第14章 はじまりの真実 [
約束の時刻。彼らはフレアに言われた通り、城門前へとやってきた。そして彼女の言う通り、城門を守っていた兵士は一行を城の中へと案内してくれたのだった。
「ロイン!みんな!」
そうして城内に入った直後、彼らを出迎えてくれたのは笑顔で駆け寄ってきたティマだった。変わらない様子で現れた彼女の姿に、ロインをはじめ、一行は笑顔を浮かべて歩み寄った。
「ティマ!元気だったか?」
「うん。さ、ついてきて。私がみんなを案内するように言われてきたの。」
「そうだったのか。」
「それじゃあティマ、よろしく頼むわね。」
「はい!」
ロインの声に、ティマは満面の笑みで頷いて返した。それから軽快に踵を返すと、彼女はそう言って一行の少し前を歩き出した。ティマがこの場に現れた理由を短く説明すると、納得したカイウスとアーリアは微笑んで彼女に返し、それを受け、ティマはさらに足取りを軽くして駆け出していった。そんなティマの様子をルビアやルキウスは微笑ましげに眺め、そしてそんな彼女のあとを追って走っていったロインに続いて城の廊下を歩んでいった。
「ティマリア、嬉しそうだな。」
「そうだな。本当の両親と過ごせたのが嬉しかったんだろう。」
「あら。お兄様ったら、まだまだ女心が理解できてないんじゃないかしら?」
ベディーの呟きに、ティルキスはにかっと笑いながらそう言った。しかし、それを耳にしたルビアはおかしそうにくすっとはにかんでいた。その意味が理解できないのか、2人は首をひねっているが、わからないらしい。ルビアはそんな2人の様子を面白がるばかりで、答えを教えるつもりはないらしい。ティマはそんな三人の様子に気づいたのか、ちらっとこちらに目を向けた。だが、ベディーの姿を捉えた途端に表情を曇らせると、正面へと向き直ってしまった。そのことにべディーは気づいたものの、その理由がわからず、静かに眉をひそめるだけだった。そうしているうちに、どうやら目的の場所についたらしい。ティマの足が止まり、一行の目の前には一枚の扉があった。
「ここか?」
ロインが聞くと、ティマは頷いて、静かにその扉を押し開いた。その先にあったのは、以前来た玉座や大広間と違い食事をする間で、そこにはマウディーラ王をはじめ、この国の臣下や騎士の代表格であろう風格の人々がすでに座していた。その中にはフレアの姿もあり、彼らの到着に気づくと、彼女はひっそりと口角を上げて彼らを出迎えてくれた。
「よく来てくれた。適当な席について欲しい。…そこのリカンツもだ。」
直後、その隣に腰掛けていた初老の男性がそう彼らに言葉をかけた。最後の一言には、ベディーに対する明からな侮蔑を込めて。ロインやヴァニアス、それにフォレストら大人組は仕方ないと割り切ったようにそれを流すが、ティマたちはその男を睨みつけずにはいられなかったらしい。だが膠着している時間も勿体無いと思ったのか、すぐにその言葉に従って空いている席にそれぞれが着いた。
「5日も待ってもらって済まない。早速だが、本題に入らせてもらう。」
ロインたちが着席すると、マウディーラ王は静かにそう切り出した。国王が口を開いた途端、室内は重く緊張した空気に包まれ、誰もが思わず固唾を呑んだ。
「それで、まず何について話せばいい?マウディーラ王。」
そんな中、気負わずにそう声を上げたのはティルキスだった。
「失礼。自己紹介がまだでしたね。センシビアの第四王子、ティルキス・バローネと申します。この街を襲った化物には、自分の故郷、そして大陸も縁がありましてね。…情報はいくらあっても足りない状況です。協力は惜しみませんよ、国王。」
ティルキスは普段と変わらない調子で挨拶を始めたが、途中で目の色をガラリと変えてマウディーラ王にそう言った。その声の調子は意図してか否か、ロイン、そしてカイウスらにとって重苦しい空気から脱し、そして普段の調子を取り戻すこととなった。彼らの瞳に熱い輝きが宿ったことに気づいた王は、頷くように瞳を伏せたあと、口を開いた。
「では、今この国で……いや、この世界に何が起きているのかをまず知りたい。」
それから3時間が過ぎた。マウディーラの重鎮らはその間、ただただ目を見開いて黙すだけだった。話は約千年。スポット界の王が不慮の事故でこちらの世界に現れたところから始まった。その王と臣下はそれぞれ人間に取り憑き、故郷に帰るための方法を編み出した。大陸で失敗したそれは、ひとつの種族に地獄を見せた。またある時は人々を弄び、混乱に陥れた。その元凶のひとつ、スポット界の王は2年前にカイウスら5人の手によって滅した。だが今、残った臣下が王の遺志と復讐を胸に、再び世界を闇に染めようとしていた。この世界に新たなる支配者を連れて。その脅威から逃れるために必要なのは、バキラの行動を洗い、冥府の法を閉じる手立てを見つけ、そしてスポットの新たな王を打ち倒す術を手にすること。それらのために、首都に残されているかもしれない情報を得に訪れ、あの惨状に出くわしたこと。多くを語ろうとしないロインに代わり、ティマやカイウス、ルビアが中心となって、王にそう語った。
「…なるほど。その鍵となるもののひとつが、私たちの娘というわけか。…そうですね?『女神の従者』――いや、『雷嵐の波(ストーム・ウェーブ)』が頭、ヴァニアス殿。」
「…なぁんだ。バレてやがったか。」
全てを聞き終えた時、王は閉じていたまぶたをゆっくりと持ち上げた。そしてティマよりもずっと濃い茶色の瞳を細め、濃い赤髪の男へそれを向けた。向けられた男は肩をすくめ、とても王に対するものとは思えない口調で笑っていた。
「どういう意味だ、親父?」
そんな彼の隣に座るラミーは、腰を浮かせてその意味を尋ねた。それはラミーだけではなくロイン、それに当の本人であるティマも見当がつかないらしく、同様に視線を彼に向けていた。ヴァニアスは娘を見ることなく、しかしそれに応えるように口を開いた。
「今はすっかりお前の玩具になってるが、もともと『雷嵐の波』は姫さんを城に帰すその時のためだけに創った空想のギルドの名だ。城への連絡用に使うのに、『女神の従者』の名を使うわけにはいかないからな。んで、魔物に腕食わせて身を隠してから、一度だけその名を使って国王様に手紙を送りつけたんだが…ギルド名しか書かなかったはずなんだがな?」
「名など関係ない。書式を見れば誰だか判別できる。我らを舐めてもらっては困るぞ、逆賊が。」
臣下の一人が彼に向かって不愉快そうに声をあげると、一方でヴァニアスはクククと肩を揺らして笑っていた。そして「それは失礼」と軽く言うと、その笑みをすっとひそめた。
「俺がスディアナ事件に加担し、ウルノアの死後から城内に潜伏するようになったのは知っているな?」
「ウルノアが、死んだ…!?」
そして彼が口にした内容は后を、王を、その場にいた重鎮たちを意図せず驚愕させてしまった。どうやら、7年前の惨劇は公にならなかったらしい。おそらくは駒として操っていたガルザが関わっていると、バキラが悟らせたくなかったのかもしれない。そうなれば、彼が表立って動くのが難しくなる。彼の同僚であり、直属の部下でもあったフレアですら、このことを知ったのはイーバオでルビアたちから全て明かされた時だった。それでも、バキラがここまで身内に悟られることなくことを成してきたとは信じ難かった。
「…まさか、本当に誰も知らなかったのか?」
だから口々に信じられないと声をあげる臣下たちに、ロインは思わず唖然とした声をあげた。
「…悪いが、その話はまた今度だ。話してたら先に進めないんでな。」
その空気を断ち切ったのは、またヴァニアスだった。その声に一同は閉口し、そして再び紡がれるであろう彼の声に耳を傾けた。それを確認すると、ヴァニアスは続きを語り出した。
「ロイン!みんな!」
そうして城内に入った直後、彼らを出迎えてくれたのは笑顔で駆け寄ってきたティマだった。変わらない様子で現れた彼女の姿に、ロインをはじめ、一行は笑顔を浮かべて歩み寄った。
「ティマ!元気だったか?」
「うん。さ、ついてきて。私がみんなを案内するように言われてきたの。」
「そうだったのか。」
「それじゃあティマ、よろしく頼むわね。」
「はい!」
ロインの声に、ティマは満面の笑みで頷いて返した。それから軽快に踵を返すと、彼女はそう言って一行の少し前を歩き出した。ティマがこの場に現れた理由を短く説明すると、納得したカイウスとアーリアは微笑んで彼女に返し、それを受け、ティマはさらに足取りを軽くして駆け出していった。そんなティマの様子をルビアやルキウスは微笑ましげに眺め、そしてそんな彼女のあとを追って走っていったロインに続いて城の廊下を歩んでいった。
「ティマリア、嬉しそうだな。」
「そうだな。本当の両親と過ごせたのが嬉しかったんだろう。」
「あら。お兄様ったら、まだまだ女心が理解できてないんじゃないかしら?」
ベディーの呟きに、ティルキスはにかっと笑いながらそう言った。しかし、それを耳にしたルビアはおかしそうにくすっとはにかんでいた。その意味が理解できないのか、2人は首をひねっているが、わからないらしい。ルビアはそんな2人の様子を面白がるばかりで、答えを教えるつもりはないらしい。ティマはそんな三人の様子に気づいたのか、ちらっとこちらに目を向けた。だが、ベディーの姿を捉えた途端に表情を曇らせると、正面へと向き直ってしまった。そのことにべディーは気づいたものの、その理由がわからず、静かに眉をひそめるだけだった。そうしているうちに、どうやら目的の場所についたらしい。ティマの足が止まり、一行の目の前には一枚の扉があった。
「ここか?」
ロインが聞くと、ティマは頷いて、静かにその扉を押し開いた。その先にあったのは、以前来た玉座や大広間と違い食事をする間で、そこにはマウディーラ王をはじめ、この国の臣下や騎士の代表格であろう風格の人々がすでに座していた。その中にはフレアの姿もあり、彼らの到着に気づくと、彼女はひっそりと口角を上げて彼らを出迎えてくれた。
「よく来てくれた。適当な席について欲しい。…そこのリカンツもだ。」
直後、その隣に腰掛けていた初老の男性がそう彼らに言葉をかけた。最後の一言には、ベディーに対する明からな侮蔑を込めて。ロインやヴァニアス、それにフォレストら大人組は仕方ないと割り切ったようにそれを流すが、ティマたちはその男を睨みつけずにはいられなかったらしい。だが膠着している時間も勿体無いと思ったのか、すぐにその言葉に従って空いている席にそれぞれが着いた。
「5日も待ってもらって済まない。早速だが、本題に入らせてもらう。」
ロインたちが着席すると、マウディーラ王は静かにそう切り出した。国王が口を開いた途端、室内は重く緊張した空気に包まれ、誰もが思わず固唾を呑んだ。
「それで、まず何について話せばいい?マウディーラ王。」
そんな中、気負わずにそう声を上げたのはティルキスだった。
「失礼。自己紹介がまだでしたね。センシビアの第四王子、ティルキス・バローネと申します。この街を襲った化物には、自分の故郷、そして大陸も縁がありましてね。…情報はいくらあっても足りない状況です。協力は惜しみませんよ、国王。」
ティルキスは普段と変わらない調子で挨拶を始めたが、途中で目の色をガラリと変えてマウディーラ王にそう言った。その声の調子は意図してか否か、ロイン、そしてカイウスらにとって重苦しい空気から脱し、そして普段の調子を取り戻すこととなった。彼らの瞳に熱い輝きが宿ったことに気づいた王は、頷くように瞳を伏せたあと、口を開いた。
「では、今この国で……いや、この世界に何が起きているのかをまず知りたい。」
それから3時間が過ぎた。マウディーラの重鎮らはその間、ただただ目を見開いて黙すだけだった。話は約千年。スポット界の王が不慮の事故でこちらの世界に現れたところから始まった。その王と臣下はそれぞれ人間に取り憑き、故郷に帰るための方法を編み出した。大陸で失敗したそれは、ひとつの種族に地獄を見せた。またある時は人々を弄び、混乱に陥れた。その元凶のひとつ、スポット界の王は2年前にカイウスら5人の手によって滅した。だが今、残った臣下が王の遺志と復讐を胸に、再び世界を闇に染めようとしていた。この世界に新たなる支配者を連れて。その脅威から逃れるために必要なのは、バキラの行動を洗い、冥府の法を閉じる手立てを見つけ、そしてスポットの新たな王を打ち倒す術を手にすること。それらのために、首都に残されているかもしれない情報を得に訪れ、あの惨状に出くわしたこと。多くを語ろうとしないロインに代わり、ティマやカイウス、ルビアが中心となって、王にそう語った。
「…なるほど。その鍵となるもののひとつが、私たちの娘というわけか。…そうですね?『女神の従者』――いや、『雷嵐の波(ストーム・ウェーブ)』が頭、ヴァニアス殿。」
「…なぁんだ。バレてやがったか。」
全てを聞き終えた時、王は閉じていたまぶたをゆっくりと持ち上げた。そしてティマよりもずっと濃い茶色の瞳を細め、濃い赤髪の男へそれを向けた。向けられた男は肩をすくめ、とても王に対するものとは思えない口調で笑っていた。
「どういう意味だ、親父?」
そんな彼の隣に座るラミーは、腰を浮かせてその意味を尋ねた。それはラミーだけではなくロイン、それに当の本人であるティマも見当がつかないらしく、同様に視線を彼に向けていた。ヴァニアスは娘を見ることなく、しかしそれに応えるように口を開いた。
「今はすっかりお前の玩具になってるが、もともと『雷嵐の波』は姫さんを城に帰すその時のためだけに創った空想のギルドの名だ。城への連絡用に使うのに、『女神の従者』の名を使うわけにはいかないからな。んで、魔物に腕食わせて身を隠してから、一度だけその名を使って国王様に手紙を送りつけたんだが…ギルド名しか書かなかったはずなんだがな?」
「名など関係ない。書式を見れば誰だか判別できる。我らを舐めてもらっては困るぞ、逆賊が。」
臣下の一人が彼に向かって不愉快そうに声をあげると、一方でヴァニアスはクククと肩を揺らして笑っていた。そして「それは失礼」と軽く言うと、その笑みをすっとひそめた。
「俺がスディアナ事件に加担し、ウルノアの死後から城内に潜伏するようになったのは知っているな?」
「ウルノアが、死んだ…!?」
そして彼が口にした内容は后を、王を、その場にいた重鎮たちを意図せず驚愕させてしまった。どうやら、7年前の惨劇は公にならなかったらしい。おそらくは駒として操っていたガルザが関わっていると、バキラが悟らせたくなかったのかもしれない。そうなれば、彼が表立って動くのが難しくなる。彼の同僚であり、直属の部下でもあったフレアですら、このことを知ったのはイーバオでルビアたちから全て明かされた時だった。それでも、バキラがここまで身内に悟られることなくことを成してきたとは信じ難かった。
「…まさか、本当に誰も知らなかったのか?」
だから口々に信じられないと声をあげる臣下たちに、ロインは思わず唖然とした声をあげた。
「…悪いが、その話はまた今度だ。話してたら先に進めないんでな。」
その空気を断ち切ったのは、またヴァニアスだった。その声に一同は閉口し、そして再び紡がれるであろう彼の声に耳を傾けた。それを確認すると、ヴァニアスは続きを語り出した。
■作者メッセージ
おまけスキット
【今はまだ】
ロイン「ティマ。どうだった?」
ティマ「え?何が?」
ロイン「本当の両親と過ごしてみて、だよ。」
ティマ「あ、うん…。…2人共、嬉しそうな顔と悲しそうな顔してた。」
ロイン「悲しそうな顔?」
ティマ「うん。…ほら、私にとっての親って言ったらマリワナおばさんだから。今はまだ、2人を本当の両親だって頭ではわかっていても、気持ちがそういうふうに見られなくって。」
ロイン「…そうか。」
ティマ「うん。でもね、焦らなくていい、って言ってくれたの。『私たちも、15年も会えなかった娘にどのように接したらいいか、正直戸惑っている。だから、これからゆっくり、もう一度家族になっていこう』って。」
ロイン「そうか。…良かったな、優しい両親で。」
ティマ「うん。」
【今はまだ】
ロイン「ティマ。どうだった?」
ティマ「え?何が?」
ロイン「本当の両親と過ごしてみて、だよ。」
ティマ「あ、うん…。…2人共、嬉しそうな顔と悲しそうな顔してた。」
ロイン「悲しそうな顔?」
ティマ「うん。…ほら、私にとっての親って言ったらマリワナおばさんだから。今はまだ、2人を本当の両親だって頭ではわかっていても、気持ちがそういうふうに見られなくって。」
ロイン「…そうか。」
ティマ「うん。でもね、焦らなくていい、って言ってくれたの。『私たちも、15年も会えなかった娘にどのように接したらいいか、正直戸惑っている。だから、これからゆっくり、もう一度家族になっていこう』って。」
ロイン「そうか。…良かったな、優しい両親で。」
ティマ「うん。」