第14章 はじまりの真実 Z
スディアナの“門”を閉じてから、早くも5日が経った。ロインらは現在、スディアナにある宿屋に滞在していた。というのも、城下街の復興作業が落ち着き、城からフレアが迎えに来るのを待たなければならなかったからだ。
『感動の再会を邪魔して恐縮なんだが…まだ全部片付いちゃいないんじゃないのか?国王様よぉ。』
城内が動揺で沈黙する中、ヴァニアスは口を開くなり、王に対するものとは思えない言葉遣いでそう言った。だが、国王はその一言で冷静さを取り戻したのか、王としての顔を取り戻した。そしてすぐにスポット残党駆逐、城下の被害状況を確かめるよう令を出した。 その結果、話の続きは街がひとまず落ち着きを取り戻すまで延期となった。その間、ティマは国王らの希望で城に残り、ベディーは本来であれば牢屋で拘束されるところをティマの申し出のおかげで一時的に自由を許されることとなり、ロインらと一緒に宿屋に滞在している。フレアが来るまでの休息は、彼らにとってちょうど良かった。死んだはずのヴァニアスやジャンナにいるはずのルキウスの突然の登場で、全員が合流した時、一行はかなりの混乱状態に陥った。特にヴァニアスの場合、『女神の従者』の船員たちから激情の嵐で迎え入れられ、有無を言わさずラミーによって船へと連れ込まれていった。おそらく、今頃は事情聴取を受けたり、生還を祝した宴会に振り回されたり、今後のギルドの運営方針などについて話し合ったりなど、多忙な時間を送っているのだろう。一方ロイン達も、その間にルキウスからマウディーラに来た経緯を改めて尋ねていた。
「なるほどな。確かに、アーレスだなんて大物が出てくれば、そりゃ気になってじっとしてられないよな。」
「ティルキス、あなたと一緒にしないで。ルキウス。あなたはジャンナの…いいえ、アレウーラの教皇なのだから、もっと慎重に行動すべきよ。」
話を聞いたティルキスは愉快そうに言い、ベッドの上に腰かけていたアーリアは彼の発言に呆れたように額に手をあてていた。フォレストは無言でその様子を眺めているが、その心中はアーリアと似たものだろう。それぞれの反応にルキウスはひとつ苦笑いをして、しかし次の瞬間には表情を引き締めて言葉を続けた。
「それだけじゃないよ。兄さんに頼まれて色々調べているうちに思い出したんだよ。…バキラ・キャッドリー。ボクは彼と会ったことがあったんだ。」
「!?」
「ルキウス、本当か!」
ロインをはじめ、その場にいた仲間達は目を見開き、カイウスは身を乗り出すようにしてルキウスに聞き返した。そんな兄に彼は頷き返し、話を続けようとした。
「うん。その時に気になる話を聞いてね…おっと。これ以上は交換条件だ。話す代わりに、ボクもこの旅に加えてもらうよ。」
「は…っ?」
だが、それは途中で打ち切られ、代わりにカイウスから間抜けな声が返ってくることとなった。仲間達がきょとんとした様でルキウスを見ると、彼はそれを半ば楽しむように微笑んで返していた。
「ルキウス、お前ってやつは…。」
そんな弟の様子に苦笑いしながらも、カイウスは嬉しそうだった。そんな兄の表情を是と受け取ったのか、ルキウスはくすっと微笑んだ。そして次に彼が口を開いたのは、すっとその笑顔を潜めた後だった。
「教会の文献を調べてるうちに、奇妙なことがわかったんだ。何十年という長い間、瓜二つの容姿と力を持つ教皇が数人存在していた。それらの正体がバキラ・キャッドリー…いや、ジオ−ト・ヴェルテスだったんだ。」
「ジオート?」
聞き慣れない名にルビアが聞き返すと、ルキウスはこくりと頷いた。
「奴の…いや、正確には、バキラに巣食っているスポットの名だよ。『バキラ』も偽名のひとつでね。奴は名を変えながら、あの国王と共にアレウーラの表の歴史に関わっていたんだ。」
ルキウスが語った内容に、カイウス達は目を丸くし、驚嘆の言葉を口にした。アーリアはまさか、と言うように息を呑み、彼女の隣に座っていたルビアも表情を固くした。そして緊張した表情を崩さないまま、おそるおそる彼に声をかけた。
「それで、ルキウスが聞いたって言う話は…?」
「うん。ジオートは何度か、前の教皇様を通して国王と会談を行っていたんだ。そこで、ペイシェントの代わりになる媒介と、それを扱う一族の話を耳にしたんだ。『計画の邪魔になる因子はすべて排除しろ』。…それがその時に聞こえた声だった。」
そしてルキウスは、ここからは推測だけど、と続けた。
「ジオートはもともと、ペイシェントの代わりに使える魔力の媒体を求めてマウディーラにやって来たんじゃないかな。ペイシェントは生成するのがかなり面倒なアイテムだからね。国王に頼まれて、もっと手っ取り早い方法を探したんだろう。」
「なるほどな。そして白晶岩と白き星の民…マウディーラ王家のことを知ったってわけか。」
顎に手をあてながらティルキスが言うと、ルキウスは「おそらくは…」と返した。それを聞くと、ロインは壁に背を預けた状態で腕を組んだまま、静かに口を開いた。
「だが、白晶岩は白き星の民以外の人間に魔力を引き出すことはできない。さすがのバキラも、相手が王家なだけに簡単にはことを運べなかった。…そんなところか。」
「うーん。それはちょっと違うんだなぁ。」
「!?」
だが、突然横から入った声が彼の考えを一部否定した。その声の主の突然の登場に、その場にいた8人全員が飛び上って驚いた。気配もなく部屋に入り込んだその人物は、5日前とは違い、紫紺の上着を羽織り、伸びきっていた髭が剃られている等だいぶ身なりが整っており、同一人物かと疑うほど見違えた。
「おい、こら親父!あたいを置いていくなよ!」
そんな彼から遅れて、今度はラミーがバンッと盛大な音を立てて部屋に入り込んできた。息は上がっていないところを見ると走ってきたわけではないようだが、父親において行かれた苛立ちからか、その肩はわなわなと震えているように見えた。そんな娘の心境を知ってか知らずか、男は変わらずに愉快そうな笑みと口調で彼女に返すばかりだった。
「あなたは、確かこの前の…。」
「そっか。まだきちんと自己紹介してなかったな。」
そんな親子をポカンと眺めながらフォレストが切り出すと、男は思い出したように失笑した。
「ヴァニアス・オーバックだ。改めて、よろしくな。」
そしてニカッと歯を見せて笑って短くそう言うと、ラミーそっくりの赤い目をロインへと向けた。それに気付いたロインも視線を彼へと向けると、ヴァニアスは見定めるかのように少年を見つめていた。ロインがそれにやや不愉快そうな視線を向ける頃、彼は満足そうに腕を組み、微笑を浮かべた。
「…なるほどな。さすがドーチェの息子、いいところを突いてくるな―――と、褒めてやりたいが、まだ詰めが甘いな。」
「! あんた、何で父さんのこと…」
ドーチェの名を聞いた途端、ロインは目を丸くし、警戒するようにヴァニアスを睨みつけた。だが、ヴァニアスはそれを飄々とした態度を崩さず、意味深げにくすりと笑みを浮かべるだけだった。その態度に苛立ったロインが再度声をあげようとした、その時だった。
「失礼します。みなさん、いらっしゃいますか?」
「フレア!」
遠慮がちにそう声をかけて入ってきたのはフレアで、気付いたベディーは、数日前よりもいくらか顔色の良くなった彼女の様子にほっとしたような笑みを浮かべた。フレアもそれに気付いたのか、彼に微笑み返すと、ロイン達へと視線を移し、用件を伝えるべく口を開いた。
「ようやく時間がとれたわ。今晩、話し合いの機会を持てるそうよ。日が暮れる頃に城に来れば通してもらえるよう話をつけておくわ。」
「わかった。ありがとう、フレア。」
ラミーが礼を言うと、また後ほど、と短く返してフレアは部屋から出ていった。その姿と足音が消えると、ロインは先ほどの続きを促すようにヴァニアスを睨みつけた。だが、
「…続きは王様たちと一緒に、な?」
彼はそう言っていたずらっぽく笑うだけだった。
『感動の再会を邪魔して恐縮なんだが…まだ全部片付いちゃいないんじゃないのか?国王様よぉ。』
城内が動揺で沈黙する中、ヴァニアスは口を開くなり、王に対するものとは思えない言葉遣いでそう言った。だが、国王はその一言で冷静さを取り戻したのか、王としての顔を取り戻した。そしてすぐにスポット残党駆逐、城下の被害状況を確かめるよう令を出した。 その結果、話の続きは街がひとまず落ち着きを取り戻すまで延期となった。その間、ティマは国王らの希望で城に残り、ベディーは本来であれば牢屋で拘束されるところをティマの申し出のおかげで一時的に自由を許されることとなり、ロインらと一緒に宿屋に滞在している。フレアが来るまでの休息は、彼らにとってちょうど良かった。死んだはずのヴァニアスやジャンナにいるはずのルキウスの突然の登場で、全員が合流した時、一行はかなりの混乱状態に陥った。特にヴァニアスの場合、『女神の従者』の船員たちから激情の嵐で迎え入れられ、有無を言わさずラミーによって船へと連れ込まれていった。おそらく、今頃は事情聴取を受けたり、生還を祝した宴会に振り回されたり、今後のギルドの運営方針などについて話し合ったりなど、多忙な時間を送っているのだろう。一方ロイン達も、その間にルキウスからマウディーラに来た経緯を改めて尋ねていた。
「なるほどな。確かに、アーレスだなんて大物が出てくれば、そりゃ気になってじっとしてられないよな。」
「ティルキス、あなたと一緒にしないで。ルキウス。あなたはジャンナの…いいえ、アレウーラの教皇なのだから、もっと慎重に行動すべきよ。」
話を聞いたティルキスは愉快そうに言い、ベッドの上に腰かけていたアーリアは彼の発言に呆れたように額に手をあてていた。フォレストは無言でその様子を眺めているが、その心中はアーリアと似たものだろう。それぞれの反応にルキウスはひとつ苦笑いをして、しかし次の瞬間には表情を引き締めて言葉を続けた。
「それだけじゃないよ。兄さんに頼まれて色々調べているうちに思い出したんだよ。…バキラ・キャッドリー。ボクは彼と会ったことがあったんだ。」
「!?」
「ルキウス、本当か!」
ロインをはじめ、その場にいた仲間達は目を見開き、カイウスは身を乗り出すようにしてルキウスに聞き返した。そんな兄に彼は頷き返し、話を続けようとした。
「うん。その時に気になる話を聞いてね…おっと。これ以上は交換条件だ。話す代わりに、ボクもこの旅に加えてもらうよ。」
「は…っ?」
だが、それは途中で打ち切られ、代わりにカイウスから間抜けな声が返ってくることとなった。仲間達がきょとんとした様でルキウスを見ると、彼はそれを半ば楽しむように微笑んで返していた。
「ルキウス、お前ってやつは…。」
そんな弟の様子に苦笑いしながらも、カイウスは嬉しそうだった。そんな兄の表情を是と受け取ったのか、ルキウスはくすっと微笑んだ。そして次に彼が口を開いたのは、すっとその笑顔を潜めた後だった。
「教会の文献を調べてるうちに、奇妙なことがわかったんだ。何十年という長い間、瓜二つの容姿と力を持つ教皇が数人存在していた。それらの正体がバキラ・キャッドリー…いや、ジオ−ト・ヴェルテスだったんだ。」
「ジオート?」
聞き慣れない名にルビアが聞き返すと、ルキウスはこくりと頷いた。
「奴の…いや、正確には、バキラに巣食っているスポットの名だよ。『バキラ』も偽名のひとつでね。奴は名を変えながら、あの国王と共にアレウーラの表の歴史に関わっていたんだ。」
ルキウスが語った内容に、カイウス達は目を丸くし、驚嘆の言葉を口にした。アーリアはまさか、と言うように息を呑み、彼女の隣に座っていたルビアも表情を固くした。そして緊張した表情を崩さないまま、おそるおそる彼に声をかけた。
「それで、ルキウスが聞いたって言う話は…?」
「うん。ジオートは何度か、前の教皇様を通して国王と会談を行っていたんだ。そこで、ペイシェントの代わりになる媒介と、それを扱う一族の話を耳にしたんだ。『計画の邪魔になる因子はすべて排除しろ』。…それがその時に聞こえた声だった。」
そしてルキウスは、ここからは推測だけど、と続けた。
「ジオートはもともと、ペイシェントの代わりに使える魔力の媒体を求めてマウディーラにやって来たんじゃないかな。ペイシェントは生成するのがかなり面倒なアイテムだからね。国王に頼まれて、もっと手っ取り早い方法を探したんだろう。」
「なるほどな。そして白晶岩と白き星の民…マウディーラ王家のことを知ったってわけか。」
顎に手をあてながらティルキスが言うと、ルキウスは「おそらくは…」と返した。それを聞くと、ロインは壁に背を預けた状態で腕を組んだまま、静かに口を開いた。
「だが、白晶岩は白き星の民以外の人間に魔力を引き出すことはできない。さすがのバキラも、相手が王家なだけに簡単にはことを運べなかった。…そんなところか。」
「うーん。それはちょっと違うんだなぁ。」
「!?」
だが、突然横から入った声が彼の考えを一部否定した。その声の主の突然の登場に、その場にいた8人全員が飛び上って驚いた。気配もなく部屋に入り込んだその人物は、5日前とは違い、紫紺の上着を羽織り、伸びきっていた髭が剃られている等だいぶ身なりが整っており、同一人物かと疑うほど見違えた。
「おい、こら親父!あたいを置いていくなよ!」
そんな彼から遅れて、今度はラミーがバンッと盛大な音を立てて部屋に入り込んできた。息は上がっていないところを見ると走ってきたわけではないようだが、父親において行かれた苛立ちからか、その肩はわなわなと震えているように見えた。そんな娘の心境を知ってか知らずか、男は変わらずに愉快そうな笑みと口調で彼女に返すばかりだった。
「あなたは、確かこの前の…。」
「そっか。まだきちんと自己紹介してなかったな。」
そんな親子をポカンと眺めながらフォレストが切り出すと、男は思い出したように失笑した。
「ヴァニアス・オーバックだ。改めて、よろしくな。」
そしてニカッと歯を見せて笑って短くそう言うと、ラミーそっくりの赤い目をロインへと向けた。それに気付いたロインも視線を彼へと向けると、ヴァニアスは見定めるかのように少年を見つめていた。ロインがそれにやや不愉快そうな視線を向ける頃、彼は満足そうに腕を組み、微笑を浮かべた。
「…なるほどな。さすがドーチェの息子、いいところを突いてくるな―――と、褒めてやりたいが、まだ詰めが甘いな。」
「! あんた、何で父さんのこと…」
ドーチェの名を聞いた途端、ロインは目を丸くし、警戒するようにヴァニアスを睨みつけた。だが、ヴァニアスはそれを飄々とした態度を崩さず、意味深げにくすりと笑みを浮かべるだけだった。その態度に苛立ったロインが再度声をあげようとした、その時だった。
「失礼します。みなさん、いらっしゃいますか?」
「フレア!」
遠慮がちにそう声をかけて入ってきたのはフレアで、気付いたベディーは、数日前よりもいくらか顔色の良くなった彼女の様子にほっとしたような笑みを浮かべた。フレアもそれに気付いたのか、彼に微笑み返すと、ロイン達へと視線を移し、用件を伝えるべく口を開いた。
「ようやく時間がとれたわ。今晩、話し合いの機会を持てるそうよ。日が暮れる頃に城に来れば通してもらえるよう話をつけておくわ。」
「わかった。ありがとう、フレア。」
ラミーが礼を言うと、また後ほど、と短く返してフレアは部屋から出ていった。その姿と足音が消えると、ロインは先ほどの続きを促すようにヴァニアスを睨みつけた。だが、
「…続きは王様たちと一緒に、な?」
彼はそう言っていたずらっぽく笑うだけだった。
■作者メッセージ
おまけスキット
【5つ目の魔力】
カイウス「なあ。バキラは『白晶の装具』の数だけ“門”を開けたはずなんだよな?それなのにどうしてスディアナでも“門”が開いていたんだ?」
フォレスト「うむ。確か、アール山にジャンナ、レイモーン、それにセンシビアの4ヶ所ですでに“門”が開いていたな?カイウスの言うとおり、数が合わないようだが…。」
ルキウス「そんなに難しい問題でもないと思うよ?それこそ、ティマ自身が持つ魔力が使われていたんじゃないかな?それなら、『白晶の装具』が持つ魔力量には及ばなくても、5ヶ所目の“門”を開けることはできるはずだよ。」
ルビア「だとすると、ティマの身に起きたことも納得できるわね。」
ロイン「…あいつ、もう魔法を使えないのかな。」
ルキウス「『冥府の法』で消費した魔力の量が膨大だからね、反動は長期にわたると思う。でも、一生このまま、ではないと思うよ。いつか魔力が回復したら、以前のように魔法も扱えると思う。」
ロイン「…そうか。」
カイウス「良かったな、ロイン!」
ロイン「ああ。」
【5つ目の魔力】
カイウス「なあ。バキラは『白晶の装具』の数だけ“門”を開けたはずなんだよな?それなのにどうしてスディアナでも“門”が開いていたんだ?」
フォレスト「うむ。確か、アール山にジャンナ、レイモーン、それにセンシビアの4ヶ所ですでに“門”が開いていたな?カイウスの言うとおり、数が合わないようだが…。」
ルキウス「そんなに難しい問題でもないと思うよ?それこそ、ティマ自身が持つ魔力が使われていたんじゃないかな?それなら、『白晶の装具』が持つ魔力量には及ばなくても、5ヶ所目の“門”を開けることはできるはずだよ。」
ルビア「だとすると、ティマの身に起きたことも納得できるわね。」
ロイン「…あいつ、もう魔法を使えないのかな。」
ルキウス「『冥府の法』で消費した魔力の量が膨大だからね、反動は長期にわたると思う。でも、一生このまま、ではないと思うよ。いつか魔力が回復したら、以前のように魔法も扱えると思う。」
ロイン「…そうか。」
カイウス「良かったな、ロイン!」
ロイン「ああ。」