第四章:旅立ちの序曲Z(後編)
草の匂いが鼻をかすめ、そっとと目を開くとぼんやりした視界の中に緑色の草が見えた。
ゆっくりと体を起こすと、周りは真っ白な霧に包まれていてほとんど何も見えなかった。
「ここは・・・」
サクヤはぼんやりとした頭で何があったのか思い出そうとした。
確か、嵐が起きて、島に行って、ハートレスが出て、怪しい男がいて・・・
「ソラ!!」
そうだ。ソラとそこで合流した。
酷く慌てていた。リクとカイリを捜していた。
あの後、ソラをかばって闇に飲まれた後の記憶がサクヤには全くなかった。
当然のことながら、この場所にも全く見覚えがない。
ソラはどこにいるんだろう。
リクとカイリも、どこにいるんだろう。
3人を捜そうにも、周りは霧に覆われていて自分がどこにいるかもわからない状態だった。
そんな時だった。
――大丈夫かい?
どこからか声が聞こえた。
サクヤは、その声に聞き覚えがあった。
島の秘密の場所で出会った、白いローブを着た人物の声だ。
あたりを見回すと、霧の中から浮き出るように白いローブの人物がそこに立っていた。
「ここはどこ?島は、みんなは?」
「残念だけど、あの島は闇に飲まれて消えてしまったんだ」
サクヤがそう問いかけると、ローブの人物は淡々と事実を答えた。
その言葉にサクヤは、全身から冷や水を浴びせられたような感覚に陥った。
「そんな顔をしなくてもいいよ。朗報だ。島が消える寸前、君を除いた2つの心がどこかへ行くのが見えたよ。おそらくは、君と共にいた誰かだろう」
それを聞いてサクヤは思わず息を吐いた。
だが、冷静に考えると2つ、というのはおかしい。
もしも彼が言う心がサクヤの大切な人たちならば3つのはずだ。
しかし、白いローブの人物は、サクヤが問いかける前に口を開いた。
「それにしても危なかった。もう少しで闇に堕ちるところだったよ。記憶がないとことはわかっていたけれど、まさかここまでとは予想外だった」
そう言うと白いローブの人物は、仮面に隠された顔をすっとサクヤに向けた。
「不完全とはいえ、闇と戦う力がある。この扉の先には、君が行くべき場所がある」
彼がそう言った瞬間、サクヤの後ろに突如扉が出現した。
霧の中でその扉は青く、不思議な光に包まれていた。
サクヤは青白く光る扉をじっと見つめていた。
脳裏には、黒いコートの男の言葉と、ソラ、リク、カイリの顔が浮かぶ。
迷いなどなかった。
サクヤは何かを決心したように、彼を見つめた。
すると、白いローブの人物はおもむろに右手をかざすようにサクヤに向けた。
途端、サクヤの身体が白く輝き、その光が彼女の左手に集まりだした。
光が収まると、サクヤの左手には一本の細身の剣があった。
刀身は青白く光り、サクヤの顔を静かに映し出す。
「力を形にさせてもらったよ。どんな形になるかは僕もわからなかったけれど、これならば闇の勢力にも何とか対抗できそうだ」
「闇の・・・勢力?」
「そうさ。あの島を襲ったのも闇の勢力のほんの一部にすぎないんだ。詳しいことは扉の先ですぐにわかるだろう。なにしろ、僕らにはあまり時間がない」
ローブの人物はそう言って再び手をかざした。
すると、固く閉じられていた扉がゆっくり開いて光が漏れだしてくる。
「ああ、ついでに足の方は直しておいたよ」
彼の言葉にサクヤが右足を見ると、ハートレスがかすめた時についていた傷は跡形もなくなかった。
「さあ、行くといい。答えは、この先にしかないのだから」
その扉に向かってサクヤは足を進め、やがて扉が閉じるとそこに彼女の姿はなかった。
ローブの人物はじっとその扉を見つめながら、腕に抱いている子猫の人形をぎゅっと抱きしめた。
「そう・・・もう時間がないんだ・・・これが、最後の――」
それ以降の彼の言葉は、霧の中に静かに消えて行った。
ゆっくりと体を起こすと、周りは真っ白な霧に包まれていてほとんど何も見えなかった。
「ここは・・・」
サクヤはぼんやりとした頭で何があったのか思い出そうとした。
確か、嵐が起きて、島に行って、ハートレスが出て、怪しい男がいて・・・
「ソラ!!」
そうだ。ソラとそこで合流した。
酷く慌てていた。リクとカイリを捜していた。
あの後、ソラをかばって闇に飲まれた後の記憶がサクヤには全くなかった。
当然のことながら、この場所にも全く見覚えがない。
ソラはどこにいるんだろう。
リクとカイリも、どこにいるんだろう。
3人を捜そうにも、周りは霧に覆われていて自分がどこにいるかもわからない状態だった。
そんな時だった。
――大丈夫かい?
どこからか声が聞こえた。
サクヤは、その声に聞き覚えがあった。
島の秘密の場所で出会った、白いローブを着た人物の声だ。
あたりを見回すと、霧の中から浮き出るように白いローブの人物がそこに立っていた。
「ここはどこ?島は、みんなは?」
「残念だけど、あの島は闇に飲まれて消えてしまったんだ」
サクヤがそう問いかけると、ローブの人物は淡々と事実を答えた。
その言葉にサクヤは、全身から冷や水を浴びせられたような感覚に陥った。
「そんな顔をしなくてもいいよ。朗報だ。島が消える寸前、君を除いた2つの心がどこかへ行くのが見えたよ。おそらくは、君と共にいた誰かだろう」
それを聞いてサクヤは思わず息を吐いた。
だが、冷静に考えると2つ、というのはおかしい。
もしも彼が言う心がサクヤの大切な人たちならば3つのはずだ。
しかし、白いローブの人物は、サクヤが問いかける前に口を開いた。
「それにしても危なかった。もう少しで闇に堕ちるところだったよ。記憶がないとことはわかっていたけれど、まさかここまでとは予想外だった」
そう言うと白いローブの人物は、仮面に隠された顔をすっとサクヤに向けた。
「不完全とはいえ、闇と戦う力がある。この扉の先には、君が行くべき場所がある」
彼がそう言った瞬間、サクヤの後ろに突如扉が出現した。
霧の中でその扉は青く、不思議な光に包まれていた。
サクヤは青白く光る扉をじっと見つめていた。
脳裏には、黒いコートの男の言葉と、ソラ、リク、カイリの顔が浮かぶ。
迷いなどなかった。
サクヤは何かを決心したように、彼を見つめた。
すると、白いローブの人物はおもむろに右手をかざすようにサクヤに向けた。
途端、サクヤの身体が白く輝き、その光が彼女の左手に集まりだした。
光が収まると、サクヤの左手には一本の細身の剣があった。
刀身は青白く光り、サクヤの顔を静かに映し出す。
「力を形にさせてもらったよ。どんな形になるかは僕もわからなかったけれど、これならば闇の勢力にも何とか対抗できそうだ」
「闇の・・・勢力?」
「そうさ。あの島を襲ったのも闇の勢力のほんの一部にすぎないんだ。詳しいことは扉の先ですぐにわかるだろう。なにしろ、僕らにはあまり時間がない」
ローブの人物はそう言って再び手をかざした。
すると、固く閉じられていた扉がゆっくり開いて光が漏れだしてくる。
「ああ、ついでに足の方は直しておいたよ」
彼の言葉にサクヤが右足を見ると、ハートレスがかすめた時についていた傷は跡形もなくなかった。
「さあ、行くといい。答えは、この先にしかないのだから」
その扉に向かってサクヤは足を進め、やがて扉が閉じるとそこに彼女の姿はなかった。
ローブの人物はじっとその扉を見つめながら、腕に抱いている子猫の人形をぎゅっと抱きしめた。
「そう・・・もう時間がないんだ・・・これが、最後の――」
それ以降の彼の言葉は、霧の中に静かに消えて行った。