第三章:旅立ちの序曲V(前編)
ざくざくという砂の音を響かせながら、サクヤは一人浜辺を走っていた。
しばらくすると、遠くの方で何やら騒がしい声が聞こえる。
サクヤは吸い寄せられるようにその方角へ足を進めた。
そこには、チャンバラごっこをしているソラとリクの姿があった。
「どうしたソラ?もう終わりか?」
「なんだよ!負けてるのはそっちのくせに」
二人の持つ木剣のぶつかる音がよく響き、砂を踏みしめる音が聞こえた。
サクヤはしばらくその光景を見ていたが、ふと自分の目的とカイリの言葉を思い出す。
――サボってたら一発ガツンとお見舞いしていいからね!
その時。
「あっ!!」
ソラの手から木剣が弾き飛ばされ、きれいな弧を描いてサクヤのそばに落ちてきた。
疲れたのか、ソラはしりもちをついて座り込む。
それを見たサクヤは足元に落ちている剣を拾うと、ソラの方に向かって歩き出した。
「ゲッ!サクヤ・・・!」
彼女の姿を見つけたソラとリクの顔がわずかにひきつる。
自分たちがサボっていたということがばれてしまったからだ。
しかし、サクヤは座り込んでいるソラに目を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ソラ、負けたの?」
「あ、ああ。うん。今日も勝てなかったよ」
ソラが悔しそうな表情でつぶやくと、サクヤはすっとリクの前に立ち、木剣を握った左手を突き出すように構えた。
「サクヤ?なにをしてるんだ?」
「まさか、リクに勝負を挑む気じゃ・・・?」
木剣を向けられたリクは、その意図が分からず怪訝な顔で彼女を見つめる。
だが、サクヤは真剣な表情でリクを見据えて言った。
「ソラはわたしの家族。家族の敵はわたしが取る。ソラの、弔い合戦」
「弔い合戦って・・・どこで覚えたんだよそんな難しい言葉」
「いや、その前に俺死んでないんだけど」
少しというかかなりずれた思考で話すサクヤを、リクはしばらく呆れたように見つめていたが、彼女の意志が固いとわかると、小さく息をついて木剣を構えた。
「いいぜ。お前がそれで満足するなら、相手になってやる」
「リク!?」
リクの思わぬ言葉に、さすがのソラも驚きを隠せず声を荒げる。
いくらおもちゃの剣とはいえ、当たれば痛いし何よりサクヤは女の子だ。
万が一思わぬ事故でも起こってしまったら、たまったものではない。
しかしサクヤは表情を変えないまま、木剣を構え続けている。こうなった彼女は何を言っても聞かない。
そのことは、この2年間で彼らが学んだことの一つだった。
正直なところ、リクは驚きつつも少し興味があった。
ソラ以外にもティーダやワッカ、女子ではセルフィーなどとも時折勝負をしていたが、サクヤとは一度も直接勝負をしたことはなかった。
(かつて鬼ごっこという名の恐怖の時間は、また別の話にて)
というのも、サクヤ自身がそれをあまり望まないということと、(足が非常に速いという以外は)特に強そうには見えないという、彼の侮りもあったからだ。
しかし、不本意とはいえ挑まれた勝負から逃げ出すわけにはいかない。
何より、サクヤは一度言い出したら頑なに考えを変えない、とても頑固な面もあった。
(仕方ない。最初の一撃をいなして終わらせてやるか)
そう思ったリクは、サクヤに悟られないように木剣を構えなおした。
二人は互いを見据えたまま動かない。
その姿に、ソラは思わずつばを飲み込む。
風が吹き、どこからか一枚の木の葉を運んできた、その瞬間。
ざりっ、と、砂を蹴る音が聞こえた。
しばらくすると、遠くの方で何やら騒がしい声が聞こえる。
サクヤは吸い寄せられるようにその方角へ足を進めた。
そこには、チャンバラごっこをしているソラとリクの姿があった。
「どうしたソラ?もう終わりか?」
「なんだよ!負けてるのはそっちのくせに」
二人の持つ木剣のぶつかる音がよく響き、砂を踏みしめる音が聞こえた。
サクヤはしばらくその光景を見ていたが、ふと自分の目的とカイリの言葉を思い出す。
――サボってたら一発ガツンとお見舞いしていいからね!
その時。
「あっ!!」
ソラの手から木剣が弾き飛ばされ、きれいな弧を描いてサクヤのそばに落ちてきた。
疲れたのか、ソラはしりもちをついて座り込む。
それを見たサクヤは足元に落ちている剣を拾うと、ソラの方に向かって歩き出した。
「ゲッ!サクヤ・・・!」
彼女の姿を見つけたソラとリクの顔がわずかにひきつる。
自分たちがサボっていたということがばれてしまったからだ。
しかし、サクヤは座り込んでいるソラに目を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ソラ、負けたの?」
「あ、ああ。うん。今日も勝てなかったよ」
ソラが悔しそうな表情でつぶやくと、サクヤはすっとリクの前に立ち、木剣を握った左手を突き出すように構えた。
「サクヤ?なにをしてるんだ?」
「まさか、リクに勝負を挑む気じゃ・・・?」
木剣を向けられたリクは、その意図が分からず怪訝な顔で彼女を見つめる。
だが、サクヤは真剣な表情でリクを見据えて言った。
「ソラはわたしの家族。家族の敵はわたしが取る。ソラの、弔い合戦」
「弔い合戦って・・・どこで覚えたんだよそんな難しい言葉」
「いや、その前に俺死んでないんだけど」
少しというかかなりずれた思考で話すサクヤを、リクはしばらく呆れたように見つめていたが、彼女の意志が固いとわかると、小さく息をついて木剣を構えた。
「いいぜ。お前がそれで満足するなら、相手になってやる」
「リク!?」
リクの思わぬ言葉に、さすがのソラも驚きを隠せず声を荒げる。
いくらおもちゃの剣とはいえ、当たれば痛いし何よりサクヤは女の子だ。
万が一思わぬ事故でも起こってしまったら、たまったものではない。
しかしサクヤは表情を変えないまま、木剣を構え続けている。こうなった彼女は何を言っても聞かない。
そのことは、この2年間で彼らが学んだことの一つだった。
正直なところ、リクは驚きつつも少し興味があった。
ソラ以外にもティーダやワッカ、女子ではセルフィーなどとも時折勝負をしていたが、サクヤとは一度も直接勝負をしたことはなかった。
(かつて鬼ごっこという名の恐怖の時間は、また別の話にて)
というのも、サクヤ自身がそれをあまり望まないということと、(足が非常に速いという以外は)特に強そうには見えないという、彼の侮りもあったからだ。
しかし、不本意とはいえ挑まれた勝負から逃げ出すわけにはいかない。
何より、サクヤは一度言い出したら頑なに考えを変えない、とても頑固な面もあった。
(仕方ない。最初の一撃をいなして終わらせてやるか)
そう思ったリクは、サクヤに悟られないように木剣を構えなおした。
二人は互いを見据えたまま動かない。
その姿に、ソラは思わずつばを飲み込む。
風が吹き、どこからか一枚の木の葉を運んできた、その瞬間。
ざりっ、と、砂を蹴る音が聞こえた。