リラ様誕生日企画・Part5-1
今回はクウ達が拠点としている別世界のレイディアントガーデンにやってきたグラッセ、ラック、ジェダイト、テルスの四人。
早速知人がいるであろうオパールの家を訪ねる。すると、クウ達の他にこの世界のソラ達も中にいて何やらリビングで一か所に集まっている。
よく見ると、リクとオパールが向かい合わせでソファに座っている。リクは余裕の笑み、オパールは眉を寄せて皺を作りテーブルを睨んでいる。
「うぬぬぬぬ…!」
「どうした、オパール? もう終わりか?」
「まだよ! まだ考え中ー!」
噛みつこうとする勢いだが、粘ろうとしているのが伺える。
そんな二人に興味を抱いて、ジェダイトが人だかりに向かって声をかけた。
「何してるんです?」
「おや、ジェダイト。遊びに来たんですか」
観戦モードだったウィドが振り向くと、他の人達もグラッセ達に気づく。
「いらっしゃい、今チェスをやっているんだ」
「オパールが物置で見つけたんだって。だから俺達で遊んでいるんだ」
ヴェンとソラが教えてくれたので、改めてテーブルの上を見てみる。
木製で作られたタイル状の盤、その上に様々な形をした白の駒と黒の駒がそれぞれに置かれている。リクが動かしているのは黒の陣営で、オパールは白の陣営のようだ。
駒の数は黒の方が多く、リクが有利なのが見て分かる。そうやって四人が盤上を眺めているとカイリが今の状況を説明してくれる。
「二人とも良い対決しているんだよね。オパールはリクに喰らいついてる感じで」
「逆に俺は全敗…カイリだけじゃなく、レイアにまで負けた…」
「大丈夫ですよ、ソラ。あなたはまだ子供なんです、将来になってもあそこの大人のように連敗するような人にならなければいいんですから」
「それは嫌味か嫌味だよなウィド?」
ソラを気遣うフリして悪口をぶつけるウィドに、クウは動かない右手の代わりに左手の拳を見せつけるように震わせる。
ダメ大人っぷりを聞かされて三人は苦笑しか出来なかったが、グラッセは一人思う事があった。
「意外ですね。確かにクウさんはバカと言うか感情的ですが、頭は悪くないように思ったんですけど」
「どちらかと言うと、頭がいいと言うより諦めが悪いって感じよクウは。戦闘なら何が何でも勝つ為に頭を働かせるけど、これは盤上ゲーム。流石に悪知恵も役に立たないわ」
「俺と対局した時だけ、容赦なく俺のキング以外の駒全部取りやがって圧勝したもんなー、スピカ…」
「あーら、クウが単純すぎるだけよ」
やっぱこの人悪魔じゃ…? そんな言葉が四人に思い浮かんだが、後が酷い事になるのは分かっているので口にはしなかった。ついでに周りも、アクアやテラまで何か言いたいのに言えない微妙な顔をしている。同じ気持ちなのは一緒のようだ。
「しかし、チェスか。面白いゲームを見つけたものだね、アタイもやっていいかい?」
「そうね、私もやってみたいわ」
対局している二人を眺めてたからかラックとテルスが乗り気になっていると、玄関が開く。
そこからツバサとルキルが沢山の食材を持って入ってきた。
「ただいまー。買い出し戻ったよ…あ」
「なんだ、グラッセ達。いたのか」
自分達を見て固まるツバサとは裏腹に、ルキルは意外だと言う顔を見せる。
「えーと、君は確か…ツバサだったね」
「あ、はい…!」
緊張しながらもグラッセの問いかけに頷くツバサ。そんな彼女にラックとテルスも近づく。
「リズから聞いてるよ。シャオの妹なんだって?」
「とっても可愛らしい子ね。私はテルスよ、よろしくツバサちゃ――」
にこやかにテルスがツバサに手を差し伸べる。
直後、巨大な衝撃波と炎がテルスへと襲い掛かった。
「にぎゃあああああ!!?」
「「テルスさーん!?」」
容赦ない攻撃を浴びせられ、その場に倒れるテルス。思わずグラッセとジェダイトが叫んでいると、『空衝撃・牙煉』と『ブレイズローカス』をぶつけたウィドとクウが倒れたテルスの顔の前にドンと音を立てて立つ。
「あなたの行動パターンは既に理解してます」
「ツバサと握手するつもりでセクハラ行おうとしたんだろうが、俺達の目が黒い内はやらせねーよ」
「普段仲の悪い二人がタッグ組んでますよ!?」
突然の二人の脅しに、ジェダイトが続けて叫ぶ。
主にウィドのシスコンが原因で売り言葉に買い言葉な二人の関係。しかし、敵の敵は味方となっているようで共に戦う事も厭わないようだ。
「何て言うか、シャオとの扱いが全然違うな…愛されてると言うか」
「う、うん…そうだね」
ラックの呟きに、ツバサはささっと距離を離してキッチンに食材を置いているルキルの元に向かう。まるで自分達を避けているように思える。
「なんだかつれないねぇ。あの子、極度の人見知りなのかい?」
「そんな事はないよ。とっても明るくていい子だよ」
「そうそう。シャオの時とおな「あー! 手が滑ったー!」ぐへ!?」
カイリに続くようにヴェンもフォローを入れようとしたら、キッチンからキーブレードが飛んできて頭に直撃した。
明らかに狙った妨害に、誰もがキッチンで荒い息をして睨んでいるツバサに注目する。
「あのぉ、いきなりどうしたんですか?」
「う…」
首を傾げるジェダイトに、ツバサは怯む。
けれど、何かを言う事はせずに逃げるように家を飛び出してしまった。
「どうしたんでしょうか? 何か気に障る事でも言ったんでしょうか僕?」
「もしかして、シャオと兄妹仲が悪いのかい?」
「そうじゃないけど…」
ラックもジェダイトがどうしたものかと顔を見合わせてると、同じく原因は分からないのかアクアも不思議そうに首を傾げるばかり。
ここで、今まで黙ってキッチンで作業していたルキルが声をかけた。
「放っておけ。それより折角来たんだ、今から食事の準備をするんだが食べてくか?」
「お、あんたの料理は旨いからありがたいね! じゃあお言葉に甘えるとしよう!」
こちら側の人達の中では料理の腕がピカ一であるルキルの料理が食べれると、上機嫌になるラック。
これには他の人達も苦笑を浮かべてしまったが、ツバサの事で悪くなった空気も若干取り払われた。
オパールの家から逃げ出したツバサは、噴水の所で膝を抱えて蹲っていた。
落ち込んでいる理由はもちろん、あの場から逃げ出したことに対してだ。
「まだ話せない?」
しばらくすると、優しい声が頭上からかけられる。
見上げると、心配してきてくれたのか顔を覗き込ませたスピカがいた。
「スピカさん…」
「あの世界でもそうよね。シャオが本当はあなただって、まだリズ達の誰にも伝えてない」
自分の抱えている問題に気付いていたようで、ツバサを見上げた顔を再び下ろす。
噴水に映った自分の顔を――ツバサとしての自分が映る。前まで覗き込めば映っていたのは自分と似た少年だったのに。
「ボクは、少し前までお兄ちゃんだった。ツバサとしての自分を取り戻したけど、リズ達と友人になったのはお兄ちゃんであったボク…同じだけど、同じじゃない。そして本当のお兄ちゃんは、もう昔に死んでる」
リズ達と知り合うずっと昔、兄であるシャオはまだ幼かったのにその命を亡くしてしまった。そして、自分は兄を救おうとシャオの記憶を全て吸収し、シャオとして成り代わった。
そんな自分がリズ達と知り合って友人となったのは、ここ最近だ。だからリズ達は知らない。シャオが死んでいる事、自分こそが友人であるシャオである事を。
あちらのムーンやリズには、シャオが女の子である事はバレたが、根本的な理由はバレてない。自分がシャオとしての姿を取り戻したとしても――ツバサとして存在する事を決めた以上、かつてのシャオに戻る事は出来ない。
「話す気はあるよ。あるんだけど…」
「踏ん切りがつかない、って所かしら?」
「ボクはボクとして存在すればいい。そう言って救ってくれた師匠やイオン先輩、ペルセさん、イリアさんに、背く事をしちゃってるよね…」
もう一度、抱えていた膝に蹲る。
クウ達との関りはまだまだ浅い。全員がソックリさんのようなものだ。だから戸惑いはあったが、正体をバラした時はそこまで抵抗はなかった。
けれど、両親を始めとする自分の世界の知り合い、友人として交流してきたリズ達は別だ。この旅が終わり元の世界に戻った時、ツバサとしての自分を両親や皆は受け入れてくれるだろうか。
この問題を忘れていた訳ではない。それでも、いざ目の前にすると怖いのだ。本当の事を話して、拒絶される未来を考えてしまう。
「ねえ、ツバサ――」
「あ、いたいた」
スピカが何か言おうとしたら、グラッセが近づいてきた。
彼も彼で察知能力は高い事を知っている為、スピカはツバサから目を逸らさせようといち早く言葉をかける。
「グラッセ…みんなと一緒にいた筈じゃ?」
「流石にあんなの見たんじゃ心配しますって。だからスピカさんもここに来たんでしょう?」
「あ、あの…ごめんなさい」
勝手に逃げ出した事に対して、ツバサは立ち上がって謝る。
「別に気にしてないよ。でも、なんであの場から逃げたんだ?」
「そ、それは…」
「そう言えば、シャオ…君のお兄さんも見かけないけど、どこかに出かけているのか?」
「お、お兄ちゃんは、その…」
グラッセの立て続けの質問に、ツバサは戸惑いを浮かべる。
本当の事を話さないといけない。それは分かっているが、思う様に言葉が出ない。
思わずスピカに助けを求めて目線を送ると、すぐに会話を割り込ませる。
「シャオは色々あって今はいないの。それよりグラッセ、あなた少しは女の子の扱い方を考えなさい。ハッキリ言って、その部分はクウに劣っているわよ」
「恋で盲目になっているあなたに言われても説得力皆無なんですが?」
「全く、身近にいた女の子が破天荒で野生児で女子力0だったばっかりに、グラッセの女性に対するスキルがここまで身についてないなんて…」
「それだったらリズと一緒に生活して父子家庭しているムーンはどうなるんですか!? あれでも結構モテる方ですよ!?」
とうとうグラッセがツッコミを入れるいつも通りの光景に、ツバサは思わず吹き出してしまう。
「ふふ…!」
「やっと笑ってくれたな、ツバサ」
「あ、うん…」
「言ったでしょ、女の子の扱いが悪かっただけって。さ、戻りましょう」
上手い具合にスピカが会話を誘導し、これでこの話は終わった。そうツバサは安堵していた。
けれど、グラッセと言う人物はそこまで甘くなった。
「ところで、君が俺を避けたのは…俺が故郷を壊したバケモノだって、シャオから聞いていたのか?」
「絶対違う! そんな事思わない!」
「強がらなくていい。本当は俺の事怖いから逃げていたんだろ?」
「違う、グラッセの事を怖いとか思ってないからボク!」
「じゃあ、どうして俺を避けていたんだ?」
「それは…!」
「…否定はしないんだな。俺を避けていたって所」
「っ…!」
いつの間にか誘導されていた事に気づいたが、もう遅い。誤魔化す事も出来ずに黙るしか出来なくなったツバサを、再びスピカが助けようとする。
「グラッセ、もうその話は」
「スピカさん。あなたもツバサの事を過保護に思っているようですが、甘やかすだけがこの子の為とは限りませんよ?」
「それは…」
正論とも言える否定に、スピカも言葉が詰まる。
もしかしたら、グラッセは薄々気づいているかもしれない。それでもストレートに聞かないのは、彼なりの優しさか。まだ正体まで掴めていない可能性もあるだろう。
ここで話せればいいが、恐怖が強くてツバサは俯いたまま黙っている。
何も言えない沈黙が続く中、打ち破ったのはグラッセの提案だった。
「じゃあ、勝負しようか」
「勝負…?」
ああ、とグラッセは頷き。
「俺が勝ったら、君が何を隠しているのかを話して貰うよ」
早速知人がいるであろうオパールの家を訪ねる。すると、クウ達の他にこの世界のソラ達も中にいて何やらリビングで一か所に集まっている。
よく見ると、リクとオパールが向かい合わせでソファに座っている。リクは余裕の笑み、オパールは眉を寄せて皺を作りテーブルを睨んでいる。
「うぬぬぬぬ…!」
「どうした、オパール? もう終わりか?」
「まだよ! まだ考え中ー!」
噛みつこうとする勢いだが、粘ろうとしているのが伺える。
そんな二人に興味を抱いて、ジェダイトが人だかりに向かって声をかけた。
「何してるんです?」
「おや、ジェダイト。遊びに来たんですか」
観戦モードだったウィドが振り向くと、他の人達もグラッセ達に気づく。
「いらっしゃい、今チェスをやっているんだ」
「オパールが物置で見つけたんだって。だから俺達で遊んでいるんだ」
ヴェンとソラが教えてくれたので、改めてテーブルの上を見てみる。
木製で作られたタイル状の盤、その上に様々な形をした白の駒と黒の駒がそれぞれに置かれている。リクが動かしているのは黒の陣営で、オパールは白の陣営のようだ。
駒の数は黒の方が多く、リクが有利なのが見て分かる。そうやって四人が盤上を眺めているとカイリが今の状況を説明してくれる。
「二人とも良い対決しているんだよね。オパールはリクに喰らいついてる感じで」
「逆に俺は全敗…カイリだけじゃなく、レイアにまで負けた…」
「大丈夫ですよ、ソラ。あなたはまだ子供なんです、将来になってもあそこの大人のように連敗するような人にならなければいいんですから」
「それは嫌味か嫌味だよなウィド?」
ソラを気遣うフリして悪口をぶつけるウィドに、クウは動かない右手の代わりに左手の拳を見せつけるように震わせる。
ダメ大人っぷりを聞かされて三人は苦笑しか出来なかったが、グラッセは一人思う事があった。
「意外ですね。確かにクウさんはバカと言うか感情的ですが、頭は悪くないように思ったんですけど」
「どちらかと言うと、頭がいいと言うより諦めが悪いって感じよクウは。戦闘なら何が何でも勝つ為に頭を働かせるけど、これは盤上ゲーム。流石に悪知恵も役に立たないわ」
「俺と対局した時だけ、容赦なく俺のキング以外の駒全部取りやがって圧勝したもんなー、スピカ…」
「あーら、クウが単純すぎるだけよ」
やっぱこの人悪魔じゃ…? そんな言葉が四人に思い浮かんだが、後が酷い事になるのは分かっているので口にはしなかった。ついでに周りも、アクアやテラまで何か言いたいのに言えない微妙な顔をしている。同じ気持ちなのは一緒のようだ。
「しかし、チェスか。面白いゲームを見つけたものだね、アタイもやっていいかい?」
「そうね、私もやってみたいわ」
対局している二人を眺めてたからかラックとテルスが乗り気になっていると、玄関が開く。
そこからツバサとルキルが沢山の食材を持って入ってきた。
「ただいまー。買い出し戻ったよ…あ」
「なんだ、グラッセ達。いたのか」
自分達を見て固まるツバサとは裏腹に、ルキルは意外だと言う顔を見せる。
「えーと、君は確か…ツバサだったね」
「あ、はい…!」
緊張しながらもグラッセの問いかけに頷くツバサ。そんな彼女にラックとテルスも近づく。
「リズから聞いてるよ。シャオの妹なんだって?」
「とっても可愛らしい子ね。私はテルスよ、よろしくツバサちゃ――」
にこやかにテルスがツバサに手を差し伸べる。
直後、巨大な衝撃波と炎がテルスへと襲い掛かった。
「にぎゃあああああ!!?」
「「テルスさーん!?」」
容赦ない攻撃を浴びせられ、その場に倒れるテルス。思わずグラッセとジェダイトが叫んでいると、『空衝撃・牙煉』と『ブレイズローカス』をぶつけたウィドとクウが倒れたテルスの顔の前にドンと音を立てて立つ。
「あなたの行動パターンは既に理解してます」
「ツバサと握手するつもりでセクハラ行おうとしたんだろうが、俺達の目が黒い内はやらせねーよ」
「普段仲の悪い二人がタッグ組んでますよ!?」
突然の二人の脅しに、ジェダイトが続けて叫ぶ。
主にウィドのシスコンが原因で売り言葉に買い言葉な二人の関係。しかし、敵の敵は味方となっているようで共に戦う事も厭わないようだ。
「何て言うか、シャオとの扱いが全然違うな…愛されてると言うか」
「う、うん…そうだね」
ラックの呟きに、ツバサはささっと距離を離してキッチンに食材を置いているルキルの元に向かう。まるで自分達を避けているように思える。
「なんだかつれないねぇ。あの子、極度の人見知りなのかい?」
「そんな事はないよ。とっても明るくていい子だよ」
「そうそう。シャオの時とおな「あー! 手が滑ったー!」ぐへ!?」
カイリに続くようにヴェンもフォローを入れようとしたら、キッチンからキーブレードが飛んできて頭に直撃した。
明らかに狙った妨害に、誰もがキッチンで荒い息をして睨んでいるツバサに注目する。
「あのぉ、いきなりどうしたんですか?」
「う…」
首を傾げるジェダイトに、ツバサは怯む。
けれど、何かを言う事はせずに逃げるように家を飛び出してしまった。
「どうしたんでしょうか? 何か気に障る事でも言ったんでしょうか僕?」
「もしかして、シャオと兄妹仲が悪いのかい?」
「そうじゃないけど…」
ラックもジェダイトがどうしたものかと顔を見合わせてると、同じく原因は分からないのかアクアも不思議そうに首を傾げるばかり。
ここで、今まで黙ってキッチンで作業していたルキルが声をかけた。
「放っておけ。それより折角来たんだ、今から食事の準備をするんだが食べてくか?」
「お、あんたの料理は旨いからありがたいね! じゃあお言葉に甘えるとしよう!」
こちら側の人達の中では料理の腕がピカ一であるルキルの料理が食べれると、上機嫌になるラック。
これには他の人達も苦笑を浮かべてしまったが、ツバサの事で悪くなった空気も若干取り払われた。
オパールの家から逃げ出したツバサは、噴水の所で膝を抱えて蹲っていた。
落ち込んでいる理由はもちろん、あの場から逃げ出したことに対してだ。
「まだ話せない?」
しばらくすると、優しい声が頭上からかけられる。
見上げると、心配してきてくれたのか顔を覗き込ませたスピカがいた。
「スピカさん…」
「あの世界でもそうよね。シャオが本当はあなただって、まだリズ達の誰にも伝えてない」
自分の抱えている問題に気付いていたようで、ツバサを見上げた顔を再び下ろす。
噴水に映った自分の顔を――ツバサとしての自分が映る。前まで覗き込めば映っていたのは自分と似た少年だったのに。
「ボクは、少し前までお兄ちゃんだった。ツバサとしての自分を取り戻したけど、リズ達と友人になったのはお兄ちゃんであったボク…同じだけど、同じじゃない。そして本当のお兄ちゃんは、もう昔に死んでる」
リズ達と知り合うずっと昔、兄であるシャオはまだ幼かったのにその命を亡くしてしまった。そして、自分は兄を救おうとシャオの記憶を全て吸収し、シャオとして成り代わった。
そんな自分がリズ達と知り合って友人となったのは、ここ最近だ。だからリズ達は知らない。シャオが死んでいる事、自分こそが友人であるシャオである事を。
あちらのムーンやリズには、シャオが女の子である事はバレたが、根本的な理由はバレてない。自分がシャオとしての姿を取り戻したとしても――ツバサとして存在する事を決めた以上、かつてのシャオに戻る事は出来ない。
「話す気はあるよ。あるんだけど…」
「踏ん切りがつかない、って所かしら?」
「ボクはボクとして存在すればいい。そう言って救ってくれた師匠やイオン先輩、ペルセさん、イリアさんに、背く事をしちゃってるよね…」
もう一度、抱えていた膝に蹲る。
クウ達との関りはまだまだ浅い。全員がソックリさんのようなものだ。だから戸惑いはあったが、正体をバラした時はそこまで抵抗はなかった。
けれど、両親を始めとする自分の世界の知り合い、友人として交流してきたリズ達は別だ。この旅が終わり元の世界に戻った時、ツバサとしての自分を両親や皆は受け入れてくれるだろうか。
この問題を忘れていた訳ではない。それでも、いざ目の前にすると怖いのだ。本当の事を話して、拒絶される未来を考えてしまう。
「ねえ、ツバサ――」
「あ、いたいた」
スピカが何か言おうとしたら、グラッセが近づいてきた。
彼も彼で察知能力は高い事を知っている為、スピカはツバサから目を逸らさせようといち早く言葉をかける。
「グラッセ…みんなと一緒にいた筈じゃ?」
「流石にあんなの見たんじゃ心配しますって。だからスピカさんもここに来たんでしょう?」
「あ、あの…ごめんなさい」
勝手に逃げ出した事に対して、ツバサは立ち上がって謝る。
「別に気にしてないよ。でも、なんであの場から逃げたんだ?」
「そ、それは…」
「そう言えば、シャオ…君のお兄さんも見かけないけど、どこかに出かけているのか?」
「お、お兄ちゃんは、その…」
グラッセの立て続けの質問に、ツバサは戸惑いを浮かべる。
本当の事を話さないといけない。それは分かっているが、思う様に言葉が出ない。
思わずスピカに助けを求めて目線を送ると、すぐに会話を割り込ませる。
「シャオは色々あって今はいないの。それよりグラッセ、あなた少しは女の子の扱い方を考えなさい。ハッキリ言って、その部分はクウに劣っているわよ」
「恋で盲目になっているあなたに言われても説得力皆無なんですが?」
「全く、身近にいた女の子が破天荒で野生児で女子力0だったばっかりに、グラッセの女性に対するスキルがここまで身についてないなんて…」
「それだったらリズと一緒に生活して父子家庭しているムーンはどうなるんですか!? あれでも結構モテる方ですよ!?」
とうとうグラッセがツッコミを入れるいつも通りの光景に、ツバサは思わず吹き出してしまう。
「ふふ…!」
「やっと笑ってくれたな、ツバサ」
「あ、うん…」
「言ったでしょ、女の子の扱いが悪かっただけって。さ、戻りましょう」
上手い具合にスピカが会話を誘導し、これでこの話は終わった。そうツバサは安堵していた。
けれど、グラッセと言う人物はそこまで甘くなった。
「ところで、君が俺を避けたのは…俺が故郷を壊したバケモノだって、シャオから聞いていたのか?」
「絶対違う! そんな事思わない!」
「強がらなくていい。本当は俺の事怖いから逃げていたんだろ?」
「違う、グラッセの事を怖いとか思ってないからボク!」
「じゃあ、どうして俺を避けていたんだ?」
「それは…!」
「…否定はしないんだな。俺を避けていたって所」
「っ…!」
いつの間にか誘導されていた事に気づいたが、もう遅い。誤魔化す事も出来ずに黙るしか出来なくなったツバサを、再びスピカが助けようとする。
「グラッセ、もうその話は」
「スピカさん。あなたもツバサの事を過保護に思っているようですが、甘やかすだけがこの子の為とは限りませんよ?」
「それは…」
正論とも言える否定に、スピカも言葉が詰まる。
もしかしたら、グラッセは薄々気づいているかもしれない。それでもストレートに聞かないのは、彼なりの優しさか。まだ正体まで掴めていない可能性もあるだろう。
ここで話せればいいが、恐怖が強くてツバサは俯いたまま黙っている。
何も言えない沈黙が続く中、打ち破ったのはグラッセの提案だった。
「じゃあ、勝負しようか」
「勝負…?」
ああ、とグラッセは頷き。
「俺が勝ったら、君が何を隠しているのかを話して貰うよ」