第二章:与えられた存在T
翌日の朝。
海鳥のさえずる声をぼんやりと聞きながら、ソラは布団をかぶったままうっすらと目を開けた。
窓の外からは朝日が差し込み、もう夜は完全に明けていることを理解する。
しかし、まだ完全に覚醒していないソラは、再び夢の世界へ旅立とうとまぶたを閉じようとする。
そしてそのまま寝返りを打とうとしたその時。
彼の手に、何かが触れた。
そして次の瞬間。ソラの意識は一気に覚醒した。
隣に見知らぬ少女が、さも当たり前のように寄り添って小さな寝息を立てていた。
普段なら決してありえない光景に、ソラは必死に昨日の事を思い出す。
(確か昨日は・・・歌う幽霊を捜しに行って・・・あ、そうだ。離れ小島でこの子を見つけたんだ)
名前を含む全ての記憶を失った少女を、ソラはどうしても放っておくことができず母親に無理を言って連れてきてもらったのだった。
だが、昨日の夜。彼女はソラの母親の部屋で寝たはずだ。
それが何故か、今ソラの隣で眠っている。
ソラはどうしたらいいかわからず、頭をかきながら困ったように少女を見る。
すると、彼女の閉じられていた蒼い瞳がゆっくりと開いてソラを映した。
そのまま、しばらく無言で見つめあう二人。
その時だった。
「ソラ、起きてる!?大変なのよ!」
部屋の外から母の切羽詰まった声が聞こえた。
「あの子がどこにもいないのよ!もしかしたら勝手に出て行っちゃったのかも・・・」
「・・・それなら大丈夫。今、ここにいるよ」
「・・・え?」
ソラが答えると、母はドアを開け眠っている少女を見て胸をなでおろし、同時にため息を吐いた。
「そんなにソラと一緒がよかったのかしら、その子。でも、年頃の女の子が男の子と同じ部屋に寝ちゃいけないわね」
母は呆れたようにそう言ってから、ソラに着替えるように促し、少女には自分の部屋で着替えるように言った。
少女は不思議そうな顔でソラと母親を交互に見た後、小さくうなずいてソラの部屋を後にした。
残されたソラは、困ったようにただ頭をかいていた。