第10章 異変… [
「どういう、意味だよ…!?」
ラミーまで戦えなくなる。それを聞き、本人は黙っていられるはずがない。怒りとも戸惑いともとれる表情でベディーを睨みつけ、その胸倉を荒くつかんだ。
「あたいが戦えなくなるだと!?何を根拠に言ってんだよ。おい、ベディー!」
「ラミー、落ち着けって」
「うるさい!カイウスは黙ってな!何がどうしたらあたいが戦えなくなるだって?言ってみなよ!」
その手を離そうとするカイウスにも怒鳴り声を上げ、再びまっすぐベディーを見る。ベディーは軽く深呼吸をし、ラミーの赤い瞳を見詰め返した。
「…ヴァニアスさんから聞いていた君と、これまでの君はだいぶ違っていた。それが何故かわからなかったし、君に告げるほどの内容でもないと思っていたから、これまで黙っていたけど…。」
「だから何が言いたいんだよ?はっきりしろよ!」
「ラミー。君は体が弱かったんだ。」
「「「「「…え?」」」」」
静かに放たれた予想外の言葉。2人を見守っていたロインたちも、思わず驚きの声を漏らし、ラミーは胸倉を掴んでいた手を緩めた。しかし、赤い瞳はまだ彼を捉えたままになっており、次の言葉を待っていた。
「ヴァニアスさんが言ってたよ。生まれつき病弱らしいって。僕も、初めて君に会った頃を覚えているよ。気づけば咳ばっかりで、時々苦しそうに泣いていた。」
ロイン達が、それにラミー自身が知る彼女の姿とはかけ離れた言葉。だが、彼の言う事が嘘でないことは、ラミーにまっすぐ向けられる淡紫の瞳から理解できる。それだけに、彼らは言葉を失い、何を言えばいいのか思いつかなかった。それをベディーも理解しているからだろう、彼自身も少し戸惑った表情で続けた。
「けど、久しぶりに会った君は、健康そのものだった。むしろ、元気すぎて困るくらい。ヴァニアスさんも、心当たりはないらしくて…。だけど、そんな君が、また病弱な頃の体に戻っているんだとしたら…?」
「! そんな、なんで今頃…!?」
そう声を上げたのはティマ。今はなんとしても、スポットたちを抑えるために力が必要だ。それなのに、自分だけでなくラミーまでも戦う力がなくなってしまうことになるなど、思いもしなかったことだ。それに、ラミーはティマと違い『冥府の法』の影響を受けたわけではないはず。明らかな原因はないように思えた。
「ちょっと待てよ。」
その時、ふと何かを思い出したように、ロインが声を発した。手を顎に当て、記憶をたどり、それからまた口を開いた。
「これまでのラミーにあって、今のラミーにない物。もしかして、何か関係してるんじゃないのか?」
「どういう意味だ?」
ロインの言いたい事が理解できず、カイウスは首をかしげた。そんな彼の方を向き、ロインは言った。
「『白晶の装具(クリスタル・トゥール)』だ。」
「「「「「え?」」」」」
今度はロイン以外の5人が疑問の声を上げた。ロインはその反応にかまわず、ティマ、カイウス、ルビアに視線を向けながら続けた。
「ティマとカイウス、それにルビアには、前にケノンで話したよな?オレの母さん、グレシアが致命傷を負っていたにも関わらず、ガルザを退けたって。」
「ええ。けど、それが何?」
「体力の弱っている人間が、それ以上の活動を可能にした。母さんとラミー、2人とも同じだ!あの時、母さんは『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』を身に着けてた。ラミーも、なんともなかったのは『白晶の耳飾(クリスタル・ピアス)』を着けてる時だったんじゃないか?」
「あっ!」
言われてみれば、そうだった。ティマは手を口に当て、はっと目を見開いた。『白晶の装具』には、彼らが知らない秘密がある。それは、これまでの旅の中で実感していた。だとすれば、ロインが推測したような力が備わっていようと、なんらおかしくはない。むしろ辻褄が合う。
「だとすると、それを確かめるためには『白晶の装具』について調べる必要もあるな。」
ベディーの言葉に、皆が頷いた。だが、すぐにルビアの暗い声がした。
「けれど、どうやって?『白晶の装具』、全部砕けてなくなっちゃったわよね?」
そう。『冥府の法』を行った際、それは全て砕けて消えてしまっていた。だが、その心配はすぐに晴れた声によって薄まった。
「確か、ロインのお父さんって学者さんで、いろいろなことについて研究してたんだったよね?」
そう尋ねたのはティマ。その問いに、ロインはぎこちなくも肯定した。
「だったら、イーバオに戻って、おじさんの書斎を調べたら、何か出てきたりしないかな?お母さんは『白晶の装具』の一つを持っていたんだし、きっと関心を持って調べてるよ!」
「そんな都合のいい話が…」
ラミーがそう口を挟むと、ティマはムキになったように彼女を見て続けた。
「そうじゃなかったら、ケノンの図書館や、スディアナに行って王様達に聞いてみればいいわ!何かしら手がかりは残ってるよ、きっと!」
「わかった、わかった!わかったから怒るなって。」
ラミーは少し戸惑いながらも、呆れた表情で納得して見せた。そのやりとりに、思わずカイウスは笑い声をあげた。
「ははっ。ティマの言う通りかもな。けど、とりあえず今はジャンナに行こう。マウディーラに向かうのは、その後で構わないか?」
そう言うと、ティマはカイウスに向き直り、首を縦に振った。すると、カイウスは微笑み、ナルスへ向かって歩き出した。
「よし!じゃあ、ナルスへ急ごうぜ!」
「ちょっと待った!」
だが、その声を遮る大声が響いた。驚いて声の主を見ると、その前に、というように、ラミーがロインの肩を組んでいた。
「ロイン。あんた、さり気なくあたいの事名前で呼んでたよね?」
「…!」
「あはは!照れるなって!そうか。やっと名前で呼んでくれる気になったか」
「うるさい、黙れ!っていうか、離れろ!」
「ちょ、ちょっとロイン!」
照れ隠しなのだろうが、今にも赤い顔をしてラミーに抜刀しそうな勢いの彼を見て、ティマは慌てて抑えにかかった。その様子を見て、カイウスたちは思わず笑っていた。ティマもロインを抑えながらも、心の中で笑っていた。また一人、彼が心を開いた人物が増えたことを、自分のことのように喜んでいた。
ラミーまで戦えなくなる。それを聞き、本人は黙っていられるはずがない。怒りとも戸惑いともとれる表情でベディーを睨みつけ、その胸倉を荒くつかんだ。
「あたいが戦えなくなるだと!?何を根拠に言ってんだよ。おい、ベディー!」
「ラミー、落ち着けって」
「うるさい!カイウスは黙ってな!何がどうしたらあたいが戦えなくなるだって?言ってみなよ!」
その手を離そうとするカイウスにも怒鳴り声を上げ、再びまっすぐベディーを見る。ベディーは軽く深呼吸をし、ラミーの赤い瞳を見詰め返した。
「…ヴァニアスさんから聞いていた君と、これまでの君はだいぶ違っていた。それが何故かわからなかったし、君に告げるほどの内容でもないと思っていたから、これまで黙っていたけど…。」
「だから何が言いたいんだよ?はっきりしろよ!」
「ラミー。君は体が弱かったんだ。」
「「「「「…え?」」」」」
静かに放たれた予想外の言葉。2人を見守っていたロインたちも、思わず驚きの声を漏らし、ラミーは胸倉を掴んでいた手を緩めた。しかし、赤い瞳はまだ彼を捉えたままになっており、次の言葉を待っていた。
「ヴァニアスさんが言ってたよ。生まれつき病弱らしいって。僕も、初めて君に会った頃を覚えているよ。気づけば咳ばっかりで、時々苦しそうに泣いていた。」
ロイン達が、それにラミー自身が知る彼女の姿とはかけ離れた言葉。だが、彼の言う事が嘘でないことは、ラミーにまっすぐ向けられる淡紫の瞳から理解できる。それだけに、彼らは言葉を失い、何を言えばいいのか思いつかなかった。それをベディーも理解しているからだろう、彼自身も少し戸惑った表情で続けた。
「けど、久しぶりに会った君は、健康そのものだった。むしろ、元気すぎて困るくらい。ヴァニアスさんも、心当たりはないらしくて…。だけど、そんな君が、また病弱な頃の体に戻っているんだとしたら…?」
「! そんな、なんで今頃…!?」
そう声を上げたのはティマ。今はなんとしても、スポットたちを抑えるために力が必要だ。それなのに、自分だけでなくラミーまでも戦う力がなくなってしまうことになるなど、思いもしなかったことだ。それに、ラミーはティマと違い『冥府の法』の影響を受けたわけではないはず。明らかな原因はないように思えた。
「ちょっと待てよ。」
その時、ふと何かを思い出したように、ロインが声を発した。手を顎に当て、記憶をたどり、それからまた口を開いた。
「これまでのラミーにあって、今のラミーにない物。もしかして、何か関係してるんじゃないのか?」
「どういう意味だ?」
ロインの言いたい事が理解できず、カイウスは首をかしげた。そんな彼の方を向き、ロインは言った。
「『白晶の装具(クリスタル・トゥール)』だ。」
「「「「「え?」」」」」
今度はロイン以外の5人が疑問の声を上げた。ロインはその反応にかまわず、ティマ、カイウス、ルビアに視線を向けながら続けた。
「ティマとカイウス、それにルビアには、前にケノンで話したよな?オレの母さん、グレシアが致命傷を負っていたにも関わらず、ガルザを退けたって。」
「ええ。けど、それが何?」
「体力の弱っている人間が、それ以上の活動を可能にした。母さんとラミー、2人とも同じだ!あの時、母さんは『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』を身に着けてた。ラミーも、なんともなかったのは『白晶の耳飾(クリスタル・ピアス)』を着けてる時だったんじゃないか?」
「あっ!」
言われてみれば、そうだった。ティマは手を口に当て、はっと目を見開いた。『白晶の装具』には、彼らが知らない秘密がある。それは、これまでの旅の中で実感していた。だとすれば、ロインが推測したような力が備わっていようと、なんらおかしくはない。むしろ辻褄が合う。
「だとすると、それを確かめるためには『白晶の装具』について調べる必要もあるな。」
ベディーの言葉に、皆が頷いた。だが、すぐにルビアの暗い声がした。
「けれど、どうやって?『白晶の装具』、全部砕けてなくなっちゃったわよね?」
そう。『冥府の法』を行った際、それは全て砕けて消えてしまっていた。だが、その心配はすぐに晴れた声によって薄まった。
「確か、ロインのお父さんって学者さんで、いろいろなことについて研究してたんだったよね?」
そう尋ねたのはティマ。その問いに、ロインはぎこちなくも肯定した。
「だったら、イーバオに戻って、おじさんの書斎を調べたら、何か出てきたりしないかな?お母さんは『白晶の装具』の一つを持っていたんだし、きっと関心を持って調べてるよ!」
「そんな都合のいい話が…」
ラミーがそう口を挟むと、ティマはムキになったように彼女を見て続けた。
「そうじゃなかったら、ケノンの図書館や、スディアナに行って王様達に聞いてみればいいわ!何かしら手がかりは残ってるよ、きっと!」
「わかった、わかった!わかったから怒るなって。」
ラミーは少し戸惑いながらも、呆れた表情で納得して見せた。そのやりとりに、思わずカイウスは笑い声をあげた。
「ははっ。ティマの言う通りかもな。けど、とりあえず今はジャンナに行こう。マウディーラに向かうのは、その後で構わないか?」
そう言うと、ティマはカイウスに向き直り、首を縦に振った。すると、カイウスは微笑み、ナルスへ向かって歩き出した。
「よし!じゃあ、ナルスへ急ごうぜ!」
「ちょっと待った!」
だが、その声を遮る大声が響いた。驚いて声の主を見ると、その前に、というように、ラミーがロインの肩を組んでいた。
「ロイン。あんた、さり気なくあたいの事名前で呼んでたよね?」
「…!」
「あはは!照れるなって!そうか。やっと名前で呼んでくれる気になったか」
「うるさい、黙れ!っていうか、離れろ!」
「ちょ、ちょっとロイン!」
照れ隠しなのだろうが、今にも赤い顔をしてラミーに抜刀しそうな勢いの彼を見て、ティマは慌てて抑えにかかった。その様子を見て、カイウスたちは思わず笑っていた。ティマもロインを抑えながらも、心の中で笑っていた。また一人、彼が心を開いた人物が増えたことを、自分のことのように喜んでいた。