第14章 はじまりの真実 T
マリワナに2度目の旅立ちの挨拶を告げ、ラミーの船で首都にむけ出航したロイン達。そんな彼らを待っていたのは、信じられない首都の姿だった。
「ラミー!あれ!」
「わかってる!騒ぐな!」
夕闇に染まり始めた時刻。船首でその光景を眺めていたティマは、血相を変えてラミーに向かって叫んだ。ラミーもティマの指す光景を目にして顔を青ざめ、それでも気丈な声を張り上げる。一行の目に初めに見えたのは、黒煙だった。それはアレウーラの首都ジャンナで見た光景を思い出させたのだが、事態はより深刻だった。街のあちこちで火が上がっているのが見え、人々の悲鳴がすぐそこにあるように聞こえるようだった。
「この様子では、港に降りられたとしても街の中に入れるかどうか…。」
フォレストが眉間にしわを寄せる。ロインらも難しい顔になりながら、どうすればいいか思案していた。
「…港から少し離れた場所に、街の中心まで繋がる地下水道があります。」
その時、それまで船室で休んでいたフレアが甲板に現れ、そして一行に告げた。彼らは突然の言葉に驚きを見せたものの、次に取るべき行動を即座に決断した。
「フレア、そこまで船を寄せる!案内しろ!」
「ええ。」
ラミーの声に力強く頷いて返すと、フレアは彼女のもとまで急いで駆け付け、指示を出していった。彼女の言う地下水道の入り口は、港からそう離れていない切り立った崖の中にあった。徒歩では簡単に辿りつけない場所だったが、幸い船からであれば、さほど苦労せずに辿りつくことができた。甲板から入り口まで渡れるよう橋をかけ、フレアを先頭に船を降りていく。
「ラミー様!」
そして最後にラミーが降り終えると、アインスが甲板から彼女を呼んだ。
「私たちは港から首都に入り、状況の把握、住民の救助を行います!」
「ああ、頼んだぞ!」
頼もしい仲間の言葉に、ラミーはニカッと笑って返し、地下水道の中に姿を消していった。
地下水道には全くと言っていいほど光が差し込まず、奥へ進めば進むほど何も見えなくなっていった。幸い、アーリアの手荷物にロウソクがあったため、それを灯りにして先を進んだ。
「っていうか…」
「こんなとこにも魔物がいんのかよ!」
ロインとカイウスの堪忍袋の緒が切れる寸前の怒号が響いた直後、そろって放たれた魔神剣が目の前の魔物を切り裂き、うち数体は脇を流れる下水に落ちていった。こんな時でも暗所を好んで生息する魔物はうろうろしており、テリトリーを侵されたと思ったのか、ロイン達の進む先々で道を塞いでくるのだった。加えて、通路が狭いためにティルキスやティマの武器での応戦は難しく、ルビアやアーリアも通路の崩壊を危惧して強力なプリセプツを放てず、図らずも全体の戦力を削がれてしまっていた。
「みなさん、頑張って。目的地まであと少し…ッ!」
「フレア!?」
道案内をするフレアの声に気合を入れ直そうとした刹那、彼女の声は不自然に途切れた。彼女の足元で爆発が起き、慌ててティルキスが吹き飛ばされそうになったその身体を受け止めた。
「今のは…まさかプリセプツ?」
そう呟きながら、アーリアは灯りを通路の先にむけて掲げた。すると、彼らの目に信じられないものが飛び込んできた。だが、それに驚いている暇はない。なぜなら、ソレは大群でロインらに襲いかかって来たからだ。
「伏せろ!鷹爪襲撃!」
先頭に立っていたロインとカイウスをベディーは壁を蹴って飛び越え、彼らに飛びかかって来た群れの最前列を吹き飛ばした。
「悪い、助かった。」
「構わない。…それより、どういうことだ。」
後れをとったことに苦虫を噛み潰したような顔をするカイウスに、ベディーは振り返らずに答えた。その淡紫の瞳は、目の前の黒い影達に向けられたまま動く気配を見せない。その影達の足元が突然光を発した刹那、彼らに緊張の汗が伝った。
「アンチマジック!」
その瞬間、ルビアが咄嗟にバリアーを放った。それとほぼ同時に、水や岩、炎など様々な魔術が一斉に彼らに襲いかかった。彼女が張った盾は無詠唱のものだったが、それらの攻撃を耐えるには十分だったようだ。攻撃が止むと同時に盾は砕け散った。
「ルビア、助かったぜ!」
「お礼は後にして、さっさとそいつら倒して!」
冷や汗を拭いながらもなんとか笑みを浮かべるラミーに、ルビアは捲くし立てるように言い放った。ルビアの言う『そいつら』―――スポットの軍勢はなおもこちらに向かって来ていた。
「言われなくても…斬光時雨!」
「双撞掌底破!」
「虎牙破斬!」
ルビアに言われるまでもなく、カイウス達はすでに動いていた。斬り捨て、吹き飛ばし、道を切り開いていく。だが地形のせいで分が悪いことに変わりはなく、更に後方にいるのだろうスポットらが放つプリセプツの猛攻も止まない。ティルキスは舌を打った。
「数が多すぎる!フォレスト!」
「はっ!カイウス、ベディー、一気に押し切るぞ!」
「! わかりました!」
「ロイン!」
ティルキスの意図を理解し、フォレストは声をあげた。続いてベディーが彼らの意図に気付いて了解の意を伝え、それと同時に、ティマが最前にいたロインを呼び、彼を最前から呼び戻した。そしてスポットの前には、レイモーンの民の血をひく者だけが残った。
「行くぜ!うぉおおおおお!」
そしてカイウスの咆哮を合図に、3人は一気にその姿を獣に変えた。そこに現れた銀色の美しい毛並みを持つ豹は、あとの2匹を置いて真っ先に影の集団へと飛びこんでいった。そして一瞬のうちに、周囲の魔物を一蹴してみせたのだった。ロイン達がその圧倒的な力に驚いている隙に、残りの2匹が目の前のスポット達を殴り捨てていく。
「今だ!」
そして道が開けた瞬間、ティルキスの掛け声を合図に、ロイン達は一気に駆け抜けていった。
「あとは任せて!ディープミスト!」
「グレイブ!」
そしてカイウスらが一行に追い付く時を狙い、ルビアとアーリアは一斉にプリセプツを放った。刹那、視界を奪われたスポットらから、おぞましい断末魔の叫びが響き渡った。それを振り返ることなく、彼らはひらすら走り続けた。
「待て!また正面から大群が来る!」
だが1分もしないうちに、後ろからフォレストが叫んだ。しかし、灯りがないため暗闇に紛れているのか、あるいは身を潜めているのか、先頭を走るロインとティマにはその姿はまだ視認できない。
「気配はしないぞ!」
「フォレストさんは耳がいいの。だから、まだここからは遠いのかも。」
「なら、そこの通路を左折して!」
後方に向かってロインが叫ぶと、フォレストに代わってアーリアが答えた。それを聞いたフレアは、すぐさま別のルートを導き出した。それに従って先に進むと、フレアは最後尾に回り、プリセプツをひとつ唱え始めた。その直後に響いた轟音に驚いて足を止めると、フレアの足元からそびえ立った岩の壁が、たった今彼らが通って来た道を塞いでいた。そのまま切らした息を整えながらその場に立ち尽くしていると、壁の向こう側からざわざわと何かが大量に通り抜けていく物音がした。おそらく、フォレストが聞きつけた、スポットの軍勢が行進する音なのだろう。しばらくすると、それは気配と共に徐々に遠くへと消えていき、あたりに静寂が戻り始めた。
「…行ったか?」
水の流れる音の他に、まだ遠くでざわめきが聞こえる。だがそれがいくらか落ち着くと、ラミーは状況を確認するように声を出し、カイウスらは獣人化を解いた。
「どうしてスポットが…。」
「けど、これで地上の騒ぎの原因がわかったな。」
不安を募らせるティマの声に対し、ロインは苛立ちに似た声を発した。どこからどうやって現れたかはわからないが、スポットがいる。首都を襲った化物の正体、そして船上から見た惨状の原因がわかったことで、一行は次にとるべき行動を瞬時に把握していた。
「ラミー!あれ!」
「わかってる!騒ぐな!」
夕闇に染まり始めた時刻。船首でその光景を眺めていたティマは、血相を変えてラミーに向かって叫んだ。ラミーもティマの指す光景を目にして顔を青ざめ、それでも気丈な声を張り上げる。一行の目に初めに見えたのは、黒煙だった。それはアレウーラの首都ジャンナで見た光景を思い出させたのだが、事態はより深刻だった。街のあちこちで火が上がっているのが見え、人々の悲鳴がすぐそこにあるように聞こえるようだった。
「この様子では、港に降りられたとしても街の中に入れるかどうか…。」
フォレストが眉間にしわを寄せる。ロインらも難しい顔になりながら、どうすればいいか思案していた。
「…港から少し離れた場所に、街の中心まで繋がる地下水道があります。」
その時、それまで船室で休んでいたフレアが甲板に現れ、そして一行に告げた。彼らは突然の言葉に驚きを見せたものの、次に取るべき行動を即座に決断した。
「フレア、そこまで船を寄せる!案内しろ!」
「ええ。」
ラミーの声に力強く頷いて返すと、フレアは彼女のもとまで急いで駆け付け、指示を出していった。彼女の言う地下水道の入り口は、港からそう離れていない切り立った崖の中にあった。徒歩では簡単に辿りつけない場所だったが、幸い船からであれば、さほど苦労せずに辿りつくことができた。甲板から入り口まで渡れるよう橋をかけ、フレアを先頭に船を降りていく。
「ラミー様!」
そして最後にラミーが降り終えると、アインスが甲板から彼女を呼んだ。
「私たちは港から首都に入り、状況の把握、住民の救助を行います!」
「ああ、頼んだぞ!」
頼もしい仲間の言葉に、ラミーはニカッと笑って返し、地下水道の中に姿を消していった。
地下水道には全くと言っていいほど光が差し込まず、奥へ進めば進むほど何も見えなくなっていった。幸い、アーリアの手荷物にロウソクがあったため、それを灯りにして先を進んだ。
「っていうか…」
「こんなとこにも魔物がいんのかよ!」
ロインとカイウスの堪忍袋の緒が切れる寸前の怒号が響いた直後、そろって放たれた魔神剣が目の前の魔物を切り裂き、うち数体は脇を流れる下水に落ちていった。こんな時でも暗所を好んで生息する魔物はうろうろしており、テリトリーを侵されたと思ったのか、ロイン達の進む先々で道を塞いでくるのだった。加えて、通路が狭いためにティルキスやティマの武器での応戦は難しく、ルビアやアーリアも通路の崩壊を危惧して強力なプリセプツを放てず、図らずも全体の戦力を削がれてしまっていた。
「みなさん、頑張って。目的地まであと少し…ッ!」
「フレア!?」
道案内をするフレアの声に気合を入れ直そうとした刹那、彼女の声は不自然に途切れた。彼女の足元で爆発が起き、慌ててティルキスが吹き飛ばされそうになったその身体を受け止めた。
「今のは…まさかプリセプツ?」
そう呟きながら、アーリアは灯りを通路の先にむけて掲げた。すると、彼らの目に信じられないものが飛び込んできた。だが、それに驚いている暇はない。なぜなら、ソレは大群でロインらに襲いかかって来たからだ。
「伏せろ!鷹爪襲撃!」
先頭に立っていたロインとカイウスをベディーは壁を蹴って飛び越え、彼らに飛びかかって来た群れの最前列を吹き飛ばした。
「悪い、助かった。」
「構わない。…それより、どういうことだ。」
後れをとったことに苦虫を噛み潰したような顔をするカイウスに、ベディーは振り返らずに答えた。その淡紫の瞳は、目の前の黒い影達に向けられたまま動く気配を見せない。その影達の足元が突然光を発した刹那、彼らに緊張の汗が伝った。
「アンチマジック!」
その瞬間、ルビアが咄嗟にバリアーを放った。それとほぼ同時に、水や岩、炎など様々な魔術が一斉に彼らに襲いかかった。彼女が張った盾は無詠唱のものだったが、それらの攻撃を耐えるには十分だったようだ。攻撃が止むと同時に盾は砕け散った。
「ルビア、助かったぜ!」
「お礼は後にして、さっさとそいつら倒して!」
冷や汗を拭いながらもなんとか笑みを浮かべるラミーに、ルビアは捲くし立てるように言い放った。ルビアの言う『そいつら』―――スポットの軍勢はなおもこちらに向かって来ていた。
「言われなくても…斬光時雨!」
「双撞掌底破!」
「虎牙破斬!」
ルビアに言われるまでもなく、カイウス達はすでに動いていた。斬り捨て、吹き飛ばし、道を切り開いていく。だが地形のせいで分が悪いことに変わりはなく、更に後方にいるのだろうスポットらが放つプリセプツの猛攻も止まない。ティルキスは舌を打った。
「数が多すぎる!フォレスト!」
「はっ!カイウス、ベディー、一気に押し切るぞ!」
「! わかりました!」
「ロイン!」
ティルキスの意図を理解し、フォレストは声をあげた。続いてベディーが彼らの意図に気付いて了解の意を伝え、それと同時に、ティマが最前にいたロインを呼び、彼を最前から呼び戻した。そしてスポットの前には、レイモーンの民の血をひく者だけが残った。
「行くぜ!うぉおおおおお!」
そしてカイウスの咆哮を合図に、3人は一気にその姿を獣に変えた。そこに現れた銀色の美しい毛並みを持つ豹は、あとの2匹を置いて真っ先に影の集団へと飛びこんでいった。そして一瞬のうちに、周囲の魔物を一蹴してみせたのだった。ロイン達がその圧倒的な力に驚いている隙に、残りの2匹が目の前のスポット達を殴り捨てていく。
「今だ!」
そして道が開けた瞬間、ティルキスの掛け声を合図に、ロイン達は一気に駆け抜けていった。
「あとは任せて!ディープミスト!」
「グレイブ!」
そしてカイウスらが一行に追い付く時を狙い、ルビアとアーリアは一斉にプリセプツを放った。刹那、視界を奪われたスポットらから、おぞましい断末魔の叫びが響き渡った。それを振り返ることなく、彼らはひらすら走り続けた。
「待て!また正面から大群が来る!」
だが1分もしないうちに、後ろからフォレストが叫んだ。しかし、灯りがないため暗闇に紛れているのか、あるいは身を潜めているのか、先頭を走るロインとティマにはその姿はまだ視認できない。
「気配はしないぞ!」
「フォレストさんは耳がいいの。だから、まだここからは遠いのかも。」
「なら、そこの通路を左折して!」
後方に向かってロインが叫ぶと、フォレストに代わってアーリアが答えた。それを聞いたフレアは、すぐさま別のルートを導き出した。それに従って先に進むと、フレアは最後尾に回り、プリセプツをひとつ唱え始めた。その直後に響いた轟音に驚いて足を止めると、フレアの足元からそびえ立った岩の壁が、たった今彼らが通って来た道を塞いでいた。そのまま切らした息を整えながらその場に立ち尽くしていると、壁の向こう側からざわざわと何かが大量に通り抜けていく物音がした。おそらく、フォレストが聞きつけた、スポットの軍勢が行進する音なのだろう。しばらくすると、それは気配と共に徐々に遠くへと消えていき、あたりに静寂が戻り始めた。
「…行ったか?」
水の流れる音の他に、まだ遠くでざわめきが聞こえる。だがそれがいくらか落ち着くと、ラミーは状況を確認するように声を出し、カイウスらは獣人化を解いた。
「どうしてスポットが…。」
「けど、これで地上の騒ぎの原因がわかったな。」
不安を募らせるティマの声に対し、ロインは苛立ちに似た声を発した。どこからどうやって現れたかはわからないが、スポットがいる。首都を襲った化物の正体、そして船上から見た惨状の原因がわかったことで、一行は次にとるべき行動を瞬時に把握していた。