第9章 影と真と ]
『冥府の法』により黄泉との行き来が可能となったスポットは、まずその世界に住む死人に巣食ったのだろう。だとすれば、完成した『冥府の法』でこの世界と黄泉が繋がった時、そこから現れるのは死人の姿を借りたスポットということになる。“死者が生き返る”カラクリはこれだったのだ。ロイン達はそのことを理解し、ヴォイドや目の前の穴から現れた人々を見る。つまり、『冥府の法』によって出現した彼らは、人の姿をした魔だということになる。その非道徳的な有様に、ルビアが「なんてことを…!」と奥歯を鳴らして呟く。
「…待てよ。てめぇがスポットの仲間ってことは、ガルザの父親も、その『冥府の法』でスポットにとり憑かせて利用されていたってことか?」
その時、はっと表情を変え、ロインがあることに気が付いた。バキラは確かに『ワシと我が同胞とで、そうするよう仕向けたこと』と言っていた。その『同胞』がスポットのことであるならば…。ロインとガルザの顔が、いつになく怖いものになる。そして、彼らの予想は裏切られることはなかった。
「ふん。低脳な鼠の子も、やはり低脳な鼠よの。」
バキラはニタッと笑みを浮かべ、彼らに吐き捨てた。途端に、ロイン達は一気に顔を怒りで赤くする。その感情を抑えきれなくなり、ロインはティマをそっと床に下ろすと、一気に剣を振りかざして駆け出した。それに続き、ガルザももう一方から剣を向けて走り出す。
「…さて、鼠共と喋るのも飽きたわい。」
そんな剣幕の2人をさておき、ふと気の抜けた声がバキラからこぼれた。次の瞬間、彼を中心に黒い波動がロイン達目掛けて放たれた。防御の構えをとっていないロイン、ガルザ、そして咄嗟に身をかがめたカイウスとルビアの胴体へ衝撃が襲い掛かる。そして4人の身体は、そのまま玉座から吹き飛ばされ、下の広間へと叩きつけられてしまった。
「ぐぅっ、かはっ…!」
腹に入った強烈な一撃。加えて全身を叩きつけられ、激しい痛みと吐き気がやってくる。朦朧としそうな意識を何とか保ち、手を突いて立ち上がろうとする。口に血の味が広がるが、気にしてる場合ではない。ロイン達は各々の武器を杖代わりにして、よろよろと立ち上がった。その時目に入ったのは、玉座の前にひとり取り残されたティマに手をかざしている老人の姿だった。
「ぐ…うっ……」
「ティマ!!」
ロインは目を見開き、彼女の名を叫ぶ。ティマの身体は見えない力で宙に浮かんでいた。バキラがかざす手のひらの延長線上には彼女の胸倉があり、老人の頭より少し高い位置で少女の体は静止していた。何かに拘束されているようで、苦しそうな呻き声がティマの口から時折漏れる。
「ティマを放しなさ…きゃあ!?」
「ルビア!!」
相変わらずの強気な眼差しをもって、ルビアは詠唱の体勢に入ろうとした。しかし、その構えをとった瞬間、彼女の身体を強く押さえつける何者かが現れた。それは、ようやくフレアのプリセプツから行動を回復させたヴォイドだった。やや苛立ちのこもった笑みを浮かべ、ルビアを痛めつけている。そんな彼女を助けようと向かったカイウスは、ヴォイドの強烈な一撃を食らってしまい、ベディーとラミーの2人がいるところまで吹き飛ばされ、ベディーに受け止めてもらうことになってしまう。しかし、カイウスが飛ばされた直後、ラミーが動く右手で銃弾を放ち、ヴォイドの動きを怯ませることに成功させたのだ。その隙を狙い、ルビアが力の限り暴れ、そこにガルザの剣が加わる。ヴォイドはやむなくルビアを手放したが、その顔に浮かんでいるのは勝ち誇ったような笑み。そして彼が移した視線の先にあるのは、ティマを捕らえているほうと逆の腕を伸ばし、巨大なプリセプツを彼女目掛けて今まさに放とうとしているバキラの姿。ティマの表情はさらに苦しそうになっており、バキラの手に収束していく力は凄まじかった。これから使用しようとしているものを直撃で食らってしまえば、ひとたまりもないだろう。
「お前ノ役割は、スデニ終わッタ。その苦しミカら、今すぐ解放してヤロウ。…案ズルな。両親トモ、スグに向こうデ会える。」
赤く大きく裂けた口がニタリと不気味に笑っている。バキラの姿は多くの黒い靄に覆われ、もはや人間とは思えないものに変わっていた。しかも、プリセプツはすでに完成されている。今すぐにだって、彼女の命を絶つことは可能な状況だ。
「やめろぉぉおおおおっ!!!」
「ティマーーーっ!!」
ロインとラミーの叫びが同時に響く。体の痛みなど無視し、剣を握って駆け、銃の引き金を引いた。だが、ロインの前にはまたしてもヴォイドが立ちはだかる。ラミーは片目のせいか照準がうまく合わずに狙いがはずれ、しかし銃弾が直撃した様子を見せても、バキラになんら変化は無い。悔しさで奥歯を鳴らし、少女に目を向けた、ちょうどその時だった。
―――ティマの姿が見えなくなった
バンという音を立て、少女は光線に包まれた。その瞬間、ラミーの脳にある映像がよみがえった。それは、変わり果てたヴァニアスの腕が自分の目の前に現れた瞬間―――何も残らないという絶望だった。
「…うそ……。」
ラミーの手から銃が滑り落ち、乾いた音を立てた。赤い瞳は大きく揺らぎ、ガクッと膝をつく。
「ティマリア姫、そんな…!」
目の前の光景が信じられない。フレアはそう言うように、首を静かに左右に振る。他の者たちも、ひとりの大きな存在の消失に目を疑い、玉座に釘付けになっている。
「いやぁあああああああああああああっ!!!」
「うぉおおおおおおああああああああっ!!!」
絶対に助けると誓った存在の喪失。ラミーは頭を抱えて泣き叫び、ロインは怒りでバキラに突っ込んでいった。だが、その前にはヴォイドが立ちはだかっている。
「ロイン!」
そこへガルザが駆けつけ、ロインの代わりにヴォイドの拳を受け止めた。そのチャンスを逃さず、ロインはヴォイドの横を一気に駆けあげる。ヴォイドは少年を行かせてしまったことに舌を打ち、ガルザに拳を放っていく。しかし、ガルザはなかなか倒れない。その間にロインとバキラの距離は縮まり、彼は剣を思い切り振り上げた。だが
「愚カナ。」
再びバンと大きな音がした。バキラはロインの目の前で、ティマに食らわせたのと同じ、レーザーのようなプリセプツを放った。
「「「ロイン!!」」」
カイウス、ルビア、そしてガルザの声が彼の名を叫んだ。しかし、その時にはもう、少年の姿は光線に包まれ、見えなくなっていた。
「…待てよ。てめぇがスポットの仲間ってことは、ガルザの父親も、その『冥府の法』でスポットにとり憑かせて利用されていたってことか?」
その時、はっと表情を変え、ロインがあることに気が付いた。バキラは確かに『ワシと我が同胞とで、そうするよう仕向けたこと』と言っていた。その『同胞』がスポットのことであるならば…。ロインとガルザの顔が、いつになく怖いものになる。そして、彼らの予想は裏切られることはなかった。
「ふん。低脳な鼠の子も、やはり低脳な鼠よの。」
バキラはニタッと笑みを浮かべ、彼らに吐き捨てた。途端に、ロイン達は一気に顔を怒りで赤くする。その感情を抑えきれなくなり、ロインはティマをそっと床に下ろすと、一気に剣を振りかざして駆け出した。それに続き、ガルザももう一方から剣を向けて走り出す。
「…さて、鼠共と喋るのも飽きたわい。」
そんな剣幕の2人をさておき、ふと気の抜けた声がバキラからこぼれた。次の瞬間、彼を中心に黒い波動がロイン達目掛けて放たれた。防御の構えをとっていないロイン、ガルザ、そして咄嗟に身をかがめたカイウスとルビアの胴体へ衝撃が襲い掛かる。そして4人の身体は、そのまま玉座から吹き飛ばされ、下の広間へと叩きつけられてしまった。
「ぐぅっ、かはっ…!」
腹に入った強烈な一撃。加えて全身を叩きつけられ、激しい痛みと吐き気がやってくる。朦朧としそうな意識を何とか保ち、手を突いて立ち上がろうとする。口に血の味が広がるが、気にしてる場合ではない。ロイン達は各々の武器を杖代わりにして、よろよろと立ち上がった。その時目に入ったのは、玉座の前にひとり取り残されたティマに手をかざしている老人の姿だった。
「ぐ…うっ……」
「ティマ!!」
ロインは目を見開き、彼女の名を叫ぶ。ティマの身体は見えない力で宙に浮かんでいた。バキラがかざす手のひらの延長線上には彼女の胸倉があり、老人の頭より少し高い位置で少女の体は静止していた。何かに拘束されているようで、苦しそうな呻き声がティマの口から時折漏れる。
「ティマを放しなさ…きゃあ!?」
「ルビア!!」
相変わらずの強気な眼差しをもって、ルビアは詠唱の体勢に入ろうとした。しかし、その構えをとった瞬間、彼女の身体を強く押さえつける何者かが現れた。それは、ようやくフレアのプリセプツから行動を回復させたヴォイドだった。やや苛立ちのこもった笑みを浮かべ、ルビアを痛めつけている。そんな彼女を助けようと向かったカイウスは、ヴォイドの強烈な一撃を食らってしまい、ベディーとラミーの2人がいるところまで吹き飛ばされ、ベディーに受け止めてもらうことになってしまう。しかし、カイウスが飛ばされた直後、ラミーが動く右手で銃弾を放ち、ヴォイドの動きを怯ませることに成功させたのだ。その隙を狙い、ルビアが力の限り暴れ、そこにガルザの剣が加わる。ヴォイドはやむなくルビアを手放したが、その顔に浮かんでいるのは勝ち誇ったような笑み。そして彼が移した視線の先にあるのは、ティマを捕らえているほうと逆の腕を伸ばし、巨大なプリセプツを彼女目掛けて今まさに放とうとしているバキラの姿。ティマの表情はさらに苦しそうになっており、バキラの手に収束していく力は凄まじかった。これから使用しようとしているものを直撃で食らってしまえば、ひとたまりもないだろう。
「お前ノ役割は、スデニ終わッタ。その苦しミカら、今すぐ解放してヤロウ。…案ズルな。両親トモ、スグに向こうデ会える。」
赤く大きく裂けた口がニタリと不気味に笑っている。バキラの姿は多くの黒い靄に覆われ、もはや人間とは思えないものに変わっていた。しかも、プリセプツはすでに完成されている。今すぐにだって、彼女の命を絶つことは可能な状況だ。
「やめろぉぉおおおおっ!!!」
「ティマーーーっ!!」
ロインとラミーの叫びが同時に響く。体の痛みなど無視し、剣を握って駆け、銃の引き金を引いた。だが、ロインの前にはまたしてもヴォイドが立ちはだかる。ラミーは片目のせいか照準がうまく合わずに狙いがはずれ、しかし銃弾が直撃した様子を見せても、バキラになんら変化は無い。悔しさで奥歯を鳴らし、少女に目を向けた、ちょうどその時だった。
―――ティマの姿が見えなくなった
バンという音を立て、少女は光線に包まれた。その瞬間、ラミーの脳にある映像がよみがえった。それは、変わり果てたヴァニアスの腕が自分の目の前に現れた瞬間―――何も残らないという絶望だった。
「…うそ……。」
ラミーの手から銃が滑り落ち、乾いた音を立てた。赤い瞳は大きく揺らぎ、ガクッと膝をつく。
「ティマリア姫、そんな…!」
目の前の光景が信じられない。フレアはそう言うように、首を静かに左右に振る。他の者たちも、ひとりの大きな存在の消失に目を疑い、玉座に釘付けになっている。
「いやぁあああああああああああああっ!!!」
「うぉおおおおおおああああああああっ!!!」
絶対に助けると誓った存在の喪失。ラミーは頭を抱えて泣き叫び、ロインは怒りでバキラに突っ込んでいった。だが、その前にはヴォイドが立ちはだかっている。
「ロイン!」
そこへガルザが駆けつけ、ロインの代わりにヴォイドの拳を受け止めた。そのチャンスを逃さず、ロインはヴォイドの横を一気に駆けあげる。ヴォイドは少年を行かせてしまったことに舌を打ち、ガルザに拳を放っていく。しかし、ガルザはなかなか倒れない。その間にロインとバキラの距離は縮まり、彼は剣を思い切り振り上げた。だが
「愚カナ。」
再びバンと大きな音がした。バキラはロインの目の前で、ティマに食らわせたのと同じ、レーザーのようなプリセプツを放った。
「「「ロイン!!」」」
カイウス、ルビア、そしてガルザの声が彼の名を叫んだ。しかし、その時にはもう、少年の姿は光線に包まれ、見えなくなっていた。