海賊とクリスタルの航海日誌8
「本当に悪かった…あれは、その…悪ふざけが過ぎました…」
「本当に最っ低だね」
「あんた、大人としての自覚あるの?」
「キーブレード使いとして恥ずべき行為をよく平然と行えますね」
「師匠、しばらく話しかけないで」
船の甲板で正座しているのは、白いシャツに青のベストとジーンズ、そして右に片眼鏡を付けたクウ。爆撃を受けたため、あちこち焦げている。
そして、クウの前に陣取るカイリ、オパール、アクア、ツバサの女性陣の目は冷え切っている。完全にあそこの空気だけ温度差を感じるが、テラとソラが助け船を出した。
「も、もうその辺りでいいんじゃないか? クウの説明を聞かなければならないだろう?」
「クウも、クリスタルを手に入れてジョブチェンジしたのか?」
「な…なんだそれ?」
話が本題に戻りつつあるので、ジョブチェンジについて説明する。
正座したまま聞いていたクウは、徐にポケットから黄色い石を取り出した。
「なるほど。俺の服装も能力も変わったのはこいつの所為って訳か」
同じ形状のクリスタルを見せると、ヴェンは羨ましそうな目を向ける。
「でもいいなー。俺もクリスタルを手に入れてジョブチェンジしてみたーい」
「うーむ。他にもクリスタルがないか探してみたいが、流石にそんな時間はもう取れないだろう。今回は運が無かったと割り切るしかないな」
そんな感じでテラが宥めると、意見は同じなのかオパールが激しく頷く。
「そうよ! こうしている間にもリクがお姉ちゃん思考に染まったら…うううぅ…!」
「父さんやリク伯父さんまで、ウィドさんのようなシスコンになっちゃったらどうしよう…!」
「もう既にシスコンだから、あれ以上酷くはならない…はず、だと思うけど…」
「俺がいない間に何があった?」
ツバサとカイリも頭を押さえる光景に、思わずクウが訊く。
その質問に、ソラが苦笑いを浮かべながら答えた。
「えーと、ちょっとスピカさんとレイアと戦う事になっちゃって…それで、クウを探してたんだ。クウなら二人を何とか出来るって言うから」
「つまり何か? 俺にレイアとスピカを止めろと?」
「あんたぐらいしかあの二人の行動…基、スピカさんの洗脳を封じる方法ないのよ」
「洗脳ってなに?」
とんでもない単語を口にしたオパールに、一瞬真顔を作るクウ。だが、オパールは答える事はせずに詰め寄る。
「とーにーかーくー、スピカさんとレイアを倒すために協力して! じゃないとお宝だけじゃなくリクまで奪われちゃうー!!」
「あー、分かった分かった! よく分かってないけど協力するよ!」
「「「「やったー!」」」」
根気負けしたクウに、オパール、ソラ、ヴェン、ツバサはハイタッチする。
これで対策の手札は揃い、船は出航の準備に取り掛かる。やっとのこさ正座から解放されたクウは立ち上がる。
そうして海を眺めて、思いっきり頭を掻いた。
「しっかし、スピカとレイアがなぁ…」
「どうしたんだ?」
「…ちょっと引っかかってるだけだよ」
足を止めたテラにそれだけ言うと、クウは大きな溜息を吐いた。
帆に風を受けて走り、再び来た道を戻る一行。
そんな船の甲板で、目的地まで自由時間を過ごす事に。
「そう言えば、クウもジョブチェンジしているようだが、どんな戦い方をするんだ?」
「ああ、俺はこいつを武器にしてる」
テラに見せたのは、魔方陣のようなモノが描かれている黒いカードだ。
「それ、カード?」
ソラも興味を持って覗き込むと、クウは海の方にカードを投げる。
すると、カードが爆発するように発火した。クウが扱う場合は黒い色になるが、燃えた色は赤い。
「今の、魔法?」
「ああ。カードを媒介にして魔法を発動する。元は羽根を使ってたが、色んな属性の魔法を扱えるようになってる。回復は相変わらず使えないけどな」
ソラに教えながら、クウは左手の内にカードを扇状に広げたり消したりしている。
片手で器用にカードを操るクウに、オパールは頬に指を当てて推測する。
「んー、ジョブ的には黒魔導士? 大抵はそう言うのって武器は杖とかが主流だったりするけど…あんたの恰好って、マジシャンっぽくもあるのよねー」
「ま、いいだろ。魔法に特化したなら右腕が動かない分をカバー出来るし、魔術師っぽい恰好よりこっちの方がモテそうだしさ」
「あー、はいはい」
「見えて来たよー!」
呆れた目になるオパールに、ツバサが叫ぶ。
UFOは未だに海に着水している。余裕の表れだろうか。どちらにせよ、空中に浮いている状態よりは乗り込みやすいだろう。
「待て!」
近づいている最中に、何かに気づいたテラが止める。
すると、海の中から小さなUFOが進路を阻害するように幾つも飛び出してきた。コクピットの中に入っているのは、あの水色の生物――コヨコヨだ。
「なんだこいつら!?」
初めて目にするクウは、ただただ驚くばかりだ。現れたコヨコヨはUFOで突進して襲い掛かってくる。
思わぬ妨害に怯みそうになるが、ヴェン、テラ、アクアがキーブレードを乗り物に変形させて飛び上がる。
「ここは俺達三人で食い止めるよ! 皆は先に進んで!」
「助かるわ、ヴェン! 全速前進ー!」
この場を三人に任せ、オパールは船を進ませる。
伏兵は追いかけようとするが、ヴェン達が通すまいと攻撃して撃墜させる。彼らの頑張りのおかげで、船は二人がいるであろう巨大なUFOの傍までやってくる事が出来た。
「たのもー!」
乗り込もうと、オパールは船の縁に足をかける。他の皆も飛び移ろうと近づいて……船の内部を目撃する。
「川と海の甘辛カニカレーをお持ちしました。レイアには本格シーフードリゾットだ」
「デザートにはすっきりオレンジケーキ、少し濃厚な物としてモーグリのチーズケーキを用意している」
「わぁ…流石ルキルさんです。美味しそうなデザートです!」
「まあ、何から何まで至れり尽くせりね」
「「お姉ちゃんの為に、腕によりをかけたからな!」」
UFOの中央で、どこにあったのかテーブルクロスで食事をしているスピカとレイア。そんな二人に執事の様に食事を運ぶリクとルキル。更に複数のコヨコヨとそれに交じってウィドが扇を仰いでいる。
ハッキリ言って、この周りだけ近寄りがたい眩しさに包まれている。人はそれを金持ちのオーラと言う。
キラキラした輝きを諸に見てしまい、カイリとオパールは思わず船の中に後ずさりする。
「…なに、あそこのセレブ?」
「ま、眩しすぎる…!」
闇の力など感じさせないくらいリクとルキルは光り輝いている。と言うか顔の良さも合わさって、もう貴族にしか見えない。
「美味しそう…!」
「じゅるり…!」
一方、ソラとツバサは貴族の輝きではなく二人が作った料理に目を向けている。凝って作ったからだろう、遠目でも美味しそうな仕上がりとなっている。
とここで、ようやくスピカとレイアがこちらに気づいた。二人はニコニコしなから席を立つ。
「あら、懲りずにやってきたのね。そういう諦めの悪い所、嫌いじゃないわ」
「お宝を手に入れるのは私達です。それでもと言うなら…」
「ったく、話を聞いて来てみれば…何やってんだよ、2人とも?」
1人の人物が船から飛び出して、二人の前へと降り立つ。
「「クウ(さん)!?」」
思い人であるクウの登場に、2人は驚く。
「はぁ。本当はこう言う事するのは卑怯だと思うが…仕方ねぇな」
「何を…!」
徐にクウが近づくので、スピカは身構える。
次の瞬間、彼はスピカを思いっきり胸の中に抱き寄せた。
「ク、クウ…!」
「もういいだろ? ここは俺に免じて、許してやってくれないか?」
「許すも何も、私は…!」
「それとも――言えない事でもあるのか? あいつらに聞かせたくない事が」
「っ!」
耳元で呟いた言葉に、スピカが小さく反応する。
これは当たりだとクウが確信を持ち、問い詰めようと口を開く。
「クウさんのバカーーーー!!!」
「「「お姉ちゃん(姉さん)に何をするぅーーー!!!」」」
「がはあああぁ!?」
だが、レイアの召喚したデカい白い鳥に吹っ飛ばされ、更には武器を持ったリク、ルキル、ウィドがボコ殴りにかかる。
クウから引きはがされた事で、スピカも気を取り直してマイクを取り出した。
「全く、危うく飲み込まれる所だったわ――けど、クウも私の魅力にかけてしまえば……っ!」
また『セイレーン』を発動させようとするが、その場から飛び乗る。直後、サボテンダーがスピカのいた場所目掛けて針を飛ばしてきたからだ。
スピカは距離を取り、攻撃してきたレイアを睨む。
「何するのかしら、レイア?」
「当然ですよ、そんなの私が許しません…と言うかさせません!」
「私を裏切るって言うの?」
「手を組むとは言いましたが、クウさんの事を譲った訳ではないです! と言うか、無理やり好きにするなんて、邪道も良い所ですよ!」
「「ふ、ふふふふ…!」」
2人の周りを黒いオーラが包み込む。笑い声をあげているのに全く笑っておらず、寧ろ互いを敵視している。
この仲間割れの様子に、オパールはガッツポーズを作った。
「よーし、あの二人の連携が崩れた! 周りも動揺している内に叩きこむわよ!」
「あの、クウがリク達にボコボコにされてるんだけど」
「ソラ、無視なさい! どうせ半殺しで終わるし、敵がそっちに向いている今チャンスよ! 総員、乗り込めー!」
オパールの合図に、カイリ以外の全員が決着をつける為にUFOへと乗り込んだ。
■作者メッセージ
夏までに終わらせると言っておきながら、秋を通り越して冬に差し掛かっております。目標までに終わらないですね…時間は沢山あるのに。
完全に余談ですが、今回出てきた料理はFF15からです。声は同じだからね…このネタ取り入れたかったんだ…。
完全に余談ですが、今回出てきた料理はFF15からです。声は同じだからね…このネタ取り入れたかったんだ…。