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Names 〜Atonement Requiem〜

星三輪サナ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序章:決意の園
  • 02 第一章:望月の歌姫T
  • 03 第一章:望月の歌姫U
  • 04 第一章:望月の歌姫V
  • 05 第一章:望月の歌姫W
  • 06 第二章:与えられた存在T
  • 07 第二章:与えられた存在U
  • 08 第二章:与えられた存在V
  • 09 第二章:与えられた存在W
  • 10 第二章:与えられた存在X
  • 11 第二章:与えられた存在Y
  • 12 第二章:与えられた存在Z
  • 13 第二章:与えられた存在[
  • 14 オリキャラ設定
  • 15 第三章:旅立ちの序曲T(前編)
  • 16 第三章:旅立ちの序曲U(前編)
  • 17 第三章:旅立ちの序曲V(前編)
  • 18 第三章:旅立ちの序曲W(前編)
  • 19 第三章:旅立ちの序曲X(前編)
  • 20 第三章:旅立ちの序曲Y(前編)
  • 21 第四章:旅立ちの序曲T(後編)
  • 22 第四章:旅立ちの序曲U(後編)
  • 23 第四章:旅立ちの序曲V(後編)
  • 24 第四章:旅立ちの序曲W(後編)
  • 25 第四章:旅立ちの序曲X(後編)
  • 26 第四:旅立ちの序曲Y(後編)
  • 27 第四章:旅立ちの序曲Z(後編)
  • 28 第四章:旅立ちの序曲[(後編)
  • 29 第五章:再会T
  • 30 第五章:再会U
  • 31 第五章:再会V
  • 32 第五章:再会W
  • 33 第五章:再会X
  • 34 第五章:再会Y
  • 35 第五章:再会Z
  • 36 第五章:再会[
  • 37 第五章:再会\
  • 38 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)T
  • 39 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)U
  • 40 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)V
  • 41 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)W
  • 42 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)X
  • 43 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)Y
  • 44 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)Z
  • 45 第六章:ようこそ、不思議の国へ(前編)[
  • 第三章:旅立ちの序曲Y(前編)

    「あとはこの布を取り付けて・・・よし、完成だ!!」

    ロープの結び目を確認しながら、リクが声を上げる。

    四人の目の前には、白い大きな帆をつけたイカダがそびえ立っている。
    皆で海の向こう、他の世界へ行くための大事なものだ。

    そのでき前に満足するように、ソラたちはにっこりと笑った。

    「あ、そうだ。このイカダの名前、まだ決めてなかったよな」
    リクは振り返ると、再びマストを見上げながら言った。

    「そういえばそうだね」と、カイリも返す。

    「どんな名前にする?」
    「うーん・・・」

    ソラはしばらく腕組みをしていたが、それを遮るようにリクが言った。

    「俺はハイウィンドっていうのはどうかと思っている。高く舞い上がる風、ハイウィンド」
    「ハイウィンドか〜。俺はエクスカリバーっているのがいいと思ったんだけど」
    「伝説の剣だね。ソラらしいや」

    カイリはくすくすと笑ってサクヤに視線を向けた。

    「サクヤはどう?何かいい名前はある?」
    「え?」

    ソラとリクの視線も、サクヤに注がれる。
    サクヤは少し迷ったが、頭の中に浮かんだ名前を口にした。

    「・・・ルミナス」

    丁度風がやんでいたせいか、サクヤの声ははっきりと聞こえた。

    「ルミナス――。光り輝くっていう意味か」
    「いいじゃんいいじゃん!それ採用。流石サクヤ」
    「もう。ソラはとことんサクヤに甘いんだから」

    カイリがそう言うと、ソラは照れたように頭をかき、リクは思い切り笑った。

    「もう日が暮れるね」

    いつの間にかソラは茜色に染まり、水平線まで同じ色になっている。

    「あの向こうには、カイリの元の世界があるんだよな?」

    確かめるように口にしたソラの言葉に、カイリは視線を向けながら言った。

    「それは、わからないよ」
    「だけど、行ってみないとわからないままだ。もちろん、サクヤの事もな」

    そういってリクは、ソラの隣で座っているサクヤを見つめる。

    視線を感じたサクヤが振り返り、二人の視線がぶつかった。

    「このイカダでどこまでいけると思う?」
    「さあな。ダメだったら――、別の方法を考えるさ」

    ソラの言葉に、リクは腕を組んだまま水平線を見据えた。

    その姿をまねて、サクヤも水平線に視線を移す。

    いつもと変わらない、デスティニーアイランドの海。
    2年前、サクヤがここにいた時は夜だったが、あの日も海は変わらず波の音を届けてきていた。

    そんなこの世界から、自分たちは近いうちに旅立つ。
    もしもほかの世界がこの先にあるのなら。自分の事もわかるかもしれない。

    「ねえ、リクは他の世界に行ったらどうするの?ソラみたいに見れば満足?」

    カイリがすこし不安げに聞くと、リクはそのままの姿勢で答えた。

    「実を言うと、あんまり考えていないんだ。ただ、他に世界があるのなら、どうして俺たちはここじゃなきゃだめだったんだろうって」
    「どういう意味?」
    「そうだな。この世界が小さなカケラのようなものなら――」

    そしてリクは振り返り、ソラ、カイリ、サクヤの三人の顔を見て言った。

    「どうせカケラなら、ここじゃなくても構わないわけだよな?」
    「わかんねぇ」

    リクの話が難しかったのか、ソラはそう答えて横たわった。

    「そういうことだ。黙って座っていても何もわからない。動かなきゃ。立ち上がらなきゃ、同じ景色しか見えないんだ」
    「リクって、いろんなことを考えているんだね」

    リクの背中を見ながら、カイリは静かに呟くように言った。

    「カイリのおかげだよ。あ、違うな。カイリとサクヤのおかげだ」
    「わたし、も?」

    思わぬところで自分の名前を出されたサクヤは、驚いたような顔でリクを見た。

    「二人がこの島に来なかったら、俺はきっと何も考えていなかったと思う。ありがとうな、二人とも」

    彼の言葉にカイリは照れたように笑い、サクヤはきょとんとした顔で見つめ返した。

    「あ、そうだ。サクヤ。何か歌を歌ってくれよ」

    不意に寝転がっていたソラが起き上がって言った。
    サクヤはぽかんとしたまま彼を見つめ返す。

    「唐突だな」
    「唐突だね」
    「なんだよ。急に聴きたくなったんだから仕方ないだろ?」

    ソラは少し膨れながらも、サクヤの方を向いて言った。
    サクヤはこくんと小さくうなずくと、すっと立ち上がって口を開いた。

    透き通るような声が、風に乗って空へ、海へと流れていく。
    優しくも切ない旋律と不思議な言葉の歌詞。聴いているだけで不思議な気持ちになる、まるで魔法のような歌。

    まるで、これからの旅立ちを祝福するような、どこかへ導いてくれるような。

    そんな気持ちになりながら、ソラたちは目を閉じて、その歌に耳を傾けるのだった。

    歌が終わると、あたりは再び波と風の音だけになった。

    「さて、そろそろ帰ろうか。あんまり遅いと、また怒られちゃうしね」
    「うん。今日のご飯は島ウナギだって」
    「マジか。じゃあ早く帰ろうよ」

    カイリが先頭を歩き、その後ろをサクヤ、ソラ、リクがついていく。

    「ソラ!」

    不意にリクの声が聞こえ、ソラが振り返ると途端に何かが飛んできた。

    とっさに受け取ってみると、そこには手のひらほどの大きな星形の実があった。

    「お前、これが欲しかったんだろ?パオプの実」

    ――その身を食べさせあった二人は、必ず結ばれる

    ――どんなに離れていても、いつか必ず

    この島にあるおまじないの一種で、ソラもそのうわさは聞いたことがあった。
    セルフィーも良く話してくれていたからだ。

    「島を出る前に試してみた方がいいんじゃないか?」
    「は、はあ!?な、なんで・・・!?」
    「で、お前はどっちと試すんだ?カイリか、サクヤか」
    「だ、だから意味が・・・」

    そこまで言いかけて、ソラはようやく自分がからかわれていることが分かった。

    笑いながら走り去るリクを、ソラはぷりぷりと怒りながら追いかける。

    彼らは、その時は気付かなかった。

    夜空の星が一つ、音も無く消えて言ったことを・・・・




    to be continued

    14/12/29 23:28 星三輪サナ   

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