぎ無いポジションまで奪う気ですのっ!?」
「俺にこんな趣味ねーしうるせーんだよストーカー変態者の老害!! 何がスピカの騎士だよメイドだよ、そんなんだからお役目ごめんされたんだろうが!!」
「貴様、俺を馬鹿にしただけでは飽き足らず馴れ馴れしく女王を呼ぶとは…いい度胸だ!! 今日こそは始末してくれる!!」
「ノライト、私も手伝いますわよ!! 覚悟なさい泥棒犬、今日こそ追い出してくれますわぁ!!」
「やれるもんならやって見ろっ!!」
とうとう喧嘩沙汰になってしまい、そこらに人がいるにも関わらず暴れまわる三人。急いで避難する人もいれば、それぞれ飛んでくる攻撃をいなしたり防御しながら見守る人も。
さて。騒ぎを作った元凶であるスズノヨミは、自然体の状態で三人の乱闘を観戦している。と言うのも、ちゃっかりセヴィルとクロトスラルの後ろに隠れて二人を盾にしているからだ。
「いやー、これこれ。やっぱハロウィンは最後まで面白可笑しく騒がなくちゃね!」
「何が面白可笑しくだ。こんな馬鹿騒ぎ、どう考えても迷惑極まりない行為だ」
「んで、スズちゃんよー。俺達がこうして守ってやってんだ。そろそろ本音聞かせてくれない?」
「本音? はてさて、クロは何を言ってるのかな?」
「バカ弟子にあんな格好させたの――孤立しかけてる状態のあいつに、少しでも周りが接してくれるようしてくれたんだろ?」
クロの放った言葉に、スズの眉は微かに動いた。
「あいつは周りを傷つけた。今はスピカちゃんやレクト、俺達がいるが…まだまだ距離を取ったりする奴らはいるし、バカ弟子自身も他人に近付こうとせずに距離を置いている。だから、あんな事したんだろ。少しでもあいつの印象を変えようとさ」
「…考えすぎじゃない? 僕は面白い事が大好きな人間、それだけだよ」
「まー、スズちゃんがそう言うならそう言う事にしておくかー。わざわざメイド服着せるような真似されたくないしなー」
クロはそんな会話をしながら、飛んでくる攻撃をセヴィルと一緒にワイヤーやキーブレードで弾き返す。
何だかんだで思惑を無かった事にするクロにちょっとだけ不満を持ったスズだが、改めてメイド服で戦うクウの姿を捕らえた。
「ハロウィンは悪さをする悪霊や魔女から身を守る為の儀式だが、子供が楽しむお祭りでもあるのさ――闇の中に落とされたとはいえ、君も女王も僕達の中では立派な子供。こんな形だが、ハロウィンの終わりも残りわずか。楽しんでくれたまえ」
僅かな笑みを零し、スズは見る。
楽しそうに乱入する笑ったスピカと、困ったように彼女と背中を合わせるクウを。
■作者メッセージ
現在の話と思ったか? 残念、実は過去話だ。
と言う感じで、ちょっとしたドッキリも兼ねてハロウィン話を作りました。と言っても、後半は1週間以上も制作に時間かけちゃいました…。日に日に更新スピードが遅くなる…ある意味当然な生活送っているけども。
今回出て来た新キャラは、何れは本編で登場させる予定です。時間かかるよなぁ…多分KH3出てる頃になるかも…(もはや諦めモード
と言う感じで、ちょっとしたドッキリも兼ねてハロウィン話を作りました。と言っても、後半は1週間以上も制作に時間かけちゃいました…。日に日に更新スピードが遅くなる…ある意味当然な生活送っているけども。
今回出て来た新キャラは、何れは本編で登場させる予定です。時間かかるよなぁ…多分KH3出てる頃になるかも…(もはや諦めモード