海賊とクリスタルの航海日誌11
まず一番に走り出したのは、他でもないオパール。剣を持ち、真っ直ぐにミデスに向かって突っ走る。
そんなオパールに向けて、ミデスは背後に黒い宝石を8個ほど出現させると紫の光線を飛ばしてくる。
「危ないっ!」
とっさにレイアが白いデブ鳥を召喚して盾にする。
すると、デブ鳥は光に当たるなりその場から消えてしまう。背後にいたオパールは無事だが、一発で消えてしまった光景に足を止める。
「ふえ? デブチョコボさんが…」
「あら使い魔だったの。残念ね、やっぱりちゃんと生き物でないと財宝にはならないみたい」
未だに宝箱に座ったままやれやれと肩を竦めるミデスに、オパールは言葉の意味を理解する。
「うそ!? あの攻撃に当たっただけでリク達みたいになっちゃうの!?」
「あーら。大人数でかかっているのだもの、最初から本気を出さなくてどうするって言うのよ!」
一気に光線を発射すると、やたら滅多に襲い掛かってきた。
「やっば! カード・クエイク!」
クウがカードを真下に突き刺す様に投げると、地面が盛り上がって岩の壁が出来上がる。
この狭い状況では逃げるのは困難だ。慌てて皆、その壁の裏に避難してしゃがみ込む。
「おほほほほ! さっきの威勢はどこに行ったのかしら!?」
高笑いしながら攻撃を続けるミデス。光線は多少威力があるようで、徐々にクウが作った壁を削っていく。
これには、流石のスピカも顔を顰めてしまう。
「卑怯すぎる…!」
「あの光線に当たったら終わりとか、どうしろって言うのよ…!」
未だ止まない光線による攻撃に、オパールも歯を食いしばる。
攻撃事態は単調だしダメージを受けない代わりに、一発でも当たってしまうと宝石を始めとする財宝に変わってしまうとなれば簡単に動けない。
困っていると、クウがミデスの攻撃を警戒しながら説明する。
「あいつも闇の世界に染まった人間だ。ミデスが操っている黒い宝石は、自らの闇を具現化した武器でもある。そいつを壊せば、この攻撃も封じられるはずだ」
「ただし、壊したとしても数分すれば武器は復活するわ。手を拱いていたら不意を突かれて返り討ちに遭ってしまうでしょうね」
スピカも捕捉を入れつつ、打開策を探して辺りを見回す。
一方、遠距離に優れた銃で壁から覗き込んでウィドが宝石を狙おうとする。しかし、少しでも顔を出したり腕を出すと、あちらが狙って光線を撃ってくるためすぐに壁に隠れるように体を引っ込める。
「これでは私の銃も上手く狙えない…バズーカもこんなに狭くては、周りを壊して全員溺れてしまう。このままジリ戦を続けていたら、私達も財宝の一部に変えられてしまいますね…!」
「倒されちゃったから、デブチョコボさんも呼びかけに応じてくれません…! コヨコヨさんとサボテンダーさんも消されたら戦えないかも…!」
「短期決戦で決めるって事? でも、これじゃあ近づけないよ…!」
カイリも不安そうな顔をして、今も続く攻撃を見る。
クウとスピカは互いに顔を見合わせると、目線だけで語りかける。
やがて2人は頷き合うと、クウが立ち上がってオパールに声をかけた。
「オパール。お前に全部託す」
「クウ?」
オパールがクウを見ると、左手に数枚のカードを持って準備している。
「奪い取って見せろ、海賊として」
「信じてるわよ、私も。あなたなら私達を取り戻してくれるって」
スピカもまた、間接剣からマイクにして構える。2人の様子に、オパールは引き留めようとする。
「スピカさんまで、何を――待って、今“私達”って…?」
「とびっきりの応援ソング、謳ってあげる――『マーメイドライブ』!!」
疑問には答えず、スピカは笑顔でマイクスタンドの先を地面に叩きつける。そこから光が溢れ、音楽を鳴らす。まるで水面に波打つメロディが海のように広がり、自分達の能力を上げてくれる。
そして、クウは一気に壁から飛び出す。
「カード・ブリザガ! そしてクエイク!」
「やあぁ!」
あちこちにカードを突き刺し、ミデスの行く先に氷と岩の壁を作り出す。スピカもまた飛び出し、間接剣を伸ばして宝石を狙う。
「はっ! 特攻なんて思い切った事したものね!」
2つの宝石を砕くが、宝石は一か所に固まると一点集中による光線を放つ。威力を一纏めにした事で、魔力で作った壁は壊されて隠れていたクウを、そしてスピカも光線に当たって消えてしまう。
ミデスの手の中に、黒の宝石と純銀に金の装飾が施されたティアラが収められていた。
「まずは、2人」
「クウ、スピカさん!?」
オパールが悲鳴を上げると、ミデスは不敵の笑みを浮かべて皆の隠れる壁に狙いを定める。
「何か小細工したようだけど、残りも一気に」
再び攻撃しようと手を振り上げた所で、続けざまに宝石は更に2つ破壊される。
「いいえ、させません!」
「オパールさん、行ってください!」
銃弾と小さなサボテンが宝石を狙う。ウィドとレイアも、自分達が為すべき事を分かったように。それは、オパールも同じだった。
自分は海賊、クウは黒魔導士、ウィドはガンナー、スピカは歌姫、レイアは幻獣使い。
5人の中で十分に戦える能力を持っているのは自分だ。近づけば勝ってくれる――その為の土俵を、皆が作ろうとしてくれる。だからこそ、オパールは走る。
「――だああああ!」
「守って、コヨコヨさん!」
オパールに光線が当たらないよう、レイアは沢山のコヨコヨを向かわせる。ミデスが狙ってオパールに当てようとしても、すぐにコヨコヨ達が庇って無効化する。
その間にウィドはクウが作ってくれた近くの壁に適度に移動しつつ宝石を狙い、レイアもまた氷の壁に移動してそこから見える範囲でサボテンに指示を出す。
ウィドのライフルで1つ、サボテンの体当たりで更に2つと、残りの宝石を2つまで減らすとミデスはカッと目を見開く。
「ちょこざいな!!」
後ろに控えてある2つの宝石をウィドとレイアの背後まで高速で飛ばす。背後に回られた事で振り向くと、光線を出していた。
レイアは為す術もなく光に飲まれ、とっさにウィドは銃弾を放つが相打ちとなり、狙われた宝石を壊したがその場から消えてしまう。
そして、ミデスの手の中で今度は銀の指輪と金の杯が増える。
「宝石よりは価値が下がるけど、まあまあの代物ね。残るはあなただけよ!」
「やばっ…!」
召喚主のレイアが消えた事で、コヨコヨも消滅してしまう。そして、レイアを狙った宝石はそのまま背後からオパールを狙う撃つ。
思わず振り返ると、光線の前に一つの影が飛び出す。
「させないっ!」
「カイリィ!?」
自分の背中を庇う様に両手を広げたカイリに、オパールは悲鳴を上げる。
カイリは光線に当たり消滅してしまう。そしてカイリの財宝の姿である、ピンクの花の宝石が彼女の手に追加される。
「まあ! 素晴らしい心の輝きね! なるほど、この子セブンプリンセスだったの!」
一人残されたオパール。仲間達全員が財宝に変えられてミデスに渡ってしまい、歯を食い縛る。
厄介な宝石を睨みながら駆け込むが、光線を飛ばしてくる。オパールは横に転がって避ける。しかし、宝石は再び光を溜める。
「これで最後よ! さあ、哀れな海賊として財宝に――!」
直後、銃声が鳴り響く。
黒い宝石は光線を出す前に砕け散る。オパールが転がった時に腰の銃を左手で持ち、そのまま引き金を引いて破壊したのだ。
「最後の最後まで、隠し玉は取っておく――空賊も海賊も変わらない生き残る為の術よ」
銃は下ろし、代わりに剣を突き付けるオパール。武器を失くしたミデスは、財宝となった仲間達を手に浮かべたまま海の窓に近づく。
「いいの!? 来てみなさい、こいつら全員深海に投げ捨てるわよ!! もったいないけど!!」
ちゃっかり本音を交えつつも、何時でも投げ捨てられるようにする。ミデスの言う通り、ここで深海に捨てられたら簡単には助けられない。
けれど、オパールはダンと足を踏み鳴らす。
「皆を――返せぇぇぇ!!!」
オパールの足元から、水が沸き上がる。
水面は広がり続けて辺り一帯の地面を浸水。そしてオパールの足元の水面が徐々に揺れ出し、そこから海賊船が飛び出す。
「なぁ!?」
「海賊から自由をっ!! 仲間をっ!! 奪わせたりなんてしないっ!! 奪われたのなら、全部――奪い返すぅ!!」
オパールは船の先端に陣取って叫ぶと、海賊船でミデスを押し潰しにかかる。
「ちょ、まっ…がぼぼぼぉ!?」
ミデスを押し潰した箇所から、空洞の部屋が音を立てて罅割れる。そこから海水が流れ込み、保てなくなり床、壁、天井が崩れ落ちる。
深海に投げ出されるが、オパールが呼び寄せた海賊船は壊れる事無くミデスをぶつけたまま海面へと一気に浮上した。
「これがあたしの船、譲り受けた海賊の力の全てぇ!! 『ダイヤモンド・ノワール』!!」
海賊船による豪快な一撃を、朝日と共に浴びせる。
海中から地上に出た事で、船は水浸しの状態。しかし、損傷はどこにも見受けられない。
空中に吹き飛んでいたミデスは甲板に墜落する。すると、彼女が持っていた宝石達甲板にコツリコツリと次々落ちていく。
それらはやがて光を放ち、財宝の姿から人の姿へと仲間達が戻ったのだった。
「うわあぁ! …あれ?」
「ここは、船の甲板?」
「ミデスはどこにいったんだ?」
何が起きたか分からず、ヴェン、アクア、テラが辺りを見回す。
一方、同じように元の姿に戻ったソラとリクに、カイリが思いっきり抱き着いた。
「ソラ! リク!」
「「うわっ!?」」
「良かった、本当に良かった! 宝石になっちゃった時はもうどうしようかと思った…!!」
「「ほ、宝石?」」
泣き出すカイリに、2人は困惑の表情を浮かべてしまう。
「あれ? オパールさん、どうしたの?」
「何やってんだ、あんな所で?」
同じように元に戻ったツバサとルキルは、船の先端で海を見るように立ち尽くすオパールを発見する。
そんなオパールに、事情を知っているクウ達はこの戦いの功績者に近づいて笑いかけた。
「オパール、よくやったな」
「海賊のあなたに託して正解でした」
「う、ううっ…!」
ウィドも言葉を送ると、オパールは背を向けたままその場に座り込み。
「うわ〜〜〜〜ん!! 心臓に悪いぃぃぃ〜〜〜!! もうこんな役回りイヤァァァ!!」
腹の底から大声を上げて泣き出した。
ワンワンと泣き叫ぶオパールに最初に宝石になった人達はポカンとするが、スピカとレイアは頭を撫でた。
「よしよし、よく頑張ったわね」
「ありがとうございます、オパールさん」
詳しい事は分からないが、オパールの頑張りで自分達は助かった。この事実を分かっているから、クウとウィドも静かに三人の姿を見守った。