第一章:望月の歌姫V
彼女が歌う歌は、女性特有の澄んだ高い声に優しくも少し切ない旋律。そして聞いたことのない言葉の歌詞。
なんて美しいんだろう。
3人は声をかけるのをためらい、しばらく彼女の歌を黙って聴いていたが、不思議なことに、ソラは昔この歌をどこかで聞いたことがあるような錯覚に陥った。
(この歌・・・どこかで・・・でも・・・どこで?)
ソラが不思議な感覚の正体を確かめようと記憶をたどっていた時、突如歌が止まった。
彼らの気配に気づいたのか、少女がゆっくりと振り返る。
雲間から月の光が差し込み、彼女の全身を照らし出した。
紫色の髪に、肌は砂浜の砂のように白く、深い海のような真っ青な瞳の少女。
月の光に照らされ、何とも言えない幻想的な美しさを醸し出している。
ソラ達と同じくらいに見えるが、このような少女は彼らの記憶にはなかった。
見知らぬ少女はじっと3人の方を見たまま、一言も発さず動かない。
奇妙な沈黙がしばらく続いた後、その空気を換えようとソラが口を開いた。
「えっと・・・その・・・君は、誰?」
少女の瞳がソラの瞳を捕えると、彼女はか細い声でこういった。
「キミは、ダレ?」
「えっ?」
まさか質問を質問で返されると思わなかったソラは、思わず頓狂な声を上げた。
「あ、えーっと。俺はソラ。こっちは友達のリクとカイリ」
「ソラ。リク。カイリ・・・」
少女は名前を呟きながら、ゆっくりと3人の顔を滑るように見た。
「あ、うん。そうだよ。それで、君の名前は?どうしてこんなところにいるの?」
ソラが再び尋ねると、少女は首をかしげたまま「名前?名前・・・」と小さくつぶやいた。
「え、まさか、名前を忘れたのか?」
思わぬ事態にたじろぐソラに、カイリが助け舟を出した。
「じゃ、じゃあ。あなたはどこから来たの?」
「どこ・・・から・・・?」
少女はゆっくりと空を仰ぎ、地面に視線を移してから3人の顔を見て、再び首を傾げた。
「まさか、それも覚えてないってこと?」
驚きのあまり、目を見開くカイリ。
その一方、ソラとリクの脳裏には、ある光景が浮かんだ。
それは彼らが今より幼いころ。
今は二人の友人であるカイリは、実はこの島の者ではなかった。
どこか別の世界(と、二人は思っている)からやってきた人間だった。
だが、カイリと違ってこの少女は自分の名前すら覚えていないというのだ。
「これってひょっとして、【記憶喪失】って奴じゃないか?」
「きおく・・・なんだって?」
「記憶喪失。何らかの原因で何も思い出せなくなるって奴だよ。確か前に本で読んだ」
リクがそう説明すると、ソラは「きおくそうしつ・・・」とつぶやいて少女を見た。
「ど、どうしようか?リク、カイリ」
「どうしようって言っても・・・」
3人は困惑した様子で互いの顔を見合わせている。
そんなことにもお構いなしに、少女はぼうっと暗い空を見上げている。
リクの声が、その沈黙を破った。
「とりあえず、村に連れて帰ろう。こんなところにいたら危ないし、もしかしたら誰かがこの子のことを知っているかもしれない」
「そうだね。そうしよう。君も、それでいいよね?」
ソラが促すと、少女はゆっくりとうなずいた。
「じゃあ、早く帰ろう。もうだいぶ時間も遅いし、みんな心配してるよ」
「うう・・・きっと怒られるだろうな・・・」
各々が様々な胸の内を口にする中、少女は一言も話さないままソラたちの後をついてきた。
リクが少女を一緒に船に乗せて、月光で照らされた漆黒の海を3つの小舟は本島に向かって水の筋を残していった。
この時、彼らは知らなかった。
いつもの場所の地面から、得体のしれない黒いものが這い上がっていくのを・・・
なんて美しいんだろう。
3人は声をかけるのをためらい、しばらく彼女の歌を黙って聴いていたが、不思議なことに、ソラは昔この歌をどこかで聞いたことがあるような錯覚に陥った。
(この歌・・・どこかで・・・でも・・・どこで?)
ソラが不思議な感覚の正体を確かめようと記憶をたどっていた時、突如歌が止まった。
彼らの気配に気づいたのか、少女がゆっくりと振り返る。
雲間から月の光が差し込み、彼女の全身を照らし出した。
紫色の髪に、肌は砂浜の砂のように白く、深い海のような真っ青な瞳の少女。
月の光に照らされ、何とも言えない幻想的な美しさを醸し出している。
ソラ達と同じくらいに見えるが、このような少女は彼らの記憶にはなかった。
見知らぬ少女はじっと3人の方を見たまま、一言も発さず動かない。
奇妙な沈黙がしばらく続いた後、その空気を換えようとソラが口を開いた。
「えっと・・・その・・・君は、誰?」
少女の瞳がソラの瞳を捕えると、彼女はか細い声でこういった。
「キミは、ダレ?」
「えっ?」
まさか質問を質問で返されると思わなかったソラは、思わず頓狂な声を上げた。
「あ、えーっと。俺はソラ。こっちは友達のリクとカイリ」
「ソラ。リク。カイリ・・・」
少女は名前を呟きながら、ゆっくりと3人の顔を滑るように見た。
「あ、うん。そうだよ。それで、君の名前は?どうしてこんなところにいるの?」
ソラが再び尋ねると、少女は首をかしげたまま「名前?名前・・・」と小さくつぶやいた。
「え、まさか、名前を忘れたのか?」
思わぬ事態にたじろぐソラに、カイリが助け舟を出した。
「じゃ、じゃあ。あなたはどこから来たの?」
「どこ・・・から・・・?」
少女はゆっくりと空を仰ぎ、地面に視線を移してから3人の顔を見て、再び首を傾げた。
「まさか、それも覚えてないってこと?」
驚きのあまり、目を見開くカイリ。
その一方、ソラとリクの脳裏には、ある光景が浮かんだ。
それは彼らが今より幼いころ。
今は二人の友人であるカイリは、実はこの島の者ではなかった。
どこか別の世界(と、二人は思っている)からやってきた人間だった。
だが、カイリと違ってこの少女は自分の名前すら覚えていないというのだ。
「これってひょっとして、【記憶喪失】って奴じゃないか?」
「きおく・・・なんだって?」
「記憶喪失。何らかの原因で何も思い出せなくなるって奴だよ。確か前に本で読んだ」
リクがそう説明すると、ソラは「きおくそうしつ・・・」とつぶやいて少女を見た。
「ど、どうしようか?リク、カイリ」
「どうしようって言っても・・・」
3人は困惑した様子で互いの顔を見合わせている。
そんなことにもお構いなしに、少女はぼうっと暗い空を見上げている。
リクの声が、その沈黙を破った。
「とりあえず、村に連れて帰ろう。こんなところにいたら危ないし、もしかしたら誰かがこの子のことを知っているかもしれない」
「そうだね。そうしよう。君も、それでいいよね?」
ソラが促すと、少女はゆっくりとうなずいた。
「じゃあ、早く帰ろう。もうだいぶ時間も遅いし、みんな心配してるよ」
「うう・・・きっと怒られるだろうな・・・」
各々が様々な胸の内を口にする中、少女は一言も話さないままソラたちの後をついてきた。
リクが少女を一緒に船に乗せて、月光で照らされた漆黒の海を3つの小舟は本島に向かって水の筋を残していった。
この時、彼らは知らなかった。
いつもの場所の地面から、得体のしれない黒いものが這い上がっていくのを・・・