海賊とクリスタルの航海日誌4
ヴェン達との戦いから逃げ切り、ソラ達が辿り着いたのは別の島だった。
船の損傷は酷く、このまま航海するには厳しいものだ。一旦ソラ達は船を止めて陸に上がり、今後の方針を話し合う。
「さて…まずは状況の確認をしよう」
そうリクが切り出すが、顔は険しい。
「早速ヴェン、テラ、アクアの三人を見つけたのはいい。お宝とやらの手がかりも三人は持っている。けど、どこかの誰かさんの所為で俺達は敵対した訳だが? しかもこの世界では必要な足である船まで壊されて。これからどうするんだ?」
「うう…海賊の性で、つい…」
「お前空賊で義賊って言ってなかったか?」
リクの前で、情けなく砂浜で正座させられているオパール。もはや反論の言葉もない。
「リク、もうその辺にしてあげよう? オパールも反省してるし、ね?」
「カイリは甘すぎるんだ。本当にこれからどうするんだ…!」
状況が悪化している事に、リクは頭を押さえる。すると、オパールは正座のままおずおずと手を上げる。
「あの…船を直すなら、あたし出来るから…魔法とは違うけど、海賊の力で出来る感じ…時間はそれなりにかかるけど…」
「それもジョブチェンジとやらの力か。まあ、船があってこその海賊だもんな」
「オパールが船を直せるなら解決だな。後は、ヴェン達をどう倒すかだな」
うーん、とソラが腕組みをする。リクとカイリも一緒になって対策を考えてみる。仲間を探すと言う目的が変わりつつあるが、どちらにせよこのままでは話すら聞いて貰えないだろう。
まず、相手は空中を自由に移動出来る乗り物で戦う。対して、こちらは船しか足場がない。足場の少なさにより満足に移動が出来ず、ヴェン達を船の甲板におびき寄せる事もままならなかった。
そして、遠距離である大砲や魔法も簡単に防御や回避が出来てしまう。結局、相手に地の利がありすぎるのだ。
「魔法じゃ限度があるし、オパールも合成が使えないんだ。せめて遠距離が得意な奴がいればいいんだが…」
「んー…遠距離が使えると言ったら、ツバサとかスピカさん?」
カイリの脳内で、遠距離型の『フィルアーム・モード』のツバサとガンブレードを持つスピカが思い浮かぶ。
銃だけでなく、弓やガンアローなどを自在に扱える状態なら空中を飛び回る三人に効果はある。スピカのガンブレードも本人の身体能力なら牽制出来るはずだ。
「空中戦なら、クウは?」
「あいつも遠距離は出来るが、基本接近戦だ。それに翼は出せても、飛行能力は失われてるも同然。対して役に立たない」
ソラの意見に、厳し目のコメントを送るリク。
「じゃあ、ヴェン達は保留にして。先にツバサとスピカさんを探す形で行こう!」
どうにか道筋が見えた事で、カイリもこぶしを握る。今後の計画を固めると、リクは島の方に目を向ける。
「この島も探索しておこう。修理には時間がかかるんだろ?」
「うん、精々一日くらいかな? あたし、ここで留守番しておくから…反省も兼ねて…」
「じゃあ、私とソラとリクで島の探索しておくね」
ついついカイリは優しく接してしまい、しょぼんとするオパールの肩を撫でる。こうしてオパールは船の修理の為に残し、三人は島の探索へと向かったのだった。
漂流した島を進むソラ達。最初にいた島は自然そのままで道と言う道がなかった。それに比べると、多少は歩ける道もあるのでそこまで酷くはない。
そうして道に沿って島の奥に辿り着く。荒れ果ててはいるが、所々に人工物が残されている廃屋が幾つもある区間だった。
「ここは…」
「廃墟のようだな。人の気配はないか」
キョロキョロと辺りを見回すソラ。リクも近くにある扉が壊れている家の中に、強引に入る。
中も外装と同じように、壁に穴は空き、テーブルや椅子の家具も壊れかけている。少なくとも、長い年月人の手が行き届いていないのだろう。
ソラとカイリも何か手掛かりを探して家の中を調べていると、外から別の音が聞こえ始める。
「なんか、音がしない?」
何気ないソラの言葉に、一足先にリクは外に出る。
直後、横からリクに何かがぶつかった。
「「うわっ!」」
リクともう一人の声が重なり、そのまま地面に倒れ込んでしまう。
急いでソラとカイリも駆け付けると、リクの腹に乗っかっていたのは、銀髪の少女――ツバサだった。
「いったたた…!」
「「ツバサ!」」
「えっ! ソラさん、カイリさん! それに伯父さん!」
「やった、早速一人見つけた!」
目当ての仲間と合流でき、思わずガッツポーズを作るソラ。
一方、肝心のツバサはと言うと倒れたままリクにしがみ付いた。
「丁度良かった、助けて!」
「何かあったのか?」
「そ、それが…」
訳を説明しようとすると、遮るように周りにハートレスが現れる。
「ハートレス!」
「ここにもいるのか!」
敵の出現に、ソラはキーブレードを構える。リクも乗っかっていたツバサをカイリに預け、前に出る。
周りを囲んでいたハートレスが飛び掛かる。二人は迎え撃つために、一歩踏み出して武器を振りかぶる。
その瞬間、上の方から無数の銃声が響き渡る。かと思えば、ハートレスは一斉に消滅してしまった。
「なんだ!?」
「全く、どこまで際限なく湧き上がれば気が済む…」
近くにある崖の上から声がする。
見上げると、そこにはウィドがいた。
キッチリと前をチャックで止めた白のパーカーに青い半ズボンと言うラフな格好。動きやすさ重点のサンダルを履き、黒のサングラスを目に掛けている。
何より大きな特徴は…右手には何故か物騒なマシンガンを握りしめている所だろう。
「私の邪魔をするものは…この銃弾を嵐を喰らうがいい!」
左手に光が集うと、右手に持っていた同じ型のマシンガンを取り出す。
そのまま引き金を引き続け、雨霰の銃弾をソラ達の周りに残っていたハートレス達に喰らわせるのだった。
「あれウィドー!?」
続けて再会したウィドの姿に、ソラが悲鳴じみた声を上げる。
ウィドは本来、白い聖職者の服装をして細い剣で戦う素早さ特化の剣士だ。だが、なぜか服装が薄手に変わっているだけでなく、あんな銃を使いこなしている。ついでに言えば、日除けの為に掛ける為のサングラスがどこぞの怖い職業のように迫力を増している。
元が教師とは思えない。この短期間で変わり果てた姿にポカンとするソラ、リク、カイリ。そんな三人の横から更に足音が聞こえた。
「よぉ、お前らもいたのか…」
「父さーん! やっぱりウィド小父さん怖いよぉぉぉ!」
疲れたような顔で声をかけて来たのは、これまたはぐれていたルキル。ツバサは本来の呼び方になるほど怖いのか、すぐさまルキルへと抱き着く。
「おい、ニセモノ!? あれはどうなっているんだぁ!?」
ようやく我に返り、リクは事情を知っているであろうルキルに掴みかかる。ルキルは目を逸らしながらも青い顔でポツポツと話す。
「色々、あって…先生の服装だけでなく、武器が変わって…銃を使ったら、もうあんな感じにお構いなしで…」
「トドメだぁ!」
マシンガンが弾切れになると、後ろに放り投げる。
次に取り出したのは、バズーカ。それを肩に担ぐよう構え、こちらに向けている。
嫌な予感が全員に駆け巡る。心が命じる…いや、戦闘の中で鍛えられた本能のままに、リクはソラとカイリの手を掴み、ルキルもツバサを担いでその場から逃げるように駆け出した。
「ファイヤー!」
バズーカの引き金を引く。そうして、一発の弾丸が勢いよく発射された。
数秒後にハートレス達の所に着弾すると、轟音と共に爆発を起こす。その威力は凄く、距離を離していた5人にまで爆風が届いたほどだった。
やがて煙が晴れると、ハートレスがいた場所は地面がドーム状に抉れており、廃屋も木っ端微塵に破壊されていた。
「ふん、他愛無い」
ガン、と音を立てて担いでいたバズーカを下ろすウィド。
巻き込まれかけた5人はと言うと、外傷はないが爆風に巻き込まれてしまい、疲れたように地面に倒れ込んでいた。
「……話を纏めると。この島に辿り着いていたのがウィド、ルキル、ツバサの三人。何か手掛かりが無いか島を探索していたら、ウィドが廃屋の一つからクリスタルを見つけた。それで学者モードになって手に取った瞬間、あたしと同じジョブチェンジの力を手に入れて、今までとは違う爽快感のある戦い方でついつい周りを気にせず調子に乗りまくってた…って訳?」
船の修理をやっていたら、激しい戦闘を休みなく行った顔でソラ達が戻ってきたのが少し前。ツバサをおんぶしてやってきたルキルと、何故か衣装が変わったウィドも一緒に。
そうしてウィドとルキルから事情を聞き、理解したのが今。未だにソラ達は死んだ目をしているし、ツバサもルキルの背中にしがみ付いたままプルプルと震えたままだ。
「ねえ、もうスピカさんいなくてもウィド一人で解決すると思うんだ、私」
「俺もそう思う」
「俺もだ」
「あんたら一体何があったの?」
更にはカイリとソラだけでなく、リクまでこんな事を言う始末だ。
オパールは「頭大丈夫か?」な目をしているが、ソラ達としては逆に言い返したい気分である。船で一人留守番していたオパールは、当たりくじを引いたと言っても過言ではないだろう。
「で、私と同じようにオパールも服装や武器が変わっているのは」
「うん、このクリスタルのおかげ。あたしは海賊の力を手に入れてるの」
オパールは懐から手の中に納まるほどの細長い透明な青のクリスタルを見せる。
「ふむ。色は違いますが、形状は一緒ですね」
ウィドもまた、手に入れたクリスタルを見せる。細長い形状だが、色は透明な灰色だ。
「能力は銃などの飛び道具を自由に取り出し扱う…うーん、だったら『ガンナー』かな?」
「ガンナー、ですか。その辺は私よりオパールの方が知識はあるようですし、呼び方についてはお任せしましょう」
「…で、話はある程度聞いたが、お前なんでアクア達に喧嘩売ったんだよ? 仲間だろ?」
「ル、ルキルだって前はリクやソラと敵対してたでしょ!? あれと同じですー!」
「いや全然違うぞ」
不貞腐れて唇を尖らせるオパールに、死んだ目になりながらも冷静にツッコミを入れるリク。ルキルを庇う訳ではないが、記憶や存在を賭けた戦いと欲望によるプライドの押し付けを一緒にして貰いたくない。
「とにかく、私の力が必要と言う事であれば協力しますよ。どうせ皆と合流しないとですし」
「先生が行くなら俺も行く…ツバサもこうだが、異論はないはずだ」
「やったー、仲間が一気に増えたー! じゃ、船が直ったら出発ね!」
ウィド、ルキル、ツバサの同行に、戦力が増えた事で上機嫌で拳を上げるオパール。
だが、その言葉に今度はウィドの顔色が悪くなる。
「船、か…」
「先生?」
「あ、そっか。ウィドって金づ――ひいぃ!?」
無言でハンドガンの銃口がソラの頭に突き付けられる。もちろんやったのはウィドだ。サングラスで目は隠れているが、凄みだけは感じ取れる。
ガンナーとなったウィドに下手な事を言えば只じゃすまない。全員の心に刻まれた。
「と、とにかく話を戻そう…ヴェン達を倒す作戦はどうする? ツバサとウィドで遠距離には問題なくなったし人も増えるが、相手は三人だ。抑える気なら、スピカさんも含めた方がいいんじゃないか?」
リクがオパールに進言すると、何故かニコニコと笑顔が返される。
「大丈夫でしょ。だって、ウィドにしか使えない秘策があるじゃない!」
『秘策…?』