第12章 砂漠の亡霊 V
「おい、マジなのかよ…!」
一方で、ルビア達は彼らの戦いを、ただ指をくわえてみているだけ。だが、ただ黙って見ている、ということだけはできなかった。
「あいつら、仲間だったんだろう?どうして剣をむけられるんだよ!」
ラミーは悲痛な顔で、叫びに似た呟きを漏らした。彼女はギルドをまとめる者として、誰よりも仲間という存在を大切にしている。だから、今のカイウスたちの気持ちを理解することができないでいた。彼女にとって仲間は、ともに支え、守るもの。決して、死闘を行う仲ではなかった。
「…そうね。」
そんなラミーに、小さく言葉を発したのはルビアだった。フォレストとベディーは、2人の少女に視線を移した。
「お兄様はバカよ。スポットのせいか知らないけど、アーリアに、二度も同じ思いをさせるなんて。」
「二度も…?」
怒りを含む口調。戦いを見つめるルビアの瞳は、悲しみに染まっていた。その意味を問うようにラミーが言葉を拾うと、ルビアは少しばかり視線を下げて口を開いた
「…アーリアには、大切な幼馴染がいたの。自分が危険をおかすことになっても助けたいと思うほど、大切な人だった。」
ロインとティルキスの剣が再びぶつかり合う。その隙に、アーリアは攻撃用のプリセプツを詠唱し、カイウスはロインと入れ替わるようにティルキス目がけて剣を振り払う。だがティルキスは剣を周囲に一閃させることで、その動きを止めてしまった。それでもアーリアには十分で、彼女は風の刃を放ち、ティルキスがそれに怯んだ隙にまた少年たちの剣が続いて襲いかかって行った。
「だけど、その人は2年前、あたしたちの敵に回った。そしてアーリアは、その人を裏切ってあたし達を助けてくれた。…アーリアは、大切だったその人を討ったの。」
ラミーとベディーはその事実に、ただ驚きの表情を見せるだけだった。一方でルビアとフォレストは2年前の記憶を手繰り寄せ、その時の光景を再生していた。その人物が命を落としたのも、この砂漠の中の出来事であった。止めを刺したのはティルキスであったが、アーリアの放つ強力な魔法が彼に傷を負わせ、死に追いやったのも事実だった。そして、アーリアは彼の事を思い、夜は一人で泣いていた。
「あたしは…あたしなら、カイウスにプリセプツで攻撃なんて、きっとできない。アーリアは、それだけ苦しい事をやったの。なのにお兄様ったら、アーリアにまた同じような事をさせるなんて!あたしが男の子だったら、カイウスに代わって殴ってるわよ!」
段々と口調だけでなく、表情までもが苛立ちへと変わっていく。ルビアはしっかりと顔を上げ、彼らの戦いを目に焼き付けていた。それに倣うように、ラミーとベディー、そしてそれまで黙って耳を傾けていたフォレストも、静かに戦いの中に視線を戻した。キンッと剣と剣がぶつかる音が響き、そして両者が再び距離をとる。ロインとカイウスも多く傷を負っていたが、ティルキスはその倍ほどの傷を負っていた。それは相手にしている人数の差もあるが、アーリアという回復役がいることも、その理由の一つである事に違いはない。だがどちらにしても、両者ともに息は上がり、アーリアも疲労が見え始めていた。
「2人とも、次でティルキスの動きを止めるわ。」
「わかった。ロイン、決めるぞ!」
「ああ!」
長期戦には持ち込めない。ティルキスの身も考慮し、アーリアはピリオドを打つべく詠唱を開始した。それに気づいたティルキスは、それを阻止すべく一気に距離を詰めようとした。
「行かせるか!秋沙雨!真空千裂破!」
だが、彼の前にロインが立ちはだかった。初撃でティルキスの動きを止め、そのまま連続で技を繰り出し、彼の大剣をくぐり抜けその身に太刀傷を負わせていく。そして連続突きから回転斬りへの連携の直後、アーリアの詠唱は完成した。
「彼の者を捕らえよ!スパークウェブ!」
その言葉とともに現れたのは光のネット。ティルキスは蜘蛛の巣のようなそれに、かわす暇もなく動きを封じられてしまう。どうにか脱出しようともがくが、それも一瞬だけだった。
「獅子戦吼!」
カイウスの剣からたたみ掛けるように放たれた獅子型の闘気。ティルキスはそのまま吹き飛ばされ、地面を転がった。そして、スパークウェブで思うように身動きがとれないながらも手をつき、どうにか体勢を整えようとした瞬間、カイウスの剣が彼ののど元を捉えた。
「カイウス!」
「ティルキス様!」
その瞬間、ルビアとフォレストが声をあげ、彼らの元へと走り出した。つられるようにしてラミーとベディーも駆け寄り、ロインは剣を収めて静かに近づいた。アーリアも彼がもう動けないことを確認すると静かに術を解き、カイウスの隣へ歩み寄った。
「…もういいだろう、ティルキス?」
息を切らせながら、カイウスは乞うように言った。その時だった。
「…くくく……。」
突然不気味に笑い声をあげだしたティルキス。剣を突き付けたままのカイウスの眉間にしわが寄り、他の6人も僅かに身構え出す。だが次の瞬間、そんな彼らの目に飛び込んだのは、彼らの警戒心を無駄にするものだった。
「あっはは!いやぁ、強くなったな。カイウス。」
「へ…?」
「フォレスト、久しぶりだな!ジャンナはいいのか?なんだか慌ただしかったみたいだけど。」
「ティ、ティルキス様…?」
先ほどとは打って変わり、ティルキスは見慣れた笑顔でカイウス達に声をかけてきた。そしてそれはかつての仲間だけに留まらず、ロイン達にも向けられた。
「そこの君。名前は何て言うんだい?」
「え?ラ、ラミー・オーバック…です。」
「ふぅん。名前までロミーにそっくりとはな。一瞬びっくりしたぜ。ま、声で気付いたけどな。」
「えっと…ティルキス?」
「ロインだったか?君も強いな。いやぁ、まいったよ。」
「は、はぁ…。」
「ティルキス、聞いてる?」
「そっちの君は何て言うんだ?」
「え?ああ、ベディーだ。」
「そうか。よろしくな。」
「ティルキス!!」
アーリアの大声が空虚な空間に響き渡った。さすがにティルキスも肩をびくつかせて黙り、引きつった笑みを浮かべて彼女を見た。
「…あなた、さっきからわざと無視してるでしょ?」
「あ、ははは…。」
「誤魔化さないで!」
アーリアは怒って頬を膨らませ、大股でティルキスに歩み寄った。そして、すでにカイウスの剣から開放されている彼と視線を合わせるようにその場にしゃがんだ。
「言いたい事は山ほどあるけど、とりあえず、こんなところに一人で来るなんて、どういうつもりだったか説明してもらいましょうか。」
言い逃れを許さないというように、彼女の低い声がティルキスに向けられた。
一方で、ルビア達は彼らの戦いを、ただ指をくわえてみているだけ。だが、ただ黙って見ている、ということだけはできなかった。
「あいつら、仲間だったんだろう?どうして剣をむけられるんだよ!」
ラミーは悲痛な顔で、叫びに似た呟きを漏らした。彼女はギルドをまとめる者として、誰よりも仲間という存在を大切にしている。だから、今のカイウスたちの気持ちを理解することができないでいた。彼女にとって仲間は、ともに支え、守るもの。決して、死闘を行う仲ではなかった。
「…そうね。」
そんなラミーに、小さく言葉を発したのはルビアだった。フォレストとベディーは、2人の少女に視線を移した。
「お兄様はバカよ。スポットのせいか知らないけど、アーリアに、二度も同じ思いをさせるなんて。」
「二度も…?」
怒りを含む口調。戦いを見つめるルビアの瞳は、悲しみに染まっていた。その意味を問うようにラミーが言葉を拾うと、ルビアは少しばかり視線を下げて口を開いた
「…アーリアには、大切な幼馴染がいたの。自分が危険をおかすことになっても助けたいと思うほど、大切な人だった。」
ロインとティルキスの剣が再びぶつかり合う。その隙に、アーリアは攻撃用のプリセプツを詠唱し、カイウスはロインと入れ替わるようにティルキス目がけて剣を振り払う。だがティルキスは剣を周囲に一閃させることで、その動きを止めてしまった。それでもアーリアには十分で、彼女は風の刃を放ち、ティルキスがそれに怯んだ隙にまた少年たちの剣が続いて襲いかかって行った。
「だけど、その人は2年前、あたしたちの敵に回った。そしてアーリアは、その人を裏切ってあたし達を助けてくれた。…アーリアは、大切だったその人を討ったの。」
ラミーとベディーはその事実に、ただ驚きの表情を見せるだけだった。一方でルビアとフォレストは2年前の記憶を手繰り寄せ、その時の光景を再生していた。その人物が命を落としたのも、この砂漠の中の出来事であった。止めを刺したのはティルキスであったが、アーリアの放つ強力な魔法が彼に傷を負わせ、死に追いやったのも事実だった。そして、アーリアは彼の事を思い、夜は一人で泣いていた。
「あたしは…あたしなら、カイウスにプリセプツで攻撃なんて、きっとできない。アーリアは、それだけ苦しい事をやったの。なのにお兄様ったら、アーリアにまた同じような事をさせるなんて!あたしが男の子だったら、カイウスに代わって殴ってるわよ!」
段々と口調だけでなく、表情までもが苛立ちへと変わっていく。ルビアはしっかりと顔を上げ、彼らの戦いを目に焼き付けていた。それに倣うように、ラミーとベディー、そしてそれまで黙って耳を傾けていたフォレストも、静かに戦いの中に視線を戻した。キンッと剣と剣がぶつかる音が響き、そして両者が再び距離をとる。ロインとカイウスも多く傷を負っていたが、ティルキスはその倍ほどの傷を負っていた。それは相手にしている人数の差もあるが、アーリアという回復役がいることも、その理由の一つである事に違いはない。だがどちらにしても、両者ともに息は上がり、アーリアも疲労が見え始めていた。
「2人とも、次でティルキスの動きを止めるわ。」
「わかった。ロイン、決めるぞ!」
「ああ!」
長期戦には持ち込めない。ティルキスの身も考慮し、アーリアはピリオドを打つべく詠唱を開始した。それに気づいたティルキスは、それを阻止すべく一気に距離を詰めようとした。
「行かせるか!秋沙雨!真空千裂破!」
だが、彼の前にロインが立ちはだかった。初撃でティルキスの動きを止め、そのまま連続で技を繰り出し、彼の大剣をくぐり抜けその身に太刀傷を負わせていく。そして連続突きから回転斬りへの連携の直後、アーリアの詠唱は完成した。
「彼の者を捕らえよ!スパークウェブ!」
その言葉とともに現れたのは光のネット。ティルキスは蜘蛛の巣のようなそれに、かわす暇もなく動きを封じられてしまう。どうにか脱出しようともがくが、それも一瞬だけだった。
「獅子戦吼!」
カイウスの剣からたたみ掛けるように放たれた獅子型の闘気。ティルキスはそのまま吹き飛ばされ、地面を転がった。そして、スパークウェブで思うように身動きがとれないながらも手をつき、どうにか体勢を整えようとした瞬間、カイウスの剣が彼ののど元を捉えた。
「カイウス!」
「ティルキス様!」
その瞬間、ルビアとフォレストが声をあげ、彼らの元へと走り出した。つられるようにしてラミーとベディーも駆け寄り、ロインは剣を収めて静かに近づいた。アーリアも彼がもう動けないことを確認すると静かに術を解き、カイウスの隣へ歩み寄った。
「…もういいだろう、ティルキス?」
息を切らせながら、カイウスは乞うように言った。その時だった。
「…くくく……。」
突然不気味に笑い声をあげだしたティルキス。剣を突き付けたままのカイウスの眉間にしわが寄り、他の6人も僅かに身構え出す。だが次の瞬間、そんな彼らの目に飛び込んだのは、彼らの警戒心を無駄にするものだった。
「あっはは!いやぁ、強くなったな。カイウス。」
「へ…?」
「フォレスト、久しぶりだな!ジャンナはいいのか?なんだか慌ただしかったみたいだけど。」
「ティ、ティルキス様…?」
先ほどとは打って変わり、ティルキスは見慣れた笑顔でカイウス達に声をかけてきた。そしてそれはかつての仲間だけに留まらず、ロイン達にも向けられた。
「そこの君。名前は何て言うんだい?」
「え?ラ、ラミー・オーバック…です。」
「ふぅん。名前までロミーにそっくりとはな。一瞬びっくりしたぜ。ま、声で気付いたけどな。」
「えっと…ティルキス?」
「ロインだったか?君も強いな。いやぁ、まいったよ。」
「は、はぁ…。」
「ティルキス、聞いてる?」
「そっちの君は何て言うんだ?」
「え?ああ、ベディーだ。」
「そうか。よろしくな。」
「ティルキス!!」
アーリアの大声が空虚な空間に響き渡った。さすがにティルキスも肩をびくつかせて黙り、引きつった笑みを浮かべて彼女を見た。
「…あなた、さっきからわざと無視してるでしょ?」
「あ、ははは…。」
「誤魔化さないで!」
アーリアは怒って頬を膨らませ、大股でティルキスに歩み寄った。そして、すでにカイウスの剣から開放されている彼と視線を合わせるようにその場にしゃがんだ。
「言いたい事は山ほどあるけど、とりあえず、こんなところに一人で来るなんて、どういうつもりだったか説明してもらいましょうか。」
言い逃れを許さないというように、彼女の低い声がティルキスに向けられた。