海賊とクリスタルの航海日誌9
「はあぁ!」
UFOに乗り込んで早々に、オパールが剣でスピカへと斬りかかる。反射的に、武器でもあるのかマイクスタンドで防御する。
「作戦通りに行くよ、第一段階ヒートモード!」
同じくUFOに足を付けたツバサは、モード・スタイルを発動して炎の力を纏った形態となる。キーブレードに炎の力を付属させた状態で、切っ先を上に掲げる。
「ファイヤウォール!」
すると、スピカとレイアを中心にそれぞれ円形の状態で炎の壁が出現する。
それぞれ閉じ込められる形となり、スピカは同じく陣地にいるオパールを見る。この場には彼女だけしかいない。
「分断するとは、やるわね」
「正気に戻ってまた手を組まれたら困るからね!」
「だからと言って、レイアにソラとツバサを送るなんて私も舐められたものだわ!」
「歌姫であるスピカさんに戦う術はない! あたし一人で充分よ!」
マイクスタンドと言う武器としては頼りない物を握るスピカにニヤリと笑い、再び剣で襲い掛かる。
「歌姫が戦えないなんて――誰が決めたのかしら?」
オパールの振るった剣は、何かによって弾かれる。
スピカは握っていたマイクを逆手に持ち、スタンドの部分は無くなって代わりにコード部分に変化している。しかも、コードには細かい刃が付いている。
形状は鞭に見えるが、スピカの構えからしてそれは間接剣だ。
「なっ…まさかそれ、マイクスタンドじゃなくて剣!?」
「やあぁ!」
反撃とばかりに、スピカは刃を振るう。
刀身は鞭のように不規則な動き方をするだけでなく、なんと伸縮性もあるのか距離的にギリギリだった長さ以上にコード部分が伸びている。四方何処からでも攻撃が飛んでくる戦法に、オパールは翻弄されてしまう。
「ううっ!」
「歌えなくても、音楽があれば十分!」
牽制しつつ指を鳴らすと、再び活発な音楽が鳴り響く。
聞いているだけでテンションが上がる曲。こうして身体能力を上げる――のは、スピカだけではなかった。
「あれ? 急に戦いやすくなった?」
「何気にレイアさんじゃなくてボクらに補助をかけている辺り、抜かりないよね……ボクらがレイアさん倒したら、クウさんを『セイレーン』で虜にする気満々だよ」
炎の壁の向こう側から聞こえてくる音楽で身体の調子が良くなるソラは首を傾げる。その横でツバサは半目になってスピカの考えを読み解いた。
「ぐぬぬぬ…! そっちがその気ならこっちだって!」
「クエエエェ!」
レイアが拳を振り上げると、鳥の鳴き声が響き渡ると同時に何かを吹き飛ばしたような音が遅れて聞こえる。
そして炎の壁をぶち破るように突進して、白いデブ鳥がスピカの陣営にやってきた。
「あぶなっ!」
突然の乱入者にオパールは避けるが、狙いはスピカのようでデブ鳥はゴロゴロと転がっていく。
しかし、慌てず動じず間接剣で応戦してデブ鳥を対処すると、スピカは炎の壁の向こう側にいるレイアに怒鳴る。
「流石にこれは卑怯じゃないかしら、レイア!」
「だったら私に補助をかけてもいいじゃないですか!」
「ちょっと手元が狂っただけよ!」
「音楽流すだけで手元狂うのおかしいでしょ!?」
敵だと言うのに、ついついオパールはツッコミを入れてしまう。
「スピカさんの考えはもう見え透いてます! クウさんを無理やり好きにするのでしたら、こっちだって容赦しませんからー!」
「上等よ! あなたを倒してクウとバカンスを過ごさせて貰うわ!」
「いいえ、クウさんとバカンスを過ごすのは私です!」
炎の壁でお互い見えない筈なのに、激しい火花をぶつけあう二人。
もはや味方でも何でもない二人の言い争いに、ソラは思わず武器を下ろし始める。
「……なあ、これ俺達何もしなくても勝手に戦ってくれる?」
「ていうか、ボクらもう蚊帳の外だよね?」
「オパールの考えた作戦、本当に凄いなー…」
ここまで効果覿面だと、ソラも何とも言えなくなる。
ツバサもキーブレードを消して怒り心頭しているレイアを見ていた時、炎の向こう側から鞭のような何かが伸びて来てツバサの胴体を絡めとった。
「うわわぁ!?」
「ツバサ!?」
そのまま引き込まれるように、炎の壁の向こう側へと消えていく。
何が何だか分からず困惑していると、分断していた炎が消えて視界が晴れる。
そこで目にしたのは。
「さあ、邪魔者は取り払ったわ…! 残りはあなた達だけね?」
目を据わらせているスピカが、バシッと気持ちのいい音を立てながら地面にコードを叩きつける。足元には、ボロボロ状態のオパールとツバサが横たわっている。
仲間割れから怒らせちゃいけない人を怒らせた事態に発展し、ソラの顔は一気に青ざめた。
「カ、カイリー! 助けてー!?」
この場に残っている唯一の味方であるカイリに助けを求めるソラ。
船にいる筈のカイリは、その場から忽然といなくなっていた。
「逃げた!?」
レイアを除けば、一人取り残されたソラ。無情にもスピカの刃は縦横無尽に振るわれ、ソラへと襲い掛かる。
「カード・ブリザガ!」
そんなソラの前に一枚の黒いカードが投げられる。カードは分厚い氷を出現して、壁となってソラを守る。
三人が見ると、さっきリク達にボコボコにされていた筈のクウが、傷を治して複数のカードを左手に構えて立っていた。
「クウ!」
「うそ! どうやって」
「あの白いデブ鳥が三人纏めて海に吹き飛ばして、カイリがポーションで回復させてくれたおかげだよ。まずは…レイア、行くぞ!」
「クウさん…! もちろんです!」
スピカではなく、自分を選んでくれた事が嬉しいのだろう。パァっと顔を輝かせて隣に立つレイア。
対して、スピカは一気に不機嫌になる。
「そう…あくまでもレイアを選ぶのね。だったら容赦しないわ!」
もはや嫉妬をむき出しにしたスピカ。その感情に合わせて、奏でていた曲も重苦しいものに変化する。それにより、三人の能力も低下する。
「うう、力が抜ける…!」
「それでも攻め続けろ! カード・サンダー!」
ダラリと握るキーブレードを下げるソラに、クウは続けざまに三枚のカードを投げつける。
スピカは避けるが、カードが次々に床に刺さると雷を起こす。時間差の攻撃に、思わず悪態を吐く。
「小賢しい手ね!?」
「使う魔力が少ない分、小回りが利くからな!」
クウも言い返すと、レイアとソラも動く。
「やっちゃえー、サボテンダー!」
「そこ、ラグナロク!」
離れた場所で小さなサボテンに指示を出すレイア、ソラもキーブレードを構えて螺旋状の光線を放つ。
突進するサボテンと光線は、スピカは間接剣を周りを取り囲むように振り回して相殺する。
悔しそうな顔を作るソラとレイア。しかし、クウは叱咤する。
「武器が間接剣になっているが、騙されるな! サポート系にジョブチェンジしたなら白兵戦に強くない筈だ!」
「けど、それは魔導師系になったあなたも同じでしょ!」
「だったらそれは!」
「私達がカバーすれば!」
言い返すスピカに、ソラとレイアが動く。
「ソニックレイヴ!」
「コヨコヨ爆破ー!」
キーブレードによる連続の突進と、コヨコヨによるUFOの突撃がスピカに襲い掛かる。流石に間接剣だけで防御出来るものではなく、とうとうスピカもダメージを負う。
「うう…!」
「これで終わりだ、スピカ!」
よろよろと後退するスピカに、クウは4枚のカードを構える。
バッとスピカの周りを囲むように四方に投げると、カードが光り出す。
「カード・トルネド!」
「きゃああぁ!?」
スピカを中心に竜巻が起こり、暴風が牙を向いて容赦なく襲い掛かる。
激しい攻撃にスピカの身体は吹き飛び、そのまま地面に倒れると動かなくなった。
こうして勝負の決着が付くと、レイアは両手を握り満面の笑みで喜びを表した。
「やった! やりましたクウさん、私達の――あぐっ!?」
レイアがクウに振り向いた瞬間、首筋に衝撃が走る。
そうして意識を失って倒れ込むレイアを、クウが疲れた顔をしながら手刀を行った左手でそのまま受け止めた。
「ああ、俺達の勝利だよ。ったく、本当に面倒な事してくれたぜ…」
やれやれとクウは肩を竦めながら、気絶したスピカとレイアを呆れながら見ていた。
「「…俺にお姉ちゃんはいないっ!」」
「うん、知ってるから」
「とりあえず二人とも、正気に戻ったようで何よりだ…」
スピカとレイアとの戦いを終えて、しばらく経った頃。ようやく目覚めたリクとルキルの第一声に、合流したヴェンとテラが言う。
今はまだUFOの上。負傷したオパールとツバサ、そしてウィドはアクアの回復魔法と、カイリの持っているポーションで回復している。
そして、そこから離れた場所では同じく気絶から目覚めたレイアとスピカが正座させられていた。
「クウさん、卑怯ですぅ…」
「そうね、乙女の恋心を弄ぶなんて…」
「仲間にあんな事しておいて、卑怯だなんだ言える立場かよ?」
不満を溢す二人の目の前で、左手だけを腰に当てて叱りつける様に睨むクウ。
これには蛇に睨まれた蛙のように縮こまるレイア。スピカは居心地悪そうに視線を逸らしていたが、根気が折れたのか溜息を吐いた。
「分かったわよ、もう無駄な抵抗もしないわ。勝負に負けたのだもの…この石板は上げるし、仲間になるわ」
スピカが半分に割れた石板を差し出すと、回復したオパールが即座に駆け寄って石板を半ば奪い取った。
「やったー! お宝へ続く石板ゲットー!」
パンパカパーンと言うファンファーレが聞こえてくるようなテンションで、石板を天に掲げるオパール。
早速割れた石板同士を組み合わせると、ピッタリと収まる。そして石板は光を放ち、更に奥の海まで光が伸びていく。新たに開かれた道しるべに、カイリは安堵の溜息を吐く。
「ふう、色々あったけどこれでお宝の道が開いたね」
「2人も正式に仲間になったけど、まだエアリスの捜索が残ってるわよ」
アクアが現状残っている問題点を口にすると、意外な答えがスピカから返ってきた。
「彼女ならいないわ。この世界に来たのは、ここにいる私達だけよ」
「そうなんですか?」
「ええ、本に吸い込まれる直前に見たもの」
「本に吸い込まれるって…じゃあ、ここは私達が読んだ本の世界と言う事ですか!?」
驚くアクアに、スピカは一つ頷く。
「そうよ。もう知っているとばかり思っていたけど」
「えーと…なんとなくは思っていたけど、確信が持てなかったって言うか…」
ヴェンが目線を逸らしながら苦笑いを浮かべると、背後から忍び寄る影が。
「やはり姉さんは素晴らしい!」
「うわあぁ!?」
やはりと言うべきか、ウィドが目を輝かせてやってくる。すぐ傍で叫ばれたから、ヴェンは転げる様に倒れてしまう。
正座しているスピカに対して尊敬のオーラを振りまくウィドを見て、ソラとクウはこそこそと話す。
「ウィドの洗脳、本当に解けたんだよな?」
「常時運転かそうでないかもう分からねーよ…」
「終わりよければすべてよし! さあ、全員揃ったのならお宝向けて出発よー!」
そんな中、オパールは光の先へと指を差す。平常運転を貫く彼女の姿勢に、他の人達も反論する気もなくUFOから海賊船へと乗り込む。
その途中で、クウは足を止めてレイアとスピカに振り返った。
「んで、レイア。なんでスピカと二人っきりで解決しようとしたんだ?」
「え!? えーと…それは、その…!」
言いたくないのか、途端にしどろもどろするレイア。
疑いの目は、やがてスピカへと向けられる。
「スピカ。お前何か知ってるな?」
「…すぐに分かるわよ、本当はみんなに見せたくなかったんだけど。行きましょう、レイア」
スピカはそれだけ言うと、レイアと共にさっさと船へと乗り込む。
そして、石板が示す目的地まで口を開く事はなかった。
■作者メッセージ
夏に完成させたいとか言いつつ、もう冬どころか今年が終わりますね…。
今年中に、別枠ですけどあと一つ作品は仕上げたいところ…。
今年中に、別枠ですけどあと一つ作品は仕上げたいところ…。