第11章 懐かしき人と悲しき別れ X
アーリアが話す最中、そしてそれが終わってもなお、外の騒がしさは一層遠くに思えた。それだけロイン達を包む空気が静かだったのだ。
「じゃあ、アーリアがジャンナにいるのは、ティルキスを探すためか?」
「ええ。けど、そうしたらこっちもこの有様で…。」
カイウスの言葉にそう言って、アーリアはそれまでの泣きそうな顔から変わり果てたジャンナを想っての辛い顔になる。そんな彼女の斜め後ろに腰かけていたルキウスも同じような顔になった。
「アーリアの話を聞いて驚いたよ。このジャンナも、同時期にスポットに襲われたんだ。」
その言葉を聞き、ロイン達が驚いたのは言うまでもない。同時に、それも遠く離れた場所で起きた同じ事件。そんなことがあり得るのだろうか?カイウスやルビア、それにアーリアやルキウス、2年前の戦いに携わった者たちは特に疑問を抱く。
「なあ。ジャンナもスポットゾンビに襲われたって言うのか?」
ラミーがそう口を開いた。ルキウスが首を振って肯定すると、ロインは眉をひそめ、続けて彼に問いかけた。
「なら、ジャンナで『冥府の法』を行った術者がいたはずだ。お前、見てないのか?」
「「『冥府の法』?」」
何も知らないアーリアとルキウスは、口をそろえてロインに疑問の目を向けた。すると、カイウスとルビアがその説明を買って出て、その巨大プリセプツに加え、マウディーラでの旅やアール山で起きたことを2人に話して聞かせた。バキラのことや『冥府の法』について、2人はやはり驚愕した。だが、同時にそれぞれが遭遇した出来事に合点がいったようで、それまで以上に冷静な表情に変わった。特にルキウスは、彼らの話を聞いて何かを思いついたらしく、真剣を通り越し深刻な顔つきになった。
「兄さん。皆。僕についてきて。」
ルキウスはそう言って立ち上がると、礼拝堂の奥にある廊下へ向かって歩き出した。ロイン達も彼の後を追って行くと、廊下の奥にある広い一室へと通された。シンプルで何もない部屋。最奥にある石像は、優しそうな表情をした一人の女性のようだった。その石像の目の前にある空間に、黒い穴が開いていた。
「ルキウス、ここは?それに、あの穴ってまさか…。」
ティマがどこか怯えに近い表情を浮かべて尋ねた。宙の穴を見つめ、ロイン達に背を向けたままだったルキウスは振り返り、カイウスを見ながら口を開いた。
「兄さん、覚えてる?この部屋のこと。」
「ああ。2年前、教皇と戦った場所だ。」
カイウスは迷わずに答えたが、その表情はどこか悲しそうだった。その理由を知るルビアとアーリアも表情を曇らせたが、ロイン達はその変化に気付かなかった。だが、ルキウスはそれに構わず、カイウスの言葉に頷き話を続けた。
「そう。ここで教皇様と僕、そしてロミーは『生命の法』の実験を繰り返していたんだ。そして、あの穴が『冥府の法』で開かれた“門”だよ。一昨日の晩になって、なんとかプリセプツで押さえつける事に成功したけど、それもいつまでもつか…。」
彼がそう言った矢先、小さな黒穴からそれに似つかわしくない鈍い大きな音がした。何事かとロイン達は一瞬怯んだが、すぐに理解した。穴の向こう側からスポットがこちらに出ようともがいており、それを封じる何かのプリセプツがぶつかったのだ。
「どうして、わざわざここで『冥府の法』を?」
そう疑問を口にしたのはルビアだ。かつて『生命の法』の完成を目指した場所。同じ場所で、今度は『冥府の法』が行われた。偶然か、或いは何か意図があったのだろうか。思考を巡らせていると、またもルキウスが口を開いた。
「兄さん。『冥府の法』が行われた時、ペイシェントに似ている『白晶の装具』というのはいくつあった?」
「え?確か4つだけど、それがどうかしたのか?」
カイウスはきょとんとした表情で弟を見る。すると、彼は「あくまで推測だけど」と自身の考えを述べた。
「この場所は何回か『生命の法』を行ったことがある。そのせいで、異界と繋がりやすくなっていたのかもしれない。」
「つまり?」
「バキラが、あの遠距離から同時に複数の『冥府の法』を発動させたのかもしれない。ティマに身に着けさせた『白晶の装具』一つ一つがペイシェントに並ぶ魔力を秘めているなら、術者に負担はかかるけど、その数だけ魔力を分散させて、同時に“門”を複数開くことは不可能じゃないと思う。」
「ってことは…!」
ルキウスの言葉に、皆が目を見開いた。その中で、特にアーリアが驚愕に満ちた表情を浮かべる。ルキウスの推測通り、バキラが発動させた一回の『冥府の法』を『白晶の装具』の数だけ複数同時に発動させていたとしたら、ジャンナとセンシビアで同時にスポットの襲撃があったというのは偶然ではない。ジャンナ同様、かつてセンシビアでも『生命の法』の実験が行われていたからだ。またしても関係のない人々がスポットの犠牲になった。カイウス達の拳には、怒りから自然と力が込められる。
「…ちょっと待って。」
その時だった。ティマがぽつりと呟き、手を顎にあて視線を下げた。
「『白晶の装具』は4つ。『冥府の法』が発動したのはアール山、ジャンナ、センシビアの3ヶ所。まだ一ヶ所足りない!」
そう叫ぶティマに、皆は再び目を見開いた。かつて『生命の法』が行われた3ヶ所の他に、あと一ヶ所、同様に“門”が開いている場所がある可能性がある。それにカイウスたちが気付いた時、アーリアがそれとは別に顔色を変え、ルキウスに問い詰めた。
「ルキウス!あの人を…ティルキスを見なかった!?」
「いや、見ていない。フォレストさん達も見かけてないようだし。」
ルキウスがそう答えると、アーリアは血相を変えて部屋から飛び出していった。
「アーリア、待って!どこに行くの?」
それをルビアが真っ先に追いかけ、その背に向かって大声を上げた。すると、アーリアは足を止め、顔をルビアに向けた。
「ティルキスを探しに行くわ!ルキウス達に会いに来てないってことは、きっとあの人なりに何かを察して調べてるに違いないわ。」
「確かにそうかもだけど、でも当てはあるの?それに一人じゃ危ないわ!」
ティルキスは聡明な一国の王子だが、家臣をも呆れさせるほどの行動力を持つ男だ。誰にも告げずに、事の真相を知ろうとアレウーラ中を奔走していてもおかしくはない。そんな彼を追いかけるなど、ましてやスポットだらけの大陸で僧兵のアーリア一人では無謀なことだった。しかし、それにも関わらず、彼女は今にもまた走って行こうとしている。2人を追いかけてきた仲間達も、そんなアーリアを引き留めようとした。その時だった。
「アーリア、落ちつけ。」
そう声をかけられたアーリアの、そして突然の声に驚いたロイン達の肩がビクッと跳ねた。それは礼拝堂の方から聞こえた、大人の男性の低く渋みのある声。アーリアは恐る恐る顔を正面へ向け、そしてそこにいる見覚えのある顔に視線を合わせた。そこにいた人物の姿に、カイウスとルビアも思わず目を大きくした。
「フォレストさん!」
やがて驚きから喜びに変わり、カイウスはその男のもとへ駆け寄った。2年の間に心身共に成長した今の彼でも、いまだに見上げるほどに大きい存在との再会。フォレストも、2年ぶりに彼と再会し嬉しい気持ちは同様らしく、フッと口元に笑みをこぼした。
「カイウス、この人は?」
ロインが尋ねると、答えたのは彼が呼んだ人物ではなく、フォレスト本人だった。
「俺はフォレスト・ルドワウヤン。レイモーン評議会のメンバーで、昔、カイウスと共に旅をしていた者だ。」
齢47の大男はそう言い、カイウスの新たな仲間4人に挨拶した。
「じゃあ、アーリアがジャンナにいるのは、ティルキスを探すためか?」
「ええ。けど、そうしたらこっちもこの有様で…。」
カイウスの言葉にそう言って、アーリアはそれまでの泣きそうな顔から変わり果てたジャンナを想っての辛い顔になる。そんな彼女の斜め後ろに腰かけていたルキウスも同じような顔になった。
「アーリアの話を聞いて驚いたよ。このジャンナも、同時期にスポットに襲われたんだ。」
その言葉を聞き、ロイン達が驚いたのは言うまでもない。同時に、それも遠く離れた場所で起きた同じ事件。そんなことがあり得るのだろうか?カイウスやルビア、それにアーリアやルキウス、2年前の戦いに携わった者たちは特に疑問を抱く。
「なあ。ジャンナもスポットゾンビに襲われたって言うのか?」
ラミーがそう口を開いた。ルキウスが首を振って肯定すると、ロインは眉をひそめ、続けて彼に問いかけた。
「なら、ジャンナで『冥府の法』を行った術者がいたはずだ。お前、見てないのか?」
「「『冥府の法』?」」
何も知らないアーリアとルキウスは、口をそろえてロインに疑問の目を向けた。すると、カイウスとルビアがその説明を買って出て、その巨大プリセプツに加え、マウディーラでの旅やアール山で起きたことを2人に話して聞かせた。バキラのことや『冥府の法』について、2人はやはり驚愕した。だが、同時にそれぞれが遭遇した出来事に合点がいったようで、それまで以上に冷静な表情に変わった。特にルキウスは、彼らの話を聞いて何かを思いついたらしく、真剣を通り越し深刻な顔つきになった。
「兄さん。皆。僕についてきて。」
ルキウスはそう言って立ち上がると、礼拝堂の奥にある廊下へ向かって歩き出した。ロイン達も彼の後を追って行くと、廊下の奥にある広い一室へと通された。シンプルで何もない部屋。最奥にある石像は、優しそうな表情をした一人の女性のようだった。その石像の目の前にある空間に、黒い穴が開いていた。
「ルキウス、ここは?それに、あの穴ってまさか…。」
ティマがどこか怯えに近い表情を浮かべて尋ねた。宙の穴を見つめ、ロイン達に背を向けたままだったルキウスは振り返り、カイウスを見ながら口を開いた。
「兄さん、覚えてる?この部屋のこと。」
「ああ。2年前、教皇と戦った場所だ。」
カイウスは迷わずに答えたが、その表情はどこか悲しそうだった。その理由を知るルビアとアーリアも表情を曇らせたが、ロイン達はその変化に気付かなかった。だが、ルキウスはそれに構わず、カイウスの言葉に頷き話を続けた。
「そう。ここで教皇様と僕、そしてロミーは『生命の法』の実験を繰り返していたんだ。そして、あの穴が『冥府の法』で開かれた“門”だよ。一昨日の晩になって、なんとかプリセプツで押さえつける事に成功したけど、それもいつまでもつか…。」
彼がそう言った矢先、小さな黒穴からそれに似つかわしくない鈍い大きな音がした。何事かとロイン達は一瞬怯んだが、すぐに理解した。穴の向こう側からスポットがこちらに出ようともがいており、それを封じる何かのプリセプツがぶつかったのだ。
「どうして、わざわざここで『冥府の法』を?」
そう疑問を口にしたのはルビアだ。かつて『生命の法』の完成を目指した場所。同じ場所で、今度は『冥府の法』が行われた。偶然か、或いは何か意図があったのだろうか。思考を巡らせていると、またもルキウスが口を開いた。
「兄さん。『冥府の法』が行われた時、ペイシェントに似ている『白晶の装具』というのはいくつあった?」
「え?確か4つだけど、それがどうかしたのか?」
カイウスはきょとんとした表情で弟を見る。すると、彼は「あくまで推測だけど」と自身の考えを述べた。
「この場所は何回か『生命の法』を行ったことがある。そのせいで、異界と繋がりやすくなっていたのかもしれない。」
「つまり?」
「バキラが、あの遠距離から同時に複数の『冥府の法』を発動させたのかもしれない。ティマに身に着けさせた『白晶の装具』一つ一つがペイシェントに並ぶ魔力を秘めているなら、術者に負担はかかるけど、その数だけ魔力を分散させて、同時に“門”を複数開くことは不可能じゃないと思う。」
「ってことは…!」
ルキウスの言葉に、皆が目を見開いた。その中で、特にアーリアが驚愕に満ちた表情を浮かべる。ルキウスの推測通り、バキラが発動させた一回の『冥府の法』を『白晶の装具』の数だけ複数同時に発動させていたとしたら、ジャンナとセンシビアで同時にスポットの襲撃があったというのは偶然ではない。ジャンナ同様、かつてセンシビアでも『生命の法』の実験が行われていたからだ。またしても関係のない人々がスポットの犠牲になった。カイウス達の拳には、怒りから自然と力が込められる。
「…ちょっと待って。」
その時だった。ティマがぽつりと呟き、手を顎にあて視線を下げた。
「『白晶の装具』は4つ。『冥府の法』が発動したのはアール山、ジャンナ、センシビアの3ヶ所。まだ一ヶ所足りない!」
そう叫ぶティマに、皆は再び目を見開いた。かつて『生命の法』が行われた3ヶ所の他に、あと一ヶ所、同様に“門”が開いている場所がある可能性がある。それにカイウスたちが気付いた時、アーリアがそれとは別に顔色を変え、ルキウスに問い詰めた。
「ルキウス!あの人を…ティルキスを見なかった!?」
「いや、見ていない。フォレストさん達も見かけてないようだし。」
ルキウスがそう答えると、アーリアは血相を変えて部屋から飛び出していった。
「アーリア、待って!どこに行くの?」
それをルビアが真っ先に追いかけ、その背に向かって大声を上げた。すると、アーリアは足を止め、顔をルビアに向けた。
「ティルキスを探しに行くわ!ルキウス達に会いに来てないってことは、きっとあの人なりに何かを察して調べてるに違いないわ。」
「確かにそうかもだけど、でも当てはあるの?それに一人じゃ危ないわ!」
ティルキスは聡明な一国の王子だが、家臣をも呆れさせるほどの行動力を持つ男だ。誰にも告げずに、事の真相を知ろうとアレウーラ中を奔走していてもおかしくはない。そんな彼を追いかけるなど、ましてやスポットだらけの大陸で僧兵のアーリア一人では無謀なことだった。しかし、それにも関わらず、彼女は今にもまた走って行こうとしている。2人を追いかけてきた仲間達も、そんなアーリアを引き留めようとした。その時だった。
「アーリア、落ちつけ。」
そう声をかけられたアーリアの、そして突然の声に驚いたロイン達の肩がビクッと跳ねた。それは礼拝堂の方から聞こえた、大人の男性の低く渋みのある声。アーリアは恐る恐る顔を正面へ向け、そしてそこにいる見覚えのある顔に視線を合わせた。そこにいた人物の姿に、カイウスとルビアも思わず目を大きくした。
「フォレストさん!」
やがて驚きから喜びに変わり、カイウスはその男のもとへ駆け寄った。2年の間に心身共に成長した今の彼でも、いまだに見上げるほどに大きい存在との再会。フォレストも、2年ぶりに彼と再会し嬉しい気持ちは同様らしく、フッと口元に笑みをこぼした。
「カイウス、この人は?」
ロインが尋ねると、答えたのは彼が呼んだ人物ではなく、フォレスト本人だった。
「俺はフォレスト・ルドワウヤン。レイモーン評議会のメンバーで、昔、カイウスと共に旅をしていた者だ。」
齢47の大男はそう言い、カイウスの新たな仲間4人に挨拶した。
■作者メッセージ
確か、GAYM時代に掲載していたのはここまででしたね。
以降の連載は、掲示板では初投稿となっていく内容です。
TOT本編のキャラ達が次々と現れ、今後ロインやカイウス達とどう関わっていくのか? 戦う力が落ちたティマやラミーはどうなるのか? 行方不明のティルキスはどこにいるのか? 「白晶の装具」とは何か? もう一か所の『冥府の法』発動場所はどこなのか?
まだまだ多くの謎に包まれている「Tales of the Tempest もう一つの魔法」
楽しみにしてくださっている方には恐縮ですが、作者が実習期間に入ってしまい、ネット環境的条件のため、しばらく更新ができませんorz
次回は9月後半頃から更新再会の予定です。
どうぞお楽しみに(*^_^*)
以降の連載は、掲示板では初投稿となっていく内容です。
TOT本編のキャラ達が次々と現れ、今後ロインやカイウス達とどう関わっていくのか? 戦う力が落ちたティマやラミーはどうなるのか? 行方不明のティルキスはどこにいるのか? 「白晶の装具」とは何か? もう一か所の『冥府の法』発動場所はどこなのか?
まだまだ多くの謎に包まれている「Tales of the Tempest もう一つの魔法」
楽しみにしてくださっている方には恐縮ですが、作者が実習期間に入ってしまい、ネット環境的条件のため、しばらく更新ができませんorz
次回は9月後半頃から更新再会の予定です。
どうぞお楽しみに(*^_^*)