第四章:旅立ちの序曲X(後編)
何が起こったかわからず、サクヤは呆然とその場に立ち尽くしていた。
先ほど走った痛みも、いつの間にか消えていた。
と、
「ほう、なかなか面白い力を持っているな」
背後から聞こえた低い声に、サクヤは反射的に振り返る。
そこには、闇に溶けそうな漆黒の衣をまとった男がいた。
そのただならぬ雰囲気に、サクヤの表情がこわばる。
「あなた、は、ダレ?」
普通に問いかけたつもりだったのだが、サクヤの声はわずかに震えていた。
その問いかけに男は、フードに隠れた顔を少し上げる。
「誰、か。あえて言うなら、私は【誰でもない】存在だ。そう、君と同じように」
「わたしと、同じ?」
男の言葉に、サクヤの胸の奥がドキリとなる。
「君は我々に最も近い存在ともいえる。虚ろより生まれし存在。世界の理に背く、異端の存在」
「あなたはわたしを、わたしがどこから来たのか、知っているの?」
心臓が早鐘のように脈打ち、胸が締め付けられるようなひどい圧迫感を感じながらも、サクヤは答えを欲して男に問いかけた。
すると男は、自分の右手をそっと差し出して言った。
「私と共に来れば、君の望む物を与えよう。今の我々には、力が必要なのだ・・・」
男の言葉がゆっくりと、サクヤの耳を通って体中へとしみこんでいく。
そして、サクヤの右足が男の方へと動いた。
わたしは、何者なのか。
どこから来たのか。
あなたは、何を知っているのか。
一歩、二歩と、サクヤの足はだんだんと男の方へと近づいていく。
そして、その手に向かって自分の手を差し出そうとした、その瞬間。
――その手を取ってはダメだ
誰かの声がしたかと思うと、突然サクヤの目の前で光が破裂し、互いを大きく引き離した。
勢いが過ぎてサクヤは倒れ、男は両腕で顔をかばうようにして立っていた。
「邪魔が入ったようだな・・・」
男はそうつぶやいて、ふと海の方を一瞥した後、倒れているサクヤに顔を向けた。
「君とはいずれまた会う時が来るだろう。その時にはまた、君の答えを聞かせてもらろうか」
そう言い放つと、男の姿はまるで煙のように掻き消えてしまった。
先ほど走った痛みも、いつの間にか消えていた。
と、
「ほう、なかなか面白い力を持っているな」
背後から聞こえた低い声に、サクヤは反射的に振り返る。
そこには、闇に溶けそうな漆黒の衣をまとった男がいた。
そのただならぬ雰囲気に、サクヤの表情がこわばる。
「あなた、は、ダレ?」
普通に問いかけたつもりだったのだが、サクヤの声はわずかに震えていた。
その問いかけに男は、フードに隠れた顔を少し上げる。
「誰、か。あえて言うなら、私は【誰でもない】存在だ。そう、君と同じように」
「わたしと、同じ?」
男の言葉に、サクヤの胸の奥がドキリとなる。
「君は我々に最も近い存在ともいえる。虚ろより生まれし存在。世界の理に背く、異端の存在」
「あなたはわたしを、わたしがどこから来たのか、知っているの?」
心臓が早鐘のように脈打ち、胸が締め付けられるようなひどい圧迫感を感じながらも、サクヤは答えを欲して男に問いかけた。
すると男は、自分の右手をそっと差し出して言った。
「私と共に来れば、君の望む物を与えよう。今の我々には、力が必要なのだ・・・」
男の言葉がゆっくりと、サクヤの耳を通って体中へとしみこんでいく。
そして、サクヤの右足が男の方へと動いた。
わたしは、何者なのか。
どこから来たのか。
あなたは、何を知っているのか。
一歩、二歩と、サクヤの足はだんだんと男の方へと近づいていく。
そして、その手に向かって自分の手を差し出そうとした、その瞬間。
――その手を取ってはダメだ
誰かの声がしたかと思うと、突然サクヤの目の前で光が破裂し、互いを大きく引き離した。
勢いが過ぎてサクヤは倒れ、男は両腕で顔をかばうようにして立っていた。
「邪魔が入ったようだな・・・」
男はそうつぶやいて、ふと海の方を一瞥した後、倒れているサクヤに顔を向けた。
「君とはいずれまた会う時が来るだろう。その時にはまた、君の答えを聞かせてもらろうか」
そう言い放つと、男の姿はまるで煙のように掻き消えてしまった。