海賊とクリスタルの航海日誌6
祭壇と言う名の祠から戻ると、アクアは沢山のモーグリ達にわちゃわちゃと掴まれていた。離れたくないと言う意思を感じるが、アクアの決意も固かった為にモーグリ達は泣きながら別れを呑んだ。
せめて旅先で困らないようにと言う思いで、出発前に沢山の食料を海賊船に積み込ませて欲しいとお願いをしてきた。もちろん、アクアは承諾。今はモーグリ達で積み荷をしている最中だ。
「それじゃ、私達もこの船に乗せて貰うわね」
甲板にて、アクアは改めて仲間として加入する。テラとヴェンも一緒だ。
「元々みんなを探してたしな。えーと、これで残るは」
「あの時一緒にいたのは、クウ、レイア、スピカさん、エアリスの四人だ。この世界に来ていれば、の話になるが」
ソラとリクが今も合流を果たしていない仲間を確認すると、アクアが思い出したように話し出した。
「そうだわ。一つ共有しておきたい話があるの。ここにいるモーグリ達、どうやらこの世界に来る前に本を読んでたそうなの。内容は海賊の冒険譚で、最後には宝の絵が描いてあるもの」
「それって、あたし達がここに来る前に読んでた本?」
海賊の本ならば、自分達も来る直前に…正確に言うならば、オパールとスピカが読んでいた。そして、本が光り出してこの世界に来ていた。
「ええ。少なくとも、私達も直前まで読んでいた本が関係すると思っていいかもしれない」
オパールに頷き、アクアは推測を話し終える。
その頃、船の先端ではツバサは石板を持って裏表ひっくり返したり、太陽に翳したりと独自に調べていた。
「うーん…この石板、どう使うんだろう〜?」
「ツバサ、あまり乱暴に扱うな! これは貴重な文化遺産にも等しい――!」
傍にいたウィドに怒鳴られてると、太陽に翳していた石板が光り輝きだす。
すると、石板から一筋の光が海の方へと飛び出して行った。
「うわわっ!?」
「なに、あれ!?」
ツバサが持っていた光り出した石板に、ヴェンが気づく。
石板から放たれた光線は一定の方向に向かって伸びている。まるで何かを指し示しているようで、オパールは目を輝かせる。
「これはもしかして、お宝を示してるんじゃない!?」
「ええ!? でも、あの石板は半分しかないけど!?」
「細かい事を気にしちゃダメよ、ヴェン! とにかくあの光を目指すわよー!!」
次の目的地に向かってビシッと指を差す。
調子に乗ったオパールを止められる者は誰もいないため、微妙な顔をしつつも従う事になった。
光の先を目指し、航海を続ける事数時間。ようやく光が途切れている地点に辿り着いた。
しかし、そこは海のど真ん中。近くに島は見当たらない。試しに周りの方をグルっと回って調べてみたが、成果はなかった。
そうこうしていると、石板の光も収まって光線も消える。一旦船を止めて、作戦会議を始める事に。
「光はここで途絶えちゃってるね…」
「やっぱり、元の状態に戻さないと進めないようだな」
カイリとテラが今は光っていない石板を見る。半分だけでは不完全だったようだ。
そんな中、オパールは策を捻り出すために海図を見て唸っている。
「うーん…海図にもこの付近は特に怪しい所はないんだよねぇ…!」
「あら…? 海図では、行ってない島があと一つあるみたいね。反対方向だけど場所も近いし、そこを目指してみるのはどうかしら?」
アクアも海図を見ていると、不意に影が差す。上を見上げると、それは…船程の大きさはある巨大なUFOだった。
「な、なにあれ…!?」
海に現れた突然の未確認物体にソラは思わず呟くが、誰もが口をあんぐりと開くだけで返答はない。
そうしていると、UFOは海賊船を通り過ぎると横の地点に勢いよく着水した。水飛沫が激しくぶつかり、全員水浸しになる。
UFOの上の部分は、透明なドーム型になっており何やら小さな全身が水色でつぶらな黒の目、頭の上の先端が黄色い触角が生えている生物が多数敷き詰められるように入っている。
これだけでも驚くが、何よりも目を見張ったのは円盤の部分だった。
「――ふう、やっと着いたわね」
「あれ? 皆さんも来てたんですか?」
「姉さん!?」
「レイアさん!」
訳の分からない物体に、探していた仲間が平然と乗っていた事だろう。思わずウィドとツバサが叫ぶ。
スピカの衣装は身体にフィットした白いレースがふんだんに付いた袖なしの青いドレス…マーメイドドレスと呼ばれるもので、デザインはまるで海をイメージされている。髪は本来後ろで左右に分けて括られていたが、今は右の方に寄せて一つに括られている。
そしてレイアの衣装は、淡いピンクにチェニック、腰に巻いている帯は水色と言う浴衣と呼ばれる衣装を着ている。普通の浴衣と違い、肩と袖を繋ぐ部分は切り取られている。スピカと同じように、涼しさを感じられる衣装だ。
もはや三度目となった光景に、ソラは目を輝かせる。
「二人も衣装が変わってるって事は、もしかしてジョブチェンジ!?」
「ジョブチェンジ? えっと、私とスピカさんは綺麗な石を見つけて、手に取ったらこんな感じで服が変わって…」
「それよりあなた達、どうしてここに? まさかとは思うけど、これ持ってないでしょうね?」
そう言って取り出したのは、半分に割れた円形の石板だ。形状を見る限り、自分達の持っている石板の片割れと断定してもいいだろう。
「石板! スピカさん持ってたんだ!」
「どうみても、この石板の片割れね! やった、問題解決したー! これでお宝の道が開かれる!」
ヴェンとオパールが喜んでいると、スピカの雰囲気が冷ややかなものに変わる。
「…そう。そんな事だろうとは思ってたわ」
「スピカさん?」
様子のおかしいスピカに、リクが首を傾げる。
すると、スピカは手にある石板を仕舞い込み出した。
「悪いけど、この世界のお宝と言う物は私が狙ってるの。今すぐその石板を渡して頂戴。嫌って言うなら、仲間の関係でも敵対させて貰うわ!」
まさかの敵対宣言に、ソラ達は目を丸くした。
「ス、スピカさんが敵!?」
「またカルマに操られてるとか…!」
「それは無い筈だ、仮面を付けていない!」
「理由なんてどうでもいいよ! 大事なのは、スピカさんと戦うって事はこれ以上ない強敵を相手するようなものだよ!」
カイリ、ヴェン、テラ、ツバサがてんやわんやと焦りを浮かべる。
以前にもスピカは敵対したが勝利を掴んだ。しかし、あれはみんなが必死で洗脳を解いたからだ。素の状態のスピカと戦うとなると、苦戦は確実だ。
そうして狼狽えている人達に対し、スピカはやんやりと微笑んだ。
「一つ良い事教えてあげる。今の私はいわばマーメイド――海を舞台とする『歌姫』よ!」
ダンと足を踏みしめると、スピカを中心にUFOの足元が青い光に包まれる。
床は水をイメージした青に染まり、キラキラと光り輝くエフェクトが散りばめられている。更にスピーカーがあるのか音楽が鳴っている。そして、あのUFOの中に敷き詰められていた生物達は、声援を送るようにスピカとレイアの周りをぴょこぴょこ跳ねている。
あっという間に自分の場をステージへと変化させたスピカ。そのままどこからかスタンドマイクを取り出し、謳う様に構える。
「今回のお宝は私とスピカさんで手を組んで手に入れると決めたんです! 私も普段とは違う力ですが、容赦はしませんよ!」
「レイアまで!?」
レイアもまた、両手の拳をギュっと握ってスピカの隣に立つ姿にルキルが驚きを見せる。
本来、レイアは戦いや喧嘩を良しとしない優しい性格だ。そんな彼女が敵対するなどまずありえない筈だ。
「こうなったらやるしかないのね。でも、こっちは9人でそっちは2人! 大勢を相手に宣戦布告したんだもの、卑怯とか思わない事ね!」
オパールは二人に向かってビシっと指を差す。どっちが卑怯だ、と周りは言おうとしたが寸前の所で止める。
圧倒的不利な状況なのは見て取れる…が、スピカは静かに目を閉じる。
「そう。そこまで言うなら――」
直後、上から白くてデカい鳥がウィドの頭上から落ちて来た。
「先生ー!?」
ルキルが悲鳴を上げると、白い鳥は細目をした顔をブルブルと震わせてその場から転がるようにどく。
後には、甲板にめり込むように下敷きにされたウィド。気絶しているのを見ると、今の落下でノックアウトされたらしい。
「私達の戦法も卑怯とか言わないわよね! レイア!」
「はい! やっちゃって下さいー!」
レイアの掛け声と共に、白い鳥は羽を広げるなり「クエエー!」と鳴くと、転がるような猛突進を仕掛けて来た。
その突進はテラがガードで抑えるが、弾き返す事が出来ない。
「ぐおぉ!? なんて強い攻撃だ…!」
「まだまだ行きますよー! コヨコヨさん、サボテンダーさん、お願いしまーす!」
テラが鍔迫り合い状態になる中、レイアは船へと指を差す。
すると、ステージの周りにいた水色の生物――コヨコヨと呼ばれたもの――は一斉に船へと飛び移る。それに交じり、一匹のサボテンらしき物体もぴょーんと船にひとっ飛びする。
「や、ちょ!? くるなー!!」
「何このサボテン!? つよくね!?」
コヨコヨと呼ばれる生物は基本ポカポカ叩いたり体当たり、サボテンダーも紛れて体当たりを繰り出している。大したダメージはないが、数が数だけにもはや甲板は大混乱である。
オパールとヴェンが叫ぶ中、スピカがマイクを翳して歌が響く。その歌はソプラノ調で明るく、ステージが光り出すと鼓舞するようにレイアの指揮するマスコット軍団の力も増幅している。
「ぐわー!」
「ルキルが白い鳥に吹っ飛ばされたー!?」
とうとう白いデブ鳥の突進を喰らい、吹き飛ばされたルキル。二人も脱落する光景にソラが悲鳴を上げるが、リクは叫ぶ。
「落ち着け! スピカさんはさっきから歌で謎の生物とサボテンと鳥に支援をしているだけだ、レイアもマスコット達に指示を出しているだけで二人を叩けば俺達に分が…!」
リクがコヨコヨ達を引き剥がし、スピカとレイアのいるステージに向かう為に甲板の縁に足をかける。
そのままジャンプしてステージに乗り込もうとする。が、サボテンダーは頭の棘をリクに向けると、何と千本の針を飛ばした。
「あだだだだだだ!?」
大量の針攻撃に、リクはあっけなく海に落下してしまう。よほど痛かったのだろう、そのままプカプカ水面を浮かんでいる。
「「リクー!?」」
リクが倒された姿に、幼馴染二人が泣きそうな声を上げる。
着々と戦力が削がれた陣営を見て、スピカは支援の歌を止める。
「そろそろ終わりにしましょう…見せてあげるわ。私のステージを! 演出をっ!」
マイクスタンドを床に打ち鳴らすと、明るめだった曲調が激しさを増す者に一気に変化する。
そのままマイクスタンドを持ちながらステップを鳴らし、まるで舞踏のような踊りを見せる。
ステージもどこからかスポットライトがスピカに注目するように演出し、曲が盛り上がる部分で火花が舞う。
「き、綺麗…!」
カイリは戦闘中であるにも関わらず、スピカのキラキラと光り輝くダンスに思わず魅了されてしまう。曲も相まって、何だか心の奥に興奮を覚えてしまう。
「「「ぐ、ううぅ…!」」」
「リク!?」
「父さん、ウィドさんも目が覚めた!?」
海で浮かんでいたリク、そして白いデブ鳥で気絶していたルキルとウィドの瞼が動くのに気付いて、ソラとツバサが声をかける。
ウィドとルキルはゆっくりと立ち上がり…顔を俯かせたまま、オパールへと武器を突き付ける。
「へ?」
同時に、マスコット軍団は一斉に動きを止める。すると、コヨコヨ数匹が海に飛び込み…何とリクの首筋を掴んで空中を飛んで連れて来た。そのリクもまた顔を俯かせて、甲板に降り立つとソラにキーブレードを突き付ける。
三人の様子がおかしい事に気づき、アクアは警戒を見せる。
「あなた達、どうしたと言うの…!」
「「「……の…せな…」」」
ブツブツと呟いたかと思うと…三人は顔を上げて宣言した。
「「「姉さん(お姉ちゃん)の邪魔はさせない!!」」」
『………ハイ?』
■作者メッセージ
今回、マスコットという名のFFキャラが多数登場しております。登場は色々迷いましたが、グミシップとかKH3で思いっきり登場しているので、使ってもいいかなと判断しました。召喚という方法と似て異なる形の設定にしております。
なお、最後に関しましては…F〇Oの夏イベの部分から拝借しました。というか、あれはスピカならやるなと思ってたというか、絶対洗脳かかるだろというか…ここまで書けて満足です!(本音隠せ)
なお、最後に関しましては…F〇Oの夏イベの部分から拝借しました。というか、あれはスピカならやるなと思ってたというか、絶対洗脳かかるだろというか…ここまで書けて満足です!(本音隠せ)