第12章 砂漠の亡霊 T
港町ラウルスを出ると、目の前に広がるのは通常とは異なる砂漠地帯だ。100年以上も前に起きた「獣人戦争」。レイモーンの民とアレウーラの民が戦い、敗れたレイモーンの民たちは、以来大陸中から追われる身となったという。それまで緑豊かだった土地は、その出来事を境に砂漠と化した。そんな成り立ちのせいだろうか。砂だらけの土地だが、暑さはさほどひどくない。故に、ロイン達は普段以上に準備に手間取る、ということはなかった。
「カイウス。レイモーンの都ってどこにあるんだ?」
レイモーン砂漠に出て数時間。砂埃が舞い踊る中、先を歩くカイウスにロインが尋ねた。
「そうだな。だいたい砂漠の中央あたりだな。この砂漠は、レイモーンを中心に広がっているからな。」
「わざわざ砂漠の中心に町を築いたって言うのかい?リカンツっていうのはモノ好きなんだね。」
「それは違う。」
ラミーの言葉に、フォレストが静かに反論した。
「かつて、レイモーンで『生命の法』が行われたのだ。その時の影響で、元は緑豊かだったこの土地が砂漠となった。」
「けれど、『生命の法』が行われた事実は伏せられ、『獣人戦争』という名で史実に残されたの。」
「では、僕たちの先祖がヒトに敗れたという歴史は嘘だと…!?」
フォレストの言葉を引き継ぎ、アーリアが告げた事実に驚愕したのは、レイモーンの民であるベディーだった。彼からすれば、獣人戦争は自分達の種族が差別されるきっかけであるようなもの。それが『生命の法』のせいであった―――スポットのせいで居場所を追われたとなれば、黙ってはいられまい。
「すぐに信じることは難しいだろう。だが、その目で“死都”を見れば理解できる。」
フォレストはベディーにそれだけ言い、先を急ぎ出した。彼が用いた“死都”という表現。ロイン、ラミー、ベディーがその意味を理解したのは、それから2日経った後だった。たどり着いたのは、100年以上前の建築物とは思えないほどしっかりした石造りの町並みだった。街の至る所にレイモーンの民の石像が設置されており、なんとも言えない不気味さを感じさせた。しかし、彼らは途中で気がついた。それは石像ではなく、石化したレイモーンの民そのものであると。何気なくラミーが覗き込んだ一軒の家。そこには、今にも動き出しそうな姿勢で固まっているレイモーンの民たちがいた。笑い、泣き、怒り、食べ、飲み、戯れる。何も変わらぬ日常のまま時間が止まった世界。戦争が起きていたとは、到底考えられない光景だった。フォレストとアーリアが言ったように、『生命の法』によって彼らは突然生を奪われたのだろう。何も知らぬまま。おそらく、苦しみすら感じずに。
「ティルキスはどこにいるんだろう?」
街を見渡しながらカイウスは呟いた。死都とはいえ、かつて栄華を極めた都である。それなりに広い。そしてルキウスの仮説が正しければ、ここでも『冥府の法』が行われた可能性もある。出来る限り早急にティルキスを探し出す必要があった。
「カイウス。手分けしてお兄様を探さない?」
「そうだな。でも危険だし、2人一組で行動しよう。」
カイウスがそう言うと、フォレストがうむ、と頷いた。
「そうなると、ひとつだけ3人一組で3つに分かれるな。」
「けれど、レイモーンはあの塔を中心に4つのエリアに分かれています。それを考えると、危険ですが、4つに組み分けした方がいいのでは?」
フォレストに意見にアーリアが言葉を発した。彼女が指したのは、街の中央にそびえたつ塔だった。その塔を中心に東西南北に大通りと門があり、それに沿うように街は広がっているのだ。
「なら、オレがその1人になる。」
そう名乗りを上げたのはロインだった。他の6人は驚いた表情をしたものの、すぐにそれを受け入れた。
「それじゃあ、僕はフォレストさんと組ませてもらうよ。知人と一緒の方が、そのティルキスっていう人も警戒することはないだろうから。」
「なら、あたいはアーリアと。いいよな?」
ベディーとラミーが続いてペアを決め、フォレストとアーリアは特に意見することなく彼らについた。残ったカイウスとルビアがペアとなり、皆が準備を整え終えた。
「それじゃあ、あの塔に集合な。何かあったら、すぐに応援を呼ぶ。いいな?」
そしてカイウスの言葉に、全員が頷いた。
街中に魔物やスポット、スポットゾンビの影はなく、ただ止まった時間がゆっくりと流れていただけだった。日没を迎え、ロインは他の3組より一足早く例の塔へと戻っていた。日が沈んだ事で、特に明りの灯されていない塔の中は一層暗くなっていた。わずかに建物の窓から外の光が差し込むくらいだ。だが、その中でロインはそれとは異なった光を見つけた。それは火の灯。仄かなオレンジの光が、上の階へと続く階段から漏れていた。
(何だ…?)
ロインは警戒と共に、その光の元へと歩いて行った。コツンコツンと、彼の足音だけが虚しく響く。その足が上の階へたどり着くと、ロインの前にたくさんの本棚が現れた。どうやら図書室らしい。階段のそばの壁に身を隠し、そこから見える光景を一通り眺める。ところどころに火が灯っている。その明かりに照らされ、いくつかの本棚の影が伸びている。しかし、それにまじって人の影が伸びている様子はない。気配も感じ取れない。罠だろうか。そう思いながらも、一歩ずつ部屋の奥へと歩いて行く。
「誰だ?」
その時、突如ロインの背後から声が聞こえた。腰の剣に手を当てながら振り返ると、明りに照らされていない本棚の影から一人の男が現れた。暗がりでよく見えないが、鎧を身にまとい大剣を背負っているようだ。
「あんた、ティルキス・バローネか?」
カイウス達から聞いていた特徴に当てはまっている。ロインはわずかに警戒を解き、彼に尋ねた。だが、対照的にティルキスは警戒を強めていく。
「俺はあんたに名乗った覚えはないぜ。もう一度聞く。誰だ?」
「オレはロイン。お前、カイウスの仲間だろ?皆が探してたぜ。」
ロインの口から出たカイウスの名を聞き、ティルキスは一瞬気を緩めた。だが、すぐに剣を取り、それをロインに向けてきた。ロインも剣を抜き、身構える。
「何のつもりだ?」
目つきは鋭く、口調は荒くなり、ティルキスに対する警戒が増していく。一方のティルキスも、顔にうっすらと笑みを浮かべているものの、まとう殺気は増していた。
「悪いな。なんせスポットだらけな御時世なもんでね、そう簡単に信用できないんだよ!」
ティルキスはそう言い終わるとほぼ同時に、その大剣を振り切った。ロインは咄嗟に剣で防御し、そのまま数歩後退する。だがすぐに駆け、今度はこちらから攻めた。両者の剣と剣がぶつかり、火花を散らす。その剣をはじき返し、振り返し、また両者がぶつかる。しかし、ティルキスが扱うのは大剣。片手剣を扱うロインとは、自然と一撃に込められる力の量が異なってくる。ロインはティルキスの剣に吹き飛ばされ、傍にあった本棚に激突してしまう。その勢いのまま本棚共々倒れて行くロインを追い、ティルキスは彼を捕えようと駆けた。だが、その手を伸ばした途端、その腕を刃がかすめた。体勢を崩したままだったが、ロインは剣を払って彼を追い払い、ティルキスは舌打ちをしてロインから距離を置いた。ロインはその隙に立ちあがって剣を構えなおし、彼同様舌打ちをしてティルキスを睨んだ。
「なら、どうすれば大人しく来てくれる?」
苛立った口調で、ロインはティルキスに問うた。ティルキスはロインから距離を置いたまま、剣を構えなおした。ロインもその距離を保ち、彼の返事を待った。そして両者の睨みあいがしばし続いた後だった。
「おい!何か物音がしたぞ!?」
「ロイン!上にいるのか?」
階段下から聞こえたフォレストとラミーの声。両者共に覚えのある声に、動きを止めてそちらを見た。駆けあがってくる複数の足音。そして真っ先に彼らの前に現れたのは、共通の仲間であるカイウスだった。
「ロイン!どうした?何か物音がしたけど…!」
カイウスは真っ先にロインの姿を見つけ出し、急いで駆け寄った。そして目の前の光景に、わけがわからず目を丸くした。
「ティルキス、何をしているの!?」
次いで現れたのは、最もティルキスを探し求めていたアーリアだった。ロインに剣を向けるティルキスの姿を目にし、彼女もまた、カイウスと同じく目を見開いていた。
「! アー……リア…?」
彼女の登場には、さすがにティルキスも驚いたようだ。目を見開いて、食い入るようにアーリアを見つめていた。だが、それもわずかな間のことだった。2人の後を追って次々と現れる仲間達。その中のラミーの姿を捕えた瞬間、再びティルキスの目が大きく開かれた。直後、その瞳は鋭く光り、口元には彼らしくない、にやりとした笑みが携えられた。
「お兄様!?何を!」
ルビアの驚いた声が塔の中に響いた。それはティルキスの剣が、カイウスやアーリアたちへと向けられたからだ。カイウスも目を丸くして、その切っ先、そしてティルキスへと視線を向けた。
「悪いな、カイウス。お前がスポットの影響を受けていない、って保証はないからな。」
そう言い終わると同時に、ティルキスは剣を一閃させた。カイウスは咄嗟にバク転し、それを回避する事に成功した。だが、与えられたショックは大きいらしく、まだ茫然とした表情をしていた。
「やめて、お兄様!」
「ティルキス様!」
ルビアとフォレストが必死の声を上げるが、今のティルキスには届いていないらしい。表情を変えることなく、ただカイウスに剣を向け続けている。
「…わかったわ。」
彼の瞳の色はスポットのような赤ではなく、いつもの茶色だった。正気を失っているとは考えにくい。だとすれば、目の前にいる彼は本気でそう思っているのだろう。コツンと一歩前に踏み出し、アーリアは杖を持って構えた。
「カイウス、お願い。援護して。」
「アーリア?」
「こうなったら力づくよ。あの人の目を覚ませるんだから。」
カイウスは驚きながらもアーリアを見た。そこにいた彼女の瞳は、強い意志を宿していた。そんな彼女を見て覚悟を決めたのか、彼は頷き、剣を手に取った。
「カイウス。オレも加えろ。」
そんな2人に向かって、ロインが苛立ちの抜けない声で言った。
「オレが最初に売られた喧嘩だ。文句は言わせない。…ラミー!お前たちは手出すなよ!」
ロインは未だ戸惑い続けている仲間達に一言投げつけ、再びティルキスに剣を向けた。そんな目の前の3人を相手に、ティルキスは笑みを浮かべていた。
「別に構わないぜ?かかってきな!」
「カイウス。レイモーンの都ってどこにあるんだ?」
レイモーン砂漠に出て数時間。砂埃が舞い踊る中、先を歩くカイウスにロインが尋ねた。
「そうだな。だいたい砂漠の中央あたりだな。この砂漠は、レイモーンを中心に広がっているからな。」
「わざわざ砂漠の中心に町を築いたって言うのかい?リカンツっていうのはモノ好きなんだね。」
「それは違う。」
ラミーの言葉に、フォレストが静かに反論した。
「かつて、レイモーンで『生命の法』が行われたのだ。その時の影響で、元は緑豊かだったこの土地が砂漠となった。」
「けれど、『生命の法』が行われた事実は伏せられ、『獣人戦争』という名で史実に残されたの。」
「では、僕たちの先祖がヒトに敗れたという歴史は嘘だと…!?」
フォレストの言葉を引き継ぎ、アーリアが告げた事実に驚愕したのは、レイモーンの民であるベディーだった。彼からすれば、獣人戦争は自分達の種族が差別されるきっかけであるようなもの。それが『生命の法』のせいであった―――スポットのせいで居場所を追われたとなれば、黙ってはいられまい。
「すぐに信じることは難しいだろう。だが、その目で“死都”を見れば理解できる。」
フォレストはベディーにそれだけ言い、先を急ぎ出した。彼が用いた“死都”という表現。ロイン、ラミー、ベディーがその意味を理解したのは、それから2日経った後だった。たどり着いたのは、100年以上前の建築物とは思えないほどしっかりした石造りの町並みだった。街の至る所にレイモーンの民の石像が設置されており、なんとも言えない不気味さを感じさせた。しかし、彼らは途中で気がついた。それは石像ではなく、石化したレイモーンの民そのものであると。何気なくラミーが覗き込んだ一軒の家。そこには、今にも動き出しそうな姿勢で固まっているレイモーンの民たちがいた。笑い、泣き、怒り、食べ、飲み、戯れる。何も変わらぬ日常のまま時間が止まった世界。戦争が起きていたとは、到底考えられない光景だった。フォレストとアーリアが言ったように、『生命の法』によって彼らは突然生を奪われたのだろう。何も知らぬまま。おそらく、苦しみすら感じずに。
「ティルキスはどこにいるんだろう?」
街を見渡しながらカイウスは呟いた。死都とはいえ、かつて栄華を極めた都である。それなりに広い。そしてルキウスの仮説が正しければ、ここでも『冥府の法』が行われた可能性もある。出来る限り早急にティルキスを探し出す必要があった。
「カイウス。手分けしてお兄様を探さない?」
「そうだな。でも危険だし、2人一組で行動しよう。」
カイウスがそう言うと、フォレストがうむ、と頷いた。
「そうなると、ひとつだけ3人一組で3つに分かれるな。」
「けれど、レイモーンはあの塔を中心に4つのエリアに分かれています。それを考えると、危険ですが、4つに組み分けした方がいいのでは?」
フォレストに意見にアーリアが言葉を発した。彼女が指したのは、街の中央にそびえたつ塔だった。その塔を中心に東西南北に大通りと門があり、それに沿うように街は広がっているのだ。
「なら、オレがその1人になる。」
そう名乗りを上げたのはロインだった。他の6人は驚いた表情をしたものの、すぐにそれを受け入れた。
「それじゃあ、僕はフォレストさんと組ませてもらうよ。知人と一緒の方が、そのティルキスっていう人も警戒することはないだろうから。」
「なら、あたいはアーリアと。いいよな?」
ベディーとラミーが続いてペアを決め、フォレストとアーリアは特に意見することなく彼らについた。残ったカイウスとルビアがペアとなり、皆が準備を整え終えた。
「それじゃあ、あの塔に集合な。何かあったら、すぐに応援を呼ぶ。いいな?」
そしてカイウスの言葉に、全員が頷いた。
街中に魔物やスポット、スポットゾンビの影はなく、ただ止まった時間がゆっくりと流れていただけだった。日没を迎え、ロインは他の3組より一足早く例の塔へと戻っていた。日が沈んだ事で、特に明りの灯されていない塔の中は一層暗くなっていた。わずかに建物の窓から外の光が差し込むくらいだ。だが、その中でロインはそれとは異なった光を見つけた。それは火の灯。仄かなオレンジの光が、上の階へと続く階段から漏れていた。
(何だ…?)
ロインは警戒と共に、その光の元へと歩いて行った。コツンコツンと、彼の足音だけが虚しく響く。その足が上の階へたどり着くと、ロインの前にたくさんの本棚が現れた。どうやら図書室らしい。階段のそばの壁に身を隠し、そこから見える光景を一通り眺める。ところどころに火が灯っている。その明かりに照らされ、いくつかの本棚の影が伸びている。しかし、それにまじって人の影が伸びている様子はない。気配も感じ取れない。罠だろうか。そう思いながらも、一歩ずつ部屋の奥へと歩いて行く。
「誰だ?」
その時、突如ロインの背後から声が聞こえた。腰の剣に手を当てながら振り返ると、明りに照らされていない本棚の影から一人の男が現れた。暗がりでよく見えないが、鎧を身にまとい大剣を背負っているようだ。
「あんた、ティルキス・バローネか?」
カイウス達から聞いていた特徴に当てはまっている。ロインはわずかに警戒を解き、彼に尋ねた。だが、対照的にティルキスは警戒を強めていく。
「俺はあんたに名乗った覚えはないぜ。もう一度聞く。誰だ?」
「オレはロイン。お前、カイウスの仲間だろ?皆が探してたぜ。」
ロインの口から出たカイウスの名を聞き、ティルキスは一瞬気を緩めた。だが、すぐに剣を取り、それをロインに向けてきた。ロインも剣を抜き、身構える。
「何のつもりだ?」
目つきは鋭く、口調は荒くなり、ティルキスに対する警戒が増していく。一方のティルキスも、顔にうっすらと笑みを浮かべているものの、まとう殺気は増していた。
「悪いな。なんせスポットだらけな御時世なもんでね、そう簡単に信用できないんだよ!」
ティルキスはそう言い終わるとほぼ同時に、その大剣を振り切った。ロインは咄嗟に剣で防御し、そのまま数歩後退する。だがすぐに駆け、今度はこちらから攻めた。両者の剣と剣がぶつかり、火花を散らす。その剣をはじき返し、振り返し、また両者がぶつかる。しかし、ティルキスが扱うのは大剣。片手剣を扱うロインとは、自然と一撃に込められる力の量が異なってくる。ロインはティルキスの剣に吹き飛ばされ、傍にあった本棚に激突してしまう。その勢いのまま本棚共々倒れて行くロインを追い、ティルキスは彼を捕えようと駆けた。だが、その手を伸ばした途端、その腕を刃がかすめた。体勢を崩したままだったが、ロインは剣を払って彼を追い払い、ティルキスは舌打ちをしてロインから距離を置いた。ロインはその隙に立ちあがって剣を構えなおし、彼同様舌打ちをしてティルキスを睨んだ。
「なら、どうすれば大人しく来てくれる?」
苛立った口調で、ロインはティルキスに問うた。ティルキスはロインから距離を置いたまま、剣を構えなおした。ロインもその距離を保ち、彼の返事を待った。そして両者の睨みあいがしばし続いた後だった。
「おい!何か物音がしたぞ!?」
「ロイン!上にいるのか?」
階段下から聞こえたフォレストとラミーの声。両者共に覚えのある声に、動きを止めてそちらを見た。駆けあがってくる複数の足音。そして真っ先に彼らの前に現れたのは、共通の仲間であるカイウスだった。
「ロイン!どうした?何か物音がしたけど…!」
カイウスは真っ先にロインの姿を見つけ出し、急いで駆け寄った。そして目の前の光景に、わけがわからず目を丸くした。
「ティルキス、何をしているの!?」
次いで現れたのは、最もティルキスを探し求めていたアーリアだった。ロインに剣を向けるティルキスの姿を目にし、彼女もまた、カイウスと同じく目を見開いていた。
「! アー……リア…?」
彼女の登場には、さすがにティルキスも驚いたようだ。目を見開いて、食い入るようにアーリアを見つめていた。だが、それもわずかな間のことだった。2人の後を追って次々と現れる仲間達。その中のラミーの姿を捕えた瞬間、再びティルキスの目が大きく開かれた。直後、その瞳は鋭く光り、口元には彼らしくない、にやりとした笑みが携えられた。
「お兄様!?何を!」
ルビアの驚いた声が塔の中に響いた。それはティルキスの剣が、カイウスやアーリアたちへと向けられたからだ。カイウスも目を丸くして、その切っ先、そしてティルキスへと視線を向けた。
「悪いな、カイウス。お前がスポットの影響を受けていない、って保証はないからな。」
そう言い終わると同時に、ティルキスは剣を一閃させた。カイウスは咄嗟にバク転し、それを回避する事に成功した。だが、与えられたショックは大きいらしく、まだ茫然とした表情をしていた。
「やめて、お兄様!」
「ティルキス様!」
ルビアとフォレストが必死の声を上げるが、今のティルキスには届いていないらしい。表情を変えることなく、ただカイウスに剣を向け続けている。
「…わかったわ。」
彼の瞳の色はスポットのような赤ではなく、いつもの茶色だった。正気を失っているとは考えにくい。だとすれば、目の前にいる彼は本気でそう思っているのだろう。コツンと一歩前に踏み出し、アーリアは杖を持って構えた。
「カイウス、お願い。援護して。」
「アーリア?」
「こうなったら力づくよ。あの人の目を覚ませるんだから。」
カイウスは驚きながらもアーリアを見た。そこにいた彼女の瞳は、強い意志を宿していた。そんな彼女を見て覚悟を決めたのか、彼は頷き、剣を手に取った。
「カイウス。オレも加えろ。」
そんな2人に向かって、ロインが苛立ちの抜けない声で言った。
「オレが最初に売られた喧嘩だ。文句は言わせない。…ラミー!お前たちは手出すなよ!」
ロインは未だ戸惑い続けている仲間達に一言投げつけ、再びティルキスに剣を向けた。そんな目の前の3人を相手に、ティルキスは笑みを浮かべていた。
「別に構わないぜ?かかってきな!」
■作者メッセージ
おまけスキット
【本当のロミー】
ラミー「アーリア。ロミーって、どんなやつだった?」
アーリア「どうしたの?突然そんなこと。」
ラミー「カイウスとルビアにとって、ロミーは親の仇だったんだろう?それなのにあいつら、時々あたいを見て寂しそうな顔をするんだ。あたいをロミーと重ねて見てるんだとしたら、どうしても理解できなくって。」
アーリア「そうだったの。…そうね。ロミーはプリセプツが得意な、素直な子だったわ。ルキウスと幼馴染で、ちょうどカイウスとルビアみたいに仲が良かったの。でも、『生命の法』のせいでスポットに巣食われてしまって、残忍で破壊を好む性格に変わってしまったわ。」
ラミー「…そういうことか。ありがとな、アーリア。…白髪じじい。ロミー姉さんの仇を討つためにも、その首絶対にとってやる。待ってろよ…!」
【本当のロミー】
ラミー「アーリア。ロミーって、どんなやつだった?」
アーリア「どうしたの?突然そんなこと。」
ラミー「カイウスとルビアにとって、ロミーは親の仇だったんだろう?それなのにあいつら、時々あたいを見て寂しそうな顔をするんだ。あたいをロミーと重ねて見てるんだとしたら、どうしても理解できなくって。」
アーリア「そうだったの。…そうね。ロミーはプリセプツが得意な、素直な子だったわ。ルキウスと幼馴染で、ちょうどカイウスとルビアみたいに仲が良かったの。でも、『生命の法』のせいでスポットに巣食われてしまって、残忍で破壊を好む性格に変わってしまったわ。」
ラミー「…そういうことか。ありがとな、アーリア。…白髪じじい。ロミー姉さんの仇を討つためにも、その首絶対にとってやる。待ってろよ…!」