第三章:旅立ちの序曲Y(前編)
「あとはこの布を取り付けて・・・よし、完成だ!!」
ロープの結び目を確認しながら、リクが声を上げる。
四人の目の前には、白い大きな帆をつけたイカダがそびえ立っている。
皆で海の向こう、他の世界へ行くための大事なものだ。
そのでき前に満足するように、ソラたちはにっこりと笑った。
「あ、そうだ。このイカダの名前、まだ決めてなかったよな」
リクは振り返ると、再びマストを見上げながら言った。
「そういえばそうだね」と、カイリも返す。
「どんな名前にする?」
「うーん・・・」
ソラはしばらく腕組みをしていたが、それを遮るようにリクが言った。
「俺はハイウィンドっていうのはどうかと思っている。高く舞い上がる風、ハイウィンド」
「ハイウィンドか〜。俺はエクスカリバーっているのがいいと思ったんだけど」
「伝説の剣だね。ソラらしいや」
カイリはくすくすと笑ってサクヤに視線を向けた。
「サクヤはどう?何かいい名前はある?」
「え?」
ソラとリクの視線も、サクヤに注がれる。
サクヤは少し迷ったが、頭の中に浮かんだ名前を口にした。
「・・・ルミナス」
丁度風がやんでいたせいか、サクヤの声ははっきりと聞こえた。
「ルミナス――。光り輝くっていう意味か」
「いいじゃんいいじゃん!それ採用。流石サクヤ」
「もう。ソラはとことんサクヤに甘いんだから」
カイリがそう言うと、ソラは照れたように頭をかき、リクは思い切り笑った。
「もう日が暮れるね」
いつの間にかソラは茜色に染まり、水平線まで同じ色になっている。
「あの向こうには、カイリの元の世界があるんだよな?」
確かめるように口にしたソラの言葉に、カイリは視線を向けながら言った。
「それは、わからないよ」
「だけど、行ってみないとわからないままだ。もちろん、サクヤの事もな」
そういってリクは、ソラの隣で座っているサクヤを見つめる。
視線を感じたサクヤが振り返り、二人の視線がぶつかった。
「このイカダでどこまでいけると思う?」
「さあな。ダメだったら――、別の方法を考えるさ」
ソラの言葉に、リクは腕を組んだまま水平線を見据えた。
その姿をまねて、サクヤも水平線に視線を移す。
いつもと変わらない、デスティニーアイランドの海。
2年前、サクヤがここにいた時は夜だったが、あの日も海は変わらず波の音を届けてきていた。
そんなこの世界から、自分たちは近いうちに旅立つ。
もしもほかの世界がこの先にあるのなら。自分の事もわかるかもしれない。
「ねえ、リクは他の世界に行ったらどうするの?ソラみたいに見れば満足?」
カイリがすこし不安げに聞くと、リクはそのままの姿勢で答えた。
「実を言うと、あんまり考えていないんだ。ただ、他に世界があるのなら、どうして俺たちはここじゃなきゃだめだったんだろうって」
「どういう意味?」
「そうだな。この世界が小さなカケラのようなものなら――」
そしてリクは振り返り、ソラ、カイリ、サクヤの三人の顔を見て言った。
「どうせカケラなら、ここじゃなくても構わないわけだよな?」
「わかんねぇ」
リクの話が難しかったのか、ソラはそう答えて横たわった。
「そういうことだ。黙って座っていても何もわからない。動かなきゃ。立ち上がらなきゃ、同じ景色しか見えないんだ」
「リクって、いろんなことを考えているんだね」
リクの背中を見ながら、カイリは静かに呟くように言った。
「カイリのおかげだよ。あ、違うな。カイリとサクヤのおかげだ」
「わたし、も?」
思わぬところで自分の名前を出されたサクヤは、驚いたような顔でリクを見た。
「二人がこの島に来なかったら、俺はきっと何も考えていなかったと思う。ありがとうな、二人とも」
彼の言葉にカイリは照れたように笑い、サクヤはきょとんとした顔で見つめ返した。
「あ、そうだ。サクヤ。何か歌を歌ってくれよ」
不意に寝転がっていたソラが起き上がって言った。
サクヤはぽかんとしたまま彼を見つめ返す。
「唐突だな」
「唐突だね」
「なんだよ。急に聴きたくなったんだから仕方ないだろ?」
ソラは少し膨れながらも、サクヤの方を向いて言った。
サクヤはこくんと小さくうなずくと、すっと立ち上がって口を開いた。
透き通るような声が、風に乗って空へ、海へと流れていく。
優しくも切ない旋律と不思議な言葉の歌詞。聴いているだけで不思議な気持ちになる、まるで魔法のような歌。
まるで、これからの旅立ちを祝福するような、どこかへ導いてくれるような。
そんな気持ちになりながら、ソラたちは目を閉じて、その歌に耳を傾けるのだった。
歌が終わると、あたりは再び波と風の音だけになった。
「さて、そろそろ帰ろうか。あんまり遅いと、また怒られちゃうしね」
「うん。今日のご飯は島ウナギだって」
「マジか。じゃあ早く帰ろうよ」
カイリが先頭を歩き、その後ろをサクヤ、ソラ、リクがついていく。
「ソラ!」
不意にリクの声が聞こえ、ソラが振り返ると途端に何かが飛んできた。
とっさに受け取ってみると、そこには手のひらほどの大きな星形の実があった。
「お前、これが欲しかったんだろ?パオプの実」
――その身を食べさせあった二人は、必ず結ばれる
――どんなに離れていても、いつか必ず
この島にあるおまじないの一種で、ソラもそのうわさは聞いたことがあった。
セルフィーも良く話してくれていたからだ。
「島を出る前に試してみた方がいいんじゃないか?」
「は、はあ!?な、なんで・・・!?」
「で、お前はどっちと試すんだ?カイリか、サクヤか」
「だ、だから意味が・・・」
そこまで言いかけて、ソラはようやく自分がからかわれていることが分かった。
笑いながら走り去るリクを、ソラはぷりぷりと怒りながら追いかける。
彼らは、その時は気付かなかった。
夜空の星が一つ、音も無く消えて言ったことを・・・・
to be continued
ロープの結び目を確認しながら、リクが声を上げる。
四人の目の前には、白い大きな帆をつけたイカダがそびえ立っている。
皆で海の向こう、他の世界へ行くための大事なものだ。
そのでき前に満足するように、ソラたちはにっこりと笑った。
「あ、そうだ。このイカダの名前、まだ決めてなかったよな」
リクは振り返ると、再びマストを見上げながら言った。
「そういえばそうだね」と、カイリも返す。
「どんな名前にする?」
「うーん・・・」
ソラはしばらく腕組みをしていたが、それを遮るようにリクが言った。
「俺はハイウィンドっていうのはどうかと思っている。高く舞い上がる風、ハイウィンド」
「ハイウィンドか〜。俺はエクスカリバーっているのがいいと思ったんだけど」
「伝説の剣だね。ソラらしいや」
カイリはくすくすと笑ってサクヤに視線を向けた。
「サクヤはどう?何かいい名前はある?」
「え?」
ソラとリクの視線も、サクヤに注がれる。
サクヤは少し迷ったが、頭の中に浮かんだ名前を口にした。
「・・・ルミナス」
丁度風がやんでいたせいか、サクヤの声ははっきりと聞こえた。
「ルミナス――。光り輝くっていう意味か」
「いいじゃんいいじゃん!それ採用。流石サクヤ」
「もう。ソラはとことんサクヤに甘いんだから」
カイリがそう言うと、ソラは照れたように頭をかき、リクは思い切り笑った。
「もう日が暮れるね」
いつの間にかソラは茜色に染まり、水平線まで同じ色になっている。
「あの向こうには、カイリの元の世界があるんだよな?」
確かめるように口にしたソラの言葉に、カイリは視線を向けながら言った。
「それは、わからないよ」
「だけど、行ってみないとわからないままだ。もちろん、サクヤの事もな」
そういってリクは、ソラの隣で座っているサクヤを見つめる。
視線を感じたサクヤが振り返り、二人の視線がぶつかった。
「このイカダでどこまでいけると思う?」
「さあな。ダメだったら――、別の方法を考えるさ」
ソラの言葉に、リクは腕を組んだまま水平線を見据えた。
その姿をまねて、サクヤも水平線に視線を移す。
いつもと変わらない、デスティニーアイランドの海。
2年前、サクヤがここにいた時は夜だったが、あの日も海は変わらず波の音を届けてきていた。
そんなこの世界から、自分たちは近いうちに旅立つ。
もしもほかの世界がこの先にあるのなら。自分の事もわかるかもしれない。
「ねえ、リクは他の世界に行ったらどうするの?ソラみたいに見れば満足?」
カイリがすこし不安げに聞くと、リクはそのままの姿勢で答えた。
「実を言うと、あんまり考えていないんだ。ただ、他に世界があるのなら、どうして俺たちはここじゃなきゃだめだったんだろうって」
「どういう意味?」
「そうだな。この世界が小さなカケラのようなものなら――」
そしてリクは振り返り、ソラ、カイリ、サクヤの三人の顔を見て言った。
「どうせカケラなら、ここじゃなくても構わないわけだよな?」
「わかんねぇ」
リクの話が難しかったのか、ソラはそう答えて横たわった。
「そういうことだ。黙って座っていても何もわからない。動かなきゃ。立ち上がらなきゃ、同じ景色しか見えないんだ」
「リクって、いろんなことを考えているんだね」
リクの背中を見ながら、カイリは静かに呟くように言った。
「カイリのおかげだよ。あ、違うな。カイリとサクヤのおかげだ」
「わたし、も?」
思わぬところで自分の名前を出されたサクヤは、驚いたような顔でリクを見た。
「二人がこの島に来なかったら、俺はきっと何も考えていなかったと思う。ありがとうな、二人とも」
彼の言葉にカイリは照れたように笑い、サクヤはきょとんとした顔で見つめ返した。
「あ、そうだ。サクヤ。何か歌を歌ってくれよ」
不意に寝転がっていたソラが起き上がって言った。
サクヤはぽかんとしたまま彼を見つめ返す。
「唐突だな」
「唐突だね」
「なんだよ。急に聴きたくなったんだから仕方ないだろ?」
ソラは少し膨れながらも、サクヤの方を向いて言った。
サクヤはこくんと小さくうなずくと、すっと立ち上がって口を開いた。
透き通るような声が、風に乗って空へ、海へと流れていく。
優しくも切ない旋律と不思議な言葉の歌詞。聴いているだけで不思議な気持ちになる、まるで魔法のような歌。
まるで、これからの旅立ちを祝福するような、どこかへ導いてくれるような。
そんな気持ちになりながら、ソラたちは目を閉じて、その歌に耳を傾けるのだった。
歌が終わると、あたりは再び波と風の音だけになった。
「さて、そろそろ帰ろうか。あんまり遅いと、また怒られちゃうしね」
「うん。今日のご飯は島ウナギだって」
「マジか。じゃあ早く帰ろうよ」
カイリが先頭を歩き、その後ろをサクヤ、ソラ、リクがついていく。
「ソラ!」
不意にリクの声が聞こえ、ソラが振り返ると途端に何かが飛んできた。
とっさに受け取ってみると、そこには手のひらほどの大きな星形の実があった。
「お前、これが欲しかったんだろ?パオプの実」
――その身を食べさせあった二人は、必ず結ばれる
――どんなに離れていても、いつか必ず
この島にあるおまじないの一種で、ソラもそのうわさは聞いたことがあった。
セルフィーも良く話してくれていたからだ。
「島を出る前に試してみた方がいいんじゃないか?」
「は、はあ!?な、なんで・・・!?」
「で、お前はどっちと試すんだ?カイリか、サクヤか」
「だ、だから意味が・・・」
そこまで言いかけて、ソラはようやく自分がからかわれていることが分かった。
笑いながら走り去るリクを、ソラはぷりぷりと怒りながら追いかける。
彼らは、その時は気付かなかった。
夜空の星が一つ、音も無く消えて言ったことを・・・・
to be continued