海賊とクリスタルの航海日誌5
翌日。損傷した船は無事に直り、新たな仲間を従えて以前敗北した海域に近づく。
目標の島が見えて来て、ある程度の距離に近づいた所で島からヴェン、テラ、アクアが飛んできた。
三人が飛んできたのを確認し、オパールは船の速度を緩めるよう指示をする。広がっていた帆を畳んで速度を落としていると、昨日と同じように船には隣接せずに離れた所でアクアが話しかけて来た。
「性懲りもなく来たのね。海賊なんて馬鹿な考えはもう」
止めにしなさい、と続く言葉は遮られる事になる。
上空から何かが飛んで来たと思ったら、テラが爆発したのだ。
「うわあああ…!!」
「「テラ!?」」
バイク形状のキーブレードと共に、海の中に落下するテラ。一体何をしたのか理解出来ず、ヴェンとアクアは船を見る。
甲板にいるのは、オパール、ソラ、リク、ルキル、ツバサ。カイリは巻き込まれないよう操舵席の近くにいる、船の操作はしないと見ていい。
昨日より人が増えているのは分かるが、攻撃をした素振りは見えていない。どこから…とアクアが分析し始めたが、すぐに分かる事になる。
「遺跡はどこじゃーーーーーー!!!」
マストの上の見晴台。そこでウィドがバズーカを持ちながら雄たけびを上げたからだ。
「「ウィドーーーー!!?」」
「あの島にあるわ! さあ、どんどん邪魔者を蹴散らしちゃって頂戴、ウィド先生!」
「任せろぉ!! うおおおおおおぉ!!」
オパールの煽りに、バズーカを消すとマシンガンを取り出して連射でアクアとヴェンに銃弾を撃ちまくる。
完全に学者モード全開のウィドに、二人は表情を青ざめて逃げるように旋回を始めた。止まったら最後、ウィドの攻撃が容赦なく襲い掛かる。
色々言いたい事がアクアの中で生まれるが、まずこれだけは彼らに言っておきたかった。
「あ、あなた達卑怯にも程があるわよっ!?」
「海賊に卑怯もへったくれもありませーん! て言うか、ライド使ってるアクア達に言われたくないし!」
こちらが優位だからだろう、オパールはビシっと指を差して逆に言い返す。
ちなみに、後ろにいるメンバーはと言うと…。
「なあ、俺達ってキーブレード使いだよな? 世界を救う立場だよな? 完全にゼアノートと同じ立場じゃないのかこれ? エン達より酷い事やってないか?」
「考えたら負けだよ、リク伯父さん…!」
「先生はすごいなー、あはははは」
リクは遠い目をしており、ツバサは顔を逸らし、ルキルに至っては現実逃避をしている。
身内二人がこうなると、もうウィドを強制的に止める方法は存在しない。この場にスピカがいればまだ抑止力になるだろうが、こんな海の上で来てくれる確率は0に等しい。
「大砲用意ー、撃てー!」
「クイックトリガー!!」
ここでオパールが大砲を使い、ウィドも弾切れになったマシンガンを消すと二丁拳銃のハンドガンでヴェンに追撃を行う形で技を出す。
飛んで来た大砲を、寸前でヴェンはどうにか躱す。だが、一瞬だけ動きが鈍った所でウィドの銃撃に巻き込まれた。
「うわあああん!」
「ヴェン!?」
アクアが近づこうとするが、テラと同じように海に落下していくヴェン。
「こうなったら…!」
一人となったアクアは、エンジンをかけて何と船へと突っ込む。その勢いで乗り物から跳躍すると、甲板へと降り立った。もちろん、キーブレードは元に戻して手の内にある。
まだ戦う意思があるアクアに、オパールも不敵に笑った。
「ふっ、やっと対等な形で戦えるわね」
「ええ。一人になったけど、まだ負けていないわよ!」
「いいわ、その心意気に免じてサシで決着つけようじゃない!」
直後、アクアの前にマストにいたウィドが降り立つ。
遠距離に特化したライフルを構えて「何時でも狙い打てるぜぇ!!」とサングラスを光らせて。
「学者モードのウィドがねぇ!!」
ドヤ顔で宣言するオパール。普段は戦いにおいて冷徹なアクアの表情は凍り付く。
そして悪魔と化したオパールとウィドと違って、まだ良心が残っているソラ達は一斉に顔を背けたのだった。
「い…いやああああああぁ!!」
およそ10秒後、アクアは銃撃と共に悲鳴を上げる事になる。
こうして勝負に勝った海賊一行は、アクア達が守っていた島の上陸に成功する。
砂浜から平地が続いていて、少し先には山が見える。木や蔦などの植物はそんなに存在しない。
さて。ウィドの活躍によりアクアを倒した後、海に墜落させたテラとヴェンは船で回収している。今は三人とも砂浜の上で正座をさせている状態だ。もちろん、オパールの命令で。
「さーて、勝負に勝ったんだからお宝について知っている事話してくれるわよねー?」
拒否権などないとばかりに、ニコニコした表情で見下ろすオパール。ツッコミ要因であるはずのリクとルキルも、今ではソラ達と一緒にドン引きしている。尚、ウィドは「遺跡は!? 遺跡はどこにある!?」と忙しなく島を見ている。
ヴェン、テラ、アクアも気持ちは一緒なのか、げんなりとした表情を浮かべている。
「そ、それは…」
「止めるクポー!」
ヴェンが何かを言いかけた時、聞き覚えのあるマスコットの声がする。
すると、モーグリが数匹。ヴェン達を庇う様に現れた。
「海賊め、アクア様をいじめるなクポー!」
「アクア様に酷い事するなら、モグ達も戦うクポー! 出ていけクポー!」
ワーワーと抗議を始めるモーグリ達。戦おうとしないのは、負けると分かっているからだろう。
予想外の乱入者に、ソラ達は目を丸くする。
「モーグリ?」
「って言うか、アクア様ぁ?」
「アクア、これどう言う事?」
ソラに続くように、オパールとカイリも疑問を口にする。
全員が視線を送ると、アクアは恥ずかしそうにもごもごと話し出した。
「じ、実は…」
この世界に三人で放り込まれ、この島を探索していた。山の方面を歩いていた際、モーグリ達の暮らす村を見つけたのだがハートレスに襲われていた。
そこで助ける為に、真っ先に討伐に向かったのがアクア。数はそんなに多くはなく、すぐに戦いは収まった。そして、モーグリ達は三人を歓迎してくれたと言う。
この世界での事情を聞くと同時に、モーグリ達の置かれている環境も話してくれた。ここのモーグリ達、元は海賊が蔓延っている世界にいて色々不憫な扱いを受けていたらしい。この世界でも海賊がいるそうで、怯える彼らを守ってあげようと島を警備する役割を担ったのだ。
「なるほど。それで俺達に海賊を止めるなら島に上げられると言ったのか」
敵対した理由に納得を見せるリク。事情を話している間も、モーグリ達の威嚇は続く。
そろそろ誤解を解く為に、ヴェンはモーグリ達に優しく微笑んだ。
「みんな、落ち着いて。この人達は海賊の恰好をしてるけど、本当は俺達の仲間なんだ」
『クポ…?』
ピタリと動きを止めるモーグリ。そして、ジーっとこちらを見ている。半信半疑のようだ。
この様子にルキルは打開策を提示する。
「仕方ない。オパール、お前はここで留守番だ」
「えー! なんでー!」
「何でも何もない。海賊は結局お前一人だけなんだろ、だったら海賊とは一切関係ない俺達が島に上がれば問題ない」
これ以上文句を言わせないために睨むと、オパールも押し黙る。
「では行かん! 未知の遺跡へ!」
「オパール、留守番のついでにウィドを抑えてろよ。こうなったのはお前のせいだからな、最後まで責任持て」
「いやー!」
最後にリクにまで厄介事を押し付けられ、悲鳴を上げるのであった。
オパールとウィドを置いて、モーグリの案内で山の中にあると言うモーグリの村へと進む一行。その間に、リクとルキルでこちらの事情を説明する事になった。
二人がそれぞれの経緯を話し終えると、テラも理解を示してくれた。
「そうか、みんなも大変だったんだな」
「村に着いたら凄いよ。アクアがいるだけでお祭り状態になるんだから」
「もう止めて、ヴェン…!」
余程恥ずかしいらしく、アクアの顔の赤みが取れない。
そうして山道を進んでいくと村らしき場所に辿り着く。こじんまりとしているのは、モーグリしか住んでいないからだろう。
そして、他にもふわふわと浮いているモーグリがいる。こちらを見た途端、バッと駆け寄ってきた。
「お帰りなさい、アクア様!」
「ヴェンとテラも帰ってきたクポー」
「そちらは新しいお客様クポー?」
わちゃわちゃと寄り添ってくるモーグリ達。普段は一匹だったりホログラムだったりする為、これはかなり新鮮だ。
「なあ、ヴェン。アクアってどうしてあそこまで慕われてるの?」
「うーん、助ける時が凄かったからなぁ。アクア一人で倒してたし」
コソコソとソラとヴェンが話していたが、アクアにバレてしまう。
「あの時は必死だったのよ! えっと、あなた達にお願いがあるのだけど」
『クポ?』
「あなた達が大事にしている石板なのだけど…この人達が必要としているの。心苦しいけど、渡してくれないかしら?」
そうお願いすると、モーグリ達は顔を見合わせる。一頻りウンウンと困ったように飛んだり首を傾げたりする。
けれど、答えは決まったようで一匹のモーグリが前に出てきて頷いた。
「…他ならぬアクア様の頼みクポ。分かったクポ」
「ありがとう。案内は、テラとヴェンにお願いするわ。私はお別れを済ませてくるから」
「分かった。みんな、ついて来てくれ」
アクアを残して、テラはソラ達を連れて村の奥へと進んでいく。
「ねえ、テラさん。石板ってなーに?」
「ああ、説明がまだだったな、ツバサ。このモーグリ達が所有しているもので、この世界の中心である宝の道を示してくれるものらしい。彼らが作った祭壇…まあ、規模は小さいからそこまで大層なものではないが」
「モーグリ達が大切にしているものだからさ。勝手に取る訳にはいかないだろ?」
「確かに、事情を聞いたとしてもオパールさんやウィドさんなら奪い取りそうだね…」
「先生も置いて行って正解だったな」
ツバサとルキルが船に置いてきた二人を思い浮かべていると、空けた場所に到着する。
中央には木と石材で作られた小さな祠があり、中には丸い形を二つに割ったような銀の石板があった。
ヴェンが祠の中の石板を取ると、ソラに手渡した。
「これが、道を探すお宝…?」
「うん。まあ、見た通り半分に割れているんだけどね」
「ああ。少なくとも、残りの片割れはこの島にはないらしい」
「つまり、もう半分を探す事になるのかぁ…」
テラも捕捉を入れると、手掛かりを見つけたと言うのにツバサは気が遠くなるのを感じた。