第14章 はじまりの真実 ]
「てか、あんた誰?」
「ラミー!ちょっとは空気読んで!」
だが次に声を発したのは、未だに椅子を傾け気だるそうに頭の後ろで手を組む少女だった。ルビアが間髪入れずに叱責するも、もう遅い。ラミーの言葉に、その老人は軽快な笑い声を上げていた。
「ははっ。名高きギルドの首領に、名乗らずにいるは失礼だったかな。我が名はゼガ。王や姫と遠い血縁にある者だ。」
「なら、あんたも白き星の民ってわけか。」
「いいや。私の血筋はすでに力耐えている。白き星の民とは、もはや呼べぬ存在よ。」
ゼガと名乗った老人はラミーを嘲ることなく、まるで孫に接するような朗らかさで答えてくれた。そしてロインの問いかけにも、穏やかに首を振って返した。しかしその直後、だが、とゼガは瞳の奥に鋭さを宿した。
「王家の影として、史実にない歴史をも守り伝える役割を担う者として、私は城に仕えている。」
その言葉に、ロインら一行は思わず目を見開いた。ラミーも一瞬のうちに椅子を直し、身を乗り出すようにしてゼガに食いついていた。当のゼガはそれにかまうことなく、質問主であるロインをまっすぐ見据え、口を開いた。
「まず、『白晶の装具』の成り立ちと製造法についてだったな。ヴァニアス殿の言うとおり、大昔には、この地から4ヶ所の白晶岩全ての力を引き出せる程の力の使い手もいたそうだが、その力も時代と共に廃れていった。今では、微弱ながらその力が一族に残るのみだ。」
そして先ほどのゼガの言葉が真実なら、白き星の民の末裔と呼べる者全てが、もはやその力を持っているかも危ういのだろう。そんな中生まれた、最盛期と変わらぬ力を持つ白き星の民―――ティマを、ロインは話を聞きながら横目で見つめた。
「そこで、王家はそれぞれの白晶岩から武具を作り、身につけることを考えた。手元にあれば、その当時はまだ力を引き出せる者がいたらしい。そして生み出されたのが、『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』、『白晶の耳飾(クリスタル・ピアス)』、『白晶の腕輪(クリスタル・ブレスレット)』、『白晶の指輪(クリスタル・リング)』の4つだ。」
「待てよ。オレの父さんは、あれは簡単に傷つけたりできる物質じゃないと言っていた。どうやって『白晶の装具』に加工したっていうんだ?」
ゼガが言うと、すかさずロインは口を挟んだ。研究熱心な父が、こちらが呆れるような手段を用いてまで確かめたことだ。あの父に考えつかなかった別の方法が、まだあったというのだろうか。ロインはそれを聞き逃すまいとするように、睨むような視線をゼガに向け続けた。すると老人も少年の目を見つめ返したまま動かず、その奥底に潜むものすら捉えるように沈黙していた。そして視線をはずしたのは老人が先で、彼は一度目を閉じ、開くと同時に言葉を紡いだ。
「白晶岩の力を引き出せる我ら一族にしか扱えない特殊なプリセプツがある。それを使えば、結晶の欠片を手に入れることが可能だ。」
「なら、その特殊なプリセプツってのを使えば、また『白晶の装具』が手に入るんだな!」
「しかし、誰がその術を?ティマは今、プリセプツを使えない状態だ。まさか国王が城を離れるわけにはいかないだろう?」
その言葉に、希望の見出したラミーの声と、反対にゼガの言う可能性に疑心を抱くフォレストの声が続いてあがった。今のティマの状態は、先ほどの話の中で説明している。この状況下でもその手段が使えるのか、彼は眼でゼガに問いかけた。
「伝わっているのは、白晶岩の持つ魔力を使って行うプリセプツです。姫自身の魔力は使えなくとも、白き星の民の力までは失われていないはず。その力さえあれば、貴女はまだ術を使うことができる。」
それに対し告げられた言葉は、半分はフォレストに、残り半分はティマへと向けられていた。そしてその最後の言葉に、ティマだけでなく、一行の目が一斉に大きくなった。
「ってことは、白晶岩があれば、ティマはまた前みたいに戦えるんだな!」
カイウスが身を乗り出して尋ねれば、ゼガはそれにゆっくりと頷いた。その瞬間に、一行はワッと歓声を上げた。
「それで、バキラの目的についてはどうなんだ?」
その中で一人、ロインだけが冷静にもうひとつの質問の答えを求めていた。彼が口にすると、ティマたちは静かになり、再びゼガ、そしてその後ろに座する王へと視線を向けた。だがこの問いに、国王らは苦い顔をした。
「すまないが、あの者の動向について詳しく知る者はいないのだ。奴が裏の顔を見せることは決してなかったのでな。」
王はすまなさそうに言った。だがその直後、厳しい顔になりながら言葉を紡いだ。
「だが、手がかりならつかんでいる。君たちと初めて会った時、イーバオ襲撃について我々が調査をすると約束したことは覚えているか?実はあの後、幾度となく調査や復興支援が妨害されていたのだ。…ガルザの手によって。」
ガルザの名が出ると、ロインの眉間にしわを寄せた。それを片目に、臣下の一人が王の代わりに続きを紡いだ。
「今にして思えば、そこから足をつかませないための工作だったのだろう…。そのことを知った我々は、ここ数年のうちに不自然な滅び方をした他の町村を調査し直した。そうしたところ、そのすべてが彼の部隊による仕業だとわかった。」
「数年もの間、まったく気づかなかったのですか?」
まさか、と訝しい表情でティルキスが問いかけた。だが重鎮らは、そのまさかだというように項垂れ、苦虫を噛み潰したような様子で先を続けた。
「…ウルノアを含め、三騎士には『白晶の装具』と共にそれぞれ役目が与えられていた。ペトリスカの家系は、マウディーラ国内の治安を守る兵の統括を代々担ってきた。すなわち、国内の情勢は彼ら一族の手の内にあったといっても過言ではない。」
そして国王が、マウディーラという国が最も信を置き、それに応えてきた一族の言葉だからこそ、彼らは簡単に疑わなかった。だからこそ、たとえ黒でも、彼らが白と言えば白になってしまう現実に気づくのに遅れてしまった。国王らがなかなか真実にたどり着けなかったカラクリは、そういうことなのだろう。
「王家を守るための力が仇になるとは、皮肉だな…。」
ロインはぼそっと口にするが、聞き取れた者はいなかったようだ。その言葉などなかったように、カイウスは話を続けた。
「バキラのやつ、そのことを知っててガルザや父親に近づいたのか?」
「おそらくは。」
「しかし、バキラはなぜガルザに町を襲わせていたんだ?」
「簡単だよ。」
その決定的な動機がわからない。そんなベディーの問いに答えたのは、ルキウスだった。
「ラミー!ちょっとは空気読んで!」
だが次に声を発したのは、未だに椅子を傾け気だるそうに頭の後ろで手を組む少女だった。ルビアが間髪入れずに叱責するも、もう遅い。ラミーの言葉に、その老人は軽快な笑い声を上げていた。
「ははっ。名高きギルドの首領に、名乗らずにいるは失礼だったかな。我が名はゼガ。王や姫と遠い血縁にある者だ。」
「なら、あんたも白き星の民ってわけか。」
「いいや。私の血筋はすでに力耐えている。白き星の民とは、もはや呼べぬ存在よ。」
ゼガと名乗った老人はラミーを嘲ることなく、まるで孫に接するような朗らかさで答えてくれた。そしてロインの問いかけにも、穏やかに首を振って返した。しかしその直後、だが、とゼガは瞳の奥に鋭さを宿した。
「王家の影として、史実にない歴史をも守り伝える役割を担う者として、私は城に仕えている。」
その言葉に、ロインら一行は思わず目を見開いた。ラミーも一瞬のうちに椅子を直し、身を乗り出すようにしてゼガに食いついていた。当のゼガはそれにかまうことなく、質問主であるロインをまっすぐ見据え、口を開いた。
「まず、『白晶の装具』の成り立ちと製造法についてだったな。ヴァニアス殿の言うとおり、大昔には、この地から4ヶ所の白晶岩全ての力を引き出せる程の力の使い手もいたそうだが、その力も時代と共に廃れていった。今では、微弱ながらその力が一族に残るのみだ。」
そして先ほどのゼガの言葉が真実なら、白き星の民の末裔と呼べる者全てが、もはやその力を持っているかも危ういのだろう。そんな中生まれた、最盛期と変わらぬ力を持つ白き星の民―――ティマを、ロインは話を聞きながら横目で見つめた。
「そこで、王家はそれぞれの白晶岩から武具を作り、身につけることを考えた。手元にあれば、その当時はまだ力を引き出せる者がいたらしい。そして生み出されたのが、『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』、『白晶の耳飾(クリスタル・ピアス)』、『白晶の腕輪(クリスタル・ブレスレット)』、『白晶の指輪(クリスタル・リング)』の4つだ。」
「待てよ。オレの父さんは、あれは簡単に傷つけたりできる物質じゃないと言っていた。どうやって『白晶の装具』に加工したっていうんだ?」
ゼガが言うと、すかさずロインは口を挟んだ。研究熱心な父が、こちらが呆れるような手段を用いてまで確かめたことだ。あの父に考えつかなかった別の方法が、まだあったというのだろうか。ロインはそれを聞き逃すまいとするように、睨むような視線をゼガに向け続けた。すると老人も少年の目を見つめ返したまま動かず、その奥底に潜むものすら捉えるように沈黙していた。そして視線をはずしたのは老人が先で、彼は一度目を閉じ、開くと同時に言葉を紡いだ。
「白晶岩の力を引き出せる我ら一族にしか扱えない特殊なプリセプツがある。それを使えば、結晶の欠片を手に入れることが可能だ。」
「なら、その特殊なプリセプツってのを使えば、また『白晶の装具』が手に入るんだな!」
「しかし、誰がその術を?ティマは今、プリセプツを使えない状態だ。まさか国王が城を離れるわけにはいかないだろう?」
その言葉に、希望の見出したラミーの声と、反対にゼガの言う可能性に疑心を抱くフォレストの声が続いてあがった。今のティマの状態は、先ほどの話の中で説明している。この状況下でもその手段が使えるのか、彼は眼でゼガに問いかけた。
「伝わっているのは、白晶岩の持つ魔力を使って行うプリセプツです。姫自身の魔力は使えなくとも、白き星の民の力までは失われていないはず。その力さえあれば、貴女はまだ術を使うことができる。」
それに対し告げられた言葉は、半分はフォレストに、残り半分はティマへと向けられていた。そしてその最後の言葉に、ティマだけでなく、一行の目が一斉に大きくなった。
「ってことは、白晶岩があれば、ティマはまた前みたいに戦えるんだな!」
カイウスが身を乗り出して尋ねれば、ゼガはそれにゆっくりと頷いた。その瞬間に、一行はワッと歓声を上げた。
「それで、バキラの目的についてはどうなんだ?」
その中で一人、ロインだけが冷静にもうひとつの質問の答えを求めていた。彼が口にすると、ティマたちは静かになり、再びゼガ、そしてその後ろに座する王へと視線を向けた。だがこの問いに、国王らは苦い顔をした。
「すまないが、あの者の動向について詳しく知る者はいないのだ。奴が裏の顔を見せることは決してなかったのでな。」
王はすまなさそうに言った。だがその直後、厳しい顔になりながら言葉を紡いだ。
「だが、手がかりならつかんでいる。君たちと初めて会った時、イーバオ襲撃について我々が調査をすると約束したことは覚えているか?実はあの後、幾度となく調査や復興支援が妨害されていたのだ。…ガルザの手によって。」
ガルザの名が出ると、ロインの眉間にしわを寄せた。それを片目に、臣下の一人が王の代わりに続きを紡いだ。
「今にして思えば、そこから足をつかませないための工作だったのだろう…。そのことを知った我々は、ここ数年のうちに不自然な滅び方をした他の町村を調査し直した。そうしたところ、そのすべてが彼の部隊による仕業だとわかった。」
「数年もの間、まったく気づかなかったのですか?」
まさか、と訝しい表情でティルキスが問いかけた。だが重鎮らは、そのまさかだというように項垂れ、苦虫を噛み潰したような様子で先を続けた。
「…ウルノアを含め、三騎士には『白晶の装具』と共にそれぞれ役目が与えられていた。ペトリスカの家系は、マウディーラ国内の治安を守る兵の統括を代々担ってきた。すなわち、国内の情勢は彼ら一族の手の内にあったといっても過言ではない。」
そして国王が、マウディーラという国が最も信を置き、それに応えてきた一族の言葉だからこそ、彼らは簡単に疑わなかった。だからこそ、たとえ黒でも、彼らが白と言えば白になってしまう現実に気づくのに遅れてしまった。国王らがなかなか真実にたどり着けなかったカラクリは、そういうことなのだろう。
「王家を守るための力が仇になるとは、皮肉だな…。」
ロインはぼそっと口にするが、聞き取れた者はいなかったようだ。その言葉などなかったように、カイウスは話を続けた。
「バキラのやつ、そのことを知っててガルザや父親に近づいたのか?」
「おそらくは。」
「しかし、バキラはなぜガルザに町を襲わせていたんだ?」
「簡単だよ。」
その決定的な動機がわからない。そんなベディーの問いに答えたのは、ルキウスだった。