海賊とクリスタルの航海日誌10
全員を乗せた海賊船は、石板の光に沿って海を進む。
先に向かうと、白い靄が出てくる。光を頼りに中を進んでいたが、気づいた時には一面が霧の中を彷徨っていた。
「一面霧ばかりで何も見えないぞ?」
「光も消えたし…これって大丈夫かしら?」
視界が遮られた状態に加え、石板からの目印も急に消えてしまう。テラとアクアが辺りを警戒する。
そんな中、出発してからずっと口を閉ざしていたスピカが呟く。
「……来る」
その言葉を合図に、船が揺れる。
遠くから、ザザザと音が聞こえてくる。それがゴゴゴと言う音に変わると、霧の中から船を飲み込めるほどの大きな波が現れた。
「なにこの波!?」
「掴まれ!?」
驚くソラに、ルキルはすぐに叫ぶ。
全員が近くのモノに捕まると、大波が海賊船を海の中へと飲み込まれてしまった。
「う、うう……みんな、無事か…?」
「ここ、どこ…?」
まず初めに目を覚ましたのは、リクとツバサだった。
船ごと沈められて気づいたら、そこは洞窟のような場所だった。
辺りの壁は岩で出来ている。天井は水が張ってあるが、自分達がいる場所にはちゃんと空気がある為、重力に従って落ちてくる事はない。この空間が水で満たされていたら、自分達は無事ではないが。
「あ、あああああああ…!」
他の人も意識を取り戻す中、オパールの震えた声が木霊する。
何故なら、彼女の目線の先には金銀宝石、煌びやかな剣やアクセサリー、宝箱や王冠など、財宝と呼べるものが洞窟の奥に大量に積まれていたのだ。
「お、お宝ァ! 金銀財宝、こんなにもー!」
目を輝かせて財宝へと突進するオパール。完全に我を失っている。
「オパール、待ちなさい!」
「ひやぁ!?」
そんなオパールの胴体を、スピカの間接剣が巻き取ると後ろに引っ張る。
物理的に財宝から距離を離すと同時に、オパールの向かってた場所目掛けて闇の光弾が飛んできて、地面にぶつかると軽く爆発した。
「今の攻撃、どこから!?」
明らかに自分達ではない攻撃に、アクアが武器を取り出して警戒する。
「まあまあ。まさか次の獲物があなただとは思いませんでしたわ、闇の女王?」
奥の財宝がある場所から、声がかかる。
丁度空間が歪み、そこから一人の女性が現れる。
ハチミツ色の長髪に吊り目の薄緑の瞳。上半身は黒、スカート部分は黄色を基調としたドレスを着ている。彼女は財宝に囲まれるような形で、宝石の付いた豪華な宝箱に腰かけた。
「…やっぱり、あなただったのね。追放して闇に溶けたとばかり思ってたのだけど」
「まさか、お前…!」
スピカだけでなくクウも女性に反応すると、意外だと言わんばかりに目を丸くする。
「あら、天下の裏切り者まで一緒だとは思いませんでした」
「二人とも、知り合い?」
明らかに目の前の女性について知っている素振りに、ヴェンが聞く。すると、スピカは一つ頷いて答えた。
「彼女はミデス、組織の一人よ。と言っても、私がかつて追放したの」
「ええ、私も覚えてますわ。容赦なく魔法を放って奈落の底に叩き落としてくれたのをね!」
「叩き落としてないわ、ちょっと突き飛ばしたくらいよ。そしたらあなたが勝手に落ちちゃっただけでしょ?」
「底なし沼と化した闇の中に落としといて良く言うわね!?」
スピカが涼しい顔で話すと、ミデスは激怒する。初対面であった優雅さは消え失せており、これが彼女の本性かもしれない。
「ど、どっちの味方すればいいの…?」
「狼狽える気持ちは分かるが、スピカの方についとけ」
どっちが悪役か分からない会話に困惑するカイリに、クウはやんわりと助言を出す。そんな彼も、若干遠い目を浮かべているが。
「姉さん、結局これはどう言う事なんですか?」
ウィドが聞くと、スピカは顔を顰めてミデスを見た。
「私が知っている…いえ、予測を立てたのは彼女の『窃取』の能力がこの騒動に酷似していたからよ。そもそも消えたとばかり思っていた相手がこうして存在している事を本人に問いただしたいくらいだわ」
「あの時ばかりは私も消えると思ったわ。けど、運良く助かる方法があった。それが沈められた闇の中にあった、魔法の本。そう、あなた達が今いるこの場所は本の中の世界。闇によって消えかけた私と融合をさせた事で私自身は外に出られないけど、闇を通して外の世界を巡り、本を読んだ人物をこの中に引き寄せると言う仕組みよ」
「理由は分かったけど、なぜ世界の人達をこうして本に閉じめてるの!?」
アクアが怒鳴ると、ミデスは笑う。
「決まっているわ――お金の為よ!!」
『『『………へ?』』』
目を輝かせて堂々と言い切るミデスに、全員が目を丸くする。
何とも言えない視線が注がれている中、ミデスの興奮はヒートアップする。
「お金はいいわ、とても綺麗で美しくて…! 宝と呼ばれる物だってとっても素晴らしい! それらが沢山あればあるほど、輝きは増していく! ああ、ここにある様々な財宝に囲まれる生活は本当に贅沢でたまらない――!」
「あー……思い出した。こいつって根っからの守銭奴だったわ、どっかの誰かと一緒で」
「はぁ!? あんな性格とあたしを同類にしないでくれない!?」
呆れるクウに、一緒にされたくないとばかりにオパールはミデスに指を差す。今も尚ミデスは金品の素晴らしさを語り続けている。
そんな空気の中、スピカは溜息を吐く。
「彼女は私が頭首になる為に、お金で買しゅ…雇ったようなものなの。協力して貰ったのはいいけど、私が頭領に付いたら倍のお金を支払えって言われてね…折角お金用意してたけど、あまりにも傍若無人な振舞いだったから契約破棄のついでに追放したって訳よ」
「スピカさん、それ見方を変えたら借金の踏み倒しもごっ!?」
リクが何かを言う途中で、クウが口を塞いだ。
「まあいいわ。ここで会えたのもきっと日ごろの行いのおかげと思っておきましょう」
落ち着きを取り戻したようで、ミデスは居住まいを正すとスピカへと指を突き付ける。
「闇の女王、そして黒翼!! あなた達に協力した見返りの契約金、どちらでもいいから耳を揃えて返して貰うわっ!!」
「まるで取り立て屋だな…」
敵である彼女の言い分を聞き、テラも完全に呆れ返ってしまう。
一方、目の敵にされているスピカは不満げに髪を後ろに払って靡かせる。
「そんな不当な契約結んだ覚えはないし、最初の分以外払う気だってないわ。それより、ここから出して貰うわよ。本と一体化したって事は、核であるあなたを倒せばここから出れるはずだわ」
「あくまでも返さないと言うのね…それはそれでいいわ」
ミデスは不穏な空気を纏う。それと同時に、洞窟内に紫色の怪しい光が立ち込める。
何かしようとしているのが分かる。それぞれが武器を取り出す。
「っ、待って!」
「私の権限、思い知りなさい!」
スピカが放った静止の言葉は、紫の光によって阻まれた。
全体に光が放たれ、視界が潰される。少しして光は収まったが、潰された視界は簡単には戻らずピントが合わない。
「な、なに…!?」
苦し気にカイリがかぶりを振る。どうにか視界が戻ると、一つの異変に気付く。
「なんで、キーブレードだけあるの? みんなは!?」
何故かキーブレードは周りの財宝の中に突き刺さっており、ソラやリクだけでなく、テラ、ヴェン、アクア、ルキル、ツバサの姿が消えている。
まるで、キーブレードが宝の山の一部となったように。
「あら、おかしいわ? 黒翼も条件に入る筈なんだけど…まあいいでしょう」
ミデスの開いた手の内側には、いつの間にか宝石が7つ浮かんでいる。透き通った水色と翡翠色。鈍い輝きを放つ銀色が二つと橙色。海のような深い青色。ガラスのような透明色。それらの宝石を愛でるように、深い笑みを浮かべる。
「これでまた、お宝が増えたわ。うふふ、美しい宝石だこと」
「なっ…!」
彼女の手にある宝石にオパールが絶句していると、スピカは顔を歪める。
「……だから、みんなを来させたくなかったのよ。けど、それ以上に醜悪すぎるわ」
「スピカさん!? みみみ皆さんが、宝石に…!! キーブレードを奪われるって話じゃなかったんですか!?」
「どう言う事ですか、姉さん!?」
慌てているレイアに、ウィドも問い詰める。すると、スピカはミデスを睨みながら語り出す。
「彼女の『窃取』の能力は、文字通り物質を奪うと言う能力がある。けれど、彼女が奪えるのは金にがめつい性格上『価値があるもの』と限られている。今回のトリガーは本の前で騒いでいたキーブレードになる――そう予測して、私はレイアと共にあなた達をミデスに会わせる前に解決しようとした」
「さすが闇の女王、その判断は正しいけど――少々爪が甘かったわね。本によって私自身も強化された状態。こうしてキーブレードさえも私の財宝の一部にするのはもちろん…宝の持ち主も作り変える事が可能になった」
「なるほど。本来なら、オパールみたいに物とか盗んだりするが…まさか本人を財宝に変えて盗むとはな。って事は、ここにある財宝はもしかしなくても」
「黒翼の考えてる通り……みんな、財宝に目が眩んで迷い込んだ人間達。本の中で宝を求めて冒険させて、夢を求めて目にした財宝、その夢を叶えた瞬間に価値ある宝と一緒に財宝と成り果てる――素晴らしい結末でしょう?」
「「ひいっ!!」」
ここにある金品達の一部が元人間であると言う恐ろしい事実に、カイリとレイアは顔を青ざめて財宝から後ずさる。
ミデスは宝石を見せびらかしながら、こちらに指を差す。
「さて。残りは6人…ふふ、闇の女王も黒翼もどんなお宝になってくれるのかしらねぇ? 女王に相応しいティアラかしら? それとも彼らと同じ宝石かしら?」
「お宝になる気なんて一切ない! それよりリクを返しなさい!!」
仲間を、主にリクを奪われた怒りからだろう。オパールは睨みつけて剣先を突き付ける。
「オパール、他の皆さん忘れてません?」
「そっちもちゃんと取り返すわ!」
ウィドの訂正に怒鳴ると、クウが呆れた目を向ける。
「おい、ソラ達をついで呼ばわりしてるぞこいつ」
「オパールさん…いくらリクさんが好きだからって、流石にその言い方は…」
「ちょ、レイア! いつ誰があいつが好きだって言ったのよ!?」
「恋バナは後にしなさい! 来るわよ!」
話がズレそうになったが、スピカの叱咤に残った5人が気を引き締める。
「かかってきなさい――あなた達も財宝に変えて、彼らと同じように永遠に愛でてあげるわ!!」
■作者メッセージ
ものすごくこっちの更新に時間をかけてしまいました。もう冬も終わって春になってるっていうのに…。
黒幕をようやく出せたので、あと少しで終了です。その後は色々と考えてますが……本編書けよって話ですよね、はい。
話は変わりますが、KHUXが4月一杯でサービス終了となります。もう三月も後半、あと一か月と少しとなります。
パソコン版のKHxから初めてここまで、基本無課金でやってきました。もうすぐ終わるとなってしまい、色々思うことはあります…。
ずっとやってきたユニオン時代、このまま最後まで見届けたいところではあります。まあデッキが弱すぎるのと敵が強すぎるから、KHxのデータ移行特典で貰った強制スキップチケットで先に進めてますがね!! いやー、今の今まで取っててよかったー!!(オイ)
黒幕をようやく出せたので、あと少しで終了です。その後は色々と考えてますが……本編書けよって話ですよね、はい。
話は変わりますが、KHUXが4月一杯でサービス終了となります。もう三月も後半、あと一か月と少しとなります。
パソコン版のKHxから初めてここまで、基本無課金でやってきました。もうすぐ終わるとなってしまい、色々思うことはあります…。
ずっとやってきたユニオン時代、このまま最後まで見届けたいところではあります。まあデッキが弱すぎるのと敵が強すぎるから、KHxのデータ移行特典で貰った強制スキップチケットで先に進めてますがね!! いやー、今の今まで取っててよかったー!!(オイ)