リラキャラ合同、番外プレゼン企画・1
――勇者よ。眠りに就きし勇者よ
真っ暗な夢の中。どこからか声が聞こえる。
――勇者よ、今こそ目覚めるのだ
「「「うるせーーー!!」」」
――ぎゃああああああああ!?
3人分の怒鳴り声と共に、殴られたような悲鳴が響き渡る。
気づけばリズ、グラッセ、ムーンは幾つもの折り畳み机にホワイトボードのある簡素な会議室のような見知らぬ部屋で倒れていた。
どうしてここにいるのか。何時の間に寝ていたのか分からないまま、リズとムーンが起き上がる。
「ん? ここはどこ……?」
「俺達は一体……?」
「よー、やっと目が覚めたか」
声のした方を振り向くと、そこにはパイプ椅子に座っているクウがいた。その隣でウィドも同じように座っている。
思わぬ2人の姿に、最後に起きたグラッセが声をかける。
「えーと、何でクウさん達がここに……あれ? ここはどこ?」
「会議室、と言った所ですよ。今回あなた達が呼ばれたのは――まあ、ちょっとした企画ですね」
ウィドが答えると、1つの企画書を机に置く。
3人がその企画書に近づいて覗き込むと、表紙には大きな文字でタイトルが書かれている。
彼らの言う企画とやらのタイトルを、代表としてリズが読み上げた。
「《リラキャラ合同、番外プレゼン企画》?」
「もしかして、これって打ち切りになった俺達に出番が出来るって事です!?」
今回の催しに関してグラッセがいち早く気づく。
リラ側による諸事情が諸々重なって自分達の作品が打ち切り、消去となってしまってもう〇年。一応NANA側の方では一緒にコラボした作品までは消えてはいないし、たまに番外としてこちらに登場したりはするものの、本格的な登場ではない。
なのでこの企画の内容次第では、合同と言えど本格的に日の目を拝めるようになるかもしれないのだ。
「ええ。キャラ使用に関しての許可はリラ様から継続で貰っているようなものですから。折角使用許可を貰っているのだから、使うキッカケを作ろうと、このような企画を立てたと言う訳です」
「おお! よーし、頑張ろう2人とも!」
ウィドの補足にグラッセはやる気を出し、リズとムーンに振り返る。
「「えー、だるーい」」
「何でそんなにやる気ないんだよ!?」
だが、ぐでーとした態度でパイプ椅子に座って寄りかかる2人の姿に、グラッセはすかさずツッコミを入れたのだった。
「とにかく! こうして登場が可能なんだ! 原作が消えた今、このチャンスはものにしないと本当に俺達のキャラ生命終わりだからな!?」
「まー、流石にうちの作者もお前らを本編で出す気はないからな。精々使えて回想くらいだろ」
「はー、そう言う事なら仕方ないわね……」
クウも現状の方針を教えると、渋々と言った様子でリズが起き上がり、ムーンも立ち上がる。
こうして紆余曲折しつつも、クウとウィドを交えたプレゼン企画がスタートとなった。
「で、やるにしても何をするんだ? いきなりプレゼンなんて出せないぞ?」
忘れがちかもだが、リズ、グラッセ、ムーンはまだ14歳の子供だ。企画を作った上で、他者にOKを出して貰えるように最大限のアピールをすると言うのは中々に難しい物だろう。
流石にその点に関しては大人2人も理解している為、助け船を出す。
「別にあなた達3人で考えろとは言ってません」
「他の奴もプレゼンに参加可能にしといたから、そいつらの方法を見て真似するのもありだぜ」
「そう言う訳で、俺が一番手で来たぜ!」
バーンと会議室のドアが開き、ウラノスがやってきた。
「「「ウラノス!?」」」
「よ、リズにムーン。そして幼馴染くん。ひっさびさの登場をさせてもらうぜ!」
片手を上げながら部屋に入ると、ホワイトボードの前に立つ。
なるほど、ああやってプレゼンをするのだと方法を学ぶ3人の傍で、ウィドが声を掛けた。
「では、ウラノス。事前に持ってきてくれたであろう、新しい企画をお願いします」
「おう。色々考えたんだが、ここはやっぱり原点回帰が重要だと思ってな。そうなるとKHらしい物語は大事だろ――そう言う事で、次の新作はこいつで決まりだ!!」
かつて世界を滅ぼそうとする闇との戦い。
世界を守る為に、その身を存在ごと捧げた者がいた。
「じゃあな。この世界を頼むわ」
「いや、行かないでクウ!!」
「クウさーん!!」
誰の記憶からも消えた1人のキーブレード使いにより、20年もの平和が続いていた。
しかし、その均衡は突如として崩れ去る。
「そんな、どうしてあちこちの世界でハートレスの大量発生が!?」
「リズ、危ない!? ぐあぁ!!」
「グラッセ! そんな、私を庇って……!?」
「君だけでも……逃げるんだ、リズ……!! ムーン、リズを、頼む……!!」
「グラッセ、消えちゃいや――グラッセェェェ!!」
「リズ、他の世界に逃げるぞ!! グラッセの犠牲を無駄にするなぁ!!」
泣き叫ぶリズと共にレイディアントガーデンに逃げ込むムーン。
保護して貰ったレオンから、驚愕の内容が知らされる。
「あちこちの世界でハートレスが大量に出現して住民を襲っている。かつて偽アンセムが起こした全ての世界を闇に染めた事件と似ているようだ」
「何でいきなり……! 機関だって、もう世界の心を狙ったりしてないだろ! 誰の仕業だ!!」
「誰だっていいわ。グラッセの仇を取る為にも、世界を滅ぼそうとする元凶は私が倒す!!」
「だったらその旅に俺もついていくぜ、リズ」
「ウラノス――ありがとう。ウラノスと一緒なら心強いわ!」
「ああ。ムーン、リズは俺に任せろ。誰にも邪魔されない、2人だけの冒険だ!」
リズはウラノスと共に、闇の脅威に晒された世界を巡る。
「黒コート!?」
「あんた達は13機関……じゃないわね! 誰!?」
「ノーバディ風情と間違われるとは」
「我らはこの不完全な世界を滅ぼすもの」
世界を巡る中で現れた、黒コートの集団。
「無事か、リズ!」
「ありがとう、ウラノス。にしても、キーブレードを持つメンバーがいるなんて……!」
「お前達か、俺の邪魔をするのは」
「誰だ、お前!!」
黒コートを着た、黒髪に金の目をした男。
「全ての世界は消え去り、完璧な新たな世界へと新生する――!!」
「ふざけんな!! 今までお前らが消し去った人達が、今までこの世界を守ってきた父さん達キーブレード使いが間違ってるだなんて、私は認めない!!」
「ああ、その通りだ!! お前らが完璧だろうと、俺達なら戦える――そうだろ、リズ?」
「そうね。ここまで様々な犠牲があった、その思いを繋ぐのが今の私の役目だ――そうでしょ、ウラノスゥ!!」
最高の恋人と共に、この世界の危機に立ち向かう!
《キングダムハーツ 〜Engage Love Forever〜》
「――と言う、KHらしい物語を」
「どこがKHらしい物語だよ!? 俺序盤で死んでるじゃん!?」
「俺なんてOPで消えてんじゃねーか!? 存在忘れ去られるし、途中で敵になるし、主役を何だと思ってんだ!!」
ウラノスのプレゼンが終わるなり、グラッセとクウが声を張り上げる。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ2人に、ウラノスはケッと嫌そうな態度を隠す事なく露わにする。
「ああ? そもそもお前らの本来の時代考慮して過去の出来事として入れ込んだんだから、別にいいだろ? 大体ソラだってKH3では消えたし、他作品でもラ〇ナやベ〇ベットもエンディングじゃ世界守る為に封印して終わりだろ?」
「身も蓋もねーこと言うんじゃねーよ!? こんな話、却下に決まってんだろ!!」
クウは企画書をゴミ箱に放り込もうと手を伸ばす。だが、ウラノスが机に置いてたはずの企画書がどこにもない。
不思議に思うが、企画書はすぐに見つかった。
ウィドの手の中に。
「いやー、これはいいアイデアですねウラノス。にっくき相手……ゴホン。主役を序盤で退場させて、新しい主役に交代させた上で敵にするとは。まさに忘れかけていたKHらしさ。きっと私達の作者の人気も鰻上がり間違いなしでしょう」
「そう思うだろ、ウィド」
「過激派同士で盛り上がってるんですけど!?」
「お前どっちの味方だよ!?」
黒くなったウィドにも続けざまにグラッセとクウがツッコミを決める中、リズとムーンは今の映像を見て考え込んでいた。
「なるほど。プレゼンってこんな感じにするのね」
「個人で考えた妄想を垂れ流すのでもOKなら、俺達でも出来そうだな」
「妄想を垂れ流した覚えはないが!?」
ウラノスが叫ぶが、リズとムーンは既に聞く耳を持っておらずあーだこーだと話し合いを始めている。
「とにかく、他に誰かいないんですか他は!?」
「でしたら、僕が持ってきましたものはどうでしょうか?」
何が何でもウラノスの企画を潰したいグラッセの想いに応える様に会議室に入ってきたのは、大人枠かつ貴重な常識人に該当するジェダイトだ。
そんな彼の登場に、グラッセだけでなくムーンとリズも目を輝かせる。
「おお、ジェダイトか! 安心感が半端ない!」
「そうね! 他の選択肢が出たのなら、ウラノスの案は除外出来るわ!」
「リズ? もしかして俺とのラブロマンスなストーリーは嫌だったりするのか?」
不安げなウラノスに振り返ったリズの目は、不審人物を見るかのように冷たかった。
「当たり前でしょ。なんでウラノスと2人っきりで旅しなきゃなんないの? 私の本能が『ウラノスと一緒に旅とか死んでも止めとけ』って警告鳴らしてんのよ」
「リズの野生の勘が囁いてんのなら当たってんな。そいつは却下で」
「ぐううううううぅ!?」
唯一の味方になれそうなムーンにも却下され、ウラノスは撃沈してしまった。しばらくは起き上がれないだろう。
可哀想な雰囲気を出すウラノスだが、全員は無視して代わりに壇上に上がったジェダイドに注目した。
「僕がプレゼンするのは、ほのぼの系です。リズさん達が絡むとどうしても殺伐感があるので、少しでも払拭する為にこんな物語を考えてきました! どうぞ!」
「さり気に俺達をディスってませんでしたかジェダイトさん!?」
グラッセのツッコミが響き渡る中、ジェダイドの企画がスタートした。